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真田十勇士

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巻ノ五十九 甲斐姫その九

「兄上は」
「ははは、面白い者と聞けば会わずにはおれぬ」
「そしてご自身のものとせねばですな」
「気が済まぬ」
 笑って言うのだった。
「どうしてもな」
「では甲斐姫も」
「この戦が終われば会おう」
 是非にというのだ。
「甲斐姫ともな、してじゃ」
「はい、明日です」 
 秀長は兄にあらためて答えた。
「伊達殿が来られます」
「そうか、遂にか」
「この小田原まで」
「では会おうぞ、それも楽しみじゃ」
 政宗と会うこともとだ、やはり笑って言う秀吉だった。
「どの様な者かな」
「実にですな」
「うむ、そして気に入ればな」
 その時はというのだ。
「やはり欲しくなるであろうな」
「人ならばですな」
「流石に他人の女房には手を出さぬが」
 それでもというのだ。
「他人の亭主ならよかろう」
「そう言われてもどうかと思われますぞ」
「安心せよ、わしはそっちの趣味はない」
 秀吉は生来の武士ではなくそちらの道については関心がないのだ、だから信長の様な趣味はないのだ。
「あくまでおなごだけじゃ」
「そしておなごもですな」
「他人の妻には興味がない」
 全く、というのだ。
「そこは言っておく」
「そうですか」
「しかし甲斐姫も伊達政宗もじゃ」
 二人共、というのだ。
「会いたいのう」
「欲張りですな」
「欲は張ってこそじゃ」
 まさにというのだ。
「実るのじゃ」
「兄上の座右の銘の一つですな」
「そうじゃ、欲は思い切り持て」
「そしてその欲に向かってですな」
「ことを進めるのじゃ」
 それがいいというのだ。
「さすれば大願も成就するのじゃ」
「ですな、では」
「明日が楽しみじゃ」
 こう言ってだ、そしてだった。
 秀吉は甲斐姫の話を聞いて石田達に怒るのではなく甲斐姫の武勇に喜びそうして次の日政宗と会うことを楽しみにしていた。その政宗はというと。
 小田原城を見てだ、共にいる片倉小十郎と伊達成実に言っていた。
「明日にじゃ」
「まことにですか」
「その様にされますか」
「うむ」
 そうだとだ、彼は二人に答えた。見れば片倉は知的な美男子であり成実は端整な顔だ。政宗も非常に整った顔だが右目には眼帯がある。
「そうする」
「傾かれますか」
「ああ、そうするわ」
 片倉ににやりと笑って答えた。
「わしの一世一代の傾き場になるやもな」
「ですか」
「その為にはじゃ」
 周りの己の軍勢も見る、伊達家の水色の服と具足、旗の軍勢を。
「この水色も脱いでな」
「そしてですな」
 成実も言う。
「その服を着られて」
「行くわ」
「ではです」
「お話しましたが」
 片倉と成実が言って来た、ここで政宗に。
「我等もです」
「お供致します」
「そうしてくれるか」
「我等は伊達家の臣です」
「ならば当然のことです」
 それが二人の返事だった。 
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