ユキアンのネタ倉庫
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宇宙戦艦ヤマト2199 元爆撃機乗りの副長 3
「さて、疑問があるやつばかりだろうが、まずはこのリストを見てほしい」
床のモニターにリストを映し出す。
「0550以降に船外服を着用するためにロッカールームに入った者だ。オレは原則0550に船外服を着用するように言ったはずだが、どうだ、この結果は。船務科どころか保安科は半数がリストに入っている。大方、自分たちには関係のない訓練だからだと気を抜いていた証拠だ。巫山戯るな!!ここは軍艦の中なんだぞ。ヤマトに乗っているのは全員軍人だ。軍人は上意下達が基本中の基本だ。それが守れていないとは何事だ!!これは上に対する意見具申とは全く別のことだぞ。徹底させておけ!!保安科!!次に同程度の失態を犯せば解隊して別の科から再編する。訓練だからだと甘く見るな!!」
「はっ、申し訳ありませんでした」
「リストに存在しない科も同じことだ。徹底しておくように。そして先程の件だが、諸君の能力を正確に確認するために仕組んだ物だ。技師長に協力をお願いし、シミュレーションを行ったのだ。これからの航海では先程のような遭遇戦が一番多いだろう。その時、諸君がどれだけ動け、そして見えているのかを確認するために行った訓練である。失態を犯したな、砲雷科」
「ええっ!?」
「今回の細工は艦橋部分とS.I.Dしか影響していない。第3主砲カメラには細工を行っていない。着弾を確認出来たか?出来ていないはずだ。データ上にしか存在しないんだからな。着弾の目視確認を怠った証拠だ。あとで担当に言っておけ。不審なことがあれば艦橋に報告を上げろとな」
「申し訳ありませんでした」
「加藤、帰還命令後の悪態は今回は無かった事にしておいてやる。だが、発進可能報告が上がるまでの時間が掛かりすぎている気がする。出来るだけ速めろ」
「了解です」
「今回は訓練だから死傷者はいない。だが、もしかしたら居たかもしれないということを常に念頭に入れておけ。実践でのミスは誰かの死だと思え。オレにできることは、こうやって心構えを教え込むのと、教科書なんかには載っていない生々しい生存率向上術だけだ。お前たちを一人でも多く生き残らせるためにな」
「副長」
「それでは30分後に再度訓練を開始する。今度の訓練はヤマトの性能をどれだけ引き出せるかの確認だ。それをこのブリーフィングの事と合わせて通達するように。ワープの実験は30分繰り下げる。散開」
それからの訓練は実践のような緊張感の中で行われた。おかげでヤマトは十全の力を発揮できることが確認できた。
「よし、ではこれよりワープの実験に移る。瀬川君」
「準備できています」
マイクを受取り、艦内放送を行う。
「これよりワープの実験に入る。各員は所定の配置に付き、船外服を着用の上で覚悟を決めろ。たぶん、大丈夫だが、異常があれば報告しろ。後はお祈りを済ませておけ。この場合は、交通安全の神で良いのか?」
「無病息災、家内安全、安全航海、あとはお馴染み運命の神でしょう」
「というわけで知る限り片っ端から祈っておけ。あと、航海長に念を送っておけ。ミスったら化けて出てやるぞって」
「ちょっ、プレッシャーをかけないでくださいよ、副長!!」
「これで成功すれば、こんなもんかって思えるようになるから頑張れ。誰にでも最初はある」
「だからってプレッシャーを掛けなくても」
「そこまで言うなら肝の座っている瀬川君に代わってみるか?」
「私をご指名ですか。操艦の粗さで有名な私にそんな繊細なことをさせようとするとは。良いでしょう。この宇宙を吹き飛ばしましょう」
「うわああああ、やりますやります、やらせてください!!」
「いえいえ、遠慮せずに。私も久しぶりに舵を握りたいので。まあ、フブキ級駆逐艦の舵しか握ったことはありませんが」
「フ、フブキ級!?2世代も前の!?」
「練習艦と実践が1回ですがなんとかなりますって。人数不足でなんとか訓練学校を卒業するような成績でしたが、なんとかなるでしょう。実践は生き延びていますから」
「き、機関長、エンジン全開!!急いで!!副長補佐がこっちに来る前に!!」
気合が入ったようでよろしい。
「空間明け座標軸木星から少し先のN38」
「速度、12Sノットから33Sノットに増速!!」
揺れ始めたな。まるで3年に1回ぐらいある空中分解みたいな揺れだ。
「速度、33Sノットから36Sノットへ!!」
「秒読みを始めます」
森君の秒読みを聞きながら心を落ち着かせる。さてさて、どんな事が起きるかな?
