| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ぶそうぐらし!

作者:かやちゃ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第23話「じゅうしょう」

 
前書き
そろそろ最終回なのにどう終わらせるか決めてない...。
 

 




       =遼side=



「.....ん...?」

  ふと、眠りが浅くなっていたのか、目を覚ます。

「(...おかしいな。眠りが浅くなるなんて、物音がした時ぐらい...。)」

  親父に色々仕込まれたせいか、俺の睡眠は少し特殊になっている。
  ある程度音がなれば、すぐに目を覚ますし、起きない程度の音でも眠りは浅くなる。

  ...つまり、眠りが浅くなったという事は、物音があったという事だ。

「(しかし、物音を聞いた記憶は一切ない。だとすると...。)」

  ...親父ならすぐに起きたのだろうが、俺の場合は少し違った。
  小さい物音だと、眠りが浅くなって、時間差で起きるのだ。
  つまり、今より前に何か物音があったという事だ。

「.....。」

  胸騒ぎがし、物音を立てずに寝袋から出る。
  そっと、女子達が眠っている場所を覗くと....。

「...悠里?」

  ...悠里の姿が、見当たらなかった。

「っ...!まさか....!?」

  精神的に追い詰められている悠里。そしてここは学校の近く。
  ...嫌な予感しかしない。

「皆!起きてくれ!!」

  急いで皆を起こす。

「っ、どうしたの?」

「悠里がいなくなった。」

「ええっ!?」

  いち早く目覚めた蘭にそう言う。

「多分、小学校に向かったのだと思う。俺が先行っておくから、説明しておいてくれ!」

「あ、ちょ、遼!!」

  傍に置いてあった武器を入れた鞄を掴み、急いで小学校に向かう。
  この家は小学校から徒歩数分だ。まだ、間に合うかもしれん....!

「(油断した...!想像以上に悠里は追い詰められていたんだ...!)」

  小学校までの道のりを走りながら、俺は詰めの甘さを悔やんでいた。

「(...無事で、いてくれよ....!)」







「(...幸い、辺りに奴らは見当たらない...か。)」

  学校まで辿り着き、耳を澄ませつつ辺りを見回す。
  ...が、奴らの気配は近くにはなかった。

「(後は悠里か..。)」

  学校を睨むように見る。
  十中八九この中にいるからな。急がねば...!

