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魔法少女リリカルなのは ~最強のお人好しと黒き羽~

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第三十七話 決戦

 アイツが俺の前に現れるのは分かっていた。

 ジュエルシードが目的だってこともあるだろうけど、何よりアイツは俺に対して謎の執着心を抱いていた。

 だから俺は現在までに集まった全てのジュエルシードの波動をアマネから放出し、アイツにこの場にいることを伝えると、割と早いうちに俺の前に現れた。

 この場所には俺とアイツだけしかいない。

 だけど、アースラの管制室のモニターにはこの場所の光景が映し出されている。

 そしていつ外部からの攻撃……フェイトの母親、プレシアからの介入が来ても、対応できる準備は整っている。

 こうしてアイツとの1対1を頼んだら却下されたけど、ここはどうしても退けないことだったから色々と知恵を振り絞った。

 結局、俺が囮になってプレシアの魔法攻撃の対象になることで、そこで魔法が発生した場所を逆探知してケイジさんたちに突入してもらうと言うことで納得してもらった。

 恐らくイル・スフォルトゥーナですらも、プレシアからしたらトカゲの尻尾のような存在で、アイツを捕まえるだけではプレシアにたどり着けないだろう。

 フェイトに居場所を聞いても、彼女はその場所がどこなのかは知らなかったらしい。

 ようはプレシアに指定された場所へ案内され、そこから転移魔法で拠点に送られていたとのことだ。

 フェイトすらも、プレシアからしたらトカゲの尻尾なのだろうか。

 プレシアに対しての疑問は増すばかりだ。

 だから今日でたどり着いてみせる。

 そのために、アイツを倒す。

「ジュエルシードは全部持ってんな?」

 真っ黒な剣の切っ先をこちらに向けて問われると、俺は無言で頷く。

「なら、互いに戦う目的は成立したわけだぁ」

 低く、静かな声に混じった殺気が周囲の空気を震わせる。

 夜よりも暗く、深い黒の渦が瞳になって俺を睨みつけるような、強大な殺意。

「……」

 だけど、俺の心に恐れはない。

 俺もまた威圧するように、アイツを睨みつける。

 そこに殺意はない。

 ただ、倒す。

 それだけを込めて睨むと、アイツの瞳は嬉しそうに見開く。

 そして頬はゆっくりと、しかし確実に大きく歪み、狂気に染まった笑みに変わる。

「イイねぇ。 俺の人生で一番楽しい時間になりそうだぁ!」

 両腕を左右に広げ、天を仰ぎながら興奮で声を上げるアイツに対し、俺は淡々と銃の形態になったアマネの銃口をアイツに向ける。

 狙いはアイツの頭部。

 引き金に右手人差し指を引っ掛けて、いつでも放てるように備える。

「なら、とっとと始めようか」

「ああ、()ろうか」

 会話はここで終わる。

 俺たちは互いに武器を構え、始まりを待つ。

 戦闘開始の合図はケースバイケースだ。
 
 試合形式であれば、開始の合図をデバイスやアナウンスが入るけど、これはそういうものじゃない。

 全身の血流が早まる。

 戦いを求める強い衝動を必死に抑えて、眼前の敵を睨む。

 右手だけで剣の柄を握り締め、左手を脱力したように垂れる。

 左側が隙になりそうだと思いつつも、そこは罠だと見るべきだろう。

 俺だって銃を右手だけで握って、左手は腰に添えて、そこを狙ってくるように仕向けている。

 開始前から、すでに戦いは始まっていたんだ。

 あと一つ。

 明確なスタートの合図があれば、戦いは始まる。

 ――――引き金のタイミングを間違えるな。

 距離はそのまま優劣の差だ。

 しかし、一発の弾丸を外すことは相手に一発分の余裕を与えることになり、俺は一発分の隙を生む。

 それが生死の分け目。
 
 相手にも言えることだ。

 飛び出すタイミングを間違えれば、俺は銃口の向きを変えて対応できる。

 全てはタイミングだ。

 互いに別の構えで、初撃の機会を探り合う。

 俺とアイツは無数の弾道、斬線を描き、それに応じる無数の弾道と斬線がまた走る。

 僅かな動作の気配はただそれだけで相手に意図を察知され、その動きは封じられる。

 その繰り返しを続けているうちに――――

「ショットっ!」

「ちぇあっ!!」

 二人は同時に動いた。

 弾丸と横薙ぎの一閃が直撃し、爆発する。

 爆風が視界の先を埋め尽くす中、俺はすでに銃口の先に魔力を収束させていた。

 更に自分の周囲に黒の魔力弾を大量に生み出し、防御と攻撃、両方の準備を終えた。

「おらぁっ!!」

 爆風から飛び出したアイツは、刀身に漆黒の炎を纏わせて勢いよく振り上げ、俺の前に迫ったところで力任せに振り下ろした。

 弾幕との衝突による新たな爆発。

 しかし構わず振り下ろし続け、第二第三の弾丸を切り裂きながら俺の眼前に刃が迫る。

 俺はそれに向かって銃口を向け、その先に溜めた魔力を放出させた。

「ディバイン・バスターっ!」

 黒の砲撃はアイツの剣と衝突し、激しい火花と衝撃波を広げる。

 衝突は僅か数秒で霧散し、俺は再度周囲に展開させた魔力弾を操作し、アイツに向けて放つ。

「ブラックダスト・メテオールっ!」

 放たれた黒き流星。

 それに対してアイツは回避や切り払うことを選ばず、その場で停止した。

 まさか直撃するつもりか?

