和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
第38話 それぞれの想い
H14年4月某日
case 1 「和谷義高」
北斗杯の選抜戦で年下の越智からオレの甘さとプロとして意地、心構えを学んだ。
進藤と越智の対局を見守るため、関西に帰らずオレの部屋に一泊した社も似たような気持ちを抱えていたのだろう。
お互いに悔しい思いと今のままではダメだという気持ちを吐き出して意気投合し一晩で随分と仲良くなった。
オレはオレのやり方で前に進むために部屋でやってる研究会で表を作って定期的にリーグ戦を始まることに決めた。
越智も研究会に誘った。伊角さんが声をかけて門脇さんも来ることになった。
清春のヤツも関東に来る際には顔を出してくれると言っていた。冴木さんに中山さんも参加する。
奈瀬は女の子がひとりだからと香川女流を誘っているらしい。さっき進藤にも連絡を取った。
そこに今年こそプロ試験に合格すると意気込む本田さんと院生1位の小宮の二人も加わる。
たしかに北斗杯前に奈瀬や進藤の壮行会も兼ねて集まろうとは言った。
けど、まさか伝言ゲームのようなことが行われて……あんな大事になるとは思ってもいなかった。
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case 2 「進藤ヒカル」
――佐為、ごめんな
あのとき二カ月の間、碁を打たなかったことを佐為に詫びる。
オレがあのとき和-Ai-から逃げなれば、“オレの碁”の中にいる佐為に気付くことができたはずだった。
そして、その二カ月の間に開いてしまった奈瀬との差をプロ初対局で思い知らされた。
塔矢だってオレが碁石を握っていなかった間に更に前へと進んでいた。
本因坊リーグからは陥落したけど、名人リーグではトッププロを相手に獅子奮迅のしている。
――本因坊秀策なんかたいしたことない
韓国に取材にいった出版部の古瀬村って人から聞いた韓国の高永夏のこと。
韓国代表には院生のときに戦った洪秀英も選ばれたって聞いてたから楽しみもあった。
けど、それだけじゃなくって負けたくない理由ができた。
――秀策から学ぶことなんてない。あんなの過去の人間だ
高永夏ってヤツが……そう言ったらしい。許せない。
しかも北斗杯のパンフでは大会MVPとなって和-Ai-を破って韓国の強さを証明したいとコメントしているらしい。
――道策は少し有名になったみたいだけど、秀策なんて知ってる日本人っているのかい?
まただ。誰もが和-Ai-を意識してるのに、佐為-sai-のことを意識もしない。
それに加えて本因坊秀策を、藤原佐為の碁を過去のものだとバカにしている。悔しい。
和-Ai-は負けなければ今年いっぱいでネット碁から消えると公言してる。
佐為の敵討ちをせず勝手に消えさせるわけにはいかない。
このままじゃダメだ。力が欲しい。佐為、お願いだ。オレに力を!!
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case 3 「奈瀬明日美」
様々な出来事が随分と前のことのように感じてしまう。
昨秋に私は和-Ai-先生の碁は好きだし心の師匠は尊敬してるけど、ホームページで韓国棋院に挑発を繰り返したりする和-Ai-の姿は嫌いだと彼にハッキリと伝えた。
そうしたら「元の世界へ戻れない自分の気持ちは分からない」って言われてしまった。
――大学の四年間が終わるまでの間は好きにさせて欲しい
それが彼との約束。だから今年に入ってからの彼や和-Ai-の動きに口を出すことはしない。
私は来年には高校を卒業して社会人として生きる。
どんなかたちになっても囲碁棋士の道を歩むって決意した。
この一年が終われば彼は元の世界に帰るかもしれないし、帰れないのかもしれない。
どちらにせよ彼は私からは離れていくのだろうと思う。
大学を卒業したら、このアパートからは引っ越すと言っていた。
来年には和-Ai-のノートパソコンも私に譲ってくれると言ってくれたけど断った。
先生から学ぶことはいっぱいあるけど、私が欲しいものはそれじゃない。
だから、この貴重な一年で和-Ai-の碁をできるだけ学んで、後は私の碁で戦っていくと決めた。
天元戦は昨年ベスト4の活躍もあって本戦シード入りを果たしている。タイトルも諦めてない。
もうダダこねて、泣いたりしないよ。
涙は自分勝手な後悔じゃなくて……誰かのために流したいから。
KGSで対局を重ねるネット碁のAiの代理も私が務めている。
中国No2の華松力九段や楊海八段といった雲南チームとの対局からは学ぶべきこも多い。
