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真田十勇士

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巻ノ百十一 二条城の会食その八

「東国は土が悪く」
「はい、それで水もえらく塩辛く」
「それで、ですな」
「米の味もよくなく」
「米から造る酒もですな」
「よくありませぬ」
 その味がというのだ。
「どうにも」
「だからですか」
「こう言った次第です」
 酒は上方がよい、と言ったというのだ。
「都の酒は美味いですな」
「それがしも思いまする」
 秀頼は微笑み家康に返した。
「都、播磨、そして大坂はです」
「酒が美味いですな」
「無論米も」
「そうですな、久方ぶりに飲みましたが」
「よいですか」
「また飲みたいものですな」
 ここで秀頼を見て言ったのだった。
「貴殿と」
「そう言って頂けますか」
「祖父と孫では駄目でしょうか」
 その血縁のことも話に出した。
「それで二人で」
「都の酒をですか」
「再び」
「よいですな」 
 秀頼はにこやかな笑みになって家康に応えた。
「それは実に」
「では」
「はい、その時は」
「二人で飲みましょう、これはです」
 家康にさらに言った。
「それがしが祖父殿に対するです」
「約ですな」
「そうなります」
「ではその時を楽しみにして」
「今はですな」
「今を楽しみましょうぞ」 
 二人で話してだ、そうして会食を行った。家康はその後で幕臣達に対して実に上機嫌で言った。
「よかったわ」
「右大臣様とのご会食は」
「左様でしたか」
「うむ、よき御仁になられておる」
 こう言うのだった。
「我が孫の婿に相応しい」
「では、ですな」
「一国を預けられる」
「その様にされますか」
「それをよしとも言われた」
 秀頼はというのだ。
「ならばな」
「それで、ですな」
「よしとされますな」
「そしてそのうえで」
「別格の家としてですな」
「扱われますか」
「大坂からも出られるという」
 秀頼がこのことを約したことも話した。
「それならもうわしも多くは言わぬ」
「それでよし、ですな」
「ではやがては」
「大坂から出て頂き」
「他の国で暮らして頂きますか」
「そうしよう、これで太閤殿との約も果たせる」
 家康はこのことを忘れていなかったのだ、臨終の床の秀吉に秀頼を頼むと言われたことをだ。
「約、信を違えるのは好きでないしな」
「しかも幕府が信義を破れば」
「一体誰が信義を守るのか」
「それは天下の要ですな」
「信なくば立たずですし」
「林大学も言っておる」
 朱子学の学者だ、今は家康に仕えている。 
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