神葬世界×ゴスペル・デイ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第一物語・前半-未来会議編-
第十二章 抗いの行く先《2》
前書き
前に立つ者は誰なのか。
いざ、長の元へ。
物語スタート。
飛豊は声を聞いた。
それは聞いたことのある、優しいが必死に声を出す女性の声だ。
正体を確かめようと、皆の顔の隙間からそれを見た。
「すみません、ここから先へは行かせられません!」
「咲先生!?」
飛豊は隙間から、自分達のクラスの担任を見た。
両の腕を名一杯伸ばし、校門をふさいでいる。
慌てて外へ出たのだろう。雨から守る加護を張ってなく、身にまとう服は濡れていた。
そんな彼女に、先を行った入直が叫ぶ。
「なんで邪魔するのさ、今アタイらの長が西二番貿易区域に向かってるんだ」
「分かってます、ですが貴方達が危険に身を投げる必要は無いんですよ」
訴えるその言葉は、空気を押し雨を押し退け飛ぶ。
自分より歳のいっていない子どもが、そこまでする必要はない。
全ては大人に任せればいいのだ。
しかし、飛豊は顔を振りその言葉を否定した。
「セーランは今彼女の……、宇天学勢院の長に伝えようとしてるんですよ、まだ救われると」
「皆はなんでそこまでするのですか。いくら長である幣君のためでも、皆は危険を侵し過ぎです」
「それでも行くと私達は決めたんです、咲先生はこのままでいいんですか」
「何がですか」
「日来の行方ですよ」
●
え、と咲は思った。
突然日来の名を出され、理解が出来なかった。
自分も教員だ。
皆を危険な目に会わせたくないし、危険なことも本当はさせたくない。
だけどそれを将来のためだと、心の何処かで押さえていた自分がいた。
その押さえていたものが、今の自分を動かしていた。
両の腕を下ろし、雨に濡れるのも気にせずに自分の生徒である飛豊の言葉を聞いた。
「もしセーランの告白が成功すれば、辰ノ大花の協力な支援を得ることが出来るかもしれない。それにあの馬鹿長は何かと問題を起こしますが、それは全てこの日来のために行ってるのがほとんどです」
「これもその一つということですね」
「セーランは初めて自分のために何かをしようとしています。私達はそれを手助けしたい」
「なら止めるのが友達としてやることでしょう」
「友達ですか……」
飛豊は真っ直ぐ、目の前に立つ自分の担任を見た。
彼女はびしょ濡れで眼前に立つ。
左右には仲間達が別れて、黙ってそれを見ていた。
咲先生、貴方は私達のことが心配なのでこんなことをしたのでしょう。
自分達の担任として、一人の大人として。
だが長である幣・セーランは、仲間であって友達ではない。
彼は仲間のために、物事をこなし長の地位を獲得した。
そう、全ては仲間のためだ。
彼から友という言葉を聞いたことがない。
彼のなかの友達の上の存在が仲間なのか、それとも友達より下の存在が仲間なのかは分からない。
一歩前に足を置き、飛豊は飛ばすように声を出す。
「友達ではありませんよ、彼とはただの仲間です」
「仲間……?」
「咲先生は知らないでしょうが、セーランが自分のために頼ってくるのは今回の告白が始めてなんですよ」
「……」
「彼はいつも行くべき道を示していた、だけど――」
それは自分や他の者が何もしなかった、ということだ。
彼だけに任し、自分達は道を示されるのを待っている。
だが、もうそれは嫌だ。
だから、
「彼と共に私達も道を示す」
「それは幣君と共に行くということですね」
「はい、もう彼一人で行かせることはしたくない。これからは皆で一緒に世界を歩む!」
その言葉を聞き、皆は飛豊の横に並ぶ。
皆、思っていることは同じなのだ。
彼を馬鹿にし笑ったりもした、だがその態度とは別に尊敬もしていた。
雨の空の下、学勢の一列は互いに思うことは一致している。
全ては長のため。
そんな生徒を見て、咲は一歩後ろへ下がった。
「な、なんでですか、そこまでするなら幣君を止めることも」
「咲先生聞いて下さい」
飛豊の言葉の後に、右にいたアストローゼが前に出る。
堂々と立ち、眼前にいる自分の担任に伝える。
「私はあの馬鹿な長に未来を見た。奥州四圏や各国の圧力を受け、身動きの取れない日来を知った私は心底落胆した。だが、そんな私に夢や希望という儚き勇気をくれたのはあいつだ」
そして彼の右、ニチアも前に出る。
「幼い頃、重度の人見知りだった私に、セーランよく声をかけてくれた。始めはウザかったけど、いつの間にか他人と話せるようになって気がついた、あの長のおかげだって」
変わるように、飛豊の左にいた空子が言う。
「うちが中等部の後半に転校して来てまだ日来のことが分からなかったとキ、分かるまで案内してくれたのセーランだったネ。その後も色々面倒見てくれてとても助かったヨ」