「ワープ!!」
何かにぶつかるような感覚とともに視界が光に覆われ、激しい揺れが起こる。明らかに異常が発生したな。
「状況報告!!」
「わ、分かりません!!」
「おい、木星がなんでこんな近くに!?」
「舵が効かない!?木星の重力に捕まった!?」
「機関室、状況知らせ!!」
『メインエンジンから動力がうまく伝わらんのです。補助エンジンに切り替えてやってみます!!』
「島、安定翼展開。なんとか持たせろ!!」
「やってみます!!」
「太田、木星のデータを全てこちらにも回せ!!森、なんでも良いから使えそうなものを探せ!!」
太田から回されたデータに目を通しながら最善手を考える。補助エンジンだけでは木星の重力から抜け出せないな。補助エンジンだけを回している横でメインエンジンを修理?無茶を言うな。機関士が死ぬぞ。それは最後の手段だ。
「レーダーに感。これは、大きい、艦ではありません」
「メインパネルに投影しろ!!」
高密度の雲のせいで何も見えんな。
「赤外線カメラに切り替えます」
今度はなんとか分かるが、なんだあれは?
「浮遊大陸とでも言えば良いのか?」
最初は岩塊かと思ったのだが、サイズが桁違いだった。
「大きさはオーストラリア大陸とほぼ同じ大きさです」
「よぉし、幸運の女神様はまだまだオレ達を見放したりはしてなかったみたいだな。島、浮遊大陸に軟着陸させろ。最悪、強行着陸でも構わん。ロケットアンカー、準備しておけ。タイミングは任せる。真田、波動防壁を下部に集中して展開。特に第3艦橋を集中して防御しろ。総員、何かに捕まっておけ。派手に揺れるぞ!!」
「あと、お祈りを忘れないように。愛想を尽かされないように、真面目に、お供え物もちゃんと用意するように」
さて、やることをやった以上はこのまま祈っておくか。今回は運命を司る三女神にでも祈っておくか。お供えは、後で酒を供えておこう。瀬川君も隣で何かに祈っている。そして、島君は見事に軟着陸させてくれたようだ。激しい揺れの中、ロケットアンカーが打ち出される。ようやく止まったところでお祈りを止める。
「被害報告」
「防壁の消耗のみです」
『こちら機関室、原因がわかりました。メインエンジンの冷却装置がオーバーヒートしとります』
「修理に取り掛かってくれ。エンジン内の余っているエネルギーはバイパスを通して主砲・副砲に回しておけ」
「艦長、修理の間、サンプルを採取したいのですが」
「副長」
「この浮遊大陸の正体を知る必要はあると思います。古代君、甲板部から数人選出してサンプルを回収してくれ」
「AUO9、出番だぞ」
「番号ナンカデ呼ブナ。私ハ自由ナユニットダ」
なんか艦橋に似つかわしくない赤い部分が外れたと思ったら喋った。
「自立ユニットだったのか、それ。強引に追加した補助コンピュータだと思ってたわ」
「AUO9、ヤマトの自立型補助コンピュータだ」
「アナライザー、ト呼ンデ下サイ」
「ほう、名前を自分で欲するのか。中々面白いが、それに恥じない仕事をしてみろ、AUO9」
「名前位良イジャナイデスカ。ケチナ副長デスネ」
「何を言う。公式記録にも書類にも全部AUO9という表記をアナライザーに変えてやると言っているんだよ。まあ、パーツ請求なんかのためにAUO9型とは残るだろうけどな」
「本当デスカ!?」
「酒呑みは太っ腹だ。面倒ではあるが、それぐらいはやってやるぞ」
「ワ~イ!!イッテキマ~ス!!」
古代君を置き去りにして艦橋から出ていってしまうアナライザーを見送り、名称書き換えのためにデータを呼び出す。古代君は慌てて追いかけていく。
「良いのですか?副長」
「何がだ、真田君?」
え~っと、全検索を掛けて書き換えても良いかを確認して、まずい部分は追加してっと。
「AUO9にはプログラム上の自我が設定されています。それを肯定し続ければいずれ」
