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ユキアンのネタ倉庫

作者:ユキアン
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宇宙戦艦ヤマト2199 元爆撃機乗りの副長 2




「これがヤマトの艦橋ねぇ」

「フソウに比べるとかなり広いですね」

「まあ、フソウが老朽艦なのも原因だろうな。コンゴウ型より前の艦だからな。最初に配属を聞いた時はオレを殺そうとしているのかと思ったわ」

「たぶん、搭乗員の皆がそうですよ。まあ、なんとか生き残れましたけどね」

「皆で頑張ったからな。それにしても、航海科だったんだな、瀬川君」

「操艦が荒いことで有名でしたから。それでも生き残ったということでフソウに経験者として配属されましたから」

「よく生き残ったものだな。爆撃機乗りの艦長と操艦の荒い副長で」

「頑張りました」

そんな風に話しながら各席のコンソールを見て回る。

「おっ、電影クロスゲージとトリガーがあるってことは艦首砲も積んでるんだな」

「他の席も見て回りましたが全部最新式ですね」

「あら?誰か先に来ているの?」

副長以外の声が聞こえたのでエレベーターの方に顔を向ける。そこには黄色地に黒のラインの艦内常装を着た女性がいた。

「おう、お先。永井大樹一等宙佐だ。この艦の副長を務める。あと、航空科所属だ」

「航海科には所属していますが、実質は副長補佐の瀬川優樹三等宙佐です」

「し、失礼しました。船務科所属主任レーダー手、森雪一等宙尉です」

慌てて敬礼をする森君に笑う。

「気にするな。これから命を預ける物がどんなものか気になって寝れなかったんだよ」

「それに付き合わされているだけです。よろしく、森一尉」

「はい、よろしくお願いします」

「戦闘中、会議中、あとは報告の時以外はフランクで構わんぞ。長い付き合いになるんだ。もう少し肩の力を抜いておけ」

「は、はぁ」

「副長は普段はこんな感じですので。戦闘中はまともになりますので安心して大丈夫ですよ。地味に沖田司令に次ぐ戦果を上げている人なので」

「えっ、オレってそんなに戦果をあげてるのか?」

ぶっちゃけ撃墜マークとか興味がなかったからな。というか、戦闘機を落としたことがないな。対艦攻撃ばっかりやってたし。

「正確に言うと、戦果を上げて生き残っているという意味です。なんで戦時中登用で三尉から一佐まで上り詰めてるんですか」

「頑張ったからな」

「頑張りましたね。私もメ号作戦で1階級、今回の副長補佐の件に合わせてもう1階級上がってますけど」

「オレ、1階級しか上がってないのに?」

「あの許可証の分でしょう?たぶん」

「あれは見事にやられたな。O.M.C.Sで酒が造れるなら許可なんて貰う必要がなかったな」

「絶対狙ってやられましたよ」

「くっ、さすがは歴戦の勇将。ひよっこのオレとは大違いか」

畜生、許可証じゃなくて階級だったら准将。イスカンダルまで行って帰って来れば宙将だったか。ちぇっ、准将から宙将になれば年金も退役金も跳ね上がるのに。帰ってきてもしばらくは軍人生活か。そんなふうにグダグダしているとまた一人、ブリッジ要員が現れる。

「艦長は何処に?」

あ~、完全に余裕が無い目をしてやがるな。メンタルに注意しておかないといけないな。

「艦長なら上の艦長室にいるよ。何か用があるなら時間があるうちに済ませておけ」

そう告げると何も言わずに艦長室へと上がる階段に向かう。

「良いんですか、あれ?」

「実戦経験の無い奴によく見られる光景だ。一々怒ってられないな。それに、人間味があって良いじゃないか」

「年寄りくさいですよ、副長」

「実際航空科の中じゃ、年寄りだよ瀬川君」

航空科の中じゃあ、オレより年上なんていないぞ。

「お二人とも随分と余裕なんですね。不安はないんですか?」

「上が動揺すると下にも伝播するだろう?まあ、あまり長いこと戦場にいるせいで擦り切れたのかもしれないがな。不安といえばO.M.C.Sの酒の味がどんなものかぐらいだな」

「私は副長のことを信頼していますから。死んだら、まあ、運がなかったと諦めますよ。メ号作戦でフソウに乗っていた者は大体そう思っているはずですよ。不安は副長の将来設計ですかね?貯金とか資産とか全部つぎ込んで酒をどこからともかく買い込んできましたから」