「(皆を待っている暇はない!可能性の高い所から探す!)」

  すぐに小学校に入り、一番近くの階段を上る。
  ...いるとしたら、三階。バリケードがあったあそこが一番可能性が高い。

「悠里!いないか!?」

  三階を上りきった所で、大声で呼ぶ。
  ここまで奴らは見掛けなかった。だから、多少の大声なら大丈夫だ。

「...っ、悠里!」

「...遼、君...?」

  持ってきていた懐中電灯で先を照らすと、そこに悠里がいた。
  ...ちょうどあの教室の前。....ビンゴだったか。

「どうして一人で....。」

  “こんな所にいるのか”と聞こうとして、気づく。

「悠里...お前.....。」

「...間に合ったわ。...いたのよ。皆が、気づかなかっただけで...。」

  悠里はそう言って、安堵の息を漏らす。

「っ...とにかく、皆も心配して時機にここに来る。戻るぞ。」

「...ええ。」

  そう言って、悠里は“ソレ”と手を繋いで、俺と一緒に階段を下りて行った。









   ―――...そう、由紀が置いて行った、あのぬいぐるみの手を、繋いで...。











「遼!」

  校門を出ると、ちょうど蘭達が来た所だった。

「良かった!りーさん見つかったんだな!」

「....あれ....?」

  胡桃は俺の隣にいる悠里を見て、そう言う。
  そこで、由紀は悠里が手に持っているぬいぐるみを見て、何かを察する。

「..ねね、りーさん。その子誰?」

「え?由紀ちゃん、何を...。」

「先生。」

  由紀のその言葉に、先生が聞こうとして、俺が止める。
  先生は、そんな俺の顔を見て、理解したのか言葉を止める。

「校舎の中に隠れていたみたいなの。...助けれて、良かった...。」

「っ....!」

  悠里の返事に、他の皆も戦慄するかのように驚く。
  ...そりゃあ、悠里がかつての由紀みたいになってしまったからな...。

「...とりあえず、戻ろう。」

「あ、ああ...そうだな...。」

  胡桃は悠里の事が気になるようだ。
  ...そりゃあ、まさかこんな事になるとは思わんだろうからな。










「...りーさん、なんであんな...!」

  翌日、俺達は悠里に関して少し話す事にした。
  悠里には席を外してもらい、由紀と先生が付いてもらっている。
  二人が適任だしな。

「...ある程度...いや、ほぼ完全に...それこそいつもの日常と同じくらい、学校は安全になっていたし、一つの心の支えにもなっていた。それが一日で崩壊したとなれば...。」

「...相当精神に響いてた...んですね...。」

  皆、いつも部長として頼りになっていた悠里が、かつての由紀みたいになってしまい、相当深刻な表情をしている。...かくいう俺も、そんな顔になってるだろう。

「迂闊だった...!あそこまで重症だっただなんて...!」

「どうにかして、治せればいいんだけど....。」

  蘭がそう言う。確かに、治せれたらいいが...。

「難しすぎる...。由紀だって、あの安全な環境下で落ち着いたからこそ、現実を見るようになったんだ。...悠里の場合は、過酷な環境下で、妹がいないと認めたくないからああなったんだろう。...だとすれば、あの学校と同じ環境下にしない限り...!」

「...先輩が治る可能性は低い...ですか。」

  圭が俺の続きの言葉を言う。

「...一応、手っ取り早く治す方法はあるんだ。だが、これは賭けだけどな。」

「...それって?」

「まだ生きている可能性のある、本物の妹に会わせる。」

  足跡は二つあった。片方は大人で、片方は子供。
  ...正直、分の悪すぎる賭けだ。
  大人の方はともかく、子供の方は何百分の一の確率だからな...。

「足跡があったのに、誰も居ない...おまけに、探索した時は食料の一つも見当たらなかった。...だとすると、違う場所に移動した可能性が高いんだ。」

「...そうか。私達も同じようなものだしな。」

  車か徒歩かというだけで、俺達と同じ状態だからな。

「...それに、決めつけになるけど、あの大人の足跡は母さんだ。」

「...一応、理由を聞いてもいいですか?」

「バリケードがあった教室の、その隣の部屋...まぁ、一瞬だけだったけど、その中にあった死体はあまりにも的確に頭を潰されていた。」

  理由を述べてる途中で、胡桃が少し顔色を悪くする。
  ...あー、そう言えば随分ひどい有様だったしな。

「...そんな事できる一般人は、いないだろう?」

「...言外に自分の母親を一般人扱いしてないよな...。」

「いやぁ、さすがに一般の家系とはもう思えないし。」

  隠し武器がある時点で...なぁ?

「それに、もし母さんじゃなかったとしても、あそこまでの芸当のできる人物だ。もう一人の子供は無事だろう。」

「...もしその子が悠里ちゃんの妹であるならば...って事だね?」

「ああ。」

  ...こんな状況じゃ、あまりに都合がよすぎる考えだ。

「拠点を変えるとすれば、俺達のように家を借りているか...大学だな。」

「やっぱりそこに収束するんですね...。」

「学校ってのは、案外拠点にぴったりだからな。」

  避難場所としても使われるし、行く可能性は高い。

「...だから、どの道大学に行くのは変わりない。」

「でも、その間悠里先輩は...。」

「...そのまま...だろうな。なに、悠里が現実逃避しているのは、妹...もしくは同じ子供を助けれなかったという事だけ。由紀みたいに、今の現実そのものから逃避してる訳じゃない。」

