もう一人の八神
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新暦76年
memory:09 クリスマス
-side 悠莉-
「ゆーりちゃん!」
「道場のみんなが来たぜ!」
『おじゃましまーす!』
リインとアギト、それに道場のみんなの声を聞いて作業を一旦止めて顔を上げる。
二人に案内されて入ってきたみんなを台所から出迎える。
「おっ、みんないらっしゃい。もう少しで準備終わるから待ってて」
リビングに入ってきた途端に全員が声を上げた。
みんな室内に飾られたクリスマス仕様の装飾やテーブルに並べられた料理の数々に釘付けになっていた。
「ほらほら、入口で固まってないでちゃんと入ってきなよ」
何人かは荷物を置くと台所の周りに集まってきた。
そして作業の様子を興味津々と覗き始めた。
「テーブルの料理って全部ユーリが作ったの!?」
「料理の方はリインとアギトに姉さん、時々私。でもデザートの方は私が作ったよ」
「すっごーい!」
「なぁなぁ! ちょっとだけ食べてみてもいい?」
「ダーメ、みんなが揃ってからね。…あれ? そういえばミウラはどうした? 一緒に来たんじゃないの?」
「ミウラならはやてさんと話してたよ。ていうか聞いてないの?」
一体何を?
そう思いながら来てるなら大丈夫か、と結論を出す。
そしてケーキの仕上げにるために手を動かす。
「ミウラはちゃんと来てるんだね。となると後はライだけか……」
「わりぃわりぃ遅くなった」
「ごめんなさい、お待たせしました!」
「噂をすれば、だね。二人ともいらっしゃい」
まだ姿を見ていなかった二人がやって来た。
その後に続いて姉さんとライを乗せてきたシャマル、最後にザフィーラもそろった。
「さて、こっちもこれで最後のケーキもできたし始めようよ」
参加者は八神家含め十五人に満たないほど。
どうしても家の事情で来れない道場の子もいたのでこれくらいの人数になった。
この場にはまだシグナムとヴィータの姿はないけど、仕事が早く終われば参加したいと言っていた。
ジュースの入ったコップがみんなの手元に行き渡る。
それを確認した姉さんは軽く咳ばらいをした。
「みんなコップ持ったな? そんじゃ八神家クリスマスパーティーを始めます。みんな、メリークリスマス!」
『メリークリスマス!』
全員で一斉にコップを掲げた。
始まって早々、ライが何かを持って近づいてきた。
「悠、ミウラっちゃん」
「何ですか…ひゃう!?」
「……何やってんだよライ」
「いや、お約束だろ?」
振り返ってみれば用意していたノンアルコールシャンパンの銃口を向けていた。
「眉間撃ち抜くのはお約束だけど危ないだろ」
「そ、そうだよ。悠莉くんの言う通りだよ」
ミウラもびくびくしながら同調する。
それを見たライはニヤニヤと笑みを浮かべて一歩、また一歩と近付いた。
するとミウラ慌てて私の背中に隠れた。
「ふむ、どうやらミウラっちゃんは悠を盾にするんだな」
「ええぇっ!? ち、違いますよ! ボクそんなつもりじゃ…っ」
……別に気にしなくていいのに。
あっ、でもこんな風におどおどするミウラって何かいいかも。
「まあいい。ミウラっちゃんに売られた悠よ、食らうがいい!」
プシュ。
そんな音と共にコルクが飛んできた。
「ハァ…遅いよ」
右手に軽く魔力を纏わせてデコピンの要領で中指でコルクを弾く。
「いってぇええぇっ!?」
「当たり前だ、魔力付加だからな。それに言っただろ? 危ないって」
変に鈍い音が鳴り響くと、ライは眉間を押さえながらのたうちまわった。
周りは爆笑やら苦笑やらと色々で同情はなかった。
みんなとワイワイ話しながら楽しんでいるとライの持ってきたボトルの飲み物に目が留まった。
「ライ、お前が持ってきたジンジャーなんだけど……」
「どうしたの?」
「いや、ラベルに超激辛テリブルジンジャーって」
「テリブル?」
「炭酸が口の中でバルスするぜ。二人もどうだ?」
「おれパス。何か嫌な予感がする」
「私も遠慮しとく」
ライはつまらなそうな顔をしながら氷の入った自分のコップにテリブルジンジャーを注いだ。
そしてカランコロンとコップを回した。
「美味しいのにこれを飲まないとはなんという奴らだ」
「ところでそれってどんな味なの?」
「フッ、坊やには早い背中で語る男の味だぜ」
いや、全然わからないし……。
要はあれか? 背中の味か?
