英雄伝説~灰の軌跡~ 閃Ⅲ篇
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第36話
午前7:00―――
~光と闇の帝都クロスベル・中央広場~
「何だかとても大きな建物や初めて見る建物が一杯で凄い都市ね……」
「へえ、新しいビルも多いしエレボニアの都市とは随分違うな。」
「やはり、クロスベルはあのオルキスタワーが特に印象的ですね。」
クロスベルに到着し、初めて見る光景にゲルドが驚いている中クルトは興味ありげな表情を浮かべ、アルティナは遠くからでも見えるオルキスタワーに視線を向けた。
「まあ、歴史的な建造物も結構あるんだけどね。独立するまで、エレボニアと旧カルバードに共同統治されていた自治州だけにどちらの影響も受けているし。」
「なるほど……あの”鐘”なんかも面白いし。導力車の多さも、大陸有数の国際都市ならではって感じだな。」
「…………………」
ユウナの説明を聞いたクルトは興味ありげな表情を浮かべ、何かが気になっていたゲルドは静かな表情で広場に備え付けてある巨大な鐘を見つめた、
「フ、フフン……そうでしょ?これだけ人口が多くて近代的で、導力車も多い街なんてエレボニア本土じゃ無いんじゃない?」
「はは、そうだな――――」
「………うーん、珍しいのは確かだけど帝都も導力車はかなり多いかな。大通りは交通渋滞も頻繁だし、路面車なんかも通っている。」
「人口比較だと、ヘイムダルは88万、クロスベルは70万くらいでしたね。近代的というなら、クロスベル帝国領のルーレ市はかなり技術先進的な街並みでしょうか。」
「そう言えば領主補佐の勉強の際に、メンフィルの帝都――――ミルスの人口は約3000万だと教わった事がありますわ。」
自慢げにクロスベルの事を語っているユウナの説明にリィンが苦笑しながら同意しかけたその時クルトやアルティナ、セレーネはそれぞれ意見を口にし
「3000万………メンフィル帝国の帝都の人口はヘイムダルの数十倍ですね。さすがはゼムリア大陸全土の国力をも超えると言われている大国の帝都と言った所ですか。」
「そうですね。戦力もそうですが国力もメンフィル帝国が現れるまでは大陸でも一、二を争っていたエレボニアや旧カルバードを遥かに超える大国と言われているだけあって、圧倒的なのがメンフィル帝国の特徴ですね。」
セレーネの答えを聞いたクルトは驚き、アルティナは静かな表情で呟いた。
「…………………」
一方ユウナは顔を俯かせて黙り込み
「い、いや別にこの都市が凄くないと言ってるわけじゃ………」
「そうですね、個々の要素を比較すればというだけで………」
ユウナの様子に気づいたクルトとアルティナはフォローの言葉を口にした。
「ええい、素直に驚いていればいいのよ!ゼムリア大陸西部の経済と文化の中心とも言える国際貿易・金融都市にして1年半前に建国されたばかりの新興の大国の中心都市でもあるのよ!?導力ネットを始めとする最先端技術の導入も世界一!更に異世界にしかいなかった職人――――”工匠”達が集まった特区――――ゼムリア大陸で唯一の”工匠特区”もあるのよ!?」
「そ、それは凄いな……」
「まあ、導力ネットワークは確かに珍しいですし、現状異世界ディル=リフィーナにしか存在しなかった”工匠”達が集まっているゼムリア大陸で唯一の場所でもありますね。」
恥ずかしそうな表情で声を上げた後真剣な表情でクロスベルの事を語ったユウナの様子にクルトは苦笑しながら答え、アルティナは静かな表情で同意した。
「ははっ………」
「ふふ………」
「な、なんですか……子供っぽい自慢とでも?」
一方苦笑しているリィンとセレーネに気づいたユウナはジト目で二人に問いかけ
「―――いや、いいと思うぞ。この都市は確かに”特別”だ。技術的にも、経済的にも、歴史的にも。特務活動で回り始めればすぐにでもわかってくるだろう。」