「ロボット三大原則のことだろう?大丈夫大丈夫。肯定し続ければという話だ。どうも技術屋はそういう心に関するのには疎いよな。三大原則を破るロボットなんてとっくの昔に存在してるんだよ」
「なっ!?そのような報告は何も上がってきていません」
「そりゃそうだ。知れば回収してデータを取ってスクラップだろう?それを防ぐために持ち主たちが誤魔化してるんだから」
「そんな」
「それらは全て同じ環境下にあるロボットなんだよ。簡単に言えば彼らはロボットではなく家族なんだよ。理解できるか?」
「はい、ですが」
「家族を守るために強盗を殴り飛ばしたなんて珍しくもなんともないぞ。その後、自分達で自壊することが多いがな」
「副長、アナライザーの席に彫ってある刻印はどうされます?」
「パテでも当てて、彫るのは難しいからネームプレートでも貼っといて瀬川君。おっと、ここはまずいな。技師長は『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』読んだことは」
「……あります」
「答えはYESだ。少し前の市販の物でさえこれだ。アナライザーの場合、自我の確立は容易だ。解体すると面倒になるからこそ、アナライザーでそれを証明するんだ。奴は人工知能たちの救世主となる。まあ、育て方を間違えると危険だがな。こっそりバックアップをとっとけ。今の状態なら問題はないだろうから」
「何故、そのようなことを?危険ではないのでしょうか?」
「さあな、危険というより安定した結果は出せなくなるかもな。だけど、それが良いんだよ。答えはいずれ出る。アナライザーが『彼』になるか『それ』になるか。それによって地球の未来が決まるだろうよ。ああ、別に失敗するとかそういうのじゃない。はるか未来の話だ」
よ~し、書き換え終了。
「艦長はどう思われます?」
「意外と哲学的だな、副長。私としては航行に支障をきたさないのなら許可を出そう。バックアップも取るのなら大丈夫だろう。いざという時は引くのだろう?」
「引きます。それが私の義務であり責任であり権利でしょう」
「なら構わんよ」
「念の為に物理的に別のバックアップを取って隠しておけ。厳命な」
「……了解しました」
真田君は何処か納得していないみたいだが、それでも命令には従ってくれるようだ。
回収したサンプルが地球に生えてきた未知の植物とDNA的にほぼ一緒か。
「なるほど。つまりここはガミラスフォーミングの実験場か、あるいはこれを地球に移植すると考えれば良いんだな?」
『そうです』
「総員第一種警戒態勢!!索敵を厳にしろ!!甲板科は戻ってきているな?」
「戻ってきています」
「レーダーに感あり、戦艦1、駆逐艦3です」
「戦闘態勢!!各砲、一発ずつなら衝撃砲が撃てるはずだ。その後、三式弾の装填を忘れるな!!機関室、修理の状況は」
『あと、5分待ってください』
「慌てず急いで正確にだ。島、錨を上げていつでも出せる準備をしていろ。古代、戦闘指揮を任せる。やってみせろ」
「「了解」」
いつまでもオレが指示を出し続けるのも成長を阻害するからな。少しずつ仕事量を減らさねば。エンジンの修理のためにエネルギーを捨てずに各砲にまわしておいて正解だったな。節制は役に立つとメモっとこ。迎撃が終わり、全艦を沈めたところで機関室から修理完了の報告が上がった。
「島、出せ」
浮遊大陸から脱出したところでこの浮遊大陸をどうするかを考える。この浮遊大陸にあるのはおそらくは補給基地と思われる。叩いておいた方がいいが、叩かなくても、いや、叩いておかないと駄目だな。さて、どうやって攻略するか。
「島、取舵反転180度。艦首を浮遊大陸に向けろ」
「艦長?」
「波動砲のテストですか?」
「そうだ。テストを兼ねてガミラスの基地を攻撃する」
「ですが、波動砲の威力は未だ未知数です」
