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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第8章:拓かれる可能性
  第246話「想定を上回れ」

 
前書き
戻って地球side。
なお、帝は一度“領域”が砕けているため、少しでも気を緩めると敗北します。
気分が高揚しているため、そんな事は起きませんが。
 

 










「たった二人に、あの数が……?」

「その通りだ。……もうここまでで何度も言ったがなぁ、優奈と、俺の憧れたキャラクター(ヒーロー)が、負ける訳ねぇだろ」

 驚くイリスに、帝は不敵な笑みと共に答える。

「(……ただ、相応に疲れたけどな……)」

 だが、同時に帝は途轍もなく疲労が溜まっていた。
 何せ、つい先程まで大軍を相手にしていたからだ。
 劣勢にはならなかったとはいえ、本来なら消費が割に合わない固有領域。
 神界の法則で燃費の問題を解決しても、疲労は溜まり続けていた。

「ッ、貴女は……まさか……!」

「あら、さすがにイリスは気づくみたいね……」

 幸い、帝の内心を余所にイリスは優奈に注目していた。

「彼から一部の記憶が読み取れなかったのは、貴女が原因ですね……!」

「ええ、その通り。貴女の分霊を消し飛ばしたリヒトに、私は掴まっていたの。みすみす見過ごしたのは……失敗だったわね?」

 祈梨の攻撃を捌きながらも、イリスは優奈と問答を続ける。
 優奈に出し抜かれた、その事実がイリスの想定を上回っていた。

「だからこそ、神界の中からここまで来れた訳ですか……!」

「用意周到に“可能性”を潰そうとしていたもの。でも、それでも貴女は()()()一人に執着していた。……なら、いくらでもやりようはあるわ。例えば、別の存在に“可能性”を託すとか、ね?」

「……私の執着心を、逆に利用した訳ですね。納得です」

 イリスは飽くまでたった一人の“可能性”を潰そうとしていた。
 つまりは、別の存在に“可能性”を託してしまえば、それが潰える事はない。
 それでも綱渡りどころではなかったが、優奈はそれを見事にモノにした。

「そういう訳で、神界からの増援はしばらく来ないわよ?」

「っ……ええ、私の想定を上回った事。それは素直に称賛しましょう。……ですが、それで私を降せると思わない事です!」

 イリスが“闇”を開放する。
 その瞬間、エルナとソレラが相手にしていた神々と、優輝が黒い靄に包まれる。

「ッ……!」

 相手をしていた四人が警戒し、構える。
 ここに来て、祈梨を相手にしながら他の者に加護を与えたのだ。
 無闇に突っ込めば、どうなるか想像つかない。

「祈梨!イリスの相手を頼むわ!ソレラとその姉……それにミエラとルフィナ!全力で相手を抑えなさい!その間に何としてでも態勢を整えるわ!」

「優奈……!?」

 突然の指示に、五人は反発せずに行動を開始する。
 帝は一瞬驚くが、障壁に守られている司達を見て顔を引き締める。

「帝、地球に戻って来たからには魔力消費による疲弊が段違いになるわ。どうやら、この世界の“領域”が天巫女の力に呼応して、神界の法則を押し留めているみたい。……だから、さっきまでの固有領域はあまり使わない方がいいわ」

