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真田十勇士

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巻ノ五十六 関東攻めその五

 そのうえでだ、また言ったのだった。
「その様にお願いします」
「ですが我等は大殿にもお話します」
「禄も宝も銭もいりませぬ」
「その様に」
「ではな、しかし酒はよいな」
 笑ってだ、信之は。
 傍の者達にだ、こうも言った。
「勝った祝いじゃ、だからな」
「酒をですか」
「ここに樽を二つか三つ持って来るのじゃ」
 酒が入ったそれをというのだ。
「よいな」
「畏まりました」
 傍の者が応えてだ、すぐにだった。 
 酒が入った大きな樽が三つ持って来られた、そして。
 その樽を前にしてだ、信之は幸村と十勇士達に言った。
「飲むのじゃ」
「その酒をですか」
「我等で飲んでいいのですか」
「それだけ」
「うむ、飲め」
 まさにというのだ。
「勿論他の者達も飲むがな」
「ではその酒がですな」
「若殿の我等への褒美ですな」
「そうじゃ、好きなだけ飲め」
 また言った信之だった。
「この酒をな」
「酒ならです」
「我等どれだけでも飲めまする」
「それではです」
「有り難く」
「ではな、そして源二郎もじゃ」
 また幸村に声をかけた。
「飲むな」
「はい、酒は大好きです」
 笑って言う幸村だった。
「そして甘いものも」
「相変わらず好き嫌いがないな」
「それは兄上もですな」
「うむ、何でも食える」
 実際にとだ、幸村は愛に笑って答えた。
「甘いものもな」
「左様ですな」
「しかし最近女房が五月蝿い」
「本田平八郎殿の娘御の」
「うむ、酒に甘いものもな」
 どちらもとだ、信之は小声で話した。
「どうもな」
「兄上のお身体を気遣って」
「そうじゃ、酒は過ぎれば毒でな」
「甘いものものもですか」
「歯によくないと言ってな」
 そのうえでというのだ。
「何かと五月蝿い」
「あまり飲み過ぎず食い過ぎずにと」
「徳川殿がそうであってな」
 家康、本多の主である彼がというのだ。
「酒も食いものも節制しておられる方でな」
「随分質素と聞いていますが」
「酒も過ぎない方でな」
 それでというのだ。
「徳川家の家臣の方々も酒も食いものも過ぎない方々でな」
「奥方様もまた」
「うむ、実に厳しい」
「では酒も」
「普段はここまで飲まぬ」
「では今日は特別ですか」
「ここまで飲めるのはな」
 どうにもというのだ。 
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