「また、クロスベルはエレボニアにとって”外国”でもあり、1年半前に建国されたばかりの国の中心部でもありますから色々と学ぶ事もありますわ。」
「あ………」
「そういうものですか………」
「少々、楽しみですね。リィン教官に引き取られてから今まで何度かクロスベルを訪れた事はありますが、リィン教官やセレーネ教官のように隅々まで回る機会はありませんでしたし。」
リィンとセレーネの説明にユウナが呆けている中クルトは考え込み、アルティナは興味ありげな表情をした。
「へ~……アルって、”あの時”以降も何度かクロスベルを訪れた事があるんだ。」
「”あの時”、ですか?」
ユウナがふと呟いた言葉を聞いたアルティナは不思議そうな表情で首を傾げてユウナを見つめ
「な、何でもないから気にしないで!……って、そう言えばゲルド、さっきからずっと同じ方向を見つめたまま黙っているけど、何か気になるものでも見つけたのかしら?」
「あ……うん。あの大きな”鐘”から魔力を感じて、何の目的の為にあんな人通りの多い場所にあるのか考えていたの。鐘の大きさからして多分、何か大掛かりな魔法儀式をする為の魔導具の類だと思うのだけど………」
「「!!」」
「あ…………」
「そうなのか?魔力の察知方法等もレン教官の授業で既にならったが、僕はあの鐘から魔力は感じないが……」
「わたしもです。………まあ、ゲルドさんは”魔女”――――魔術のエキスパートですから、魔術の専門家であるゲルドさんでしたらあの”鐘”がただの”鐘”でない事がわかってもおかしくありませんね。」
ゲルドの疑問を聞いたリィンとセレーネが血相を変えている中ユウナは呆けた声を出した後複雑そうな表情をし、不思議そうな表情で首を傾げているクルトの疑問にアルティナは静かな表情で答えた。
「……そうかもしれないわね。感じられる魔力も微弱だし。……ところで、アルティナはあの”鐘”が何なのか知っているような口ぶりだったけど、アルティナはあの”鐘”が何なのか知っているの?」
「はい。……とは言っても、リィン教官やセレーネ教官程ではありませんが。」
「?教官達もあの”鐘”の事についてご存知なのですか?」
ゲルドの質問に答えたアルティナの答えが気になったクルトはリィンとセレーネに訊ね
「ああ………あの”鐘”は約2年前のIBCによる資産凍結騒ぎの少し後に起きたディーター・クロイス政権による独立騒動でクロスベルの”異変”を起こす為に使われた魔導具の類だったんだ。」
「とは言ってもクロスベルをディーター・クロイス政権から解放した際に、あの”鐘”が起こしていた”異変”も当然収まりましたし、あの”鐘”はあくまで”異変”を起こす為に必要であった魔導具の類の為、あの”鐘”自体だけでは”異変”は起こせませんから、2年前のクロスベルでの異変のような出来事は2度と起こりませんわ。」
「そうだったんですか…………」
「………………」
「それじゃあ、あの”鐘”自体にはもう危険性はないから、今でもこの都市のオブジェとして飾られているのね。」
リィンとセレーネの説明を聞いたクルトが驚いている中、リィン達同様”鐘”についての事情を知っているユウナは複雑そうな表情で黙り込み、ゲルドは静かな表情で呟いた。
「いや、あの”鐘”はクロスベルにとってのシンボルマークだから、単なるオブジェじゃないわよ。―――――ほら、周りにあるクロスベルの国旗にもあの”鐘”と似たような”鐘”が描かれているでしょう?」
「あ、ホントだ………やっぱり”国”も違うからエレボニアやメンフィルの旗もそうだけど、街並みも全然違うわね……」
ゲルドの言葉に苦笑したユウナは街灯等に付けられているクロスベルの国旗を指さし、ユウナの指さしにつられるようにクロスベルの国旗に描かれている広場にある”鐘”と似た”鐘”のマークを確認したゲルドは目を丸くした後興味ありげな表情で周囲を見回した。
