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死んだ後の評価

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第二章

「実にな」
「悪いものだな」
「とかく私の作品はだ」
「評価されないな」
「全くだ、お陰でだ」
 苦い顔のままでだ、メルヴィルはこうも言った。
「私は望みを適えられずだ」
「今の通りだな」
「文章では身を立てられずな」
 そしてというのだ。
「働きつつだ」
「執筆を続けているな」
「若しもだ」
 メルヴィルは深刻な顔で語った。
「私が明るいな」
「アメリカ受けする作品を書いているとか」
「それだけで生きていけただろうか」
「そうかもな、だが」
「それでもか」
「見る者は見ているだろう」
 友人はそのメルヴィルに考える顔で述べた。
「ポーにしろだ」
「エドガー=アラン=ポーか」
「顧みられないかというと」
 それはというのだ。
「実はな」
「違うか」
「熱心な読者が存在してだ」
「評価もか」
「されている、だから君もな」
「愛読者がいてか」
「そしてだ」
 そのうえでというのだ。
「読まれている筈だ」
「そうなのか」
「その筈だ、だからな」
「それでか」
「将来はわからない」
 今はどうであってもというのだ。
「君の作品もな」
「評価されるかも知れないか」
「そうなるかもな」
「そうであればいいが」
 それでもとだ、メルヴィルは自分を励ます様に話した友人に難しい顔のまま話した。
「だが私が生きている間はな」
「君の作品の評価はか」
「低いままだろう、売れ具合もな」
 生活を立てる上で最も大事なそれもというのだ。
「相変わらずでな」
「君はそのままか」
「働きつつだ」
 文章だけでは身を立てられずというのだ。
「書いていく」
「そうしていくか」
「仕方なくな」
 メルヴィルの顔は無念のものだった、結局彼は生きている間は作家としての評価は鳴かず飛ばずでだった。
 一生を終えた、そして死後の世界でもだ。彼の評価は。
「相変わらずか」
「何だ、死んでも言っているのか」
 友人も死んでいた、それで彼に言うのだった。
「君の作品のことを」
「そうだ、殆ど顧みられない」
 死んで十年経ったがだ。
「相変わらずだ」
「それで思うのか」
「私には文才がなかったのではないのか」
「多く書いているが」
「多く書けていてもだ」
 それでもというのだ。
「書いていただけでな」
「作品の出来はか」
「悪くてだ」
 それでというのだ。 
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