英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇
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第35話
5月19日、演習地出発――――
午後7:00――――
~第Ⅱ分校・分校専用列車停車駅~
演習地出発の夜、生徒達が分校専用の駅構内で出発の準備をしている中、生徒達に新たな指示を出したリィンは機甲兵教練での出来事を思い返した。
(本校で使っていた上位機………今後の戦術の幅を考えると一機くらいは回して欲しいかもな。それとトリスタ奪還の際に現れた高速機あたりも………)
今後第Ⅱ分校に追加して欲しい機甲兵の事を考えたリィンは生徒達の様子を見回した。
(しかし、みんな以前よりも手際が良くなってるみたいだ。………クルトも心配だったが何とか持ち直したみたいだな。ゲルドは特別演習が今回が初めてで慣れていない部分もあるが、アルティナがフォローしてくれているようだから、心配はなさそうだな。問題は――――)
それぞれの教官から指示を貰っているⅦ組のメンバーの様子を見回したリィンはユウナに視線を向けた。
(………今の所慎重に見守るしかないか。)
その後準備を終え、出発の定刻が近づくと、集合した生徒達はリィン達教官陣が見守っている中見送りの為に現れたシュミット博士達と共に現れたリアンヌ分校長の激励の言葉を聞いていた。
「―――今回、貴方達が向かうのは”宿業にして因縁の地”。数百年にわたり、エレボニアの宿敵、旧カルバード共和国と奪い合った場所にしてエレボニアとカルバードからの独立を果たした場所です。”三帝国交流会”とやらの影響でクロスベル帝国軍およびクロスベル警察も、遊撃士協会と協力体制を敷いて最大限に警戒しているとの事ですが――――2年前の資産凍結の件による騒動の時のように”何が起きても不思議ではありません。”」
「………洒落になってねぇぞ。」
「クク…………」
「…………………」
(その”騒動”を起こす可能性がある組織は結社だけでなく、エレボニアの可能性もある事は皆さん、気づいているのかしら……?)
(アルフィン………)
リアンヌ分校長の忠告にその場にいる全員が血相を変えている中ランディは厳しい表情で呟き、ランドロスは不敵な笑みを浮かべ、ユウナは静かな表情で黙り込み、辛そうな表情を浮かべているアルフィンの小声を聞いたエリゼは心配そうな表情でアルフィンを見つめた。
「ですが、想定外の状況こそ人を成長させる好機でもあります。人事を尽くして天命を持ち、変事にあっては大いに狼狽え、そして足掻く事もよい経験になるでしょう。皆の成長に期待します――――それでは行きなさい!」
「イエス・マム!」
リアンヌ分校長の激励の言葉に生徒達は力強く頷き
「みんな、頑張ってねー!」
「どうか皆様が無事、演習を終えられますよう。」
「フン、各種観察記録もしっかりやることだな。」
ミントとセレスタン、シュミット博士はそれぞれ生徒達に見送りの言葉をかけた。そして教官達や生徒達はデアフリンガー号に乗り込み、デアフリンガー号は演習地に向けて出発し、生徒達やアルフィンとエリゼがデアフリンガー号で英気を養っている中、リィン達教官陣は演習地到着前のブリーフィングを行っていた。
~デアフリンガー号・2号車―――ブリーフィングルーム~
「クロスベル駅への到着は明朝5時過ぎを予定している。物資の搬入後、演習地へと向かい3日間のカリキュラムを開始する。……ちなみにランドロス教官とオルランド教官。わかっているとは思うが―――」
一通りの説明を終えたミハイル少佐はランドロスとランディに視線を向け
「へいへい、わかってますって。」
「やれやれ、器が小さいねぇ。」
視線を向けられたランディとランドロスはそれぞれ呆れた表情で答えた。
「………?」
「何かあるんですか?」
「一応、前もって言っておく。ランドロス・サーキュリー教官並びにランドルフ・オルランド教官は『クロスベル帝国軍』から第Ⅱ分校に派遣している立場となる。当然、現地に知り合いも多いだろうが万が一そちらに気を取られてしまえば肝心の演習が疎かになる可能性もある。その意味で、今回は演習地周辺に留まり、市街に出るのは自粛してもらいたい……―――そのような”要請”が非公式だがエレボニア帝国政府から来ているのだ。」
二人の様子が気になったリィンの質問にミハイル少佐は驚愕の答えを口にした。
「また、あからさまな要請をして来たわねぇ。」
「馬鹿な……!」
「そ、そんな事をエレボニア帝国政府はランディさん達に要請したんですか……!?」
「い、幾らなんでもそれは――――」
