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真田十勇士

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巻ノ七十五 秀吉の死その八

 連日五大老、五奉行達を枕元に呼びこう言った。
「返す返すも拾を」
「はい、お拾様がそれがしがです」
 家康は秀吉の手を握り彼に約束した。
「必ずや」
「護ってくれるか」
「お任せ下さい」
「ならな」
「はい、それでは」
「わしはもう憂いはない、お拾が無事なら」
 それならばというのだ。
「憂いはない」
「左様でありますか」
「内府殿、後のことは頼み申した」
 まずは家康に行った、その後で前田にも言った。
「又左殿には昔からお世話になっていますな」
「いえ、それは」
「まことのこと、そして図々しいですが」
「お拾様を」
「貴殿にもお願い申す」
 死相を前田に向けて懇願した。
「是非」
「さすれば」
「各々方にも」
 五大老の残る三人、毛利輝元と上杉景勝、宇喜多秀家にも顔を向けて言うのだった。
「お拾のこと頼み申す」
「はい、さすれば」
「我等も砕身誠意を以てです」
「お拾様をお護りします」
「そうして頂ければ何より」
 数年前からは考えられない弱々しい声だった。
「この秀吉、憂いはありませぬ」
「さすれば」
 家康が一同を代表して応えた、そして秀吉は彼等だけでなく。 
 正室の北政所にもだ、こう言っていた。
「御主には迷惑をかけたのう」
「全く、御前さんは今更」
「ははは、飾らぬのう御主は」
「当たり前だよ、お互いじゃない」
「そうじゃそうじゃ、昔からな」
 弱々しいが明るくだ、秀吉は床から正室に応えた。
「こうしてな」
「一緒にいたじゃないか」
「足軽だった頃からな」
「あの頃が懐かしいね」
「今思えばな、御主の炊いた麦飯がな」
 秀吉は北政所の顔を見て笑顔で話していた。
「一番美味くあの長屋がじゃ」
「一番だね」
「居心地がよかったのう」
「今思うとそうだね」
「あの時から色々あった」
「右府様にどんどん取り立てられてね」
 信長のことも話すのだった。
「大名になって」
「城も持ってな」
「気付けば天下様だよ」
「まるで夢の様じゃった」
「それまであんたもあたしも色々あったよ」
「全くじゃ」
「あたしも絶対に後から行くからね」
 北政所はあえて笑ってだ、夫に言った。
「あっちでも女の尻を追い掛け回してるんだよ」
「ははは、そう言うか」
「言うさ、御前さんは絶対にそうするからね」
「そうじゃな、しかしわしは御主が第一じゃ」
 このことは変わらないというのだ。
「これまでも今もこれからもな」
「有り難うね、そう言ってくれて」
「それで御主に言いたいのじゃが」
「お拾殿だね」
「任せてよいか」
 妻のその目を見ての言葉だった。 
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