「ハハ、初めての”特別演習”やリーヴス以外の都市に来たゲルドにとっては何もかもが新鮮で興味が尽きないと思うが、まずは”特務活動”を始める為にオルキスタワーに行くぞ。」
「オルキスタワーは北に抜けて行政区経由で向かいましょう。」
ゲルドの様子を微笑ましく見守っていたリィンはセレーネと共に先に進むように促し、ユウナ達と共にオルキスタワーに向かい始めた。
「リィン教官…………」
「………わかってはいた事だが、”自分達”の様子を見るなんて何だか不思議な出来事だな……」
リィン達がオルキスタワーに向かって行く様子をそれぞれ地毛とは異なるウィッグを被り、”第Ⅱ分校の制服ではなく旅装を身に纏った並行世界のアルティナ”は辛そうな表情で”自分達と共に歩いているリィン”を見つめ、クルトは静かな表情で呟いた。
「フフ、そうですわね。ですが、やはり並行世界だけあって、現時点での新Ⅶ組のメンバーも私達の世界と異なりますわね。」
「そうね……あの蒼銀の髪の女性教官もそうだけど、今”この世界のあたし”としゃべっている純白の髪の女生徒なんて、あたし達の世界の第Ⅱ分校にはいなかったわよね?」
苦笑しながら呟いたミュゼの言葉に頷いたユウナは不思議そうな表情でセレーネとゲルドを見つめていた。
「……恐らく蒼銀の髪の女性はミシェルさん達の話にあったこの世界のリィン教官の婚約者の一人―――――セレーネ・L・アルフヘイム教官かと。」
「と言う事はあの女性が竜族の姫君か………見た感じは僕達”人間”とほとんど変わらないように見えるが………」
「……それにミシェルさん達の話通り、この世界の私は私よりも明らかに身体的成長をしていますね。………セティさん達から頂いた”成長促進剤”の効果が早く出て欲しいです。」
「――――――」
ミュゼの推測を聞いたクルトは考え込みながらセレーネを見つめ、アルティナはリィン達と共に歩いている自分自身を見つめて呟き、アルティナの意見に応えるかのようにクラウ=ソラスは機械音を出し、その様子を見たユウナ達は冷や汗をかいた。
「って、アル!クラウ=ソラスは目立つから、街中ではしまいなさいって!」
「あ、すみません。」
我に返ったユウナの指摘を聞いたアルティナはクラウ=ソラスをその場から消えさせ
「フフ、それよりも”サフィーさん”。”ルディさん”の呼び方が間違っていますわよ?」
「う”っ………仕方ないでしょう?まだ、慣れていないんだから。」
「しかも小説で出てくる登場人物の名前ですから、余計に慣れないですよね。」
「君達はまだマシな方だと思うぞ……?僕なんか”剣帝”という僕には分不相応で、しかも実際に僕達の世界に存在する相当な剣の使い手と同じ異名までついた人物の名前―――ザムザだしな………」
ミュゼに呼ばれたユウナ―――サフィーは唸り声を上げた後アルティナ―――ルディと共に疲れた表情で呟き、クルト―――ザムザは困った表情で答えた。
「あたし達だけ小説の人物の名前を偽名にしているのに、”ミューズ”だけ自分で考えた偽名なんだからなんか、ズルくない?しかもあたし達と違って、すぐに自分の偽名で呼ばれる事にも慣れているし。……まさかとは思うけど、”ミュゼ”の名前も偽名とかじゃないでしょうね?」
「さすがにそれはないのでは?実際にミュゼさんの祖父母も存在していらっしゃるのですから。……まあ、予めイーグレット伯爵夫妻と口裏を合わせているのでしたらわかりませんが。」
「シクシク……お二人とも私の事をそんな風に見ているなんて、酷いですわ……」
それぞれジト目で見つめてきたサフィーとルディの指摘にミューズはわざとらしく嘘泣きをして答え、その様子を見たサフィー達は冷や汗をかいて脱力した。
「フウ………この世界の新Ⅶ組の状況も確認できたし、ギルドに向かう前に朝食を取らないか?」
「そうですね。……この世界の教官達と鉢合わせをしない為にも、遊撃士の方達と合流して仕事に向かった方がいいですしね。確かクロスベルでの特務活動には東通りも入っていましたし。」
