もう一人の八神
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新暦77年
memory:10 師匠(せんせい)
-side 悠莉-
時間は流れ、新暦77年の四月も終わりに差し掛かったある日。
「DSAA、か」
手元にあるDimension Sports Activity Associationと書かれている資料に目を通しす。
年齢制限有り(10歳~19歳)。
安全のためCLASS3以上のデバイスを所有し装備する必要がある。
大会予選は7月から。
「さて、姉さんたちが作ってくれたデバイス審査は合格するだろうとはいえどうするべきか」
事の発端は先月のことである。
鍛錬中、ザフィーラが不意に聞いてきた。
『悠莉、お前はDSAAに出てみたいとは思わんのか?』
『DSAA? んー、興味はあるけど公であんまり目立ちたくないから微妙。……それに私は格闘家でも、そういった選手を目指しているわけでもない。そんな私が出場なんてしたら相手に失礼だよ』
『お前らしいな。だがもう少し気楽に捉えたらどうだ』
『気楽にねぇ……。それに私は例外はあるとはいえ、基本相手が全力で来たらそれに応えるように全力で行く人だよ? だから下手をすれば一方的なものになってしまう。知ってるでしょ? 私の実力』
『確かに、な。しかしそれは傲慢と言わないのか? 参加者全員自分より弱いと』
『う゛…そう言われると辛い』
『一度出てみればいい。それはそれで何か新しい発見があるかもしれんぞ』
『そういう見方もできるか……。ちょっと考えてみる』
とまあ、そのころからいろいろと考えていたのである。
公に私だとばれず、尚且つ参加できる方法は……あるにはあるけど姉さんたちが何て言うか。
「最終決戦の時に使った変身魔法の術式を少しいじればいけるんだけどねー。一応姉さんとザフィーラには相談してみないとね。あの時みたいに怒られるのは勘弁だし」
苦笑を浮かべながらふと時間を見た。
「うげ、もうこんな時間だし。んじゃま、行こうかな」
DSAAの資料を閉じて出かける支度をする。
待ち合わせ時刻に少し時間があったから無限書庫で借りていた本の返却手続きを終えて辺りをきょろきょろ見渡してみる。
「んーと、新米司書殿は来てるかな……っと、いたいた」
ん? ……ヴィヴィオと一緒にいるのって確か春先に送られてきた写真にもヴィヴィオと写ってた子だったはず。
一年の頃に友人ができたって言ってたからその友人さんかな?
「お待たせ陛下」
「ユーリ!」
「えっと……?」
声をかけると名前を呼ぶヴィヴィオに少し困惑する友人さん。
「ユーリ! 陛下って呼ばないでよ! ヴィヴィオは普通の初等科二年生! だから陛下とかじゃないから」
相変わらず陛下という単語に反応を見せるよねヴィヴィオは。
「普通の二年生は無限書庫司書の肩書きなんて持ってんの?」
「もーぅ! 人より少し読書が好きな普通の女の子だってば! もうユーリなんて知らないっ」
「ごめんごめん」
プイッと頬を膨らませてそっぽ向くヴィヴィオの頭を撫でると「……もぅ」と呟いた。
ん、何とか許してもらえたっぽい。
でもどことなく顔が赤い気がするけど……気のせい、かな?
「ヴィヴィオ、そっちの子って確か…この前送ってくれた写真に一緒に写ってた子だよね?」
「あ、そっか、ユーリはコロナと初めてだっけ。えっと、紹介するね、この子はコロナ・ティミル。一年生の頃からの友達だよ」
「は、はじめまして、コロナ・ティミルです。よろしくお願いします」
「で、こっちはユーリ。私の初めてのお友達」
「八神悠莉です。こちらこそよろしくねコロナちゃん」
やっぱり友達だったんだ。
あ、そういえば個性的な魔法を使うってヴィヴィオやなのはさんが言ってたっけ。
「もしかして…八神ってあの八神指令の……」
「うん、弟だよ。私のことは下の名前で呼んでくれたらうれしいな」
「じゃあユーリさんと。あとちゃん付けはいいですよ」
「ん、了解」
自己紹介を終えて移動しようとした時だった。
施設内にアナウンスが流れた。
『高町司書、おられましたら至急司書長室へお越しください。繰り返します、高町司書、……―――』
「何かあったのかな?」
「わかんない。二人ともちょっと行ってくるね」
呼び出しを受けたヴィヴィオは走って行ってしまった。
「行っちゃいましたね」
「そだね。とりあえず移動しようか、ここだと邪魔になりそうだし」
そう言って中庭へと場所を移した。
「そういえばコロナの魔法ってどんなのなの? 前にヴィヴィオやなのはさんに個性的な魔法だって聞いたことあるんだけど」
「私の魔法ですか? ……あっ、私も以前になのはさん言われたんです。『コロナちゃんの魔法って悠莉君のに似てるかもね』って。もしかしてユーリさんのことですか?」
なのはさんがそう言ってたのか。
それにしても私の魔法に似てるって一体……?
