和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
第39話 高校生活
H14年4月後半 囲碁クラブ side-Kumiko
「あつぽん、残念だったね」「倉田先生の十段戦は惜しかったね」
私が通う囲碁クラブで講師をしてる倉田先生をあつぽんと呼ぶのは妹弟子の香川いろはちゃん。
倉田先生は緒方十段との挑戦手合い五番勝負で二連勝して、タイトル獲得かと思われたが――。
緒方先生が三連勝と巻き返して十段位を防衛。緒方先生は桑原先生と本因坊のタイトルを争っている。
「まー、あつぽんは今年はきっとタイトル一つくらい取れると思うよ」
いろはちゃんは兄弟子に対して遠慮もないし毒舌なとこもあるけど実力は信頼してる。
いろはちゃんは小学生のころから国内の学生大会に参加して優勝し天才少女と言われてたけど、院生にはならずにアマチュアとして世界囲碁選手権の舞台で戦っていた。
そこで一度も勝つことができなかった東堂シオンちゃんがプロにならず身を引いたことで、本人はプロを目指す意欲が持てずに半ば惰性でお稽古の一つとして囲碁の師匠のところに通っていたらしい。
「あ、そういえば! いろはちゃんのネット碁ID教えてもらっていい?」
「いいけど、今はKGSを使ってるよ」「ワタシもKGSに登録したよー」
「パソコン買ってもらえたの?」「そうそう。高校の合格祝い」
KGSは以前に奈瀬女流におススメされた。ようやく家でインターネットができるようになった。嬉しい!
ネット碁は以前はWWGOが一番盛り上がってたらしいけど、ヤホーゲームの囲碁とか、有料のパンダとか、いくつものサービスが増えて利用者も分散している。KGSは桐嶋堂という日本の会社がスポンサーになってるけど、各国のボランティアが協力して運営する無料の囲碁サーバだ。
話題の和-Ai-が利用しているので世界中の碁打ちが集っている。海外の利用者も多いから敷居が高いって人もいるけど囲碁を打つだけなら気にはならない。
先日もKGSが主催した囲碁イベントが開かれ一柳棋聖と和-Ai-の公開対局が行われた――。
「久美子は高校生活はどう? 部活はどう?」
「イイカンジだよ。聞いてよ! ウチの囲碁部は和室が使えるの!」
桜が丘高校の女子囲碁部は和室が使える。
葉瀬中の囲碁部は理科室に間借りしてたから和室で囲碁を打つのは新鮮な気持ちになる。
別に歴史ある囲碁部とかじゃなくって卒業しちゃった囲碁部を創った先輩がすごい人らしい。
和室には伝説の先輩が残した「囲碁とは、宇宙である」という横書きの書が額縁の収められ飾れている。
部員は海王に比べると少ないけど全国大会に出場した先輩に憧れて入って来た囲碁経験者も多い。
だから中学のときと違って団体戦のメンバーに選ばれるのも競争があるしやりがいを感じている。
他にも院生のちょっとカッコいい感じの三年生の小宮先輩が時々部活に顔を出して指導碁を打ってくれる。いろはちゃんもプロ試験で対局して勝ったことがあるらしい!
そのうちプロにはなれるかもしれないけどタイトルや棋戦優勝とかはない平凡な棋士。
あとメガネもかけてないから優良物件じゃないとかめちゃくちゃ失礼なことを言ってた。
「わたしは廊下で詰め碁をしてはならないという校則があってこないだ怒られた」
「……そんな校則があるんだ。って廊下で詰め碁って何?」
「何って廊下で盤を広げて――」「そこ詰め碁の本を解くとかじゃないんだ!」
「うちの学園は校則が多くて覚えきれないよ」「そうなの?」
「第3243条の“廊下を走ってはならない!”とか常識的なのは大丈夫だけど――」
えっ?第3234条っておかしくない!?校則が3000条以上もあるの??