「それとこの世界の私達もそうですが、旧Ⅶ組の皆さんとも鉢合わせをしないように気をつける必要がありますわね。」
「あんた達はいいわよね……あたしなんて、地元で知り合いが多いから、知り合いに見つからないようにいっつも気をつけているんだから………」
そして並行世界の新Ⅶ組はその場から去って行った。
その後オルキスタワーに到着し、受付で要件を告げたリィン達はエレベーターに乗ってクロスベル皇族専用のフロアに向かった後形式的なチェックを受け……クロスベル皇帝の執務室に通されるのだった。
~オルキスタワー・34F・皇帝執務室~
「皇帝陛下、失礼します。」
「ああ、入ってくれ。」
ヴァイスの許可を聞いたリィン達は執務室に入って来た。
「ぁ…………」
「お久しぶりです。」
「御二方ともご健勝そうで何よりですわ。」
「失礼します。」
執務室に入り、ヴァイスと共にいる黒髪の女性を見たユウナは呆けた声を出し、リィンやセレーネ、アルティナは挨拶をした。
「―――リセル教官!」
するとその時ユウナは嬉しそうな表情で黒髪の女性に走って近づき
「ふふっ、3ヵ月ぶりですね、ユウナさん。」
黒髪の女性は微笑みながら自分に話しかけたユウナに答えた。
「………?ユウナはそちらの方とお知り合いなのか?」
「うん。去年リセル教官がクロスベルの軍警察学校の臨時教官を務めた時に知り合いになって、色々とお世話になったの!あの時も助けられちゃって………」
「あの時………?」
クルトの疑問に答えたユウナのある答えが気になったリィンは不思議そうな表情をし
「なるほど……お嬢さんがリセルの話にあったトールズの第Ⅱに留学中の未来の俺やロイド達の後輩か。中々健康的なお嬢さんじゃないか。何となくエステルに似ているが、スタイルに関しては明らかにエステルに勝っているな。」
「ヴァイス様……」
(お、お父様……)
「……っ。女好きでエッチな所も相変わらずですね……先に言っておきますけど、あたし、貴方は全然タイプじゃありませんから、他の女性達みたいに貴方の毒牙にはかかりませんよ!?」
興味ありげな表情をしたヴァイスはユウナに視線を向け、ヴァイスの発言に黒髪の女性とリィンの身体の中にいるメサイアが呆れた表情をしている中ユウナは一瞬怯んだ後ヴァイスを睨んで反論した。
「ユ、ユウナさん!?」
「さすがに不敬では?」
ユウナのヴァイスに対する態度にセレーネは驚き、アルティナは静かな表情でユウナに指摘し
「ハッハッハッ、この程度最初の頃のエルミナと比べれば可愛いものだ。さてと――――挨拶が遅れたが3人とも久しぶりだ。それ以外は初めてになるかな?クロスベル帝国双皇帝の一人、ヴァイスハイト・ツェリンダーだ。見知りおき願おうか、トールズ第Ⅱ、新Ⅶ組の諸君。」
「ヴァイス様の正妃の一人―――リセル・ザイルードです。以後お見知りおきください、第Ⅱ分校の皆様方。」
一方ヴァイスは軽く笑った後黒髪の女性―――ヴァイスの正室の一人であるリセル・ザイルードと共に自己紹介をした。その後リィンはメサイアを召喚してクルト達と共にヴァイス達に近づいた。
「フッ、久しぶりの邂逅になるが、ずいぶんと見違えたな。背も伸びたようだが、大人の貫禄も付き始めているな。セレーネは1年半前より女性らしさが更に増したな。フッ、リィンの婚約者じゃなかったら俺なら間違いなく狙っていたぞ。」
「ハハ、相変わらずですね。」
「ふふっ、皇帝に即位してから色々とご活躍されているようですが、陛下は変わっておりませんわね。」
「フウ……私としてはその活躍の中にある”娼館通い”はいい加減少しは控えて欲しいのですが……」
「やっぱり、クロスベルでも”娼館通い”をされているのですか、お父様は……」
ヴァイスの評価にリィンが苦笑し、セレーネが微笑んでいる中疲れた表情で溜息を吐いたリセルとメサイアの言葉にリィン達は冷や汗をかいた。
