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和-Ai-の碁 チート人工知能がネット碁で無双する

作者:笠福京世
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第二部 北斗杯編(奈瀬明日美ENDルート)
  第05話 宿縁の戦い(vs 緒方精次)

H13年6月某日

 緒方精次はRX-7のIDでネット碁にログインし相手を待つ。

 約束の時間にAiがログインしてくる。対局日は観戦者の少ない平日の午前の時間帯を選んだ。

 持ち時間は互いに3時間。正午を挟むことになる。対局が決まってから十分に対策も練った。

 運よく先手の黒番を持つことができた。Aiは白番だ。主導権は握れるはずだ。

 Aiが好む中国流への三々入りはプロ棋士の間でも少しずつ定着してきた。
 また右上の定石に対しての手抜きもすでにプロ棋士の何人かが真似をして取り入れ始めている。
 左上方面の模様にはこだわらず、下辺を割ってバランスを重視する。
 今までAiの棋譜を研究し良いと思ったところは自分なりに取り入れて来た。

 左上への打ち込み。Aiが生み出した新手の一つだ。
 Aiの碁を知らなければ愚かな手だと勘違いするだろう。Aiが好むケイマガケ。
 次の手が重要なポイントになる。この手は検討してきた。
 意図的に空き三角を作る。形は悪いがこの場面では最強手とされる手法だ。

 次のAiの手は左上の黒が愚形にグズんだところを放置してのツケ。
 以前に学んだ本因坊道策の棋譜にも似たような手があったが、その意図を深く知ろうとすること無かった。一見すると好手には見えないが今なら分かる。
 ツケによって発生する数手の攻防で周囲の石に働きかけた後に狙いがある。
 Aiの深い読みは深淵の先を見通しているので初見の者には飛躍した手法だと感じるのだ。
 左上に影響しないことを優先し固く受ける。左上を無事に破ることができた。
 白が上辺を気分よく利かせてくるが、この結果は黒が悪くない。

 これだけ大胆な碁をAiを相手に憶することなく楽しめる自分は我ながら大したものだと思う。

 白はやや薄い手で頑張っている。一寸たりとも気を抜くことはできない。
 白が左辺をヒラいて左上を狙っている。一度は破ったと思ったが新たに手を作ってくる。
 それが成立するかどうかで布石での左上の形勢が変わってくる。
 右から白石にツケて三々入りを確実に成立させようとし隅を謝らせることに成功した。
 しかし代わりに後手をひくことになる。

 左辺に白の意外な手。今守らなくても黒から大した手が無い様に思える。
 もし自分が白の立場であれば右下から右辺へ先着するだろう。
 下辺を手厚く打つ。左下隅へのヨセを見てこの手が後手でも大きいと判断する。
 しかし平然と手抜きで白は上辺の地を減らしながらキリを狙ってくる。
 やはりAiは持ち時間が3時間でも殆ど長考はしない。
 この局面で流れを無視して手抜けるという判断が恐ろしいくらい早い。

 ここまでの形勢は悪くない。Aiの碁は序盤から中盤にかけて独創的な碁を打つ。
 慣れていない者は中盤に入る前に崩れ去ることもあるが今のところ食い下がることができている。

 今度は右辺を放置して意外なところから左下に迫ってくる。
 意外だと感じた手が連動して生きる。あの時からコレを狙っていたのか?
 こちらの厚みだろうがなんだろうが白はお構いなく狙ってくる。
 いや……この黒はAiから見たら厚みとは言えないのか?

 局面が進むほど黒の厚みが形づくられていく。
 厚みを攻めたつもりが逆に攻められて挟まれた白石が危険に見える。
 白石が中央にある天元の右下に置かれる。

 たった一つの手で今まで見ていた景色が大きく変わる。
 気が付けば中央の黒石が負担になり後で攻めるはずだった上辺の白が逆に黒へと攻めを見せる。
 しかも将来的には右辺との連携したカラミ攻めも狙っている。

 明らかな勝負所。持ち時間をじっくり使って相手の意図を見抜き黒石を天元に置く。

 こちらの薄みを消しながら巧みな整形。右辺の黒石を直接攻めない辺りに上手さを感じる。
 負けてはいられない黒石は右辺のサバキにかかる。白石は右辺を睨みつつ中央へ圧力をかける。
 右辺の黒も絡んで複雑な模様が広がる。白5子切りを利かしカケツギながらノゾキを打つ。
 普通は先手だが白は迷いもなく躱す。呆れるほど潔く白5子を切り捨てる。
 右下隅で5子を取られる損と複雑な中央および右辺カラミ攻めの得失を比較する。
 トッププロでも打てないであろう一手。こちらも対応し地は損するが右辺に利かせるための手を選ぶ。

 気が付けば上辺の白が中央に対する効果的な攻めの勢力になっている。
 なんとか黒1子をおとりにし右方へ脱出するが白は見きって手厚く勝ち切ろうとしてくる。

 序盤でいったん捨て石になって放置していた左上隅を白石が切る。
 この中盤の半ばが過ぎようとするタイミングで相手が最高の活用を見せる。
 警戒していたにも関わらず意識の死角から突然の好手が飛んでくる。

 翻弄され食らいつく。深く深く潜るほど閃きを得る。
 十段のタイトルを取り、今期は碁聖位にも望む自らの碁が大きく成長できることを実感する。

 荒らされた左上隅には黒の眼がまだ無い。
 手順で白にオサエを打たれヨセで大きく得をされる。
 しかし活きるためには左上隅の手入れを省くことはできない。
 白が先手を決めてから右下隅に手を伸ばす。ヨセに入ったが白が優勢だろう。

 それでもプロ棋士としてタイトル保持者として自らの誇りをかけて最善のヨセを追求する。

 届かぬ底知れぬ強さの底を目指して必死に手を伸ばす。

 なんとか黒は右辺の白を孤立させる。しかし白は活きている。
 白は続けて下辺の一団も活かす。
 ヨセの損得が難しい局面が続くが読み間違えてはいない。
 一目でも食らいつこうと時間ぎりぎりまで考える。
 もう相手が大きく間違えない限り勝てる可能性はない。
 しかし最後まで心残りを残さず打とうと誓う。

 タイトル戦でなくとも本気の碁は打てる……か。 
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