「航海に不安はないんですか」

「「なるようにしかならん」なりませんね」

オレと瀬川君の言葉に唖然とする森君。土方宙将にも言われたけど、この死生観はやっぱりおかしいのかね?それからしばらくして航海長の島君や通信士の相原君がやってくる。そして先程よりはマシな顔つきになった古代君が降りてきた。

「あの、先程は失礼しました。戦術長を務めます古代進一等宙尉です」

「気にするな。各セクションのリーダーに新人が多いが、艦長やオレみたいなベテランに、補佐の瀬川君みたいに修羅場をくぐり抜けたのもいる。不安とか色々あるだろうが、すぐに相談しろ。おっと、自己紹介がまだだったな、副長の永井大樹一等宙佐だ。よろしく」

「よろしくお願いします」

「戦闘時は大まかな指示は飛ばすから細かい部分を詰めてくれ。それと量産が間に合わなかったコスモゼロの試作機が2機回されてきている。1号機の方は君が使うと良い。2号機は予備機として置いておく」

「分かりました。ところで気になったのですが、航空科の常装ですよね」

「元は航空科所属だったんだがな。土方宙将に無理矢理艦長職に回されて、今度は副長に回されたんだよ。職権乱用でハヤブサの予備機にオレの改造ハヤブサを突っ込んだがな。本当に追い詰められたらオレも飛ぶことになるだろうよ」

「改造ハヤブサ、噂に聞く爆装のコスモファルコンのことですか?」

「そう、今回ので5代目になる。初代から4代目までは全部被弾後に爆弾代わりにぶつけたから残ってない」

「4回も!?どれだけ昔から飛んでいるんですか」

「初陣が第二次火星海戦だったな」

「ということは、元から軍人だったわけではないのですか?」

「そうだ。元はスタントパイロットだったんだがな。人手不足で即席の講習だけで戦地に送られたんだよ。まあ、なんとか生き残って、その後も色んな戦場に送り込まれてな。3ヶ月前にメ号作戦に参戦する戦艦フソウの艦長に任命されて、そこでも生き残ったんだよ」

「フソウの、ということは兄さんと同じ戦場に」

「何?あの戦場に君の兄がいたのか?」

「駆逐艦ユキカゼの艦長としてメ号作戦に」

「そうか、ユキカゼの艦長だったのか。出来る限りの援護をしてやったが、それがどれだけの助けになったのかは分からん」

「兄は、副長から見てどんな人でしたか?」

「顔を見たこともないし、話をしたこともない。だがな、人数の少ない駆逐艦の艦長とは言え、最後まで戦場に残ることに誰もが文句を言わなかったんだろうな。そうじゃなかったらあそこまでの操艦なんて出来なかったはずだ。それだけの魅力あふれる男だ。出来れば、共にイスカンダルに向かいたかったよ」

「……ありがとうございます」

そして次々とブリッジ要員が現れ、全員が揃った所で挨拶を行う。

「オレがヤマト副長の永井大樹一等宙佐だ。これからオレ達は前代未聞の33万6000光年の航海に出る。新人や実践が初めての者も多く、不安なこともあるだろうがオレや艦長のようなベテランもいる。溜め込まずに年上を頼れ。若者は大人を食い物にしてのし上がることを考えればいい」

「航海科所属副長補佐の瀬川優樹です。副長がこんな感じで不安を感じるでしょうが、戦闘になれば信頼できますから安心して構いませんよ。副長の扱いに困った時は私に言ってください」

「挨拶はこんなものだな。それでは各自出航に向けて最終確認を行え」

各員が出航に向けての最終確認を行う中、オレも各班から上がってきた報告に目を通す。弾薬に装甲材が若干少ないように感じるな。特に煙突ミサイルが少ないな。その分、ハヤブサのミサイルと三式融合弾はたっぷりある。装甲材は、ああ、地球に在庫がないのか。太陽系内の採掘場に寄って補給しとかないとまずいな。早めに気づいておいてよかった。予定搭乗者は全員乗っているな。フソウの3倍近い乗員か。何人連れて帰ってこれるかな?出来るだけ多く連れ帰ってやりたい。おっ、艦長がって、席ごと降りてくるのかよ。無駄にカッコイイな。保安科?まあ、これだけの人数で長い航海を行うんだ。必要になるときもあるのだろう。ただ、このリーダーの顔が少し引っかかる。何処かで見たことがあるような?瀬川君に軽く調べてもらおう。エンジンは、まだ電力が足りないか。まあ、オレの日頃の行いが良いからなんとかなるだろうさ。