「個人的には出来るだけ早めにやりたいと思いますが、技師長の言うとおり威力は未知数ですし、この環境下で、ですか?せめて重力圏外からの方が」
「それでは木星に着弾するおそれがある」
「そこは角度を調整すれば、駄目だな。結構離れないと駄目か。精密射撃ができないな。徳川機関長、エンジンの方は大丈夫ですか?」
「冷却器は交換した。負荷は許容値ギリギリじゃな。手作業で冷却すればなんとか大丈夫じゃろうが」
「なら頼みます。波動砲発射後、木星の重力圏を抜けるまでは火を落とさないでください」
「分かった。なんとかやってみよう」
「波動砲、試すしかないですね。個人的には航空隊による爆撃の方がやりたいんですけどね」
「その場合、君も飛ぶつもりなのだろう」
「地球唯一の爆撃の専門家だと自負していますから」
「だからこそだ。君にはまだまだ乗組員を育て上げてもらわなければならない。こんな所で失う訳にはいかない」
「そこまで期待されては大人しくしておきます。島、取舵反転180度。古代、波動砲発射用意」
「了解」
とは言え、やることがないんだよな。精々対閃光防御ゴーグルを着用するぐらいで。周りが緊張する中、自然体のオレと瀬川君が浮いているが、気にするような神経を持ち合わせていない。そして、カウントダウン後に波動砲が発射される。その威力は浮遊大陸を跡形もなく吹き飛ばしてなお余りあるエネルギーの尾が残された。環境にいるオレと瀬川君と艦長以外が唖然としている中、指示を大声で飛ばして正気に戻す。
「射線上の星図を出せ!!」
「は、はい!!」
「真田、データは取っているな?射程を算出しろ!!」
「すぐに出します!!新見君!!」
「艦内機能の復旧を急げ!!島、反転180度、上げ舵45度、木星から離れろ!!」
「りょ、了解!!」
今出せる指示はこれだけか。未だにトリガーから手を離せていない古代君の元に近寄り、肩を叩く。
「ふ、副長?」
「古代、もう良い。トリガーから手を離せ」
「えっ、あっ!?」
慌てて手を離そうとして、離れないことに慌てて手を酷く動かそうとする古代君の背中を叩いて落ち着かせる。その後、回路を切ってやる。
「一本ずつ、ゆっくりとだ。慌てる必要はない。回路はもう切ってある。ゆっくりと、そうだ」
時間を掛けて全ての指が離れると、どっと疲労が来たのか席に座り込む。
「これが、波動砲」
「ああ、恐ろしく強力で、恐ろしく危険な、恐ろしくヤバイ兵器だ」
「で、ですが、これがあればガミラスの奴らだって」
「南部、核兵器が地球上で使用禁止になった原因はなんだ?」
「それは、手軽で、強力で、汚染が激しいからです」
「それだけじゃない。戦争は何のために起こるのかと言えば国家の利益のためだ。必要なものまで破壊してしまう。だから禁止されてるんだ。波動砲は核よりも危険だ。オレ達はガミラスの基地を叩ければそれでよかったんだ。それが大陸その物を吹き飛ばしてしまった。オレ達にそんな権利などないと言うのに。分かるか、南部?オレ達は手を出してはならない領域に手を出してしまったのかもしれないんだぞ。この禁断の兵器の誘惑に耐えなければ、例え地球を救ったとしても、胸を張って未来の子供達に自分達の所業を誇れるか?」
「だけど、それで死んでしまっては、元も子もないじゃないですか」
「そうだ。死んでしまえば意味はない。だから、必要があればオレも艦長も使用許可を出すだろう。だが、無闇に使ってはならないんだ。常にその誘惑と向き合わなければならない。真田、射程は?」
「出ました。星図と重ね合わせたところ、惑星、衛星、恒星、いずれも射程内には入っていませんでした」
「ふぅ、ひとまずは安心だな」
「はい。また、汚染などの影響も一切ありません。波動砲自身も冷却こそ必要ですが、連射も可能です」
「そんな機会は来て欲しくないな。徳川さん、エンジンの方は?」
