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真田十勇士

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巻ノ七十五 秀吉の死その九

「御主にも」
「いいさ、じゃああたしもね」
「護ってくれるか、お拾を」
「あんたの子だからね」
「なら頼む」
「あの子の命は絶対にね」
 彼女も約束した、秀吉に対して。
「護るよ」
「済まぬな」
「命はね」
 こう夫に言うのだった。
「絶対にだよ」
「命はか」
「あんたもわかってるんだろ?」
 あえて夫に問うた、正室である彼女だからこそ出来ることだ。それも二人きりになっているからこそである。
「もうね」
「うむ、小竹もおらぬしな」
「それじゃあね」
「わしの跡はな」
「あの方だね」
「だからああ言ったのじゃ」
「そうだね、頼むとだけね」
 北政所も応えて言う。
「そういうことだね」
「うむ」
「そうだね、多分ね」
「御主もわかるか」
「あたしは政のことはわからないよ」
 だからこれまでも言ってこなかった、あくまで家で夫と共にいて生活を支える女房に徹してきたのである。
「それでもね」
「感じるな」
「それなりにね」
「やはりそうか」
「そしてだね」
「うむ、わしもな」
 わかるからだというのだ、秀吉も。
「だからじゃ」
「そう言ったんだね」
「確かに拾が天下人であって欲しいが」
「まずはだね」
「あ奴には長く幸せに生きていて欲しい」
 父親としての願いだ、秀吉は父として秀頼のことを愛し案じているが故に家康達にもそう言ったのである。
「何としてもな」
「だからだね」
「わしはそう言ったのじゃ」
「あの子が生きて欲しい」
「末永くな」
「あたしもそうしていくよ、けれどね」
「問題があるな」
 秀吉はこのこともわかっていた。
「佐吉とな」
「あの子はわかっていてもね」
「素直で生真面目過ぎる」
「そのせいでかえってね」
「自分を追い詰めていってしまう」
「本当に生きにくい子だよ」
 北政所は彼のことを幼い頃から知っていたのでこう言うのだった、その顔には慈しみと残念に感じるものがあった。 
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