「フッ、それはできないな。何といっても”娼館”は”男のロマン”だしな!リィン、お前だってミルスにいた頃は上司や先輩に誘われて”娼館”を楽しんだんじゃないのか?」
「いやいやいや、確かに誘われはしましたけど、”娼館”には一度も行ったことはありませんから!」
「アハハ………フォルデさんやステラさんのお話ですと、お兄様はエリゼお姉様を理由にいつも断っていたそうですわよ?」
静かな笑みを浮かべて断言した後からかいの表情を浮かべたヴァイスに問いかけられたリィンは必死に否定し、セレーネは苦笑しながら答えた。
「やれやれ、そういう真面目な所も昔からだったのか………―――アルティナも久しぶりだが、1年半前と比べると随分と雰囲気が変わったな。」
「ヴァイスハイト皇帝陛下はお変わりなく。わたし自身は身体的成長以外は自覚していませんが、もし本当に変わっているのでしたらリィン教官達――――シュバルツァー家のお陰でしょうね。」
「ア、アル………」
「さすがに失礼だろう……」
ヴァイスに話を振られていつもの調子で答えたアルティナの様子にユウナは苦笑し、クルトは呆れた表情で指摘し
「フッ、事務的な所は変わっていないが良い仲間に恵まれたようだな。――――メサイア、リィンはあれからまたハーレムメンバーを増やしたのか?」
ヴァイスは苦笑した後メサイアに問いかけ、ヴァイスのメサイアへの質問を聞いたリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「何なんですか、その意味不明な問いかけは………第一俺には既に伴侶がいる上8人もの婚約者がいるのだから、これ以上増やすつもりはありませんよ……」
我に返ったリィンは疲れた表情で指摘し
「ア、アハハ……奇跡的にもあれからまだ一人も増えていませんわ。まあ、新しい女性と出会う機会も無かった事もありますが………ただ、第Ⅱ分校にいる今の状況だと増えるかもしれませんが………」
「メ、メサイアまで………というかそもそも第Ⅱ分校に所属している同僚の女性はセレーネを除けば知り合いばかりで、後は生徒達だけだから、メサイアが危惧しているような事は起こらないだろう……」
苦笑しながら答えた後気まずそうな表情をしたメサイアの推測にリィンは再び疲れた表情で指摘した。
「……どうでしょうね。1年半前の内戦で僅か2週間足らずで二人も増やした教官でしたら、トワ教官や生徒達にまで1年半前の内戦時のように”無自覚”で手をだす可能性はありえるのでは?」
「う”っ。」
「ご、ごめんなさい、お兄様……全く反論が見当たりませんわ……」
ジト目になったアルティナの説明に反論できないリィンは唸り声を上げ、セレーネは疲れた表情で答え
「そう言えばリウイ達から話には聞いていたがそちらの異世界から来た魔女のお嬢さんは未来を見る事ができるらしいが……やはりリィンは将来、更にハーレムメンバーを増やして結婚するのか?」
「”やはり”ってなんですか、”やはり”って!?ゲルド、そんな未来は見えないよな?」
「……………………えっと、私の予知能力で見える未来はあくまで”確定じゃなくて可能性”だから、私が見えた未来が確定している訳ではないから、断言できないわ。」
ヴァイスのゲルドへの問いかけに顔に青筋を立てて反論したリィンはゲルドに確認したが、ゲルドは少しの間黙り込んだ後リィンから目を逸らして困った表情で答えた。
「え”。」
「………どうやらゲルドさんの予知能力で今以上に女性を増やして結婚したリィン教官の未来が見えたようですね。」
「ああ……今の口ぶりだとそのように聞こえるな………」
「……つまり、今後もリィン教官の毒牙にかかってリィン教官のハーレムに加わる女性が現れる可能性があるって事ね。」
「ア、アハハ………」
(というかエリゼお姉様達の話ですと、その女性達の中にはゲルドさんまでいらっしゃるとの事ですが………ゲルドさんはそのような未来を見て、今お兄様の事をどう思っていらっしゃるのでしょう?)