ミハイル少佐の答えを聞いたレンが呆れている中リィンやセレーネ、トワはそれぞれ怒りの表情でミハイル少佐を睨んだが
「まーまー、抑えた抑えた。」
ランディが苦笑しながらリィン達を諫めた。
「―――ぶっちゃけた話をしちまえば、俺達がエレボニアの士官学校に派遣されたのはクロスベルの無茶苦茶皇帝とリア充皇帝の”思惑”があってのことだ。余計な憶測を疑われて、こっちの仕事を邪魔されない為にクロスベルに戻る予定はなかったが……今回みたいな話になったら、ま、当然そう釘を刺されちまうわな。」
「当然その”要請”の件についてはクロスベル帝国政府にも話が行っていて、政府はその”要請”を承諾したとの事だから、クロスベル側も今回のオレ達に対するエレボニア側の”要請”についても文句はないぜ?」
「ランディさん……ランドロス教官………」
「………………」
「ヴァイスハイト皇帝陛下達は一体何を考えてそのような理不尽な”要請”を承諾されたのでしょうか………?」
「まあ、少なくてもヴァイスお兄さん達のことだから”対価”もなしにそんな”要請”は承諾していないでしょうねぇ?」
ランディとランドロスの説明を聞いたトワとリィンが辛そうな表情でランディとランドロスを見つめている中セレーネの疑問にレンは意味ありげな笑みを浮かべて自身の推測で答えた。
「あー、だからそんな顔すんなって。――――そもそもエレボニアに出向いてまだ3ヵ月も経っちゃいないからな。そんな短さで、ダチやらツレやらに再会したってどうも締まらねぇだろ。―――リィン、姫。お前さん達と違ってな。」
「……………」
「ランディさん………」
ランディの指摘にリィンは目を伏せ、セレーネは複雑そうな表情をした。
「……一応、最終日くらい、市街に出る機会を設けられないか私の方から打診してみるつもりだ。当然、何らかの要請があれば自粛云々の話でもなくなるだろう。申し訳ないが、今回についてはその程度で抑えてもらいたい。」
「おう―――一応の配慮、感謝するぜ。」
「そういう訳だからリィン達もそれ以上は気にしないでくれ。それと生徒達―――特にユウ坊にはあんまり言わないでおいてくれや。」
「………わかった。」
「お二人がそれでよろしいのでしたら、わたくし達も構いませんわ。」
「その、各種通信とか何かあったら言ってくださいね?……少佐。そのくらいはいいんですね?」
ランディの頼みにリィンとセレーネは頷き、トワはある事を申し出た後ミハイル少佐に確認した。
「ああ、それは問題ない。―――ただわかっているとは思うがハッキング等と言った違法行為を行った上での通信は当然許可しない。」
「あら、そこでどうしてレンを見て言うのかしら♪」
トワの確認に頷いたミハイル少佐はレンに視線を向けて注意をし、視線を向けられたレンは小悪魔な笑みを浮かべて答え、レンの答えにリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「本題に戻るとしようぜ―――今回の演習の主旨は、”三帝国交流会”のバックアップでいいんだよな?」
「ああ、戦術科・主計科共に前回同様、カリキュラムをこなしつつ、何かあった時の備えをしてもらいたい。特務科についても同じ――――広域哨戒と、現地の要請への対応になる。」
「……了解しました。今回も明朝、ブリーフィングを?」
「ああ、演習地を構築したら生徒共々ここに集まってもらいたい。――――以上、質問がないなら今日のブリーフィングを終了する。各自今夜は英気を養って欲しい―――では解散!」
ブリーフィング後列車内を見回りながらⅦ組の生徒達に明日についての連絡をしたリィンは明日に備えて、自分に割り当てられている列車の部屋の寝台で休んだ。
5月20日、午前5:15――――
~クロスベル駅前~
「やっと来たか……まったく焦らしてくれるわね。こんな時期に来たのが、吉と出るか、凶と出るか……エマには内緒でこっそり訊ねてみようかしら?」
翌朝クロスベル駅に入っていく様子のデアフリンガー号を見守っていたセリーヌは溜息を吐いた後ある事を思いついたが
「―――コホン。兎にも角にも”あの女”ね。手分けしてでも何とか探さなくちゃ……!」
すぐにある事を思い出すとその場から去って行った。
「あれ………?おかしいなぁ、何かいたと思ったんだけど………」
するとその時駅員がセリーヌがいた場所に視線を向けて首を傾げたが
「―――なぁんてね。ウフフ………役者も揃い始めたみたいだね。だけど、まだまだ足りない。折角だから勢ぞろいしてから”宣言”させてもらおうかな?」
駅員はすぐに意味ありげな笑みを浮かべて指を鳴らした。すると駅員は服装だけ残して消え、残った服装も炎に包まれて灰になった!