「司令部からの伝令です!!惑星間弾道ミサイルの接近を確認。目標は、本艦です!!」

まだ発進準備が完了していない中、惑星間弾道ミサイルの接近に艦橋の者達が焦りと苛立ちで騒がしくなる。艦長の方に顔を向けると目だけで指示が飛ぶ。オレにこの場を抑えてみせろと。土方宙将の推薦とは言え、沖田司令はオレがどういう人物なのかを完璧には把握していないからな。まあ、当たり前だろう。瀬川君に視線を向ければ、既に艦内放送の準備を行ってくれていた。そしてマイクを受取り、回線を開く。

「諸君、私は宇宙戦艦ヤマト副長の永井だ。現在、本艦は動くことも攻撃することも出来ない状況で、ガミラスからの惑星間弾道ミサイルに狙われている。これを聞いて焦る気持ちはわかるが、落ち着け。焦った所でどうにかなるか?ならないだろう。では、どうする?簡単だ。自分のなすべきことをなせばいい。もし奇跡が起こり、発進が間に合ったとしよう。今の状態で素早く発進し、迎撃が出来るかどうかを考えてほしい。どうだ?出来るか?出来ないのなら出来るようにしろ。安心しろ。どうせいつか人は死ぬ。天運に見放されて死ぬか、自分たちの間抜けで死ぬか、どっちが良い。諸君が選んで動け」

艦内放送を切り、ブリッジ要員に指示を飛ばす。

「航海長、機関長、いつでも飛ばせるようにしておけ。飛び立った後は右舷を惑星間弾道ミサイルに向けろ。戦術長、砲雷長、外すことはないだろうが迎撃の心構えをしていろ。技師長、波動防壁の展開準備を忘れるな。ぶっつけ本番だが、ぶっつけ本番にならないのは航空隊だけだ。通信士、司令部からの通信回線は君の判断で全員に聞こえるようにしろ。手が空いたら祈ってろ。こういう場合はどの神様に祈れば良いんだろうな?」

「さあ?いつも通り運命を司る神か、地球の繁栄を祈願して五穀豊穣の神でしょうか?」

「意外と縁結びの神様が良いかもしれんな」

瀬川君とフソウに乗っていた頃のように軽口の叩き合いをしていると大きな音を立てて砲雷長が立ち上がる。

「ふざけている場合ですか!!」

「砲雷長の南部君だったか。仕事は終わったのか?」

「何を悠長なことを!!なんとかしないと僕達もこのヤマトごと吹き飛ばされるんですよ!!」

「だから今できる最善の指示は出しただろう」

「百歩譲ってその意見には賛同しますよ。ですが最後が神頼み?そんなものでどうにかなると」

「エネルギー急速にチャージされていきます!!」

機関長の徳川さんの声に南部君が唖然とする。

「神頼みも馬鹿にならんだろう?特に今回は縁結びの神様のおかげだな」

「何が起こっているんだ?」

古代君が手を動かしながら疑問を口にする。それに相原君が答える。

「世界中から電力が送られてきているようです。それから、副長に世界各国の防空隊から通信です」

「メインパネルに投影しろ」

メインパネルに現れたのはオレと共に空を飛び、ガミラスと戦りあってきた戦友たちだ。

『よう禿鷹。お前さんが陸で死ぬかもしれないと聞いてな、渋っていたお偉いさん共をぶん殴って、暴動を起こそうとしていた民間人を説得して、そっちに電力を送ってやったぜ』

『こっちも似たようなもんだ。まあ、秘蔵のコレクションを賄賂にな』

『こっちはババア相手にデートだぜ。ったく、帰ってきたら浴びるほどの酒を飲ませろよ』

全員が笑いながら報告してくれる。本当に気のいい奴らばっかりだな。

「おうよ、全員招待して朝から晩まで酒宴を開いてやるよ。だから、辛いだろうが、意地でも生き残ってくれ。絶対にオレ達は地球を救ってみせる。地球を守れるのは、もうお前たちしか残っていない」