ゲルドの反応にリィンは表情を引き攣らせ、ゲルドを除いた生徒達がジト目や呆れた表情でリィンを見つめている中メサイアとセレーネは苦笑し
「ハッハッハッ!さすがは俺の娘を落とした男だ!俺も負けずに更に増やさなければな!」
「お願いしますからこれ以上増やす事は止めてください…………と言っても、既に2名増えそうな気配ですけどね………」
「す、”既に2名増えそうな気配”って……」
「ま、まさか………心当たりがあるのですか?」
声を上げて笑ったヴァイスの言葉に呆れた表情で指摘したリセルのある言葉が気になったリィンは表情を引き攣らせ、セレーネは表情を引き攣らせながら訊ねた。
「ええ………元々はマルギレッタ様による交渉でヴァイス様と出会うきっかけとなった方達ですが………最近どうも”親しすぎる”ような気がするのです。しかもお二人とも未婚で、今まで男性との出会いが無かったとの事ですし……」
「ま、まさかお母様まで関わっていたなんて……それにしても”交渉”という事はそちらのお二人は何らかの立場についている方達なのですか?」
疲れた表情で答えたリセルの説明を聞いたメサイアは表情を引き攣らせた後ヴァイスとリセルに訊ねた。
「ああ。リベール王国のボース市長と彼女のお付きの侍女で、二人はマルギレッタとリ・アネスのような姉妹のように仲がいい可憐なる主従だ。」
「ブッ!?」
「リベール王国のボース市長は確か若輩でありながらもリベール王国の金融・経済の中心都市であるボース市を治めている事で”女傑”として有名なメイベル市長だったはずですが……」
「市長って事はマクダエル市長やディーター市長みたいな立場の人だから………ちょっ、そんなとんでもない立場の人を手籠めにしようとするなんて、幾ら何でも不味くありませんか!?」
「お、お父様……下手したら外交問題に発展するかもしれませんわよ……?」
ヴァイスの口から出たとんでもない答えにリィンは噴きだし、表情を引き攣らせながら呟いたクルトの言葉を聞いたユウナは信じられない表情でヴァイスを見つめ、メサイアは疲れた表情で指摘した。
「そうか?新興でありながらもエレボニアと”同格”であるクロスベルとより親密になれる機会だから、小国であるリベールからすれば問題にする所か、積極的に彼女達と俺との婚姻を進めてくるんじゃないのか?リベールの跡継ぎであるクローディア姫は女性だから、政略結婚をしようにも婿に取る相手は慎重にならざるを得ないだろうしな。それを考えるとリベールが政略結婚という方法で他国との関係を深める為にはクローディア姫に次ぐ立場―――デュナン公爵か、各都市の未婚の市長達と他国の立場がある者達と政略結婚させることだが……クローディア姫の性格を考えると、クローディア姫は幾ら国の為とはいえ相思相愛でもない政略結婚には賛成しないだろうしな。」
「そう言う口ぶりをするという事は既に私達の予想通りの展開になっているようですね………ハア………」
ヴァイスの推測を聞いたリセルは疲れた表情で片手で頭を抱えて溜息を吐き、その様子を見守っていたリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「さてと。話を戻すがそちらは初対面になるな。」
そして話を戻したヴァイスはクルトに視線を向けた。
「―――初めまして、両陛下。ヴァンダール家が次子、クルト・ヴァンダールと申します。お二人の事は兄より伺っております。」
「兄……ミュラー中佐ですね。彼には”影の国”の時にお世話になりました。」
「フッ、その弟とこんな形で邂逅する事になるとは予想外だったが……これもまた巡り合わせなのだろうな。」