その後、デアフリンガー号はクロスベル駅で10分程停車し………物資などを積み込んだ後、南の間道沿いへと出るのだった。
午前6:30―――
演習地に到着後第Ⅱ分校の教官達と生徒達は協力して、演習地に”拠点”を築き、作業が終わるとⅧ組とⅨ組はそれぞれの担当教官達からカリキュラムについての説明を受け、Ⅶ組は担当教官であるリィンとセレーネと共に列車内でカリキュラムについての説明を受けていた。
~演習地~
「しかし、よくこんな場所に演習地を用意できたよな。」
「確か……南にある医科大学とリゾート地を結んでいる路線ですよね?」
「ああ、ウルスラ支線――――一年前に着工し、既に運行も開始されているとの事だ。」
「医科大学……そんなものがあるんですか。」
「リゾート地の方も行った事はあります。………まあ、リィン教官とセレーネ教官と違って、リゾート地で過ごした事はありませんが。」
トワとミハイル少佐の話を聞いたクルトは目を丸くし、アルティナは淡々と答えた後ジト目でリィンとセレーネを見つめ
「ハハ、そう言えば1年半前クロイス政権からクロスベルを解放した後も色々あって、結局ミシェラムで英気を養う暇は無かったな……」
「フフ、機会があればアルティナさん達もいつか一緒に連れて行くつもりですわ。」
ジト目で見つめられたリィンとセレーネはそれぞれ苦笑しながら答えた。
「医科大学にリゾート地………一体どういう所なのかしら??」
一方不思議そうな表情で首を傾げて呟いたゲルドの疑問を聞き、ゲルドの世間知らずの部分を見たその場にいる全員は冷や汗をかいた。
「……ま、両方ともどういう所なのか後で説明するわ。どっちも列車が通ったことで利用客が倍増したみたいだけど。」
「ああ、確かに便利になったな。それまでも導力バスやら遊覧船は運航してたが……」
「列車になってからはどっちも利用客は減っちまったからなぁ。」
「ま、普通に考えたら列車の方が速くて楽だものね。」
ユウナとランディに続くようにランドロスとレンは苦笑しながら答えた。
「―――ところでⅦ組の特務活動ですが……前回のサザ―ラント州と手順は同じでいいんですね?」
「コホン……ああ。広域哨戒に加え、現地からの要請に対応してもらいたい。――――第Ⅱの演習開始について行政責任者に報告するのも含めてな。」
リィンの確認に答えたミハイル少佐の答えを聞いたリィン達はそれぞれ血相を変えたり目を丸くしたりした。
「そういえば……」
「それがあったな……」
「でも、それじゃあ……」
「うふふ、リィンお兄さんとセレーネは早速クロスベルでの知り合いと再会するでしょうね♪」
「アハハ……」
「クク………」
「行政責任者、ですか。」
「前回がサザ―ラント州を統括するハイアームズ候だとしたら………」
「ま、まさか………!」
「………?もしかしてユウナはその人が誰なのか知っているのかしら?」
リィン達教官陣が様々な反応を見せている中アルティナとクルトは考え込み、すぐに察しがついて血相を変えたユウナの様子が気になったゲルドは首を傾げてユウナに訊ね
「ああ、二人いるクロスベル帝国の皇帝の一人―――――ヴァイスハイト・ツェリンダー皇帝陛下がオルキスタワーでお待ちだ。」
ミハイル少佐はリィン達が会う予定の人物の名前と正体を告げた。
その後準備を整えたリィン達は列車から降りた。
「―――それにしても”六銃士”の一人であるあの”黄金の戦王”――――ヴァイスハイト皇帝陛下との面会なんて。お会いしたことはありませんがさすがに緊張しますね。」
「ああ……そうだな。一応、知り合いではあるから話は通しやすいとは思うが……」
「ええ……それにヴァイスハイト陛下は気さくで親しみやすい方ですから、違う意味で驚くかもしれませんわね。」
クロスベル皇帝の一人であるヴァイスに会う事に緊張している様子のクルトにリィンとセレーネはそれぞれ答え