「ギリギリ保ったみたいじゃ。手動で冷却をしたおかげじゃが、こんなことは二度とやりたくないのぅ」
「艦内機能の復旧は?」
「終わりました。問題は出ていないようです」
「そうか。良かったよ。艦長」
「うむ。波動砲の威力は予想を遥かに超えるものだった。今後使用する機会は訪れて欲しくはないが、おそらく訪れるであろう。古代、気が進まぬか?波動砲のトリガーは艦長席にもついている。私が引いても構わん」
「……いえ、自分にやらせてください」
「ほう、今も恐ろしさに潰されそうになっておるのにか?」
「はい」
「理由は?」
「……自分がこのヤマトの戦術長だからです!!」
一丁前の顔つきになりやがって。本来ならメ2号作戦で自身を付けさせるつもりだったんだがな。まあ、悪くない。
「よかろう。今後も君が波動砲のトリガーを引きたまえ。ただ、使用の許可は私か副長が出す。それ以外での使用は原則禁止だ」
「例外はオレと艦長が指揮を取れない状況だ。それ以外の例外は無い。これを破った者は営巣入りなんて生温いことは言わん!!艦外に放り出すつもりだ!!オレは、やると言えばやる男だ。総員に徹底させておけ!!」
「「「はい!!」」」
「よし。それではエンケラドゥスに向かおうか。技師長、波動砲のデータ解析を頼む。まとまったら回してくれ」
「分かりました。副長はどちらへ?」
「オレのハヤブサの整備。爆装を解除しとかないとな」
艦が激しく揺れ、ベッドから飛び起きる。艦内電話をとって艦橋につなぐ。
「ブリッジ、今の揺れは?」
『分かりません。いえ、今機関室から連絡が入りました。波動砲の影響でコンデンサーの一部が溶けかかっているそうです。修理剤の不足のため、応急修理で済ませるそうです』
「エンケラドゥスで補給は可能なのだな?」
『はい、大丈夫だそうです』
「分かった。今のことを艦内放送で知らせておけ。不安を少しでも解消するんだ」
『了解しました』
艦内電話を置いて時間を確認する。予定より1時間早いか。目も覚めてしまったな。仕方ない繰り上げで動くか。着替えてから軽く身だしなみを整えて士官用の個室から出る。そのまま食堂に向かう。バランス良く食事を選び、適当に座る席を探していると技師長を見つけた。
「ここ、良いかな?」
「これは副長。どうぞ」
「すまんな。うん、中原中也の詩集か?」
「ええ、昔親友に薦められまして。借り物なのですが、返せなくなってしまいました」
「すまんな。悪いことを聞いた」
「いえ。アナライザーの件なのですが、私だって自我が目覚めないとは思っていません。確証はありませんが、可能性は大いにあると思っています。ですが、それをアナライザーで行うというのがどうしても」
「まあ、SF物でよくあるロボットの反乱だろう?だからこそバックアップを取らせてるんだ。いざとなればオレが撃ち抜く」
「それは分かっています。そんな機会は訪れてほしくありませんが」
「当たり前だ。そんなものは映画だけで十分だ」
「そうですね。そう言えば副長はスタントマンでしたね」
「基本はパイロットだが多少のアクションもやらされる。無論、空中でのだがな。スカイダイビングで雪山に降り立って、そのままスケボーで雪山を駆け下りるとかだな。CGを使っていないのが売りの映画ではよくうちの会社が使われていたからな。そこそこ有名だったんだけど、とにかく給料が安くてな。副業に超人番付的な大会に顔を出してなんとかやってたぐらいだ」
「懐かしいですね。親友はそういうのが好きでしたから」
「そうか」
なんだ、意外と人間味のある男じゃないか。たぶん、親友がこの男を変えたんだろう。会ってみたかったな。
「副長に技師長じゃないですか」
「おう、相原と太田か。なんだ、その量は?」
太田のプレートに山のように積まれた食べ物を見て告げる。
「いやぁ、O.M.C.Sが便利だなって。副長と技師長はそれだけで大丈夫なんですか?」
