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提督はBarにいる。

作者:ごません
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EX回13 鎮守府の秋祭り~演習編③~

 夕立が敵の龍田を海面という名のマットに沈めた。数はこれで6VS5。数的有利は得たがまだ決着ではない。夕立は龍田が相手している『自分』に猛然と襲いかかる。

「ぽいぽいぽ~いっ‼」

 シャークマウスのペイントが施された魚雷を投擲する夕立。いや、魚雷の推進部分が火を噴いて推進しているのを見ると、アスロックに近い物なのか?妖精さんの技術はよく解らん。

「ちょ、そんなの反則っぽい~っ!」

 相手の夕立は血相変えて逃げている。やっぱり妙だ、あの美保鎮守府の艦隊だぞ?ウチの艦娘達よりも錬度が高くて当たり前と思っていたが、どうにもあの夕立といい、金剛と比叡といい、改二改装を施された形跡がない。というか金剛に至っては改にすらなっていないように見える。

『どういう事だ?これじゃああまりにも……』



「おおっと龍田さんと夕立さん、相手の夕立をジワジワと敵戦艦群から引き剥がしに掛かる!」

「……巧いな。挟み撃ちの形を活かして敵主力から遠ざけている。何か仕掛けるつもりだぞ。」

「み、見てください!アレ‼」

 瞬間、全員が青葉の指差した先、制空権争いが繰り広げられていた上空を見やった。見ると、此方の赤城と日向が放った瑞雲と彗星がそれぞれ爆撃体勢に入ろうとしていた。



 瑞雲は水平爆撃、彗星は急降下爆撃で、敵艦隊主力に襲いかかる。次々に襲いかかる爆撃機を落とそうと砲撃を加える敵の金剛達。しかし通常の砲弾では殆ど効果がない。数瞬の後、戦艦群を覆うように水柱が上がって姿が見えなくなる。水柱と轟音、そして水煙が晴れたその輪の中には、敵艦隊の艦娘達が大破していた。

「こ、これは……?」

「美保鎮守府旗艦・金剛轟沈判定により、我が鎮守府の勝利ですっ!」

「しかしこれは呆気ない終わり方でしたねぇ。まさか航空機の爆撃で終わるなんて。」

 青葉がそんな感想を述べているが、武蔵はフンと鼻を鳴らした。

「青葉よ、お前ジャーナリストとやらを気取ってはいるが、その目は節穴のようだな。」

 その武蔵の言葉に反応する霧島と青葉。どうやら、武蔵の目にも俺と同じモノが見えていたらしい。

「仕方がない、この武蔵が解説してやろう。今の攻撃の内に何が起きたのかを、な。」



「まずは敵方の龍田が沈んだ後だ。此方の龍田と夕立で敵の夕立を主力から引き剥がしにかかったな?」

「えぇ、あれは戦力の分断の為では?」

 実況の霧島が尋ねる。確かに、普通に考えたらそう見えるだろう。だが、あの一手があればこそ、此方の艦隊は勝ちを拾った。

「いや、あれはそれ以上に『対空火力を減らす』狙いがあった。」

「と、言いますと?」

「私の見る限り、敵方の金剛達は対空火器を殆ど積んでいなかった。夕立を主力から遠ざけて、爆撃の成功率を上げる為の布石だ。」

「ではやはり、艦載機の爆撃で決着が着いたのですか?」

 怪訝な表情の霧島に対して、武蔵は左右に頭を振る。

「いや、敵戦艦に決定打を与えたのは感想じゃない。戦艦の砲撃だ。」

「砲撃!?だ、だってあの時金剛さん達は……」

「青葉よ。お前はあの時本当に金剛達の動きを見ていたのか?」

 そう。赤城と日向の爆撃は、目を惹き付ける役目だった。

「あの爆撃の直前、金剛と比叡は全速力で航行して敵を三方から囲むように布陣した。空からの攻撃に気をとられ、恐らくは演習をしていた当事者すら気付いて居なかったろう。」

「そして……爆撃。」

「そうだ、爆撃に合わせて金剛達は一斉射撃を加えた。水柱と轟音で相手に気取られない砲撃……かわしようがない。」

 おぉ~……と、会場からも感嘆の声が上がる。さすがは武蔵、金剛達のその場の思い付きであろう奇襲作戦を見ただけでほぼ理解し、それを解説して見せる観察眼には恐れ入った。これで後は、普段の酒量を減らしてくれれば文句ないんだが。しかしこれで、俺の疑念もはっきりとした。

「いやぁ、流石は大将、完敗です。」

 美保鎮守府の提督、いや、提督を名乗る人物が向こうから近付いて来る。右手を差し出され、握手を交わす。……が、そのまま掴んで離さない。

「ちょ、ちょっと?痛いのですが……」

「おい、お前何者だ?」

 俺は顔に無理矢理笑顔を貼りつけ、周りには怪しまれないようにギリギリと右手に力を込める。



 どう考えたってあの艦娘達の錬度の低さがあり得ない。どう少な目に見積もったとしても、金剛と比叡は改二改装を施せる位の錬度に到達していなければ勘定が合わない。それに幾ら童顔だとしても、資料にある提督歴と顔の年齢が一致しない。つまり、導き出される答えは1つ。この男と艦隊が偽物だという事だ。

 恐らく艦娘は本物だ。だとすれば、身分を偽って潜入した他国のスパイの可能性すらある。艦娘の建造技術は国家的機密事項だ。盗み出せればデカい金になるだろう。憲兵達も不穏な空気に気付いたらしく、懐に忍ばせた武器を手にジリジリとにじりよって来た。大捕物かと思ったその時、慌てた様子で大淀が此方に駆けてきた。

「ていっ、……とく……大本営からコレが………。」

 見ると、緊急の半が押された電報のようだ。見ると、『予定していた美保鎮守府の艦隊は、濃霧の為航行が難しく、内地に引き返した』とある。

「……………えっ?」

 おい、まさかこれって。

「……勘違い、ってか艦違い?」

 近くにいた誰かがそう言った。誰が上手い事言えと言った。 
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