インフィニット・ゲスエロス
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19話→兄と弟(後編)
前書き
一夏の行動の裏側で
千冬「麻耶、申し訳ないんだが…………」
麻耶「はぁ、また太郎さんを怒らせたんですか?」
千冬「すまん…………」
麻耶「全く…………太郎さんがアリーナの使用許可をとってますから、早く来て下さい。私も一緒に謝ってあげますから」
IS学園に入れたといっても、機密の多い学園でちょろちょろする訳にはいかない。
案内してくれる楯無の後を追って、歩いていく。
すると、10分もたたないうちに大きな扉の前で、彼女は止まった。
「さて…………太郎の電話も終わったみたいだし、そろそろ良いかしら」
そう言うと彼女は手持ちの携帯を操作し、耳に当てた。
「あ、太郎。弟くん連れてきたんだけど。」
「うん……うん。オッケー!」
その言葉と共にゆっくりと扉が開く。
中を一言で説明するなら、『物々しい体育館』だろうか。
天井は高く、面積も広いが、それ故に所々にある謎の機械群が、広さを阻害する妙なアクセントになり、息苦しさを感じさせた。
だが、それよりも大事な事があった。
「一夏、久しぶりだな」
長年、待ちつづけていた声が聞こえる。
その声の方へ顔を向けると、『彼』はいた。
山田太郎、幼い頃から、父親代りに面倒を見てくれた、兄が。
服装は仕事のため黒のスーツにYシャツというごく一般的な格好。
だが、彼を見て『一般的』と感じる人間は少ないだろう。
スーツの上からでも分かる、盛り上がった筋肉。
その上には、一夏には見慣れた銀縁フレームのメガネを着けた、端整な顔立ちが。
加えて、自身の実力に裏打ちされた不敵な笑みが、その身体から存在感を醸し出していた。
7年前、行方不明になってから一度も会えなかった兄。
その姿を、無事を、目にした途端、一夏の足は、兄に向けて走り出していた。
「兄貴!」
感極まり、飛び込む俺の体を、兄は軽々と片手で受け止める。
そして、軽く背中を叩くと、つかんでいた手を下におろした。
「…………でかくなったな」
「…………ああ!」
千冬姉に不満が有るわけではないが、やはり頼りになる兄との再会は、くるものがある。
下ろされた後、何気ない会話で互いの無事を喜ぶ二人。
七年越しの再会に、二人は言葉を交わしあった。
一夏としては、それだけで充分だったのだが、兄としては違ったらしい。
「さてと、再開の挨拶はこのぐらいにしよう。…………ペンダントを貸しな」
唐突に会話を打ち切ると、さらりと自分の要望を述べる。
相変わらず、自分ペースで動くのが好きな人だな。
急な話題転換に苦笑しながら、一夏はペンダントを投げた。
それを当然のごとく受けとる兄。
兄はそれに、いつの間にか片手に握り込んでいた、金属パーツのようなモノを着けた。
数分間、黙って操作する太郎。
やりたいことが終わったのか、彼はそれを、そのまま一夏に投げ返した。
「…………リンク完了、と。さてと、開けてみな、一夏。プレゼントが入ってる」
「…………ここで?」
言外に『ここで中身を見せて良いのか』と伝える自分に、頷きが返される。
それに答え、一夏は短く『解錠』の言葉を唱えた。
「変形(トランスフォーム)」
言葉と共に、ペンダントから光が溢れる。
(あれ?おかしいな?)
普段とは異なる動きに困惑する。
これは、『ある部屋』への転送装置だった筈なのに。
一夏の困惑をよそに、ペンダントは要求されたオーダーを履行し続ける。
光が収まる。
同時に一夏の前には、純白の鎧が鎮座していた。
「これは…………白式?」
「そうだ。お前に渡したシュミレーターに『自機』として搭載されていた、な」
兄の言葉を受けたと同時に、一夏は、おそるおそる『それ』に触れる。
同時に、胸に着いていたライトのようなモノが光り、機械的な言葉を吐き出す。
『イニシャライズ開始→完了。フィッティング開始しますか?』
「白式、一時停止で。一夏、これを右手に見える更衣室で着ろ」
そう言うと、黒いライダースーツのようなものを、太郎は一夏に投げ渡した。
それを掴み取りながら、ジト目で問いかける一夏。
「兄貴、何コレ?」
「後でまとめて説明してやんよ」
説明なしに次々と、物事を進める兄に呆れ気味に聞くが、太郎の方はどこ吹く風。
ため息をつきながら、久しぶりの太郎のムチャぶりに頷きを返した。
着替え自体は別に難しく無かった。
さっさと着替えて元の部屋に戻る。
すると、先程までスーツの兄の服装が一変していた。
黒を基調とした、戦国時代の鎧のようなものを来ている。
(ナニコレ?こすぷれ?)
首を捻る一夏に、太郎は笑いながら答える。
「ははっ、少しは新聞読んどけよ。こいつは『打鉄(うちがね)』っていう日本のISさ」
そう答える兄に更に疑問符を浮かべながら、近寄って尋ねる。
「兄貴、ISって女にしか使えないんじゃ…………?」
その疑問に、太郎は一夏の手首を掴み、白式の胴体に一夏の手のひらを押し付けるようにしながら答えた。
「世間の言うことを鵜呑みにしちゃー、いけないぜ。正確に言うと、『白騎士事件』前に正式登録されていた人間以外は、という但し書きがつく」
その言葉と共に、手のひらをつけた白式が分解され、一夏の全身を覆う。
「つまりは、だ」
全身にISを装着した一夏に太郎は言葉を続けた。
「俺以外に、お前と俺のダチの一人は、『例外』だ。まあ、正確に言うと、俺のダチは一つしかつけられんがね」
世界のバランスを変える言葉を、さらりと太郎ははく。
「うん?…………えええ!?」
分かりやすく混乱する一夏に笑いながら、太郎は一夏の首元を掴む。
「そして、優しいオニー様は、お前に高校推薦(強制)と、実戦経験をくれてやるために、わざわざISに着替えてやった訳だ。ドゥー・ユー・アンダスタン?」
「ワカンネーヨ!」
あまりの事にカタコトになる一夏を掴んだまま、太郎はすぐ隣のアリーナに移動した。
…………二人が扉の奥に消えると同時に、楯無は登録された番号をコールする。
「お父様?…………はい、太郎の言う通り、一夏くんもISを…………。はい、太郎もそのつもりですわ。はい、はい、失礼します」
仕事の電話を終えると、楯無は無意識に呟いた。
長年会えなくとも、変わらず兄弟をやっている二人に。
「羨ましい…………」
この後、ただの関係者だった『一夏』が、世界に波紋を広げる『当事者』になるのを。
本人はまだ、気づいて無かった。
後書き
次回、太郎VS一夏
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