『当たり前よ。お前が鍛え上げてくれた腕で留守を守っていてやるよ。だから、そっちも生きて帰ってこいよ』

『嫁と子供も、いや、皆がお前たちという希望に期待してるんだ』

『頑張ってくれ、ヤマト!!』

『また、綺麗なあの空を!!』

『頑張れ!!』

『まけるなよ!!』

『ずっと待ってるからな!!』

メインパネルに通信長が追加で一般市民の応援の映像を次々と投影していく。そんな中、待ち望んだ瞬間が訪れる。

「波動エンジン始動、フライホイール接続。回転率、96、100」

「エネルギー伝達を確認。いつでも行けます!!」

「南部、とっとと席に座れ!!発進準備、最終確認!!」

「はっ、はい!!」

「確認完了しています」

南部が瀬川君が状況を報告してくれる。よしよし、間に合ったな。

「艦長、発進準備整いました」

「うむ、抜錨と共に擬装解除!!」

「抜錨!!」

地面に埋まっている状態から抜け出すために結構な揺れを感じる中、追加で指示を飛ばす。

「島、右舷を惑星間弾道ミサイルに対して垂直に向けろ!!古代、南部、擬装解除終了と共に全主砲副砲照準、弾種は衝撃砲だ!!真田、発射と同時に波動防壁を展開しろ!!」

「取舵四十」

「測距終了、自動追尾完了しました」

「ショックカノン、エネルギー充填完了しました」

「波動防壁、いつでも展開可能です」

「艦長!!」

「撃ち方始めい!!」

「てええ!!」

全15門からショックカノンが放たれ、惑星間弾道ミサイルが爆発する。

「波動防壁展開!!」

波動防壁が張られ、船体へのダメージはないようだが揺れが酷いな。

「真田、防壁の消耗率は?」

「右舷部分の損耗が激しく、平均して43%の消耗です。逆に左舷側の損耗は右舷側に回した13%の消耗で済んでいます」

「データは詳しく取っておけ。後で解析して更なる更新を期待する。他に被害はあるか?」

「先程の揺れで頭をぶつけて気を失ったものが1名、医務室へ運ばれました」

「他にもいるはずだ。恥ずかしがらずに手当を受けさせろ。他に被害がなければ報告はあるか」

「先程のショックカノンですが収束が甘かったようです。何分、テストが出来ていませんでしたから」

「それは調整できるのか?」

「プログラム的なことですので何度かテストを行えれば今日中には修正可能です」

「早速取りかかれ。なお、その際のデータは記録しておくように。ヤマトはテスト航海を一切行っていない艦だ。最適化を行いながら進む必要がある。少しでも違和感があれば報告して改善を行うように。戦闘態勢から警戒態勢に移行」

やれやれ、とりあえずは一つの難関を潜り抜けたな。副長席に身体を深く沈み込ませて、ヤマトの性能に舌を巻く。この艦が、いや、これの量産艦でも良い。それが開戦初期からあれば、もう少し違った未来があったはずだ。だが、この艦も完璧ではない。経験を積んで成長させなければな。

「艦長、司令部より通信です」

長官か、参謀か。長官はともかく参謀とは話が合わないからな。酒を積み込む時に揉めたしな。艦長に丸投げしよう。

「繋げ」

『おおっ、無事だったか沖田君』

「ええ、聞かされていた以上に副長がやってくれました。これで私の不安はなくなりました」

やっぱり不安に思っていたか。まあ、そうだよな。メ号作戦の時も一番損耗が少なかったからな。逃げ回っていたのではと思われても仕方ない。

「このまま本艦は予定を繰り上げてイスカンダルへと向かいます」

『だが、急な発進で最終調整もまだのはず』

「物資の積み込みは完了している。細かい調整が終わってはいないが、このまま本艦が地球に留まれば、再び惑星間弾道ミサイルに狙われるやもしれん。だからこそ、ヤマトは行かねばならない」