「……そうか……」

「最優先事項は、あそこの皆を回復させる事!」

「ああ!」

 優奈の転移により、司達がいる場所へ転移する。
 既に葵と神夜を始め、椿や司、シャマルと言った一部のメンバーは回復していた。
 大体の回復自体は済んでいるようだ。

「……貴女、いつの間に優輝から分離したの?」

「神界に残った時よ。それより……状況は?ああ、いえ、こっちで読み取るわ」

 椿の質問に簡潔に答えつつ、優奈は手を椿の頭に当て、理力で記憶を読み取る。

「……あぁ、なるほど。導王流の極致でやられた訳ね。最後まで意識を保ってたのは?それと、最初に目覚めたのは?」

「最初に目覚めたのは俺だ。最後まで残ってたのは……」

「私です」

 神夜とサーラが名乗りを上げ、そちらの記憶も読み取る優奈。

「……オッケー、把握したわ」

「さっき神夜と奏に聞いたのだけど……奏の本体となのはは無事なの?」

「ええ、無事よ。奏は分身で疑似的に分離しているし、なのはの意識も消される事はないわ。あの子達は、そんな事をしないもの」

「知っているんだ。あの二人を」

 知った風に言う優奈に、司がそう尋ねる。

「多分、今いる誰よりも知っているわ。……まだ、答えるには早いけど」

「随分勿体ぶるね。やっぱり、優輝君と結構違うんだ」

「根幹は同じよ。でも、既に私は優輝から枝分かれした存在だもの。違うのは至極当然の事よ、司」

 そんな会話をしている間にも、気絶している者がどんどん回復していく。
 同時に、戦闘も激しくなっていた。
 祈梨達の相手は先程と同じだが、祈梨以外は押され始めていた。
 イリスによる“闇”が、他の神や優輝を強化していたのだ。

「時間との戦いね……帝、大気圏近くの神の相手をお願い。リンディ達が戦っていたみたいだけど、もう持たないわ。落ちてきているもの」

「分かった」

「無理はしないようにね」

 優奈が指示を出すと共に、理力のネットを空中に設置する。
 すると、そこへボロボロになった管理局員や退魔士が落ちてきた。
 優奈の言う通り、大気圏外で時間を稼いでいたリンディ達が敗北したのだ。
 イリスがいないとはいえ、よく持ち堪えたほうだ。

「ッ……!?なんて速さ……!?」

「今の帝なら、物理的戦闘は誰にも負けないわ」

 飛び立った帝のその速度に椿が驚く。
 そんな椿に、優奈はどこか誇らしげにそう言った。

「……とはいっても、一人で抑えきれるとも限らない。ここから街を見た感じ、街の方に行った人の内、とこよと紫陽の気配が感じられないし……どうしても、人手で無茶が生じるわ」

 記憶を読み取ったため、とこよ達は街の方に行ったのは知っていた。
 その上で、とこよと紫陽の気配がない事に優奈は気づいていた。
 二人がいれば、まだ戦力割り当てに雀の涙程度の余裕が出来たと、優奈は言う。

「帝君の姿が変わってるのと関係あるの?あの強さは……」

「いえ、今の帝は神……ソレラから与えられた力を全て失っているわ。でも、固有の“領域”を使ってあの強さを発揮しているの。……かなりの強さを誇るけど、長くは持たないわ。その間に、回復を終わらせて」

「……わかった」

 余裕のないその表情に、司は気になる詳細を聞かないよう飲み込んで了承する。

「……優輝さんを正気に戻す方法は、ないの?」

「現状、戻す術はないわ。帝が司とかよりも強い浄化系の力を使ったとしても、イリスの洗脳を破れるとまでは……ね。“意志”によるマウント取りはイリスも出来るから」

「優輝君は私達の洗脳を解いたけど……」

「あれは洗脳されてからあまり時間が経っていないのと、洗脳自体が優輝のより弱いからよ。優輝の場合、かなり念入りに洗脳されたようだから」

 優輝を正気に戻せない事に、司と奏、椿や葵の表情が曇る。

「だけど、それは飽くまで“私達には”って話。別のアプローチなら可能性はあるわ。……例えば、優輝本人に解かせるとか」

「優ちゃんに……?」

「……呼びかけるって事ね?」

「その通り」

 呼びかける事で、本来の意識を呼び覚ます……古典的故に、可能性があった。
 外部からの洗脳解除は無理でも、内部からなら出来るだろうと、優奈は踏んでいた。

「そのためにも、呼びかけるための環境が必要よ」

「……一度、倒す必要があるって訳だね?」

「そこまでとは行かなくても、ある程度動きを止める必要があるわね。……そして、その役目は貴女達が担うべきよ」

「私達……?」

 優奈が視線を向けたのは、司、奏、椿、葵、そしてまだ目を覚まさない緋雪だ。

「優輝を大切に想い、愛し、また優輝も大切にしている存在。……せめて、それぐらいの存在じゃないと、声は届かないもの」

「……なるほど、ね」

 いつもなら恥ずかしがったり照れたするような優奈の発言。
 だが、さすがに状況が状況だ。素直じゃない椿すら素直に納得していた。

「緋雪にはシャマル辺りが伝えておいて。他はソレラ達二人の所に援護よ」

「貴女は?」

「祈梨の援護に行くわ。それと、ミエラとルフィナは貴女達と交代した後、帝の援護に向かわせるわ。……いい?言ってしまえば優輝を正気に戻せるかどうかで戦況が変わるわ。元よりそのつもりだろうけど……心しなさい」