 そう思った俺の予想通り、すべての弾丸はアイツの全身に直撃――――しなかった。

「っ!?」

 アイツの全身から湧き出た漆黒の炎。

 それは意志を持ったようにアイツの首から下を包み込み、俺の放った全ての弾丸を防いだ。

 アイツを守る、鎧のように。

「黒炎の鎧。 迫る全てを燃やし破壊し、触れた全てを燃やし尽くす」

「絶対防御の鎧ってわけか?」

 俺の問いに笑みとともに頷くと、アイツの剣は再び黒炎を纏って炎の剣へと変化させる。

 初見から気づいていたことだが、どうやらアイツは魔力変換資質『炎熱』の高い適合率を持っているらしい。

 魔力は出せば全て炎になり、高い火力は文字通り全てを焼き尽くす。

 そこまでの炎熱を出せる魔導師は数少ない。

 アイツのそれは、間違いなく天賦の才の領域だ。

 もっとも、それを正しいことに使えていればの話だが。

「まだまだ行くぜっ!」

 声を上げるアイツの周囲に無数の炎の球体が生まれ、俺めがけて放たれた。

 対して俺は再び無数の魔力弾を生み出し、無数の火球に向けて放った。

 衝突する二種にして無数の弾丸。

 激しい爆発と轟音が広がり、無数の爆撃が起こっていると錯覚してしまいそうだ。

 だけど現実は俺とアイツ、二人の魔法の衝突。

 撃ち尽くした俺たちを白煙が包み込み、互いの居場所が肉眼で捉えられなくなる。

 不意打ちを避けるために俺は瞬時に後ろへ飛び、爆風の中から脱出する。

「そこだっ!」

 そんな俺を待ち伏せていたようで、真上から黒炎の刃を握ったアイツが現れる。

 大気を強引に切り裂きながら、その刃はいかなる手段を切り裂かんと迫る。
 
 まさか俺が出てくる場所を予測して行動していたとは思わず、俺は回避行動ができない。

 だが、これで負けるつもりはない。

「天流・第参翔」

 銃から刀に切り替え、身体をコマのように回転させながら横薙ぎに振るう。

「ぐあぁっ!?」

 衝突の瞬間、耳を押さえたくなるほどの爆発音が衝突音として響き渡り、アイツの身体が大きく弾き飛ばされる。

魔払(まふつの)(かがみ)ッ!」」

 ふんばろうと両足に魔力を込めて空中を足場にしているようだが、それに反して体は雲の上まで飛んでいった。

 当然だ。
 
 アイツが飛んでいったのは他でもない、アイツ自身の力のせいだから。

「っく……それだよ」

 何とか踏ん張りきったアイツの眼光はより鋭くなり、忌々しい表情でこちらを睨みつける。

「俺をぶっ飛ばしたその技。 ようやく理解したぜ」

 流石に二度も使ってしまっては、この技のカラクリに気づかれてしまうのは当然だ。

