真田十勇士
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巻ノ五十九 甲斐姫その十
「ではです」
「何処までもお供致します」
「若し殿がお許し頂けぬのなら」
「その時はです」
二人は政宗に意を決した顔で言った。
「何があってもです」
「殿と伊達家をお守りします」
「ですから」
「我等も」
「御主等の命は捨てさせぬ」
確かな声でだ、政宗はその二人に言った。
「それならばわし一人でよいだろう」
「何を言われます、殿は伊達家の柱です」
政宗にだ、片倉は強い声で言った。
「ならばです」
「命を捨てさせぬか」
「はい」
まさにという返事だった。
「関白様が何を言われようとも」
「それがしも同じです」
成実は主に毅然として言った。
「殿には指一本です」
「触れさせぬか」
「はい」
こう答えるのだった。
「何があろうとも」
「そう言ってくれるか、しかしわし一人と御主達二人ではじゃ」
「我等の方がですか」
「そう言われますか」
「そうじゃ、そもそもわしは死ぬつもりはない」
笑ってだ、政宗は二人に告げた。
「傾くのは確かに死と表裏一体じゃがな」
「それでもですな」
「ただ傾くだけではない」
「そうだというのですな」
「まさに」
「そうじゃ、無駄死にはせぬ」
それが傾きだというのだ。
「死ぬのなら思いきり派手に散る」
「それがですな」
「傾きですな」
「そうじゃ、だからじゃ」
ここはというのだ。
「盛大にやるぞ」
「はい、それでは」
「生きる為にですな」
「殿は行かれる」
「そうなのですな」
「御主達はわしの晴れ舞台を見ておれ」
まさにというのだ。
「わかったな」
「はい、それでは」
「そうさせて頂きます」
「殿の一世一代の傾きをです」
「見せて頂きます」
「ではな」
政宗は笑って言う、そしてだった。
彼は二人にだ、こうも言った。
「ではな」
「では?」
「ではといいますと」
「飲むか」
酒をというのだ。
「明日に向けてな」
「祝杯ですか」
「前祝いですか」
「そうじゃ、酒を飲みな」
そしてというのだ。
「盛大に前祝いをしようぞ」
「三人で、ですな」
「そしてですな」
「祝いそして」
「明日に向かいますか」
「そうしようぞ、そして明日帰ればじゃ」
伊達家の本陣にというのだ。
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