「第15420条の“ステップアップをスケッチブックと言ってはならない!”とかおかしいと思わない?」
「えっ? 千じゃなくて万!?」
校則の内容より数に驚きだよ。恐るべし私立パプリカ学園。
東堂シオンちゃんの他にアイドルもいっぱい在籍してるっていうけどお嬢様学園って凄いんだ。
「そうそう。いろはちゃんも北斗杯は応援に行くんだよね?」
「うっうー、北斗杯にはメガネが足りてない」
まあ何だかんだでいろはちゃんは変人だけど付き合いの良い女の子だ。あかりも忘れずに誘わないと!!
あかりは本命の公立に落ちちゃって私立の時定高校で女子囲碁部を作ろうと頑張っている。
先日、囲碁サッカー部(何それ?)に入ろうとしていたクラスメイトの関口ユリアさんって女の子を誘ったって喜んでいた。
囲碁部の顧問も新しく高校教師になった国語の先生にお願いするらしい。団体戦まであと一人だ。
何かと忙しそうな、あかりは週刊碁とか碁ワールドを買って棋戦のチェックとかしてないもんね。
まあ、あかりが陰ながら進藤君の記事とか切り抜いて集めてスクラップ帳に保存してたりしてたら、それはそれであかりのイメージがストーカーチックになって嫌だけどね。
北斗杯の我らが日本代表チームは塔矢アキラ三段、奈瀬明日美二段、進藤ヒカル初段。団長は倉田厚七段。
そして奈瀬女流棋聖は流石です!!期待通りの代表入り。ゼッタイに応援に行かなくちゃ(使命感)
進藤君が代表になったのはビックリしてる。元クラスメイトが日本代表かぁ。
優勝候補の韓国代表チームは16歳の高永夏三段、17歳の林日煥四段、14歳の洪秀英二段。団長は安太善八段。
中国代表チームは18歳の陸力五段、16歳の王世振四段、14歳の趙石三段。団長は楊海八段。
「塔矢先生は中国リーグに続いて三星火災杯、春蘭杯の出場も決めて元気いっぱいだね。
健康上の理由で引退したんじゃなかったの?」
「拘束のないフリーの碁打ちになりたかったんじゃないのかな? わたしも働きたくないでござる」
いろはちゃんの“いつものこと”が始まった。
「寝て起きて寝る。そして出場したい棋戦にだけ出る。羨ましい生き様。わたしも見習いたい」
流石にタイトル取って気ままな賞金生活を主張するだけあって言うことが違う。
「そんなニートみたいなこと言わないでよ。でも私は名人戦の塔矢先生が見たいな!
塔矢先生といえば名人ってイメージが強いもん」
「……お陰で畑中新名人の影が薄い」「そ、そんなことないよ!」
「まあ引退した棋士でも出場できるように棋戦の規約を変えてしまえばいい」「え? いろはちゃん?」
「日本棋院・関西棋院の棋士でなくても参加できるようにしたらいい。名人戦だろうがなんだろうが」
「韓国や中国、アマチュアの棋士も?」「うん」「ムチャでしょ?」
「でも、そうしないと塔矢行洋は日本の囲碁界から離れてしまう」「それはたしかに」
「対局禁止令なんて出すから中国の春蘭杯に和-Ai-や東堂シオンを持っていかれた」
「棋院は以前に中国出身の世界最強といわれた女流棋士に対して
日本人のタイトルが奪われると言って門戸を閉ざしたことがあった」
「そして門戸を開いた韓国に日本は国際棋戦で追い抜かれた。そのときと同じ――」
「塔矢先生が欲しいなら門戸を解放しろってこと」
そんなことを言いながら、いろはちゃんはお気に入りの飴玉を舐めた。
後書き
※この話で名前が登場する「関口ユリア」はギャグ漫画の『日常』に登場する囲碁(サッカー)部の部員です。時定高校の一年O組に進学した藤崎あかりの「日常」は『日常』の囲碁(サッカー)部の面々に浸食されていきますが……本作では特に描写はありません。
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