「……うん……!」

 責任重大。そのプレッシャーが司達にのしかかる。

「……でも、あの導王流の攻略が難しいわ」

「だろうね。極致となれば、正面からはまず勝てないわ」

 懸念事項は、やはり極致に至った導王流だ。
 それがある限り、あらゆる攻撃を受け流され、同時に反撃されてしまう。

「常にカウンターに備えた立ち回りが必要ね。そのための身体強化は司が担当。葵と奏が近接戦を担当するようにしなさい」

「私は矢と霊術で援護、緋雪は……逐次私か葵達の支援って訳ね」

「基本の立ち回りはね。一手一手神経を研ぎ澄ませれば、戦う事は可能よ。……それ以降は、貴女達の“可能性”次第ね」

 決して“勝てる”とは断言しない。
 それほどまでに、優奈も優輝を危険視しているのだ。

「……やるしかないわね」

「シャマルさん、緋雪ちゃんの事は任せます。……もう行った方がいいんだよね?」

「ええ。まだしばらくミエラとルフィナも耐えられるだろうけど、他がまずいわ。祈梨もかなりギリギリみたいだしね」

 “天使”二人は倒せないだけで耐えるだけならまだ問題はない。
 しかし、他はかなりギリギリだった。
 祈梨は徐々に押され始め、エルナとソレラも防戦一方になっていた。

「……まだ、綱渡りは終わってない、か」

「優奈?貴女まさか、ここまで計算して……」

 戦況をもう一度確認して、優奈は無意識に呟いていた。
 椿はその呟きを拾い、思わず尋ねていた。

「ううん。飽くまで“可能性”に賭けただけよ。優輝も私も、貴女達を信じた。その結果が今に繋がっているだけよ」

「……そう」

 ここまで来れたのは偶然と奇跡の積み重ねだ。
 優輝も優奈も、そうなる“可能性”を信じていただけに過ぎない。

「……じゃあ、行くよ」

 司が祈りの力を開放し、全員の身体能力を一気に向上させる。
 前提の準備は終わった。後は戦いに臨むだけだ。

「ミエラとルフィナには私から伝えておくわ。……私も、信じてるわよ」

「っ……」

 そう言って一足先に戦いに赴く優奈。
 その時の言葉に、椿達はどこか優輝の面影を感じていた。

「……さぁ!私達も行くわよ!」

 椿の掛け声と共に、四人は祈梨の障壁の外へと踏み出した。











「(このままでは……!)」

 一方、祈梨はイリスに押されていた。
 司から受け継いだ世界そのものの“領域”が弱り、イリスが優勢になっているのだ。

「ッ!!」

 今まで相殺していた攻撃が、ついに抜けてくる。
 半身をずらす事で避けはしたが、その瞬間に拮抗が崩れたと祈梨は悟った。

「(……さすがはかつて神界を混沌に陥らせた神。相性が良くとも、私ではこれが限界という事ですか……)」

 シュライン曰く、歴代最強の天巫女。それが祈梨の正体だ。
 祈りの力に変えるその“性質”は、闇を祓うのに非常に適している。
 全盛期のこの世全ての悪(アンラ・マンユ)すら祓った力は伊達ではない。
 故に、“闇”を扱うイリスとは相性はいいのだ。
 だが、その上でギリギリ互角に持ち込め……今、追い詰められる程だった。

「……ですが、タダではやられませんよ……!」

 正面からの攻防では勝ち目はない。
 ならば、搦め手を使うまでと祈梨は判断する。
 相殺に割いていたジュエルシード……否、プリエール・グレーヌを傍に寄せる。
 そのまま、最低限の防御をしつつ、弾幕を潜り抜けるような閃光を放つ。