一番左にいた太りぎみの少年、天布は下を向きながら話す。
「小等部のとき、日来一のデブだった自分が皆に馬鹿にされて傷ついてたとき、セーランはこんな自分をかばってくれた。そしたらいきなりデブでも素早いデブならかっこいいだろ? とか言い出して、毎日走らされていい迷惑だった。
だけど、中等部の体育祭のときのクラス対抗リレーで走ったらすっんごく速く走れて、それ以来自分を馬鹿にしてた連中とはいい仲になって、マチョラ君とも友達になれた」
「友達」
天布の横にいた上半身裸で布で顔を覆い隠す巨漢の生徒、マッチは一言だけを言う。
左の人差し指で頬を掻き、天布は嬉しみの笑みを漏らす。
彼は自分達に多くのことをしてくれた、だから今度はその恩返しついでに同じ立ち位置へと並ぶ。
飛豊は咲に近づくため、濡れた地面を歩き出す。
咲の衣服は雨で濡れ、肌に水が流れる。
顔を落としている、彼女の目の前に立つ。
「どうか行かせて下さい」
「任せておけばいいじゃないですか!」
咲は顔を上げた。
必死の声で、自分の生徒に訴える。
飛豊は、自身の担任が泣いてるのを見た。
教師歴六年目に今年で突入する自身の担任は、子どものように泣いていた。
その必死さを目にし、圧倒された飛豊は後退んだ。
「全部大人に任せればいいじゃないですか! なんで子ども達だけでやろうとするんですか、まだ世界を渡り歩かなくてもいいじゃないですか。そこまで私は頼りないですか、大人は頼りないですか!?」
「頼りなくありません! ただ私達は告白を成功させたいだけで、だけど日来を救うのは皆でやりたいんです。ここは皆の最後の居場所なのですから」
「そんなの、そんなの都合良すぎます。私は皆が世界を見て絶望させたくないだけなのに!」
「咲先生……」
かっこ悪いと、咲は感じた。
自分の生徒の前で、だらしなく泣いていて。
だけど、自分の生徒を傷つけたくはない。
世界を見て、どうにも出来ないのだと理解してしまった自分のようにはこの子達をさせたくない。
だから止めに来た。
監視艦から長の逃亡を聞いたとき、即座に自分の生徒は彼の元へ行くと予測出来た。
いい迷惑かもしれない、面倒な担任かもしれない。
どんなことも思ったとしても、絶望するよりかはいい。
そんな彼女へ向かって、声が飛んだ。
歳がいった男性の低い声だ。
その声は、生徒の後ろから聞こえてきた。
「行かせてやろうじゃないの、君の生徒は世界を見て絶望する程、柔じゃないだろ」
「榊先生」
飛豊達は自身の後ろ、背後へと体を向けた。
そこには中年の男、自分達の副担任の榊がいた。
靴の代わりに履いている下駄で、地を蹴り音を鳴らす。
背に羽織った着物が雨風で飛ばないように、右手で布を掴んでいる。
加護を発動しているため、彼の近くには雨が落ちない。
通すため横に並んだら列は半分に別れ、榊は手を挙げながらその間を通る。
肩を左右に揺らし、前へと歩む。
眼前に主任の咲を置き、ある程度の距離を置き立ち止まる。
「自分の生徒を信じみなよ。それで傷ついて落ち込んでるとこ見かけたらさ、勇気づければいいじゃないの」
「榊さん……」
「絶望を知ってる君だから絶望を切り抜ける方法も知ってるだろうし、だから三年一組の担任になったわけだしさ」
「ですが私はそこまで強くありません」
強くはない。
今自分がここにいるのは、世界から逃げていたからだ。
合成側印度国《ミックサイド・インドランド》出身で、高等部卒業まで住んでいた。
だが、その高等部のときに絶望した。
何も知らずに世界を描いた自分は、本当の世界を目にしたとき、
人類はなんて愚かなんだろうと思ったんですよね。
この地球と呼ばれる星は大昔、三千世界をも巻き込んだ超規模天変地異“終焉”の起発点だった。
その原因を作ったのは、人類の必要以上の争いと技術開発とされている。
人類は自分達が住んでいた星を捨て、今は行けない異界へと逃げた。
そしてまたこの星へと戻り、今に至る。
だが人類は変わらなかった。
争いをし、意味の無い犠牲を出して進んできた。
その事を知ったとき、自分は勝手に人類を冷えた目で見るようになった。
絶望したのだ。勝手に、その時に。
簡単に絶望し、すぐに逃げてきた。
今自分が担当している生徒は、そんな弱い自分とは違う。
抗い、立ち向かっている。だから絶望はさせたくない。
いい迷惑だろうか、迷うこともあった。
しかし、これで良いのだと思った。
「私は学勢時代逃げていました、現実から。夢という幻に心奪われて」
「強い人なんて一人二人で充分じゃないか、弱い俺達は皆で力を合わせて抗えばいい」
「逃げてここへ来たんです。辛いことはあるはあるけれど、ここなら弱い自分でも夢を見て生きていけるってそう思ったから」