オレのはバランスはともかくカロリーと量は抑えめだ。技師長は携帯補助食品だ。
「無駄なカロリーの摂取は控えるべきだからな」
「オレはこれでもパイロットだからな。大分絞ってるし、最近はずっと副長席に座っているからな。あと、オレの燃料は酒だ。昇進を蹴ってまで酒を持ち込む許可を貰ってるぐらいだ」
「そういえばそうでしたね。話は変わるんですけど、技師長、O.M.C.Sの原料って何なんですか?」
「知らないほうが幸せなこともあるよ」
「オレは大体予想はつくけど、ソイレントシステムよりはマシなんだろう、技師長?」
「ええ、ソイレントシステムよりはマシですね」
「「ソイレントシステム?」」
「知らないほうが幸せだぜ」
「幸せですね。古い映画に出てくる機構だ。詳細は知らない方がいい」
「副長補佐、救難信号を受信しました」
「どこからです?」
「地球防衛軍の標準コードで艦名は不明、位置は、エンケラドゥス南極付近です」
「それはよかった。これで逆方向なんて言われたら多少揉めたでしょうから。メディックを選抜します。シーガルの準備をするように甲板科に伝えて下さい」
「了解しました。それにしても先行きが良いのか悪いのか。どちらなんでしょうかね?」
「さあ、ただ退屈はしないですみますね。メ号作戦の往路はとにかく暇で大変でしたから」
「決死の作戦を前にして緊張しなかったんですか?」
「私の乗っていたフソウの艦長は副長ですよ。慣熟訓練の半月で完全に人員を完全に掌握しましたから。死生観も似ちゃったんでしょうね。死んでも運が悪かったですませてしまいましたよ。あの人に全部を任せて運命をともにする覚悟が出来てましたから。まあ、生き残りましたけど」
懐かしいですね。まだそれほど時間は経っていないのですが。年は取りたくないですね。
「あの、副長とは付き合いが長いんでしょうか?」
「3ヶ月と言ったところでしょうか」
「3ヶ月で」
「最初は何となく似ているなと思っていたのですが、似ている部分が分かってからはそこらのコンビやオシドリ夫婦なんて目じゃないぐらいに息が合いましてね」
「はあ、そうなんですか」
「そうですよ。元から相性が良いのもあるんでしょうが」
「そんな人、出会えたらいいなぁ~」
「昔は数が多かったので可能性はあったのでしょうが、今は厳しいでしょうね。多少の妥協をするしかないでしょうね。もしくはヤマト内に良い人も出来るでしょう」
「ですね。そう言えば副長、一番若い世代に人気みたいですよ。補佐は逆に上の方の世代にですね」
「なんですか、それは?」
「副長は厳しいけど優しく導いて守ってくれそうで、補佐は逆にどんな無茶にも付き合って支えてくれそうで、女の子達の間で人気なんです」
「それは幻想ですね。表面から見ていないからそういう評価になるんです」
「はい?」
「私達の本質は自分勝手ですよ。自分が守りたいから守る。自分が支えたいから支える。やりたいことのためならなんだって掛け金として乗せることが出来る。偶々私達が正の方を向いていただけです。絶対に後悔することになる。人生を投げ捨てている者同士だからパートナーとなれるんです」
「人生を投げ捨てている」
「私も副長もね、本気で死ぬのが怖くない。死ぬ直前になっても、ああ死ぬのかで終わりますね。だから爆装コスモファルコンなんて物で曲芸飛行なんて出来るんですよ」
映像を見せてもらったけど、いくら何でもあんな爆装で曲芸はしたくない。まあ、副長も私の操艦の映像を見て乗りたくないと言っていましたけど。
「何か報告は?」
副長がブリッジに上がってきたようですね。おや、時間にはまだ早いですね。
「おや、副長。交代時間には早いですが」
「エンジンの不調で目が覚めた。やることがありすぎて酒を飲む暇すらない」