「ッ……!なるほど、動きを変えましたか」

 弾幕を避け、イリスへと迫る閃光。
 自動的に展開する障壁が破られ、イリスは咄嗟に“闇”で相殺する。
 その威力に、油断すれば手痛い反撃を喰らうと悟る。

「ですが、初撃が当てられなかったのは―――」

「ふッッ!!」

 “失敗ですよ”と続けようとするイリスの背後に、優奈が転移する。
 理力による剣が、一息の元振るわれる。

「くっ……!」

「(浅すぎる……!)」

 同じく“闇”で防ぐイリスだが、翳した掌に一筋、僅かな切り傷が出来る。
 優奈にとって、その傷は浅すぎたが、それでも攻撃が入った。

「ッ!」

 すぐさまイリスの反撃が飛んでくる。
 優奈はそれを飛び退いて躱し、同時に創造魔法の剣を放つ。
 ……が、さすがにその攻撃は届かず、途中で打ち砕かれた。

「加勢するわよ」

「……助かります」

 祈梨の隣に転移し、共闘の旨を伝える優奈。
 祈梨は、一瞬優奈を信用していいのか考えたが、すぐにその考えを振り払う。
 騙し討ちをするのなら、先程の時点で攻撃してくると考えたからだ。

「勝算はありますか?」

「ないわ。でも、それでも勝てる可能性はゼロじゃない」

「……なるほど。……頼もしい返答ですね」

 祈梨にとって、イリスとの戦いは明かりなしで暗闇を進むようなモノだった。
 かつてアンラ・マンユと戦った時よりも、圧倒的に勝てる気がしなかった。
 そこへ、勝算もなしに勝つつもりな優奈が来た。
 勝ち目の有無など関係ないと言外に言われ、祈梨は少し気持ちが晴れた。

「後衛を頼むわ。私が前衛を務めるから」

「頼みます」

「随時ポジションが変わるけど、いいわね?」

「当然です」

 短く問答を済ませ、イリスからの攻撃を転移で躱す。

「……彼でなくとも、貴女が加わるというのなら……容赦しません」

「っ……私だけでは、本気を出すまでもなかったという訳ですか」

「十分全力だったわよ。……ここからは、死力を尽くしてくるってだけよ」

 イリスの呟きに、祈梨は苦々しく思う。
 優奈の言う通り全力であっても、負けるとは思われていなかったからだ。

「『本命は優輝を元に戻す事よ。無理して倒す必要はないわ』」

「『わかりました。……ですが、倒すチャンスがあるならば……』」

「『当然、倒せるなら倒すわよ』」

 距離が離れたため、理力による念話に切り替えつつ、戦闘を再開する。
 先程相談した通りに祈梨が後衛を務め、優奈が斬り込んだ。

「優輝の時と違って、直接相手しないとダメよ?」

「導王流でしたか……理力を纏えば“闇”すら受け流しますか……!」

 導王流で“闇”の攻撃を受け流しつつ、優奈は間合いを詰めていく。
 転移も併用すれば、あっと言う間に肉薄出来るのだが、そう上手くはいかない。

「(全方位殲滅攻撃……それだけは躱すか防ぐしかないものね……!)」

 受け流されるのなら、それが出来ない規模と質量で攻撃すればいい。
 イリスはそれを地で行っていた。
 導王流ならば、それでも凌ぐ事は可能だが、これでは間合いを詰められない。
 “闇”を防ぐ際に押し流され、距離がリセットされる。

「(転移も妨害済み。祈梨の攻撃も同時に対処しているのね。……倒すのはやっぱりかなり難しいわね……)」

 こうなると千日手だ。
 相討ちを前提に入れれば、倒せる方法の一つや二つは思いつく。
 だけど、ここで優奈自身が倒れればせっかく引き継いだ“可能性”が無駄になる。
 そのため、戦闘を長引かせる事しか出来なかった。

