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死んだ後の評価

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第一章

               死んだ後の評価
 ヘンリ-=メルヴィルはこの時気難しい顔で親しい友人に話していた、左右に分けた長い髭と小さめの目が深い知性を感じさせる。
「私は書いていてもな」
「それでもだね」
「全くだ」
 まさにとだ、彼は友人に言うのだった。
「売れない」
「そうだな、君は最初な」
 友人は項垂れる感じの顔のメルヴィルに答えた。
「作家としてな」
「身を立てたかった」
「そうだったな」
「教師や船乗り、そして水兵もしてだ」
「そしてだったな」
「作家として生きたかったが」
 それがとだ、メルヴィルは自分で話した。話しつつそのうえでバーボンを飲むがバーボンのいががらさが喉に浸みた。
「残念ながらだ」
「作品は売れず」
「他のことで生計を立てている」
 これが現実だった。
「まさにな」
「君にとって不本意なことにな」
「非常にな、受ける評価といえばだ」
 メルヴィルの作品のそれはというと。
「悲劇的に過ぎる、難解だとな」
「そうした評価ばかりでだな」
「よくないとな」
「そうだな、しかし悲劇というのは」
「よくある話だ、私は見てきたものを書いているのだ」
「海にしてもだね」
「そうだ、私は船乗りだった」
 そして水兵だったというのだ。
「それでだ」
「そこで海を観てきたな」
「その自然をな、自然は恐ろしい」
 メルヴィルがその目で見てきたものはそうだった、彼は友人に語りつつそのうえで彼が観てきたそれを瞼に思い出していた。
 荒れ狂う嵐と大海原、その中で揺れる船。その中で感じる命の危険までだ。彼は全て感じていた。そしてだった。
 友人にもだ、こう言った。
「白鯨にしろだ」
「君にとって会心の作品だな」
「あれはだ」
「まさにだな」
「自然の力とだ」
「それを前にした人間をだな」
「書いたのだ」
 そうだったというのだ。
「そうした作品だった」
「その結末もだな」
「そうだ」
 まさにとだ、メルヴィルは友人に答えた。
「そうした作品だったが」
「それがだな」
「あの通りな」
「酷評だな」
「やはり悲劇的だ、難解だとな」
「評価されているな」
「どの作品もだ」
 まさにというのだ。
「そうした評価だ」
「あの作品は私も読んだ」
 友人は白鯨についてこう答えた。
「読みごたえがありだ」
「あの結末はか」
「君の考えがよく出ていてな」
「そうしてか」
「良作だと思ったが」
「そうか、しかしだ」
「その評価はだな」
「今私が言った通りだ」
 自分でというのだ。 
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