ライがよくわからないジンジャーを飲もうと手に持つと鼻がぴくついた。
「へ…へっくしょん!!」
「「あ」」
くしゃみで勢いよく顔と手が互いに接近した。
何も持っていない手ならばよかったのだろうが残念ながらそうではなかった。
「目がああああ! 目がああああああ!!」
「何というがいつも通りだね。それにしても背中の味が眼球に……」
「背中の味って何なの!?」
「二人ともそんなこと言ってないで心配が先だよ!?」
おっと、いつも通りの光景だからついつい。
「それもそうだね。シャマルー、ライの目診てやってー。背中の味の激辛でテリブルなジンジャーでバルスしてるだろうから」
慌ててきたシャマルによって診断が下された。
異常なし。
シャマル曰く、失明はないにしても普通なら腫れるそうなのだが、そんな症状は全くなく数分後には完全に痛みが引いたらしい。
うん、さすがはギャグ補正持ちだな。
楽しい時間はすぐに終わってしまうものでクリスマスパーティーも終わりを迎えた。
『はやてさん、今日はありがとうございました!』
「どういたしまして。そんじゃみんな気ぃつけてな」
「それでは主はやて」
「シグナム、シャマル、みんなのことお願いな」
「わかりました。それじゃあみんな家まで送るから車に乗ってねー」
シグナムとシャマルはみんなをそれぞれの車に乗せて行った。
それを見送った後隣を見る。
「あれ? ミウラはみんなと一緒に帰んなくていいの?」
「え? 聞いてないんd…ないの? ボク、はやてさんに伝えてるはずなんだけど……」
「……姉さん?」
ジト目で姉さんを見た。
あははー、と頬を掻きながら目を逸らした。
「い、いやー、なんと言うか悠莉に伝えるんすっかり忘れてたわ……」
……今日の時間を空けるのに忙しかったからっていうのはわかるけとさ、忘れないでよ。
呆れ半分でため息を吐くと何を勘違いをしたのかミウラがおどおどしだした。
「ゆ、悠莉くん! えっと、えっとね、伝え忘れたはやてさんが悪いんじゃなくて……。と、とにかくボクが悪いの、だからっ!」
「あー…ミウラストップ。別に怒ってるわけじゃないから落ち着いて」
必死に姉さんを弁明する姿にクスリと笑みがこぼれた。
それを見て落ち着きを取り戻した。
それからミウラが残っている理由を聞いた。
「つまりは両親が二人揃って仕事が入ったから泊まっていくと」
「やっぱり迷惑、だった?」
不安気に見つめるミウラに首を横に振る。
「そんなことないよ。ただ姉さんには事前に言ってほしかっただけだよ」
そして風邪をひいたらいけないと言って家の中へ戻った。
それから片付けを始めた。
ミウラも手伝ってくれたこともあって時間は然程かからなかった。
-side end-
-side ミウラ-
お風呂から上がると悠莉くんの姿が無くなっていて、代わりにヴィータさんが帰って来ていた。
「ヴィータさんおかえりなさい」
「おう、ただいま。パーティーは楽しめたか?」
「はい! 美味しいもの食べてみんなでゲームしたりでとっても楽しかったですよ! あ、でもライくんがちょっと……」
「またライのやつか。アイツも悪いやつじゃねぇんだけどな……」
ヴィータさんはため息を吐きながら呟いた。
ライくんはヴィータさんの言う通り悪い人じゃない。
悠莉くんと同じで年下のボクたちから見たら面倒見のいいお兄さん。
ただ真剣なときよりもおちゃらけている姿が強いからつい……。
「あっ、ところで悠莉くん知りませんか? ボクがお風呂に入る前までいたんですけど……」
「悠莉ならいつもの海岸に行ってるはずだ」
「いつものって…道場で使っているところですか?」
「ああ、あたしと入れ違いに魔法の練習に行ってくるからと言って出て行ったからな」
悠莉くんの魔法って一体どんなのなんだろう?