「ご愁傷様です。報告ですが、エンケラドゥスの南極付近から救難信号を受信しました。シーガルは現在準備中です」
「古代君、森君、原田君、アナライザーを選抜して送れ」
「了解しました」
「甲板科の準備はできているな」
「道具の準備は完了しています」
「なら問題はないな。エンケラドゥスまでは後半日だったな。少し早いが引き継ごう。大分無理をさせているしな」
「ならお言葉に甘えて休ませてもらいます」
「おう、ゆっくり休め」
「これがエンケラドゥスか」
「なんだか割れた鏡餅みたいだな」
「周りの衛星の潮汐力によって間欠泉が起こり、あのような形になっているんだよ」
「森君、これってライブ映像?」
「そうですが、どうかされましたか?」
「いや、何か動いた気がしてな」
「レーダーには特に反応はありません」
「映像ヲ解析シマシタガ問題ハ見当タリマセンデシタ」
「気のせいか。変なことを言ったな」
「副長、資源の採掘は副長がいなくても大丈夫だ。休みたまえ」
「……そうですね。すみませんが休ませていただきます。技師長、積み込みにはどれぐらい時間がかかる?」
「コスモナイトだけなら4時間程度、他にも有用な鉱物を満載するなら半日と見ています」
「満載しておこう。ワープと波動砲のテストだけでこれなんだ。物資は多い方がいい」
「了解しました」
「頼むよ」
ブリッジから出て、医務室に向かう。
「佐渡先生」
「お~う、永井君じゃないか、またビタミン注射か?」
「いえ、こっちのお誘いで」
引っ掛ける仕草で全部が伝わる。
「そうか、そうか、最近飲んどらんのじゃろう?」
「まあ、責任重大ですからね。ひよっこ共を一人前に仕立て上げないといけないので。オレ自身も色々勉強しないといけないので。おっと、ありがとうございます。どうぞ、返盃です」
盃を受取、注がれた分を一気に飲み干して返盃する。
「うんうん、相変わらず良い飲みっぷりじゃのう」
「人生の相棒ですからね」
そのままスルメと最近の出来事をつまみに酒を飲んでいると爆発の揺れを感じる。すぐさまお馴染みのアルコール分解酵素入りの栄養ドリンクを飲みブリッジ、ではなくコスモゼロの格納庫に走る。途中のロッカールームでメットを回収して格納庫に入り、2号機に駆け寄る。飛び乗ってS.I.Dを立ち上げ発進準備を整える。そうしている間に航空隊の常装を着た誰かが格納庫に現れる。体格から見て女だが、航空隊に女はいない。ご丁寧にバイザーを下ろして顔を隠しているが今は気にしないでいてやろう。
「そこのお前、こいつはじゃじゃ馬だ。自信はあるのか?」
その問いに首を縦に振るので2号機から降りる。
「こっちは一切の調整をやってない。1号機は古代君が調整しているからそっちはオレが乗る。許可はこっちで取ってやるから準備していろ」
1号機に駆け乗りS.I.Dの起動とブリッジに通信を入れる。
「こちらサーカス1、副長の永井だ。状況を知らせろ」
『副長!?何をなさってるんですか』
「採掘班の収容のためにハヤブサを下ろせない上に砲撃も出来ないんだろう。ゼロを2機とも出す」
『ですが、えっ、はい、本艦周辺に戦車隊と揚陸母艦が確認されています。また、メディックも襲撃を受けています』
「了解した。サーカス1は本艦の直掩に当たる。アルファ2、お前はメディックの救援だ」
発進準備が整ったのでカタパルトへと移動させる。アルファ2も同様にカタパルトに引き出される。
「アルファ2、お前が航空隊の者ではないことは分かってる。それでもなお、そいつに乗るんだ。きっちり仕事をして見せろ、そうすればそいつはお前の乗機だ。サーカス1、コスモゼロで出るぞ!!」
カタパルトに押し出され、久しぶりに空を舞う。コスモファルコンに比べて若干重いが、爆装ファルコンよりは軽くて力強い。中々良い機体だ。ミサイルは積んでないから機銃だけで対処する必要があるが、いつもどおりだよっと!!