そして北斗杯のエキシビジョンマッチでも日中韓の国際棋戦に出場するトップ棋士と和-Ai-を通して戦った。
エキシビジョンマッチの後に楊海さんがインターネットを通じて「まるで何十年も未来の碁を見せられたみたいだった」とコメントしたけど……まさしく和-Ai-は何十年も未来の人工知能による碁を体現する存在。
彼がいう未来の世界では将棋やチェスの世界ではコンピューターによる解析が盛んに行われ、プロが披露する新手だってコンピュータ由来が多いそうだ。
そして囲碁の世界でもそれが当たり前になるだろうと言っていた。桐嶋和さんがその先駆け――。
けど桐嶋さんもコンピューターになることを目指している訳じゃないって彼は言っていた。
人間だから感情も入るし、当然ながら時間に追われたりミスもする。
そして勝負の場では往々にしてそういった要素が勝敗を分けることを知っている。
完璧を目指しながらも、不完全さを楽しむ。それが囲碁なんじゃないかと――私は思ってる。
私はテレビ対局で敗けて天元位を逃して気落ちしてことも吹っ切ることができた。
女流棋戦で出会った香川いろはちゃんを通じて同じ学園に通う東堂シオンちゃんに和-Ai-のノートパソコンを見てもらうことができた――
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case 4 「塔矢アキラ」
普段は夜中に起きることなんてあんまりないのに……あの日はふと目が覚めてお水を飲もうと思い寝室を出た。
お父さんの部屋から明かりがもれていたので遅くまで碁の勉強かなと思い中を覗き見た。
第一手を打ったまま、じっと考えているようにもみえたけど……棋譜並べとは違った。
白石の碁笥が対面に置かれていた。棋譜並べなら黒も白も手元にあるはずだ。
あのとき、お父さんは……いったい誰の一手を待っていたのだろう?
お父さんとお母さんはリーグ戦が行われる中国の深センへと出発した。その後は北京にも足を運ぶという。
多くの弟子が寝泊まりしていた時期もあった広い家に一人っきりになるといつも以上に静けさを感じる。
――もし春蘭杯にでれなくとも春蘭杯に出てくる者とはいずれ戦うことになるさ
――必ずどこかで
お父さんと同じように盤上に第一手を打ったまま、相手の手を待ちながら先日の囲碁サロンでのやり取りを思い出す。
「彼女のいう“囲碁もいっきょく(一局)、歌もいっきょく(一曲)”って――」
「どちらも同じ、勝つか負けるかの真剣勝負という意味では?」
昨年に衛星放送と契約し今まで見なかったテレビを見るようになったという岸本さんが彼女について語るので思わず口を挟む。
「それももちろんあるけど、囲碁の一局も、歌の一曲も誰かに見てもらっている意味もあるのかなって?」
「たしかにプロのタイトル戦などは大勢の他人に見られる碁ですね」
「いやいや、そういう意味でもなくて……。そうそう彼女の碁は伝えたい誰かがいるのかな?って――」
「どういう意味ですか?」
「うーん。例えば自分のライバルを待っているとか?」「ライバル……ですか?」
「彼女は以後10年は私に敵うものは現れないって言って囲碁の世界から一度は身を引いたらしいけど――」
その言葉を聞いて僕の中で「打たぬ!」と断られた苦い思い出が蘇る。
「けど、それって逆に言えば……いつかは戦う相手が現れるってことでしょ?」
「その証拠に彼女は一人で碁を続けていたし、和-Ai-が現れて舞台に戻って来た」「……そうですね」
「アキラくんもライバルに、この舞台まで来いって気持ちを込めて打ったこともあるんじゃない?」
心当たりがある。進藤に対して同じような想いを抱いて今までプロの世界で戦ってきた。
「――それと同じだと?」「まあ、だって自分と対等の相手がいないと“孤独”じゃないか」
「じゃあ彼女は誰かに同じ“高み”まで来て欲しいと思いながら碁を打っていると?」
「今もなお切磋琢磨を続けているていうのはそういうことじゃないのかな?」「……そうですか」
「まあ僕の見当違いかもしれないけど歌ってるときと戦ってるときの姿を比べてみてそう感じた」
「歌ってるときは歌を楽しむ心。番組を見る人たちを楽しませたいと思う心を感じた。
けど囲碁の姿勢は違う。もっと特定の誰かに語りかけてるような碁を打ってた」
ずっとボクが気付いてなかっただけ?
プロになれば、いつかは彼女の高みに辿り着くだろうと漠然と思ってた。
だけど、それでは足りない。届かない。
北斗杯で活躍しMVPとなって和-Ai-を破れば彼女いる“高み”に届くのだろうか?
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