 俺はため息を漏らしながらアイツの答えを聞く。

「テメェがどれだけ強かろうと、俺をぶっ飛ばす力を一瞬で出すなんて不可能だ。 ……いや、テメェじゃなくても、誰にも出来やしねぇ。 なら、答えはテメェ一人の力だけじゃねぇってことだ」

 そう。

 天流・第参翔『魔払ノ鏡』は俺が覚えている天流の技で唯一のカウンター技だ。

 刀で受けた敵の攻撃。

 それをそのまま乗せて身体を円に回転させることで力を循環させ、俺の打ち込みに乗せて放つ剣技。

 相手の攻撃の威力、放つタイミングなどをわずかでも間違えれば体勢は崩れて大きな隙になる繊細な技。

 相手の動きや癖を鋭く見切り、模倣できる眼がある俺だからこそできる剣技だ。

「お前とはもう何度も刃を打ち合ってるから、癖や力加減は大体掴んだ」

 それに、必要な休息をとったことで今の俺のコンディションは過去最高だ。

 視界に映る景色に霞は一切なく、耳に入る音に雑音はない。

 肌に触れる風や熱、衝撃を数値化できるレベルで感じ取り、物質名が分かるレベルで匂いを捉えることができる。

「行くぞ!」

「来いやぁっ!!」

 俺とアイツは同時に飛んだ。

 一瞬で互いの距離の中間に到着し、互いの刃が衝突し、互いの衝撃によって弾かれる。

 そこからはその場から一切動かず、加速と限界、そして我慢比べの世界に入る。

 今の一閃よりも速い一撃を振るう。

 今よりも速く、もっと速く、もっと……もっとッ!

 今までにない加速感を感じながら俺とアイツは無数の剣線を描いた。

 その度に弾ける火花と、外へ飛んだ斬撃は雲を切り裂き、海を切り裂き、建物を切り裂いた。

 一秒が途方もなく長い時間に感じる頃には、俺たちは呼吸を止めて目の前の敵だけに集中していた。

 苦しい時間が終わるには、相手を斬るかこちらが斬られるかの結果が起きなければいけない。

 諦めればすぐに解放されるが、そんなのを自分で自分に許すことなんてできない。

 俺たちは負けられないから。

「せいっ!」

「おらぁっ!」

 気合一閃。

 俺たちの一撃は激しい衝撃波を生み出しながら轟音を響き渡らせる。

 刀身を振るう音。
 
 鉄と鉄が擦れ合う音。
  
 大気を揺らすほどの轟音。

 火花が生まれて散る音。

 様々な音を響かせながら、それでも俺たちは止まらない。

 まだまだ加速する。

 酸欠で視界がぼやけ、頭もぼーっとする。

 全身の感覚だって衝撃を受けすぎたせいで痺れて鈍い。

 限界が近づいていた。

 それはきっとアイツも同じだ。

 それでも止まらない、止まれない。

 斬る!