  ...それでも、心苦しいだろうな。皆は。

「...由紀だって、現実に立ち向かえるようになったんだ。悠里だってそうなる。」

「だと、いいけどよ...。」

  暗い雰囲気のまま、話し合いは終わる。
  結局は、現状維持だ。

「(...それにしても、由紀はよく一目みただけで大体察したよな...。経験者だからか?)」

  胡桃たちでさえショックが大きいというのに、由紀は平然としていた。
  ...案外、由紀は凄い奴なのかもな。

「...とりあえず、胡桃たちは寝不足だし、もう少し寝たらどうだ?昨日からずっと悠里の事を考えて眠れてないだろう?」

「...そうだけど、遼はどうすんのさ?」

「俺は短い睡眠には慣れてるからな。まぁ、今夜はしっかり眠るさ。」

  それに、もうすぐ大学に着く。そっちでゆっくり考えるべきだろう。







「..........。」

  しばらく進んで、休憩がてら車を停めている。
  俺は、その車の上に乗り、少しボーッとしていた。

「...遼!」

「...蘭か。」

  後ろから蘭がよじ登ってきて、隣に座る。

「....結構、思い詰めてるでしょ?」

「...まぁな。何度だって思うさ。俺達は、こんな事で生きて行けるのかって...。」

  状況はまさにバイオハザード。だが、ここは現実だ。
  現実だからこそ、失敗はできない。やり直しもできない。
  ...失ったモノは、取り戻せない。

「....親父だったら、もっと上手く立ち回ってたんだろうな...。」

「...(はやと)さん、かぁ...。」

  親父...工藤隼は戦地を生き抜いた猛者だ。
  生死が隣り合わせな世界を生きてきた親父なら...って、俺は何度も思っている。

「...親父、戦争って、いつもこんな危険と隣り合わせなのか?....だとしたら、改めて俺は親父を尊敬するな...。」

  まだ、学生の俺の身には少し重い。
  助けれた命なんて極少数だし、悠里に至っては今しがた精神がやばくなっている。

  ...こんなんで、本当にやっていけるのか?

「...遼は、頑張ってるよ。」

「っ.....。」

  蘭が、優しくそう言ってくれる。

「皆を護るためとか言って、無茶してる。無理してる。...でも、その“守りたい”って想いは、皆に伝わってるよ。....それだけで、私達には充分だよ。」

「.....そう、か....。」

  でも、それだけじゃダメなんだ。ほとんど救えてないようじゃ、それだけじゃぁ...!

「....遼!一人で全部やろうとなんてしないで。」

「っ、蘭...?」

「今の遼は、他人のやる事でさえ全部一人でやろうとしてる。....遼だって、皆に頼ってよ。一人じゃ、できない事なんて山ほどあるんだから。」

  ...蘭の言葉で、少し冷静になる。

「....すまん。思った以上に俺も精神にキテいたようだ。」

「まったく、遼はそこら辺、鈍感だよね。直した方がいいよ?」

「...そうだな。」

  ....よし!少しすっきりした。これなら大丈夫だな。

「とりあえず、このまま大学まで行くか。そこで態勢も整えよう。」

「そうだね。」

「皆を呼び戻してくれ。そろそろ出発だ。」

  今日中に着くのは無理か...。まぁ、万全の態勢で行った方がいいな。







「.....よし、行けるな。」

  翌朝、俺は車を降りて大学付近を双眼鏡で確認した。

「(こっちだ。)」

「(了解。)」

  合図を蘭に送り、蘭が皆を連れてくる。
  荷物は最低限。後で車の物資を持っていければいいが...。

「....っと。」

  門は開いていない。だから、塀をよじ登る。
  まず、俺と蘭が上って、そこから皆を引き上げる感じだ。

「お、胡桃一人で行けるか?」

「運動は得意、だからなっ!」

  俺が由紀、蘭が悠里を引き上げていると、胡桃が自力で登ってきた。
  さすが陸上部。足の力は皆の中でもあるな。

「るーちゃん、えらいわね。怖くなかった?」

「......。」

  引き上げてもらった悠里が、そう言う。
  ....言っている相手は、ぬいぐるみだけどな...。
  やはり、聞いてるだけでも心苦しい。

「...よっ....と。」

「ありがとうございます。」

  圭を引き上げ、全員を引き上げるのを完了した。
  ...というか、全員が塀の上にいるから危ないな。

「よし、降りるぞ。」

  内側には梯子があり、それで降りる事にする。
  ...門を開けずに外に出るためか?