『そうか。そこまで言うのならこれ以上引き止めはしない。無事に任務を果たしてくれ』

「了解した」

「島君、このまま大気圏離脱だ。安定翼展開、上げ舵三十」

「安定翼展開、上げ舵三十、ヨーソロー」

そして宇宙まで上がるのだが、速いな。フソウとは大違いだ。

「戦艦キリシマより通信です」

「土方宙将か。繋いで」

『どうやら無事なようだな、沖田、永井』

「フソウより良い艦ですよ、宙将。それから一言良いですか?」

『言いたいことは分かっているから答えを返そう。黙っておかねばお前は任務を終えた後に退役するつもりだっただろう。楽になどさせるものか』

「ちくしょう、やっぱり嵌められてたのか!!」

『そういうことだ。私はお前の能力を高く評価しているが、私生活の態度や性格に関してはあまり良い評価はしとらん』

「ぐうぅ、言い返せない。まあ、期待されてる分の仕事はしますよ。地球にはまだまだ滅んでほしくないですし、軍人のままで死ぬつもりもありませんから」

『うむ、任せたぞ』

「はっ!!」

席から立ち上がり土方宙将に敬礼を送る。

『沖田、言いたいことは色々ある。だが、無理だけはするな。永井は私生活と軽い時に目を瞑れば優秀な男だ』

「ああ、先程も見させてもらった。肝も据わっておるし、余裕もある。安心して指揮を任せられる」

『仕事を押し付けなければ働かん男だからな、色々と回してやれ』

「失礼な。航空科の時ならともかく、多くの部下の命を預かっているんですから色々やってますよ」

『そうか。なら、その上で働け』

「働きますとも。多くの者を生きて帰らせるために」

「頼むよ、副長」

「なら、意見具申。太陽系離脱までの航海プランを提示します」

「いつの間にそんなものを?」

「昨夜には既に。若干の修正も既に終わっています」

『いつもこれなら良いのだがな。沖田、永井をこき使って無事に帰ってこいよ』

「ああ、行ってくるよ」

通信が切れ、沖田艦長の指示を待つ。

「これより、ヤマトはイスカンダルへの航海に出る。総員の奮闘に期待する!!」

「ヤマト、発進!!最初の目標は火星だ」

「了解!!ヤマト、巡航速度で火星を目指します」

さあて、一人でも多く、一秒でも早く、33万6000光年の旅から連れ帰ってやるか。










ある程度地球から離れた所で各セクションのリーダーが中央作戦室に集められた。本来なら艦長が議長を務めるのだが、今回はオレに一任されている。航海プランなんかの作成を行ったからだと思われる。あと、土方宙将にこき使えと言われたからな。それに、現在ヤマトは瀬川君が指揮を取っている。補佐としての瀬川君の実力の確認だろうな。

「まずはこれが太陽系離脱までの航海プランだ。仮の物であるためこれをたたき台にするつもりで意見を出してほしい」

足元のモニターに簡単な星系図を表示し、航路を矢印で表示する。

「地球から火星、天王星、そして冥王星を通るコースか。副長、この火星と天王星の間の矢印が違うのは?」

航海長としては気になるところだろう。

「そこが今回の航海で重要な部分だ。今回の航海は光の速さで進んだとしても往復で33万6000年の時間がかかってしまう。普通に考えれば不可能な航海であることが分かるだろう。それを可能にするのがワープ航法だ。詳細は知らん。そもそも本当にワープ航法が可能かどうかも知らん」

「じゃあ、どうやってこのプランを考えたんですか?」

「上がやれると考えてヤマト計画が発令した以上、やれそうなことを全部考えた結果がワープだっただけだ。と言うか、オレはこのヤマト計画を知ったのは三日前なんだよ。詳しいことは一切知らん。今無理やり覚えてる途中なんだよ。技師長、どうなんだ?」

「副長の仰る通り、このヤマトはイスカンダルからの技術供与によって人類史上初のワープ航法が可能となっている」

「理論なんかは置いておいて、簡単に説明してくれ。何か制約などはあるか?」

「できるだけ簡単というと、このワープは宇宙にトンネルを開けるようなものだと思ってほしい。入口と出口とトンネル本体を作って通る。トンネルは実際の距離よりも短い物だ。これが基本だと思ってほしい。そのトンネルを作るには邪魔なものがあると作れない」

「つまりは障害物があると困るわけだな?ガス程度は?」

「ガス程度なら問題ありません。ただ、タイミングがずれると宇宙全体を吹き飛ばす結果になるかもしれません」

「だとよ、航海長。宇宙の全生命の命が君に託された」

「オレが……」

「あまり気にするな。そこまで難しくもないはずだ。技師長、そのあたりは?」

「こちらでも計算もするし、コンピューターでも補佐を行う。実際のところプラスマイナス2秒ほどなら問題はない。そこまで緊張しなくても大丈夫だ航海長。なんならシミュレーションも用意してあるから練習してみると良い」

「ありがとうございます、技師長」

「なら、航路的にはこいつでいいな。と言いたかったんだがな、少しだけ問題がある。ヤマトは物資を満載していると言ったが少し語弊がある。地球にある物資は積んであるんだが、地球に在庫が少ない物もある。そのために装甲材やパーツを途中で回収する必要がある。特にエンジン周りのパーツはあればあるだけ良いはずだ。そのため、土星の衛星のエンケラドゥスに立ち寄る必要がある」