 その結果を掴みとるまで、俺たちは止まれない。

「ぉ……ぉぉおおおおおおおっ!!」

「おらあああああああああっ!!」

 限界に到達しても、俺たちは咆哮をあげながら剣戟の速度を上げていく。

 俺たちが数人増えたと錯覚してしまうほどはっきりとした残像が生まれる速度。

 俺が使う天流のほぼ全てが『速度』が基礎として必要とされ、こうして残像が生まれる代表的な技として第弐翔・蜃気龍が当てはまるだろう。

 だけど今は蜃気龍で使う速度の倍以上は速い実感がある。

 それを肉眼で捉えるのは、模倣から培った見切りの目があるからだ。

 だけどアイツに模倣の目はない。

 それでも俺の速度についてきて、尚も速くなってる。

 出会った最初は狂っただけの男だと思っていたが、認識を改めなければいけない。

 コイツは間違いなく天才だ。

 俺みたいな色んなものを利用して戦うような姑息な魔導師とは違う。

 どんな戦略も技も、その才能が生み出す剛の魔法と剣で切り裂いてしまうのだろう。

 そしてアイツはこの状況で更に成長し、ついに俺との剣戟の中で技を発動するまでに至った。

「行くぜっ!」

 無数の剣戟を繰り広げながらも生まれた刹那で、アイツは上段の構えをとり、刀身に魔力を込めた。

 アイツの刀身に込められた魔力はこれまでにないほど高い質量を誇り、そこから生み出された漆黒の炎は今までの比じゃない。

 炎すら飲み込む炎。

 その炎には不思議と引き寄せられるような感覚が襲ってくる。

 そして、きっとそれは錯覚ではなく事実。

 質量の軽い塵や灰、先ほどまでの剣戟で擦れ飛び散った刀身の破片などが現実に炎の剣に引き寄せられていたからだ。

 それは手品ではなく、引力だ。

 強力にして強大すぎる熱エネルギーによって周囲の磁場が乱れ、それによって引力が発生したんだ。

 そしてアイツの刃に引き寄せられた塵や灰は静電気に触れた時のようなバチっと言う音を立てながら消失する。

 それは高い熱によって燃え、液体から気体になるまでの流れが一瞬よりも早く行われたからだろう。

 触れただけで消滅する炎。

 きっとこの世界でそんな炎を生み出せるのは彼だけで、だからこそその魔法に名前を付けるのであれば――――、

「インフェルノ・レーヴァテインっ!」

 破滅の炎を持ったとされる神話の剣の名は、まさに相応しいと言えるだろう。
 
(凄いな)

 俺は眼前に迫る破滅を前に、素直に賞賛の言葉が浮かんだ。

 狂った思想を持ちつつも、その技術や技、魔法は目を張るものがある。

 地道に努力をして、技術を磨かなければ強くなれない俺とは大違いだ。

 アイツはきっとその技を感覚で身につけたのだろう。

 出そうと思って出せたと言う程度の、天才ならではの到達。

 思えば俺の周りはそんな人たちばかりだ。

 なのはも、フェイトも、雪鳴も、柚那も、そして姉さんも。

 みんなが才能に溢れていた。

 俺はその中で凡人で、凡人だからこそたくさん努力して『天流』と言う技を生み出した。

 劣等感は拭えない。

 だけど、だからこそ挑みたい。
 
 最強になる可能性を秘めた天才に。

 凡人だからこそ超えたい頂きを目指して。

 だからこれは、俺自身の挑戦だ。

「天流・第肆翔(だいよんしょう)――――」

 刹那で生まれた隙間に上半身をひねり、腰を落として抜刀術の構えをとる。

 鞘に完全に収まった音から、一瞬にして体を回転させるほどの勢いで抜刀する。

鳳凰返(ほうおうがえ)しっ!」

 最初の振り下ろしから瞬時に切り返して更に二撃目を放つ技を『燕返し』と言う。

 それを魔力による身体強化と、天流で培った速度を持って燕返しを更に倍に増やした、神速の四つ同時の剣閃を放つ。

 神話レベルの奥義に、達人レベルの奥義で挑む。

 例えどれだけ敵が強くても、

 例え神話を模した魔法を用いても、

 俺たちが人間であるならば、勝負はどっちに転ぶか分からない。

「ぐぉおおおおおおっ!!」

「おらぁああああああっ!!」

 二人の絶叫と共にぶつかり合い、俺たちを中心に巨大な爆発と衝撃波が発生し、包み込まれる。

「まだ……だぁっ!」

「だろう、なぁっ!」

 爆発の衝撃に耐え、爆風の中で俺たちは更に激しい剣戟を繰り広げた。

 今の一撃をもってしても、俺たちは倒れない。

 爆風の中でレーヴァテインを維持した状態で振り続けるアイツの刃を、俺は鳳凰返しを連続で放ち続けることで迎え撃つ。

 負けられない。

 相手が強くなるなら、俺だって追いかければいい。

 攻撃と防御の交錯はなく、そこにあるのは攻撃と攻撃のぶつかり合い。

 ようは殴り合いだ。

(アマネ、無茶させてごめん。 だけど、最後までもってくれよっ!)