「.....奴ら、見当たらないな。」

「...そうだね。」

  一足先に俺と蘭は降り、辺りを見渡す。
  ...奴らは一人たりとも彷徨い歩いていなかった。

「....だとすると、少しは希望を持てそうだな。」

「誰かが拠点として安全を確保してるって事だもんね。」

  俺達の言葉を聞いたのか、皆も少し安堵する。

「...だが、気を抜くなよ。」

「...うん。こういう時、一番恐ろしいのは同じ人間だからね...。」

  こんな極限状態になって、おかしくなる人間も少なくない。
  まともに見えても、自分達の安全のために他を容赦なく切り捨てる奴もいるだろうしな。

「どういうこと?」

「...友好的じゃない人間もいるって事だ...。」

  由紀の言葉にそう答える。

「ふーん...って、わぁっ!?」

「ちょ、おま...!」

  どうやら、由紀は梯子の上から聞いてきていたみたいで、バランスを崩す。
  慌てて、俺と蘭が支えに行き、無事に済ませる。

「えへへ...ごめん...。」

「お前なぁ...。」

  笑って謝る由紀に俺は溜め息を吐く。

「...他の皆は大丈夫だよな?」

「だ、大丈夫...多分。」

「......。」

  ...先生がそんな自信なさげだと、困るんですけど...。

「別に、これぐらいの梯子じゃ大した事ありませんって。」

  そう言って、先生を降ろさせる。
  .....よし、これで全員だな。

「よし、じゃあ改めて....。」

  “行こうか”と言おうとした瞬間....。







「全員、持っている物を捨てて手をあげろ!!」

「っ――――!!」

  拡声器を使った大声で、俺達にそう言う。

「(しまった...!由紀たちに気を取られて気配を探るのを怠っていた...!!)」

  聞こえたのは一番近い...と言ってもある程度離れた所の茂み。
  ...本来なら、気づける距離じゃねぇか...!

「....遼。」

「あぁ。...皆、とりあえず指示に...。」

  皆が警戒しつつも持っている荷物を地面に置く。

「(...くそ、油断した。...しかも、どうやら運が悪かったらしいな...。)」

  どう考えても友好的な雰囲気じゃない。
  ...いざとなれば、俺と蘭で皆を護りつつ抑え込むしかないな...。

「(...一応、指示に従った。さて、どうくる...?)」

  どう来ても対処できるように、手を挙げた体勢で身構える。

「全員だ!早くしろ!!」

「っ!?」

  だが、今度は肉声の大声でそう言われる。
  しかも、ボウガンを構えて茂みから飛び出している。
  出てきたのはニット帽を被り眼鏡を付けた、俺より身長の低い小柄な青年。

「(くそっ!狙いは...!)」

  あんな言い方をするという事は、誰かがまだ何かを...!

「(っ...!悠里!)」

  ボウガンの先は、悠里へと...正確には、抱えているぬいぐるみに向けられていた。

「(そうだった...!悠里にとっては、あのぬいぐるみは“るーちゃん”と言う一人の子供!...“物”という感覚で腕に抱えている訳じゃない!)」

  目線を男に戻せば、やはり悠里に対して敵意を向けていた。

「(これは...まずい!!)」

「―――っ!!」





   ―――ボウガンの矢が、悠里に向けて放たれた。











 
 

 
後書き
どうなる悠里!?(ネタバレ:助かる)
...まぁ、原作沿いですし。

予定では、30話までには終わります。
オリ展開を最終話辺りにぶち込もうかと思いましたが、打ち切りendみたいな感じに変更しました。どう考えても萎えて終わるので。(´・ω・`) 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