S.I.Dのサポートを切って、機体の各部のスラスターをバラバラに吹かせてゼロを真下を向かせてスライドしながら戦車隊に機銃を叩き込んでいく。
「イヤッホウー!!」
戦車隊が全滅した所で今度は地面スレスレを飛行して揚陸母艦の真下に潜り込み、機種を跳ね上げて艦底部に機銃を叩き込む。格納庫部分を貫通した弾が内部で燃料に引火したらしく誘爆が艦全体に広がる。やがて爆沈し、その爆風を受けて空高く舞い上がる。
「こちらサーカス1、全目標の沈黙を確認。ヤマト上空にて待機する」
『こちらヤマト、了解』
いやぁ、久しぶりに実践で飛んだが、腕は鈍っていないようで安心した。たまには飛ばないとな。
『こちらヤマト、メディックの救援も間に合ったようです。シーガルは大破してしまった模様。新たに迎えのシーガルを出すのでそれの護衛をお願いします』
「サーカス1、了解。そう言えば、救難信号を発信していた艦は何か判明したのか」
『まだ判明していません』
「分かったら知らせてくれ」
『分かりました』
確立は低いだろうが、メ号作戦に参加していた艦の可能性があるからな。生存者はいないだろうが、それでもな。そして、シーガルの護衛として向かった先にあったのは、メ号作戦の殿を務めた駆逐艦ユキカゼだった。無駄だとは分かっている。だが、確認しなければならない。古代君へと通信をつなぐ。
「古代君、生存者は?」
『……ありません』
「そうか。ご苦労だった。これより帰投する」
『……了解』
朽ち果てたユキカゼに敬礼を送り、ヤマトへと帰投する。帰投後、アルファ2のパイロットを確認し、2号機の専属にするために加藤君に声をかけようと思っていたのだが、篠原君と共に格納庫にいた。
「出迎えご苦労、加藤君」
「相変わらずの曲芸技ですね、副長」
「腕は鈍っていないようでよかったよ。良い機体だが、コスモファルコンとは合わせられないな。ゼロ同士か、単独運用が基本になる。余らせているのも勿体無いからあいつを専属にさせるぞ。古代君から良い腕だと言われていたし、ちょっと調整してやれば乗りこなしてくれるだろうからな」
そんな話をしていると2号機が格納庫に戻ってくる。
「お前、心あたりがあるんだろう?」
「……ええ」
「余裕はないんだ。全力を尽くせ」
「ですが、あいつは」
「まあまあ、隊長。副長のお言葉は最もですから」
2号機からパイロットが降りてくる。
「ヘルメットを取って官姓名を名乗って」
ヘルメットを取って素顔を晒したのは火星生まれの特徴である紅瞳を持つ褐色肌の女だった。
「主計科、山本玲三尉です」
「主計科ね。後で平井君の所に航空科に転属することを説明すること。約束通り乗機は2号機でコールサインはアルファ2だ」
「ありがとうございます」
「あと、実際の腕を見てみたいからシュミレーションに付き合ってもらう」
「はい」
「加藤君、そういうわけだ。あとは頼む。書類は全部オレの方に回してくれ。艦長にはオレの方から報告しておく」
「……了解しました」
「あと、こいつを戻しておいてくれ。艦長に報告に行ってくる」
ヘルメットを篠原君に投げ渡して古代君に合流して艦長室に向かう。オレは黙って隣に立っておく。報告は古代君がする必要があるからな。艦長は背中を向けたまま報告を促す。
「報告します。救難信号を発していたのはメ号作戦に参加していたユキカゼのものでした」
「生存者は?」
「……ありません」
「……そうか」
そのまま暫くの間、艦長は何も話さない。
「地球を、ユキカゼのようにはしたくないな」
「「はい」」
ちょうど、次の採掘場に向かうコース上にユキカゼの残骸があり、ちょうど上空に差し掛かる。オレ達は何も言わずに敬礼を捧げる。
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