「確かになのはさんは悠莉君って呼ぶから私で間違いないと思うよ。それにしても似てるってどういうこと?」
「私の魔法って操作の魔法なんです」
そう言って鞄についていた人形のストラップを外した。
すると人形は意志を持っているかのように動いた。
「へぇ~、これがコロナの魔法か」
「はい! でもまだ創成の方が上手くいかないから未完成なんですけどね」
そういうことか、なのはさんが私の魔法を似ているって言うのは。
「ところでなのはさんが言っていたユーリさんの魔法って?」
「私もコロナに似てるよ。私の場合は影によるゴーレム創成、というか簡易使い魔の創成及び使役だよ」
影の中から複数の黒ウサギを作りだす。
「すごい……」
「あはは、ありがと。ま、こんな感じだからなのはさんは似てるって言ったんだろうね」
コロナはウヌースたちに触れたり抱き着いてみたりしだし、その目は羨望を宿していた。
「んー…少しアドバイスをしようか」
そう言うとコロナは見上げてきた。
「コロナはさ、創成する時ってどんな感覚でやってる?」
「創成のときですか? えっと、魔力を込めて練った物質をハッキリしたイメージの形に変えるように気を付けてます」
「うん、その通りだね。でも私の場合はそれだけじゃ足りない。実はね、操作の魔法の延長線上に創成の魔法があると思ってるんだ。操作の魔法って自分の新しい腕を伸ばして対象の物を掴むような感覚で操るよね?」
コロナは何となくわかるようで頷いた。
「でもね、創成の魔法はその腕を見つめるんだ。直接物質に働きかけるんじゃなくて、その中にいる他人の自分を見つけることが大事」
「他人の自分……?」
「そう、自分だけど自分じゃないなにかが暗闇の中にいるはず。それを見つけて」
「暗闇の中に……」
「絶対に見つかるから」
聞いたことを実践しようと目を閉じて意識を集中させるコロナ。
どうやら私のように影で創成をやってみるみたい。
緊張しすぎているコロナに優しく語りかける。
「少し肩の力を抜こっか。……うん、そう、集中しすぎないで……おいでおいでって手招くように連れ出すの」
「(あっ……これまで感じたことのなかった感覚……。影をコントロールするんじゃなくて、影の中を手探りで探るような……)」
コロナにとってその時間はとても長く感じただろう。
この方法はまだこっちの世界への術式変換は行えていないのだから。
でも……コロナの魔力の流れと私のそれは酷似しているように感じる。
私の目の前にはゆっくりとだけど影でできたウサギのゴーレムが創成されだしている。
それは徐々に形を変え、そして……。
「で、できた! 私のゴーレム!」
「すぐに操作の魔法をかけて、そうじゃないと元に戻ってしまうから!」
「は、はいっ!」
緩んだ顔を引き締めて失敗しないように尚且つ素早く操作の魔法をゴーレムにかけた。
「できた……この感覚、なんとなくですけどわかった気がします!」
「うん、おめでとう。他にも方法があるんだろうけど私の場合はこんな感じかな」
嬉しそうに顔をほころばせるコロナ。
それを見ているとなにか聞きたそうな目で見つめ返してきた。
「どうかした?」
「あのですね、もしご迷惑じゃなかったらなんですけど、また今みたいに魔法を教えてくれませんか!」
「私が?」
う、うーん…どうしたものかな……?
そこまで時間を取ってあげられるかわかんないし、何よりもそこまで教え方がうまいわけじゃないから……。
そんなことを思い浮かべていてもコロナの真剣な目を見てしまうと。つい、揺らいでしまう。
しばらく沈黙を続けていたけど、それはなくなった。
「はぁ…、わかったよ」
「じ、じゃあ!」
「うん、時間が空いてる時にアドバイスしてあげる」
コロナは胸の前で拳を握ってガッツポーズをして喜んだ。
「でもこれだけは言っておくね。申し訳ないけど九月くらいまであんまり時間を取れないかもしれないんだ」
「こっちからお願いしてるので……。でも全くじゃないんですよ、ね?」
「そりゃね。ただ忙しくなるからちょっと時間が合わないって意味だから。あとは、ヴィヴィオにこの事は秘密にしてくれない?」
「え…? どうしてですか?」
「そっちの方が面白いじゃん」
素で言うとコロナに乾いた笑いをされた。
前にもこんな返しをされたような……。
「ま、まあそんなわけだから」
「はい! これからよろしくお願いします! 師匠!!」
……え゛? 師匠って何でさ?
「コ、コロナ…師匠って……?」
「これから色々とろと教えていただくので!」
「ごめん、それやめて。変に背中がぞくぞくするから」
自分でそんな柄じゃないってわかってるから余計に!?
それから何とか一段落つけて創成の魔法について話した。
「練習法は何度も反復でいいんですか?」
「そうだね、そうすれば正確かつ素早くできるようになるから。あ、それからもう一つ、ゴーレムに名前を付けるといいかもね。ほら、他の魔法だってそうでしょ? 例えばなのはさんのディバインバスターとか」
心当たりがあるようで納得して頷いてくれた。
「師匠ってやっぱりすごいんですね」
「だから師匠はやめて。それにしてもやっぱりって?」
「ヴィヴィオがいろいろ話してくれてたんです」
ヴィヴィオがねぇ……一体どんなことをだろ?
「そのいろいろって教えてくれたりする?」
コロナはうっすらと赤くしながら苦笑を浮かべた。
話してくれないようでじっと見つめても目を逸らされる始末だった。
仕方なく諦めるとホッとしたようにため息を吐いた。
-side end-
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