「(……頼むわよ。優輝が好きなら、優輝の全てを受け止めなさい……!)」

 優輝との戦いに身を投じる司達を尻目に、優奈はイリスの攻撃を捌き続けた。













「……奏、先に聞きたいのだけど……貴女、今どこまで戦えるの?」

 障壁の外に出た椿は、奏に声を掛ける。
 今の奏は、ミエラの分身を肉体としている。
 それによる影響がないのか、椿は気にしているのだ。

「不調の類はないわ。……むしろ、ほとんどのスペックが上がっているわ」

「……不都合がないならいいわ」

 祈梨とイリスの攻撃の余波を避けつつ、司達は優輝を視界に入れる。
 そこには、未だに互角に渡り合うミエラとルフィナがいた。

「……なるほど、優奈の言う通り、立ち回りに気を付ければあんな正攻法でも戦い続けるだけなら可能なのね」

 ミエラとルフィナの立ち回りは、それこそ前衛と後衛の基本形だ。
 ミエラが攻撃を引き付け、そのミエラを支援するようにルフィナが攻撃する。
 その上で、確実にカウンターを対処できるようにし続けているだけなのだ。

「……初撃は司が決めなさい。直後に、奏が肉薄。後詰めに葵よ。私はそれを援護するように矢を放つから、まずは前衛と後衛の状況にするわよ!」

「了解!」

 椿の合図と共に、司から極光が放たれる。
 極光はそのままミエラと優輝の間に着弾し、砂塵を巻き上げる。
 元より当たるとは思わなかったために、目晦ましに留めた。
 ……そして。

   ―――“Delay(ディレイ)-Orchestra(オーケストラ)-”

「シッ……!!」

 砂塵の中から、奏が仕掛ける。
 音を置き去りに、二振りの剣と化したエンジェルハートで斬りかかる。
 同時に、ミエラとルフィナは戦線を離脱していた。
 帝の援護に向かったのだろう。

「ッ!」

 最初から全力に近い速度だった。さらには受け流しにくいように同時二撃だ。
 それを優輝はあっさりと両手で受け流し、蹴りのカウンターを繰り出した。
 幸い、ミエラの影響で反応速度も上がっていたため、躱す事に成功する。

   ―――“Hand Sonic(ハンドソニック)

「はぁっ!!」

 身を捻ると同時に、エンジェルハートを待機形態に戻す。
 同時にハンドソニックを展開して再度斬りかかる。
 さらには、後続の葵も挟撃の形で斬りかかった。

「ッ……!」

 一見すれば、挟撃も兼ねた三つの同時攻撃だ。
 通常ならば、二本しかない腕で三つの攻撃を同時に捌く事は出来ない。

「くっ!」

 だが、優輝は葵の攻撃を奏の攻撃に当てるように受け流す事で対処してみせた。
 もう片方の攻撃も受け流し、そのままカウンターの蹴りが奏に迫る。
 身を捻りつつ移動魔法を併用し、ギリギリで攻撃を躱した。

「っと……!?」

「ッ、なら……!」

 追撃が来れば、奏は躱しきれなくなる。
 そんな奏をフォローするように椿の矢が放たれたが、逆に利用された。
 矢は受け流され、葵の体勢を乱すように着弾する。
 それを見て、単純な矢ではむしろ危険だと判断し、細工した矢を放った。

「ちっ……!」

「『司!接触と同時に炸裂するようにしなさい!でないと、受け流されるわ!』」

「『わかった!』」

 接触と同時に任意で爆発する術式を編み、それで攻撃する。
 優輝はそれを見抜き、受け流す前に創造魔法の剣で撃ち落とした。
 司にも同じするようにいい、司も似たような魔力弾で牽制し始めた。

「(司はかなり手一杯のようね……。ジュエルシードがないのだから、当然と言えば当然……その分は、私が補わないと)」

 四人分の身体強化魔法に加え、遠距離からの援護だ。
 ジュエルシードがあれば余裕はあるのだが、今は祈梨の手元にある。
 向こうもかなりギリギリなので、返してもらう事も出来ない。
 そのため、司の分まで椿がフォローしなければいけなかった。

「(神力は十分。注意すべきは、転移魔法。生憎、葵と奏はそれを気にしている暇はないでしょうね。……だから、戦場を俯瞰できる私が、上手く調整する)」

 矢を放ち、霊術も放つ。
 隙を見ては、地面から特殊な草を生やし、それで優輝の足を絡め取ろとする。
 全て当たる事はなかったものの、おかげでいくらか行動を制限出来ている。

