和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
第04話 理外の打ち手
H13年6月
緒方精次はsaiを破ったAiからメールが送られて来たことに驚いていた。
1年程前に岸本空から和-Ai-のホームページを教えて貰った際にメールを送り、ネット碁のアカウントと自身のことを伝えて対局を申し込んだ。
対局は実現したがメールに添えた質問に対する返事は一切なかったからだ。
メールの内容が師匠である塔矢行洋との対局希望の仲立ちであることを知り、自分への対局希望でないことに少しばかり落胆したが、Aiとtoya koyoの対局が実現するのは喜ばしいと気を取り直し、すぐに塔矢行洋の元を訪れてその旨を伝えた。
「かまわないよ。特に予定もない。対局日はAiに任せよう」
「条件などはないのですか? 正体を明かして欲しいとか」
あっさりと了承を得られたことに些か拍子抜けした。
「フッ……確かにsaiとの対局中には勝てば名を明かして貰うぞと考えたこともあった。
しかしタイトル戦でなくとも本気の碁は打てると、そのどこの誰とも知れる相手との一局で知ることができたのだ」
「それに不思議なことに私はsaiとAiの棋譜を並べてもAiと打ちたいと思うことは無かった」
師である塔矢行洋の意外な独白に緒方は衝撃を受ける。
確かに今まで行洋はネット碁の話題については淡泊なところがあった。
しかしsaiを破ったAiという存在に対して少なからず関心があると思っていたからだ。
「そうだな。一言だけ添えて欲しい。
もしもAiがsaiと連絡する手段を持っているなら……。
私が勝ったときだけ構わないから、私からのメッセージをsaiに伝えて欲しいと」
「勝算は御有りで?」
「勝ち負けよりも心躍るような対局ができるかどうかが問題だ」
「……どういうことですか?」
「緒方くん、君はAiが神の一手を目指していると思うか?」「神の一手ですか?」
「saiとの対局のときはネット碁にも関わらず打ち手の気迫が伝わって来た。
研ぎ澄まされた一手一手に戦慄を覚えるよりも歓喜に震えたよ。
同じ神の一手を追求するものとしてね。
相手の全力の想いに応えたい。私も最善の一手を追及することができた。
負けたとはいえ満足いく碁が打てた」
「Aiは違うのですか?」
「あくまでsaiとAiの棋譜を並べたときに私が感じたことだ。
saiの一手一手からは常に最善を追求しようとする想いが伝わって来た。
対してAiは石と石の流れを無視した脈絡がない手を何度も打っているように感じる。
そこには相手の一手に込められた想いに興味や関心がないように思えた。
Aiの碁は最善にも最強の一手にも興味など無く。
ただ漫然とこれで十分に勝てるからとだけ言われているような一手だ。
囲碁は対話なりという言葉もあるが、対話とは言えない碁に意味はあるのだろうか。
そのような打ち手との碁に果たして互いの成長はあるのだろうか」
「先生、僭越ながら……それは違うと思います。
以前にAiの研究会で奈瀬初段が言っていました。
殆どの棋士は石の流れを点と点の繋がりである線として捉えているがAiは違うと。
Aiは石の流れを考慮せず常に面としての全体を先入観なしに捉えて次の一手を選択していると」
「なるほど。流れに囚われることは時として先入観にもなるか。」
「彼女は自らの形勢判断、局面を評価する感覚をAiに近づけようとしていると言っていました。
Aiは理外の打ち手です。対話が困難に感じるのは互いの棋理が異なるからです。
我々はAiとの違いを意識した上で、自分なりに理解して成長することが大事ではないでしょうか?」
「そうか。……なるほど。緒方くんの言う通りかもしれん。
対局してないにも関わらず詮なきことを言ってしまった。忘れて欲しい」
「…先生いえ。私の方こそ失礼しました。けれども先生の仰る通りかもしれません。
私の碁はAiに出会ってから、その影響を受けて変わりました。
私以外にも幾人かのプロ棋士が公式戦でもAiのような手をたくさん使うようになっています。
我々プロ棋士がネットに公開されているAiの打った碁を研究して自らの碁に取り入れている。
けれど我々の碁からAiは学ぶことがあるのでしょうか?
恥ずかしいことにAiを破った棋士は一人もいない。それどころか強さの底さえみえない」
「だとしたら孤独だな。囲碁は一人では打てない。
もしかするとAiが正体を隠してプロにならないのも己に匹敵する打ち手がいないからかもしれない。
満足な打ち手に出会えぬのならプロに価値を見出せないのかもしれん」
「…先生ネット碁で勝てば正体を明かす。つまりAiは本気の碁が打てる相手を求めている?」
「わからないな。どちらにせよ憶測に過ぎん」
オレは今まで碁よりオモシロイものなどないと思って生きて来た。Aiは違うのだろうか。
ネット碁の早指しでAiとは何度か対局したが相手を満足させる碁は打ててたのだろうか。
打ちたい。オレも打ちたい。
早指しではないAiとの本気の碁を……打ちたい!
「あのsaiの次に直々に指名されたということは私も思ってた以上に責任重大だな」
「先生お願いがあります」
オレは今までsaiと打つ機会は無かったが、今このチャンスを逃すわけにはいかない。
Aiの了承を得られるのならと先生の許可を得てメールの返事を書く。
まずはオレが先にAiと対局することが決まった。
待ってろよ。今度こそお前を満足させてやる!
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