「だとしたら、ワープ先は天王星から木星へ変更して、その後、通常航行でエンケラドゥス行きでしょうね」

島君がそう言うならそれが良いのだろう。方針だけを決めて専門家に丸投げするのが正しいはずだ。

「他に意見はあるか?無いようなら、火星に到着するまでに各機能の点検と調整、航空隊は発艦・着艦の確認を行う。先に伝達しておきたいものはあるか?」

技術科の常装を着た女性が手を挙げる。それに対して首を縦に振って答える。

「技術科情報長の新見です。我々は波動エンジンの莫大なエネルギーを攻撃用に転用する兵器の開発に成功しました。次元波動爆縮放射器、私達は便宜上波動砲と呼んでいます」

「艦首砲のことか?」

「そうです。簡単に説明しますと、このヤマト自身を大砲代わりに使う兵器です。ただ、試射が出来ていない状況です」

「こいつの試射も何処かでやらないとな。誤爆の心配はない?」

「それは大丈夫ですが、一射ごとに砲身の点検はした方が良いかもしれません。何分、データが少ないので」

「修理がまだ容易な太陽圏内で試しておいたほうが良いな。手頃な標的を探しておいて」

「分かりました」

「他には?」

古代君が手を上げるので顔を縦に振る。

「冥王星を通るコースですが、目的は何でしょうか?」

「戦術長、冥王星には何がある?」

「ガミラスの前線基地です。叩くのですか?」

「叩く。ヤマトの任務は何だ?地球のもとに戻すための装置をイスカンダルに取りに行くことだ。だが、その前に地球に残った人類を滅ぼされてしまっては意味がない。中破・大破した艦しか地球には残っていないんだ。冥王星にいる艦隊に攻め込まれれば、地球に為す術は残されていない。この旅の中でここだけは確実に潰さなければならない。遊星爆弾もここから発射されているからな。これ以上、汚染を広げないために冥王星のガミラス基地は確実に破壊する。とは言え、プランはまだなんだよな。戦術長、ある程度のたたき台を作ってから君に回す。それを元にメ2号作戦のプランを立案するんだ」

「僕がですか?」

「オレが全部まとめるとオレの処理能力がパンクする。それにオレは爆撃機乗りの専門家だ。たたき台しか作ってやれん。やれるな?」

「はい!!」

「他に質問なんかは?ないようだな。では、異常がなければ0600より通常態勢から戦闘態勢、戦闘機動、艦載機発艦、全砲門の射撃、弾種換装・再装填、警戒態勢への移行、艦載機哨戒、艦載機着艦、通常態勢への移行。0800にワープの実験を行う。不測の事態に備えて0550には全員船外服を着用を原則とする。加藤君、オレのハヤブサも爆装しといてくれ。それから艦載機哨戒には古代君、君もゼロでの訓練を行うように。南部君、その間は君が古代君の交代要員だ。南部君の代わりは北野君だったかな?彼に艦橋に上がるように伝えておいて」

「「「了解」」」

「副長、火星自体には0145には到着しますが」

島君がそう言うが少しは落ち着け。

「点検と調整を考えて0800だ。多少の余裕は見ておいたほうが良い。急ぐ旅ではあるが、急ぎすぎて転ぶとひどい目にあうぞ。あと、技師長、ワープと波動砲の技術書を読ませてくれ。ヤマトが出来ることを全部覚えるから。出来れば用語の辞書も頼む」

「技術書はともかく、辞書の方は用意に時間がかかるので技術科の者を付けますので解析室へお越しください」

「頼むよ。それでは散会」

中央作戦室から皆が出ていく中、南部君がオレの方にやってくる。

「あの、副長、少し時間を頂いてもよろしいですか?」

「構わないよ。場所は変えたほうが良いか?」

「いえ、大丈夫です。その、発進の時は焦って色々と酷いことを言ってしまい、本当に申し訳ありませんでした!!」

そう言って頭を下げる南部君の肩を軽く叩いてやる。

「気にするな。前歴を見たが制服組、司令室付きで実践は初めてだったんだろう?」

「は、はい」

「初めての実践があれじゃあ、焦る気持ちも分かる。皆内心では焦っていたはずだ。南部君が口に出さなければ古代君辺りが代わりに口を出していたはずだ。これから成長する機会はいくらでもある。落ち着いて足場を固めて一歩ずつ歩いていけばいい」

「はい!!」

「うむ、それじゃあ主砲の収束の件、頑張ってくれ」

「はい、失礼します!!」

駆け出していく南部君を見送り、艦橋に上がる。他のセクションのリーダー達は各部署に分かれたままなのだろう。オレが一番乗りで帰ってきたようだ。まずは艦長に今度の予定の最終確認を取らなければな。