「(各個撃破されたのが問題だったようね。確かに、戦えてはいる。……防戦一方ではあるけれど。とにかく、緋雪が来るまで耐えないとね)」

 攻撃し、カウンターで返される。
 そのカウンターを防御した際の隙を、椿と司で潰す。
 さらに司と椿で創造魔法の剣や、遠距離魔法などを相殺する。
 これにより、何とか“戦い”として成り立たせていた。
 未だに導王流の極致を破れないものの、耐えるだけならまだ出来た。

「ふっ……!」

「はぁっ!」

 線と点が襲い来るような、奏と葵の連携。
 息をつく暇もなく、攻撃を繰り出し、そのカウンターをもう片方が防ぐ。
 最初に二人の挟撃が利用された時点で、挟み撃ちの形は無駄だと判断した。
 そのため、今は二人で並び立つように戦っていた。

「(ただカウンターするだけならもうちょっと余裕はあったのに……!)」

「(イリスの加護が……形となって襲ってくる……!)」

 カウンターを防ぎ、攻勢に出る。
 その攻撃が、闇の触手で相殺されてしまう。
 先程から、これが繰り返される。
 さすがに導王流が適用されていないのか、攻撃を受け流される事はない。
 それでも、こちらの手札が潰される形になるので、かなりギリギリになっていた。

「(かやちゃんと司ちゃんがいなければ、もう負けていた……!)」

「(これでも私はさっきよりも強くなってる。それでも、足りないなんて……!)」

 葵も奏も、魔法や霊術を併用して戦っている。
 だが、“闇”による触手や刃で悉く相殺されてしまっていた。
 結果、レイピアや刃による直接攻撃しか届かず、それも受け流されていた。

「(優ちゃんはこれを狙ってやっている……!最も受け流しやすい攻撃だけを、敢えて残してカウンターに繋げている……!)」

「(剣を持つより、素手の方が強いなんて……!)」

 今の優輝は素手で戦っている。
 魔力などで保護しているとはいえ、素手で刃に触れるのは危険なはずだ。
 だが、導王流はそれを無傷で受け流す事も出来る。
 武器を使ってこそではなく、素手だからこそ本領を発揮できるのが導王流だ。
 ……今までが頼もしかった分、この上なく手強く立ち塞がっていた。

「『奏ちゃん!分身は!?』」

「『出来る……けど、多分利用される!』」

 分身する事で、さらに手数を増やす。
 確かに有効かもしれないが、奏は既にそれを優輝にやっていた。
 一度見せた技だからこそ、今度は利用されるかもしれない懸念があった。
 さらには、分身そのものを利用された経験も、奏には既にあった。
 神界で敗北した時の経験も、また懸念の一つだ。

「『それに、例え動きを封じようとしても、転移される……!』」

「『そう、だねっ!』」

 ついに“闇”の攻撃と防御を破り、椿の矢と共に攻撃で包囲した。
 しかし、優輝は転移魔法であっさりとその包囲を抜け、攻撃を躱してしまった。
 奇しくも、念話で懸念していた事が今目の前で起きたのだ。

「させないわよ!!」

 転移後の不意打ちは、何とか椿が阻止する。
 遠距離カウンターである創造魔法の剣が、椿へと飛んでいく。

「かやちゃん!」

「『こっちは心配無用よ!!』」

 既に一度受けた反撃だ。
 椿は即座に地面から植物を生やし、それで剣を防いだ。

「『転移直後の不意打ちは私が防ぐ!』」

「『ありがとうかやちゃん!』」

「『……とにかく、緋雪が来るまで耐えるのが先決よ!』」

 余裕はない。一瞬の油断が敗北に繋がる戦いだ。
 とにかく、もう一人分の戦力が来るまで、耐えるしかない。
 ここで優輝を引き付けられるだけでも儲けものなのだと、椿は考えるしかなかった。

















 
 

 
後書き
地の文では基本的にジュエルシード表記のままで行きます。祈梨が使う時だけ、プリエール・グレーヌになりますが。
相も変わらずギリギリな戦いです。
何気に忘れかけていた上空のリンディ達ですが、案の定全滅しました。
これでも、かなり耐えていた方です。

ちなみに、冒頭の時点でイリスの援軍が丸ごとカットされていますが、前回で習得した固有領域によって、帝が無双していました(with優奈のフォロー)。神界であれば帝はまず負けません。ただ、さすがに疲れていたため、優奈が肩を貸していましたが。 
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