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死んだ後の評価

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第三章

「今こう思っている」
「文才がないか」
「そうだ、だからだ」
「君の作品は生前もあまり読まれなくてか」
「今もだ」
 死んでからもというのだ。
「相変わらずだ」
「読まれていないのか」
「結局私はだ」
 メルヴィルは雲の上からアメリカの本屋や図書館を見ていた、そこにメルヴィルの本は少なく手に取って読む者はさらに少なかった。
 それでだ、彼は言うのだった。
「その程度の作家だった」
「そう言うか」
「だから作家としてだけではな」
「暮らせなかった」
「そうだったのだろう」
 死んでからもこう言うのだった、しかし。
 それは死後十年程でだった、三十年位経つと。
 次第にだった、アメリカの知識人や読者達が言い出した。
「メルヴィルという作家の作品はいいな」
「そうだな、文学的価値は高い」
「読んでいて面白い」
「白鯨は傑作だ」
「海や捕鯨船のことをよく描写している」
「船乗りのこともな」
 その細かい描写が評価されだしたのだった。
「最後に遂に鯨が出て来るが」
「非常にいい演出だ」
「そこの描写は白眉だ」
 特にいいというのだ。
「迫力もある」
「人間と自然の戦いだ」
「結末は悲劇的だが」
「それもまたいい」
「こんな作品があったとはな」
「アメリカにこの様な文学作品が埋もれていたとは」
 多くの者が残念に思いもした。
「迂闊だったな」
「もっと早く評価すべきだった」
「これから多く読まれるべきだ」
 こんなことを話した、そしてだった。
 メルヴィルの作品はここにきてアメリカで広く読まれる様になった、しかもそれはアメリカだけに留まらず。
 世界各国でも各国の言語に翻訳されてまで読まれる様になった、メルヴィルはアメリカ文学を代表する世界的な作家になった。
 その状況を雲の上から見てだ、メルヴィル本人は今度はこう言った。
「信じられないことだ」
「君は作家としてだな」
「暮らしていきたかった」
「それだけだったな」
「本が売れてな、しかしだ」
「今の君はな」
「アメリカどころかだ」
 当時のだ。
「世界中で読まれてだ」
「文学の歴史に名前が残っているな」
「そうなっている、映画にもなってな」
「多くの創作の題材にもなってな」
「不滅とも言っていい」
「そこまでなっているな」
「こうなるとはな」
 どうにもとだ、メルヴィルは友人に話した。
「予想を遥かに超えていた、いや」
「予想もしなかったな」
「そこまでのものだ」
 まさにと言うのだった。 
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