真田十勇士
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巻ノ五十九 甲斐姫その十一
「大いにな」
「飲むのですな」
「今日以上に」
「そうしようぞ、しかしわしは降ってもじゃ」
こう言う政宗だった。
「わかるな」
「はい、心はですな」
「決して降られぬ」
「そしてまた機が来れば」
「その時は」
「動く」
不敵な笑みでだ、こう言ったのだった。
「そしてじゃ」
「そのうえで、ですな」
「天下を目指される」
「そうされますな」
「目指すのは天下じゃ」
片倉と成実に言う。
「そしてじゃ」
「我等もですな」
「その時は」
「頼むぞ、わしは天下を望むが」
しかしというのだ。
「御主達と共にいてこそじゃ」
「天下を目指す」
「いつもそう言っておられますな」
「だからですな」
「我等もまた」
「その時も力を借りる」
何があろうともというのだ。
「わかったな」
「承知しております」
「既に」
これが二人の返事だった。
「ではです」
「今は機を待ちましょう」
「天下がまた動く時を」
「その時を」
「さて、関白様は今はご健在だが」
その隻眼の目でだ、政宗はにやりと笑って言った。
「果たしてその後はどうかのう」
「ご子息の捨丸様がおられますが」
「それでもですな」
「幼子はすぐに死ぬ」
まさにというのだ。
「昨日元気だった者がな」
「朝起きれば死んでいる」
「そうしたこともざらですな」
「元服するまでわからぬ」
子供の生死はというのだ。
「特に七つまではな」
「だからですな」
「捨丸様もわからぬ」
「関白様の一粒種ですが」
「それでも」
「その時はわからぬ、では機を待つとしよう」
こう言って今は秀吉に降ることにした政宗だった、その夜に。
幸村は星を見てだ、十勇士達に顔を顰めさせて言った。
「これはいかんな」
「いかん?」
「いかんといいますと」
「星が何か教えてくれましたか」
「左様ですか」
「うむ、敗れたな」
星の動きがそれを示しているとだ、幸村は十勇士達に答えた。
「我等が」
「まさか小田原が」
「小田原での戦に敗れたのですか」
「そうなったのですか」
「いや、北条家の将星の輝きは弱まっている」
幸村にはこのこともわかった、星の動きを見て。
「だからそれはない、大きな筋では負けてはおらぬが」
「小さな戦ですか」
「それで敗れたというのですな」
「これまで勝ち続けていたが」
それがというのだ。
「一つの城でな」
「そうなった」
「左様ですか」
「おそらく忍城じゃ」
幸村は天下、西国の軍勢が敗れたその城が何処かも言った。
「このことは星には出ておらんがな」
「おわかりですか」
「それも」
「他に敗れる様な城はない」
秀吉が率いる天下の軍勢がというのだ。
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