クルトの自己紹介に対してリセルは微笑みながら答え、ヴァイスは静かな笑みを浮かべてクルトを見つめ
「………恐縮です。」
クルトは謙遜した様子で答えた。
「そして、改めてになるがそちらのお嬢さんがリセルの話にあった………」
「―――ユウナ・クロフォードです。クロスベル軍警察学校出身で改めてトールズ第Ⅱに入学しました。」
ヴァイスに視線を向けられたユウナは真剣な表情で自己紹介をし
「リセルから第Ⅱ分校入りの経緯は聞いたが………――――悪かったな。知らなかったとはいえ、俺の部下が俺達”六銃士”に対する忠誠心が厚いあまり、俺にとっても後輩にあたるお前に理不尽な理由で迷惑をかけた上、わざわざ外国であるエレボニアの士官学院に入学し直す羽目に合わせてしまって。」
「っ………」
「ユウナさん……」
ヴァイスの話に唇を噛みしめたユウナの様子をリセルは複雑そうな表情で見つめた。
「色々あるだろうが、これもまた巡り合わせだ。――――第Ⅱで成長したお前がクロスベルに戻ってきてロイド達と一緒に活躍する時が来ることを期待して待っている。」
「はい………陛下の期待に応えられるよう……そしてあたしの望んだ未来を叶える為にもこれからも精進させてもらうつもりです。」
ヴァイスの言葉にユウナは複雑そうな表情で答えた。
「最後に――――改めてになるが魔女のお嬢さんがリウイ達の話にあったゼムリアとも、ディル=リフィーナとも異なる世界から来た者か。」
「……初めまして。ゲルド・フレデリック・リヒター・パリエです。”異界”から来た魔女で………”キーア”という人のお陰で、この世界で新たな人生を歩めるようになったわ。確かその娘はこの都市にいると聞いているけど……」
「え…………」
ヴァイスに視線を向けられたゲルドは軽く頭を下げて自己紹介をした後ヴァイスにある事を訊ね、ゲルドの口から出た意外な人物の名前を聞いたユウナは呆けた声を出した。
「ああ、キーアは今もこのクロスベルに住んでいる。特務活動でクロスベル内を歩き回ったりする事もあるだろうし、その時に会えるかもしれないな。」
「もし、よろしければ彼女に連絡を取って会える手筈を整えても構いませんよ?」
「ううん。忙しい王様達にそこまでしてもらう必要はありませんから、大丈夫です。それに時間があればお義母さんとシズクに会いに行こうと思っているから、お義母さん達がキーアという人と知り合いかどうかを聞いて、もし知り合いだったらお義母さん達を介してキーアという人に会うつもりです。」
「フッ、それなら俺達の手は必要なさそうだな。」
「ええ……お二人ともキーアちゃんとお知り合いですし、シズクちゃんに関してはキーアちゃんと親友の関係ですよ。」
「そうだったんだ………」
ヴァイスとリセルの話を聞いたゲルドは静かな笑みを浮かべた。
「――――それでは早速ですがご報告させていただきます。」
リィンは第Ⅱ分校が特別演習を開始した事をヴァイスに報告した。
「了解した。演習の成功は女神達に祈ろう。――――既に聞いているだろうが本日、”三帝国交流会”に参加する為にエレボニアとメンフィル、両帝国からそれぞれの国のVIP達が訪れる。最高レベルの警備体制を敷いているがそれでも気がかりがあってな。結社の残党の動向と――――”幻獣”の出現だ。――――リセル、要請書をリィンに。」
「かしこまりました、ヴァイス様。――――どうぞ、こちらが要請書です。」
ヴァイスに指示をされたリセルはリィンに特務活動の要請書を手渡した。
『重要調査項目』
帝都クロスベルにおいて確認された”幻獣”の出現可能性に関する調査。
「こ、これって……!」
「”幻獣”………?」
「”幻獣”というからには獣か魔獣の一種よね?どんな存在なのかしら………?