「艦長、ブリーフィングが終了しました。火星到着予定は0145、各種点検・再調整を行い0600より慣熟訓練、その後0800よりワープの実験を行いたいと思います。なお、不測の事態に備えて、0550には総員船外服を着用します」

「慣熟訓練か」

「ぶっつけ本番は発進の時だけで十分です。主砲や防壁も完璧とは言えませんでした。実践が初めての者も多いので生存率を高めるためにはこの6時間は重要なものであると考えています」

「分かった、許可しよう」

「ありがとうございます。ワープ実験では当初のプランでは天王星までの予定でしたが、出航前に物資の積み込み状況を見たところ、地球での物資の不足から装甲材やエンジン周りのパーツの数が少ないと感じましたので土星の衛星のひとつであるエンケラドゥスの採掘基地の在庫を回収しようと思います。そのため、ワープで火星から木星へと向かい、その後通常航行でエンケラドゥスへと向かいます。当初のプラントとはプラス2日となりますが、こちらも任務の達成率を考えると許容範囲内と考えられます」

「うむ、たしかにこの任務は急がなければならないが途中で倒れることも許されないからな」

「はい、それにこういうものは多いほうがクルーの精神にも安心をもたらすことが出来ますから」

「そうだな。その後は?」

「冥王星に向かい、ガミラスの前線基地を壊滅させるメ2号作戦を開始します。我々は急がなければなりませんが、地球を敵がいつでも狙える状況にする訳にはいきません。地球艦隊は既に壊滅状態ですから」

「それだけか?」

「多少の私怨もありますが、大局的に見ても制圧は必要です」

「そちらも許可しよう。立案は誰がする?」

「たたき台は私が、詳しくは戦術長の古代に任せます。無論、最終確認はしますがほとんどそのまま通すつもりです。私は航空科の簡易講習を受けただけで、あとは独学ですので」

「なるほど、分かった。問題はないだろう」

「ありがとうございます。それから太陽系を抜けるまでに技術科から上がってきた艦首砲、波動砲と呼ばれる兵器の試射も行う予定です。そのための標的を現在新見君が捜索中です」

「標的が決まり次第テストしよう」

「了解です。ところで、瀬川君の指揮はどうでしょうか?」

瀬川君の指揮が拙いとオレの仕事が増えるんだが。

「緊急時のことは分からんが、通常の航海の指揮は問題ないだろう。君のように中々肝が座っておるよ」

「メ号作戦の戦闘中でも軽口が叩ける位には肝が座っていますよ。被弾後に化けて出るならガミラスか艦長の所に出ろってね。まあ、私も後輩の加藤、航空科隊長の加藤のことですが、あいつにお祓いさせるからガミラスの方に出ろとか言ってましたけど」

「あの戦いの中で、か」

「ええ、あの戦いの中で、です」

「酷い戦いだ。多くの者に囮という真実を隠し、犠牲にしてしまった」

「私も出来る限りのことはしましたが、勝ち目が薄いというのは辛いですね」

「そうだな。局所的ならなんとか出来たかもしれん。だが、こうまでやられるとな」

「このヤマトの主砲の斉射見た時も思いましたよ。せめてこの主砲が開戦当初から存在していればと。戦艦の主砲で敵艦橋に集中砲火でなんとか駆逐艦を落とすのが限界とか、完全爆装のハヤブサを最高速度でぶつけて巡洋艦が中破とかキツイを通り越してヒドイですから」