む~、気になるなぁ………よしっ!
「ヴィータさん、ボクちょっと見てきますね」
それだけを言い残して急いで海岸に向かった。
その時ヴィータさんが何か言ってたみたいだけど聞こえなかった。
ヴィータさんに教えてもらった通りに道場で使っている海岸に来てみると確かに悠莉くんがいた。
水色の魔力弾が流星のように夜空を駆け巡っていた。
「うわぁ…綺麗……それにすごい……」
「481、482、483……―――」
悠莉くんは集中しているみたいでボクに気付いていないのかな。
魔力弾に弾かれて空き缶からはカン、カンと金属音が鳴っている。
口ずさむ数字は地面に落ちることなく当てている数なんだろう。
暗いからよく見えないけど、悠莉くんが止めるまでずっと落ちない気がした。
「498、499……ラスト500、っと」
最後の一発に弾かれた空き缶がこっちに飛んできた。
「あわわっと!?」
「ナイスキャッチ。声くらいかけてくれればよかったのに」
「練習に集中してたみたいだったから邪魔しちゃいけないかなって思っちゃって」
そっか、と言って悠莉くんは笑顔を見せてくれた。
それから何かに気付いてボクのことをじっと見つめた。
「ど、どうしたの? 何かついてるの?」
「見たところ風呂上りみたいだけどそんな格好じゃ風邪ひくよ?」
そう言われて自分の格好に気付く。
薄くはないけどパジャマだけで何かを羽織ってるわけじゃなかった。
だから言われてから意識しだすと……
「くしゅん!」
「あーあ……まったく…湯冷めして風邪ひいたとか言われたら困るんだから」
くしゃみをして体を震わせると悠莉くんは着ている丈の長いジャンパーをかけてくれた。
「え? でもそれじゃあ悠莉くんが……」
「私なら大丈夫。さっきの練習する前に体動かしてたから。ほら」
悠莉くんに手を握られるとポカポカしていた。
だけどそれでも納得がいかないと悠莉くんを見た。
「うーん……それじゃあ一緒に私のジャンパーを着る?」
「……ふぇ?」
そ、それってボクと悠莉くんが密着してジャンパーに包まるってことだよね!?
「大丈夫? 顔真っ赤だぞ?」
「だ、大丈夫……」
うぅ~想像したら恥ずかしくて顔が熱いよぅ。
でもこれなら二人とも風邪ひかなくて済むよね。
「ゆ、悠莉くん! 一緒に着よっ!」
勇気を振り絞って言った。
悠莉くんは呆気にとられてたけどすぐに優しい表情になった。
ジャンパーを悠莉くんに返して前に立った。
「そういう風にしろと? ま、いいや」
ボクは悠莉くんに抱きつかれる形で座った。
「えへへ、悠莉くん温かいや」
「ミウラも温かいよ。それにいい香りがする」
「あぅ……恥ずかしいこと言わないでよ」
また顔が熱いよぅ~。
「どうして? 思っていることを言ってるだけだよ?」
うぅ~…悠莉くんわかってて言ってるよね!?
そ、そうだ!
「さ、さっきのってアステルシューターだよね!」
恥ずかしいから無理やり話題を変えた。
「そうだよ。この前地球に行ったとき、なのはさんに教えてもらった誘導弾の練習法。なのはさんも子供の頃にやってたやつなんだってさ」
「なのはさんって確か……」
「姉さんの親友でヴィータの同僚。ちなみにヴィータを教導隊に誘った張本人らしいよ」
それからたわいもない話をしていると、気づけば始めのころに感じていた恥ずかしさはなくなっていた。
悠莉くんに寄りかかりながら空を見上げみたらあることに気づいた。
「あっ…悠莉くん! 見て!」
「うわぁ…雪だね。どうりで冷えると思ったら……」
星空から白くてふわふわした雪が降り始めていた。
「今年はホワイトクリスマスだね」
「そだね。もうしばらくこのまま見上げていたいけどそろそろ家に戻ろうか」
少し残念そうな悠莉くん。
ボクも同じ気持ちになったけど笑顔で返事を返した。
-side end-
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