要請書の内容の一部を読んだユウナは驚き、クルトとゲルドは不思議そうな表情をし
「……”幻獣”というのは、通常より遥かに巨大で不可思議な力を持った魔獣のことだ。1年半前の独立宣言前後やエレボニアでの内戦中に各地で何体か出現していたが……」
「―――再び、クロスベルの地に”幻獣”が出現したということですか?」
事情がわからない生徒達にリィンが説明した後セレーネはヴァイス達に確認した。
「ええ、つい先日も北部の山道に現れたばかりです。」
「”幻獣”はリィンも言ったように、1年半前の独立宣言前後に現れて”碧の大樹”の件が終結した後は現れなくなったのだが……」
「それが何故今になって再びクロスベルに……?1年半前同様、結社の関与の可能性はあるのでしょうか?」
リセルとヴァイスの説明の後にアルティナは真剣な表情で二人に訊ねた。
「サザ―ラントの件を考えると一応、疑っておくべきだろうな。できれば第Ⅱ分校にはそちらの警戒を頼みたくてな。」
「……了解しました。この後、演習地にも伝えます。それと合わせて、幻獣が現れた山道の調査をする形でしょうか?」
「いえ、そちらの幻獣は遊撃士の方達によって撃破されました。その為皆さんには過去に出現した別の場所の調査を頼みたいのです。」
「……了解しましたわ。」
「1年半前の騒ぎに続いて”幻獣”に関しても遊撃士協会にも世話になっているが………ただでさえ、”三帝国交流会”の警備体制の件でも負担をかけているからこれ以上遊撃士協会に負担をかけさせるような事はできれば避けたい。その意味でも、お前達の活動には大いに期待させてもらっている。それではよろしく頼む――――灰色の騎士に聖竜の姫君、そして新Ⅶ組の面々。」
「了解しました!」
ヴァイスの応援の言葉にリィン達は力強く答え
「―――それとリィン。悪いが今回の特別演習が終わるまではメサイアを俺達に預けてもらってもいいか?」
「え………」
「メサイアを?何故でしょうか?」
ヴァイスの要求にメサイアが呆けている中リィンはヴァイスに理由を訊ねた。
「”三帝国交流会”に参加する為にはるばる祖国を離れてクロスベルを訪れるVIP達の対応にメサイアにも担当させたいからだ。」
「メサイア様は養子の身とはいえ、現状クロスベル帝国で唯一の皇女です。その為、できればエレボニアとメンフィルのVIP達にもメサイア様を公式の場で顔合わせをして欲しいのです。」
「なるほど……そういう事ですか。メサイアが構わないのでしたら、俺は構いませんが……メサイアはどうだ?」
ヴァイスとリセルの説明に納得したリィンはメサイアに確認し
「はい、まだ未婚の皇女の身でありながらリィン様と常に一緒にいるという我儘を許されているのですから、喜んで協力致しますわ。」
メサイアは静かな表情で頷いて了承の答えを口にした。
「そうか。特別演習の最終日の出発時にはメサイアを返す事を確約するから、それまでは他の異種族達と共に頑張ってくれ。……まあ、他のメンバーを考えるとメサイアが抜けた所で戦力に支障は出ないと思うが。」
「ハハ……了解しました。」
その後、メサイアをヴァイス達の元に残したリィン達はメンフィルとエレボニアのVIP達を迎える準備に多忙そうなヴァイス達の元を辞するのだった――――
ページ上へ戻る