「そうなればもっと酷いことになっていたかもしれんがな」

「でしょうね。一体何処から間違っていたのか、おっと、すみません」

「いや、構わんよ。私も考えたことがある。あまり大きな声では言えないがな」

「ですね。あと、自分の人生でも思ったことがありますよ。スタントパイロットが戦闘機乗りまではわかりますけど、なんで副長なんてやってるんでしょうね」

「たしかにな。私も初めて見たよ。だが、十分才能はあるようだし、君の努力も知っている。これからも私を支えてほしい」

「了解です、艦長。土方宙将にも頼まれていますしね」

「そうだったな」

「では」

敬礼をして艦長席から離れて副長席に向かう。今は瀬川君が席に座っている。

「すまんがもう少しの間頼むぞ」

「ええ、任されました。副長が出撃している間は私が代わりですので」

「そんな機会は殆ど無いだろうがな。よっぽど切羽詰まった状況じゃないとな。念の為に積み込ませただけだし、飛ぶことは殆ど無いだろうな」

「トップエースがですか?」

「航空機1機ではやれることが限られてるからな。指揮の才能があるっていうのならヤマトの力を100%以上引き出してやることこそがオレの役割だ」

「そして私は副長の能力を100%以上引き出せるようにケツを蹴り上げろと」

「まあそうだが、もうちょっと言い方があるんじゃないのか?」

「土方宙将から別途任務を拝命していますので」

「これだから勘の良い奴は嫌いなんだよ」

「ご愁傷様です」

「解析室に行ってくる。0530には戻る」

「了解しました」

艦橋から退出し、解析室に向かい真田君から資料を受け取って助手の紹介を受けた後にちょっとした頼み事を2つほどしておいた。仕事を増やしてすまないと思うが、これも生存率を上げるために必要なことだ。それから技術科の佐野君から解説を受けながら知識を叩き込む。なんとか知識を詰め込んだが、使い勝手はさっぱりだから早く試しておかないとな。医務室に寄ってキツめの栄養ドリンク飲んでビタミンの注射を受けてから船外服を着用して艦橋に上がる。時間は0520だ。瀬川君と交代して、副長席に座る。各セクションのリーダーから報告が上がっているのでそれを読んで問題は発生していないことを確認する。

「副長、0550になりました」

戻ってきていた瀬川君が声をかけてきたのでPDAから顔を上げる。

「おう、艦内放送を」

「準備できています」

「ありがとう。0550となった、総員船外服の着用は終わっているな?まだの者は急いで着用しろ。繰り返す、総員船外服を着用を終えているな?まだなら急げ!!」

本来ならこんな確認はしないんだけどな。はぁ、着用していないのが30人も居たか。しかも保安科の半数と、船務科の奴らかよ。これからの訓練に関係ないからと訓練中に着替えるつもりだったな。こいつらに重要な仕事は任せられんな。真田君に頼んで船外服のあるロッカールーム前の監視カメラから原則を守れない奴らがいるかを確認するために頼んでいたのだが、3%もいるとは。これからもっと酷いことになるのによ。

「っ!?レーダーに感あり!!8時の方向、距離28000宇宙キロ、数は3です!!」

「総員戦闘配置に付け!!島、最大船速!!」

さて、どこまで皆がやってくれるかな。瀬川君が表情には出していないが呆れているのが分かる。沖田艦長もオレの態度に違和感を感じたのか何も言わないでいてくれている。

「了解!!」

「第3主砲、第2副砲、発射用意始めます」

「ハヤブサを降ろせ!!」

「コスモファルコン全機発進!!編隊を組め!!」

「敵、3方向に分かれ追尾してきます。艦種特定、駆逐艦3です」

「ヤマトに近い順番に照準を合わせろ。砲撃のタイミングは古代に任せる」

「了解!!」

「島、このまま敵を背面に向かえたまま前方のアステロイド帯に突入するんだ。進路は任せる」

「了解、太田、周辺の航路図を回せ!!」

「今回します!!」

「コスモファルコン、発進します!!」

「編隊を組み終わった後、後方の一番遠方の敵艦へと向かえ」

時計を見れば発進可能報告が入るまでに二八〇秒、訓練を開始することを告げていたにも関わらず時間がかかりすぎだ。普通の航海中からの遭遇戦なら更に倍はかかると見たほうが良いな。航空隊を効果的に活用するには読みが必要になるか。

「敵艦、主砲射程内に入りました」

「測距終了、撃ち方始め」

主砲が発射され、レーダーから光点が消える。さて、誰か気づくか?

「敵艦撃沈しました」

誰も気づかないか。その後、駆逐艦が付かず離れずの速度でこちらを追って来ている状況が続き、それが終わったのが加藤からの通信だった。

『おい、どういうことだ。敵がいないぞ!?』

「加藤、そのまま帰還しろ。技師長、もういい」

真田君がスイッチを押すとレーダーから敵が消える。

「レーダー、反応が消えました」

「これは、一体?まさか」

全員がオレの方に顔を向ける。

「戦闘態勢解除。ヤマトは現在地で停止だ。その後、各セクションのリーダーは中央作戦室に集合せよ」

「副長、これはどういうことなんですか!!」

「戦術長、聞こえなかったか。戦闘態勢を解除。その後中央作戦室に集まれ。説明は全部そこでする」

ヤバイな。フソウの船員を引っ張ってきたかった。予想より練度が低いぞ。どうするかな~。


 
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