 いつだってそうだ。

 こうして戦うことができるのは、いつだって愛機が頑張ってくれるからだ。

 俺の無茶はアマネ無しでは叶わなかった。

 こうして誰かのために戦い続けることなんてできなかったんだ。

 そのことに念話で謝罪をする。

《謝罪はいりません。 私は誓います。 マスターが勝利を手にするまで、この身は尽きることなく貴方の道を切り開く刃となることを》

 アマネは弱音を漏らさず、むしろを俺の背中を押してくれる。

 だから俺は力強く頷く。

(ありがとう、アマネ!)

 俺と一緒に戦ってくれる頼もしい相棒がいる。
 
 だから俺は躊躇わず、渾身の一撃を放つ。

「天流・第参翔、魔払ノ鏡っ!」

 一撃を受け止めて回転し、循環させた力と回転の力を合わせて放つ。

「何度も同じ手は喰らわねぇぜぇ!」

 対してアイツは振り下ろしと振り上げの二回の動作を一瞬で、ほぼ同時と言える速度で行った。

(これは……燕返し!?)

 倍の攻撃で返ってくるならば、こちらも二回分の攻撃をぶつける。

 それがアイツの反撃法のようで、アイツの狙い通りに俺の放った技は衝突してもアイツを弾き飛ばすことはできなかった。

「どうしたぁ!? 終わりかぁ!?」

「んなわけでないだろっ!!」

 挑発的な口調のアイツに、俺は怒声で返しながら再度刀を振るう。

 冷静さは失ってない。

 やることは変わらないんだ。

 斬る。

 ただそれだけを目的に刃を振るっていく。

 俺は速度でアイツを斬るために。

 アイツは力で俺を斬るために。

 持ちうる全てを尽くして刃をぶつけ合う。

 誰が見ても分かる。

 これは勝ち負けの戦いじゃない。

 生きるか死ぬかの殺し合いであると。

 逃げることは許されない。

 退けば恥じ多き死を迎え、臆せば弱者としての死を迎える。

 勝つためには前にでろ。

 退かず、臆さず、勇気と覚悟を持って前にでろ。

 そうして俺たちは死と隣り合わせの剣戟を繰り広げていく。

 この光景を見ているなのはたちは、一体何を思っているだろう?

 ハラハラしているのかな。

 また、俺が無茶して戦っているから。

 無茶しないでって言ってるのに、人の話を聞いてなかったみたいに無茶をして。

 傷だらけで、ボロボロで。

 そんな姿を見せてばかりな俺を、きっと心配したり呆れてたりするのだろう。

 だけど、みんなには申し訳ないけど、この戦いは最後まで見届けて欲しい。

 俺の持てる全ての魔法と剣技を尽くして戦う、その姿を。

 なのはたちに、この全てを盗んでもらいたい。

 これからもっと高みを目指せるあいつらに、凡人の全てを奪って、より先に進んで欲しい。

 そのために俺は、全てを尽くす。

 