「なら夢を見ている君の生徒はどうなんだ!!」
「……っ!?」
榊は声を、空気を押すように前へ出した。
急の大声に、咲は身を縮めた。
眉を立てていた顔を、何時ものふぬけた顔に戻しながら、ゆっくりと話す。
「今、君の生徒は長の告白成功という夢を見ながら動いている。結果、それが日来のためだからなお頑張っている。ってのは俺の勝手な思い込みだろう」
しかし、
「自分の様にさせない為には、君が選んだ道とは別の道を選ばせるのも良いんじゃないかな」
「……私は……」
大粒の雨に打たれ、咲は目が覚める。
自分は何を馬鹿な事をやっているのだろう。
生徒のためを想うなら、今ここで生徒達の意志を曲げるような事はしてはならない。
恐れていたのは自分だけ。怖がっていたのは自分だっけだった。
絶望させないためには、絶望を既にしている私が道を示せば良いだけだ。
私って本当に、……臆病者ですね。
榊は落ちる雨から濡れる咲に、加護を展開しそれから守る。
だから、と言うように榊は言う。
「彼らは負けないよ絶望なんかに、後は自分自身を信じなきゃね」
「……そうですよね、ご迷惑を掛けて皆さんすみませんでした!」
皆に見えるように左へ移動し顔を下げ、自分の生徒に謝る。
謝罪の気持ちと一緒に、何故か清々しい気持ちがある。
そんな彼女に、生徒の言葉が届く。
「迷惑じゃないネ、咲先生はうちらのこと想ってしたこと、それ迷惑違ウ」
「そうですわ、絶望を知らないあたくし達を絶望させないで下さい。それで今回の事は帳消しですわ」
「皆は咲先生のした事は迷惑だと思うか!」
飛豊の問いに、皆は顔を左右に振る。
「咲先生が弱いと思うか!」
自分達の生徒は、顔を横に振り否定する。
「咲先生を尊敬してるか!」
「「当然!!」」
「日来は沈まない、何故なら日が来訪する場所なのだから」
声が響く。強く、高く、大きく。
飛豊の言葉で二つに別れた列は一つとなって、前へと進む。
水を跳ね、濡れた地面を踏んだ。
それは一歩、二歩と早くなり二人の教師を抜いた。
二人の教師は、背後を行く者達に体を向け言葉でその背を押す。
「行ってきなよ、結果がどうなれもう引き返せないのなら」
「幣君をお願いしますよ!」
「「了解!!」」
群れは校門を抜き、大道の左へと消える。
それを後方で見守る二人は、黙ってそれを見続けていた。
一向に止まない雨は弱まったり強くなったりと、雨風をまとって降り続いた。
少しの沈黙が過ぎ、榊が口を開いた。
「彼が来たときから全てが始まったのかな」
「幣君のことですか?」
「そうそう、小等部のときは物静かな子だったのに随分と変わったからね。色々なもの背負ってるからかな、まあそれが彼の強さなんだろうけどさ」
「何をしようとしてるのでしょうか」
「告白の続きか、その他だね。だけど今回の件で社交院は嫌でも覇王会との話し合いが必要になる」
「監視されているのですからね、自分達は大人の態度を取ったと言えるようにしなければ後々面倒ですから」
「それが狙いだったら怖いね、彼ならやりかねないけど」
二人はのんびりと歩き始めた。
方向は職員室。
雨から逃げるように、その場から離れた。
「どう抗うか、何を伝えるかが重要だよ……」
「何か言いました?」
「ん? 心配だなあ、てね」
「榊さんが心配だなんてちょっと以外です……クシャン」
「雨に濡れたから体が冷えたんだね、着替え持ってる?」
「はい、職員室の個人ロッカーに」
「早く行こうか、教員の俺達は争い事に手出し出来ないからね。ココアでも入れよっか?」
「お願いします」
手で体を擦り、震えている咲を一歩後ろから榊が歩く。
自分達は何も出来ないからこそ、見守り影から支える。
そうすることで今、長の元へ向かう者達は後ろを向かずに前だけを見て走り続けることが出来る。
雨の中、二人はただ歩き続けた。
●
曇りの空の下、西二番貿易区域は騒がしくなっていた。
監視中だった艦の小型艦二艦、中型艦一艦が空を支配しその下は黄森の隊員が一人の者に向かい長銃を構えていた。
長銃を向けられている者は、右腕がなく雨に濡れていた。
髪は濡れて潰れており、服は水を吸っている。
停泊場に一人で立ち、その周りを隊員が囲む。
彼の直線上には青の、辰ノ大花の戦闘艦が見える。
これが、この場に向かって走って来た者達が見た光景だ。
後書き
お仲間回終了です。
今回は咲先生の想いがテーマです。
弱い自分でも頼られている、と榊先生の言葉で目を覚ましたというところです。
不安と共に生きていくことは辛いですね。
そしてとうとう来ましたね。
何が? 教えません。
それでは次回は、セーランがハッスルします。
あ、言っちゃった……。
ページ上へ戻る