「……ま、特に教官達に関してはそうでしょうね。ハンサムで政治家としてもやり手ですし、クロスベルの皇帝に即位した今でも警察局長だった頃のように色々と話題がつきない人ですよね。………あたしのタイプじゃありませんけど。」
「とりあえずリィン教官やロイドさん以上の”好色家”ではあります。それ以外の詳しい人柄については知りませんが。」
「”好色家”という事はその王様もリィン教官やそのロイドさん……?という人、それに私のお義父さんみたいにたくさんの奥さんや恋人がいるのね。」
「う”っ………」
「ア、アハハ……」
ユウナとアルティナの説明にリィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ゲルドはリィンを見つめて呟き、ゲルドの推測に反論できないリィンは唸り声を上げて疲れた表情で肩を落とし、その様子をセレーネは苦笑しながら見守っていた。
「そう言えば”黄金の戦王”は17人もの妃がいる事から”好色皇”とも呼ばれていたな……」
「ええ………しかもそのお妃様達の中にはあたしの知り合いの人達もいるのよ………あ、そう言えば妃で思い出したけど、ゲルドってあの”癒しの聖女”が当主の”パリエ家”――――”英雄王”の側室の一人になったセシルさんの娘で、セシルさんに養子として引き取られたシズクちゃんのお姉さんにもなるわよね……?」
「うん。ティアお義姉さんは今は東ゼムリア大陸で活動しているらしいけど………お義母さんとシズクは今はクロスベル市に住んでいるわ。」
困った表情をしたクルトの言葉に複雑そうな表情で頷いたユウナはある事を思い出してゲルドに視線を向け、視線を向けられたゲルドは静かな表情で頷いて答えた。
「あれ………?シズクちゃんはともかく、セシルさんまでクロスベル市に住んでいるの?セシルさんって、確か今はウルスラ医科大学の寮に住んでいたはずだけど……」
ゲルドの説明を聞いたユウナは目を丸くして自身の疑問を口にし
「お義母さん、今お義父さんとの間にできた赤ちゃんがお腹の中にいるから看護師の仕事は休んでいて実家に住んでいるのよ。」
「へ………」
「ゲルドの義父――――あの”英雄王”の……!?」
「ええ、確か今月で9ヵ月目になるのでしたっけ……?」
「ああ、先月に貰ったロイドからの手紙に8ヵ月目と書いてあったから、そうなるな。」
「はい。妊娠9ヵ月目でしたら、お腹も目立っているでしょうし、体力の関係上妊婦の身で看護師の仕事を続けるのは厳しいでしょうから、看護師の仕事を休職なされているのでしょうね。」
ゲルドの口から出た驚愕の答えにユウナが呆け、クルトが驚いている中事情を知っているセレーネとリィン、アルティナはそれぞれ落ち着いた様子でいた。
「教官達はゲルドの義母が”英雄王”のご子息かご息女を身ごもっている事も既にご存知だったのですか………」
「ああ、以前にも少し説明したが、俺がクロスベルに派遣されていた頃の”部署”の同僚の一人がセシル様と家族同然の親しい関係だから、その同僚からの手紙でセシル様がリウイ陛下の子供を身ごもられた事を知ったんだ。」
「そうだったんだ……」
「………………」
クルトの疑問に答えたリィンの答えにゲルドが目を丸くしている中、ユウナは複雑そうな表情で黙り込んでいた。
「さて、それじゃあ準備を終えたら演習地から出るとしよう。」
「えっと……ここからですと”ウルスラ間道”に出るのでしたわよね?」
「ええ、湖沿いの街道ですね。地図で確認するかぎり、帝都までそう遠くないと思います。それじゃあ行きましょうか?」
「ああ、そうだな。」
そしてリィン達は街道を歩いてクロスベルに到着した―――――
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