*****



「すごい……」

「ええ。 とても、凄まじい」

 そう感嘆の声をつぶやくのは、二人の戦いを中継カメラから映し出されたモニターで見つめるなのはと雪鳴だった。

 他にも柚那、フェイト、ユーノ、アルフ、リンディやケイジの姿まであった。

 クロノは部隊の編成でこの場を外しているが、デバイスから映し出されるモニターでこの戦いを見届けているだろう。

「あの野郎ども、ここにきて更に成長してやがるな」

 ケイジはタバコを吸うことすら忘れ、両腕を組んで真剣な眼差しで二人の戦いを見つめ、賞賛した。

 犯罪者との戦いを褒めるなんて管理局の人間失格だろう。

 しかし、見惚れてしまうほどに二人の戦いは激しく、凄まじかったのだ。

 限界を超えた者同士のぶつかり合い。

 超えたものを更に超え、それをぶつけて決着がつかなければ更に限界を超える。

 それをこの戦いの中で繰り返したというのだろうか。

 それは既にケイジですら認識できなくなっていた。

 力が、技術が、速度が、限界が。

 二人は何もかもを超えて、それを繰り返していた。

「正直、アタシは悔しいです」

「え?」

 フェイトは、隣で下唇を噛み締める柚那のほうを向く。

「アタシはお兄ちゃんに追いつきたい。 追いついて、いつか競い合いたいって思ってたのに……」

「……そう、なんだ」

 知り合って間もないフェイトは、気の利いた言葉を返せなかった。

 彼女の同調したのは、彼女の姉である雪鳴だった。

「そうね。 私たちはどれだけ強くなっても、黒鐘はきっと気を使うから」

 そう。

 小伊坂 黒鐘とはそういう人間なのだ。

 大切な人が仮に、自分以上に強くなったとしても、きっと彼は傷つけすぎないために気を使ってしまうだろう。

 無意識で遠慮をしてしまうだろう。

 今の相手、イル・スフォルトゥーナに対して無遠慮で殺そうとするほど、本気になってくれない。

 全てを使い尽くし、限界を超えてもなお立ち向かい、更にその先へ至らせる強敵に、――――ライバルと呼べる存在に、彼女たちはなってあげられない。

 それが悔しかったのだ。

「あんな人じゃないと、お兄ちゃんが本気になれないなんて」

 涙をこぼしていた。

 それだけ、本当に悔しいのだろう。

 雪鳴は無言で柚那に寄り添い、左手で柚那の頭を優しく撫でた。

「なら、諦める?」

「ううん」

 雪鳴の問いに即答した柚那は、両手で涙を拭う。

「そんな簡単に諦め切れるほど、アタシの理想は脆くないから」

 涙を拭った妹の表情は、言葉通り諦めが一切見受けられなかった。

 むしろより前に踏み出そうとする決意すら感じるほど力強く、清々しいと思うほど真剣な表情をしていた。
 
「……そう」

 そんな姿に雪鳴は優しく微笑み、そして再びモニターに映る黒鐘を見る。

「なら、最後まで見届けましょう。 私達の理想が描く軌跡を」

「うん」

「そう、だね」

 柚那とフェイトは頷く。

 側にいたなのはもまた、似たことを思っていた。

 憧れがどこまでも先に向かっていく姿を、何もせずにただ見つめているもどかしさ。

 それを悔しく思っていたから。

 だけど、なのはもまた強く思った。

 強くなろうと。

 理想が見せてくれる軌跡を辿って、いつか――――


「「いつか、私達がそれぞれの軌跡を描けるように」」


 雪鳴と言葉を重ね、共に見届けた。






「……だが、そろそろだろうな」

 そんな中でただ一人、この戦いの結末を既に見通した男が一人いた。

 ケイジ・カグラ。

 少女達の憧れが目指す最強の魔導師。

 今に至るまで様々な軌跡を描いた彼だからこそ分かる、この戦いの結末。

 それがわかったからこそ、彼は悲嘆の表情でそれを見つめていた。 
 

 
後書き
どうも、IKAです。

今回はずっと戦闘シーンでした。

恐らく私の小説活動で一番長い戦闘パートかもしれません。

ですがこの戦いは一番の見せ所と私の中では思っているので、力をどんどん入れていきたいと思っています。

原作で言うところのなのはとフェイトの最終戦ですからね。

それをオリジナルで書くんだからできる限り全力全開で取り組んで行きます。

戦いは次回も続きます。

お楽しみに! 
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