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101番目の哿物語

作者:コバトン
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第十一話。デート・ア・ミズエ 中編

2010年6月19日午後6時。



陽も暮れてきた頃には、もう俺の両手は買い物袋で埋まっていた。
あの後、ぶっちぎりで猫を呼び寄せたせいか、優勝した一之江は沢山買い込みまくり。
さらに別の店でも買い込んだ一之江の荷物によって。
俺の両手は買い物袋で一杯になっていた。
ヒロインとの買い物=荷物持ち。
それは主人公のお約束。
ってな、わけで。俺もそのお約束通り、一之江に荷物持ち扱いされているわけで。

「もう少しですよ。我が家の車にそれを運んだら貴方はお役ご免です」

「いや、俺の用事は終わってないんだが」

「?」

「何も言わずに不思議そうな顔をするな!」

「何も言わなくてもツッコミが出来るなんて器用な男ですね」

くそっ、天然無自覚なボケの達人め!
ツッコミを入れたくないのに、ツッコミを入れたくなる。
そんな微妙なラインを突いてきやがる。

「到着したようですね。荷物持ち御苦労様でした」

気づけば目の前の道路脇に見覚えのある黒い車が停車していた。

「ああ」

「おかえりなさいませ。お荷物をお預かり致します」

「あ、どうも」

車から出てきた運転手さん、ち◯まるこちゃんに出てきそうなに爺やさんに手荷物を渡すと、爺やさんは開けたトランクの中に手慣れた感じに丁寧に且つ素早く荷物を並べていった。

「こちらはよろしいので?」

俺の手に握られた紙袋を指す爺やさん。

「あっ、はい。これは俺のもんなんで」

シャトンbbで買ったそれは、後で必要になる物だから手に持ったままでいる。

「さようですか、きっと御喜びになられますよ」

「?」

意味が解らないのか、キョトンとする一之江。

「べ、別にそういうんじゃないですよ! それより速く荷物をしまって下さい」

普段、人に使われることが多いせいか、人を使うのってなんだか疲れるな。なんて思ってしまう。

「久しぶりに買い込みました。ちょっぴりスッキリしましたね」

「なんだ、一之江の趣味はショッピングだったのか?」

「ウィンドウショッピングです。今日は少し奮発しました」

「へえ、そうなのか」

「ちょっとストレスも溜まりまくりでしたからね。引き分けたり負けたり」

「なんだ、一之江のストレス解消法はウィンドウショッピングなのか。
なら、これからも俺が一緒に行ってやろうか?」

「え?」

「つきあってやるよ」

一之江のストレスが溜まりに溜まったら俺の身が危ないからな。
こんなんで刺突される回数が減るなら、喜んで買い物につきあってやる。
そんな意味で言ったのだが、あれ?
なんで一之江は顔を赤くしてるんだ?
風邪か?
心配になって一之江の顔を覗き込もうとしたが。
一之江は何故か俺から顔を逸らすと。

「寝言は寝てから言って下さい」

ただ一言呟いた。

「あれ。ダメだったか?」

ってきり、今後も荷物持ちやらされると思ったんだが。

「……本当に、貴方は真性のバカなんですから」

小さな声で何かを呟いたが、聞き取れなかった。
読心をやろうと思えば出来たが……それは野暮だからな。
だから話題を変えることにした。

「それにしても一之江は負けず嫌いだよな。まあ、あの戦いに負けたのは俺が足を引っ張ったから負けたり引き分けたりしたせいだけど」

「私くらい超最強美少女になると、貴方が足を引っ張ったくらいで本来、負けたり引き分けたりしないんです。なので、これは私の慢心が生んだ結果だったと思い込むことにしました」

本当、自分自身に対して負けず嫌いな奴だよな。勝利への弛まない努力とか、反省して次へを見据えるその行動力とか。本当、そういうところはアリアにそっくりだよ。
『お嬢様』な一面とか。『幼児体型』とか。『切れるとすぐに手が出る』とか。
そういった外面もだが。
内面もそっくりだよな。本当に。
俺はお前に出会えてよかったよ。
そして、そんなお前のような『最強』を『物語』にしているなら『最強』なお前を超える『物語』にならないといけないよな。
いずれ、『離れ離れになる』にしろ。
……なんとなく。なんとなく予感がするんだ。
アリサに『もうすぐ死ぬ』なんて告げられたからかもしれない。
だから、こんなことを考えるのかもしれない。
俺はもうすぐお前の前からいなくなる。
そんな予感が。



「……モンジ?」

「あっ、悪い。なんだ?」

「いえ、ここから少し行った先に美味しいハンバーグ屋があるのですが……どうします?」

ハンバーグ屋か。
そういや、最近ハンバーグ食べてないなぁ。
前世ではよくハンバーグ弁当食べてたんだけどなあ、コンビニの。
しかし、荷物持ちのお礼でハンバーグって……。
子供じゃないんだが……。

「お供させていただきます」

「ええ。荷物持ちのご褒美に、金持ちの私が下々に恵んであげましょう」

え? 子供扱いされるのは嫌じゃないのかって?
せっかくの一之江の好意を断るのも悪いだろう?
決してハンバーグに心惹かれたとか、割り勘じゃなく一之江の奢りで食べれるから、とかそんな理由じゃない。ないったらない!

「こっちです」

一之江の言葉にハッと我に返る。誰に説明してたんだ俺は?
一之江を見るとスタスタと歩き始めてしまう。どうやら移動は徒歩のようだ。身軽になった俺は、先を歩く一之江の背を追って駆け出した。





境川に面した川沿いの通り道を一之江と共に静かに歩く。
ジョギングをする人、犬の散歩をする人、川沿いで野球に興じる子供達。
とても長閑で和やかで、平穏な風景。
つい、朝方まで戦いに身を投じていたのが嘘のようだ。

「いい雰囲気の途中ですが、そろそろ暇つぶしに相談事とやらを聞いてあげてもいいですよ」

「……なんで偉そうなんだよ。まあ、頑張る気力が湧いたからいいけどさ」

「私が本気をだせば、メンタルケアすらも出来るのです。キリカさんにお任せしてるのは、私が面倒くさいからですよ」

そんなところでキリカに対抗するなよな。
なんて思いつつ、せっかく相談に乗ってくれるというのだ、正直に話そうと思う。

「何、大したことじゃないんだが……俺は」

「やっぱり戦いたくない、とかぬかしたら、そろそろちょん切る予定です」

「いや、戦う覚悟はあるんだ。俺は彼女達を俺の物語にする。それは間違いない」

「おや。今朝よりもハッキリ言うんですね?」

「ああ。あいつらが苦しんでる姿を見てしまったからな。あいつらもきっと、俺が苦しむのが嫌だから頑張る ってるんだろうし。そんな彼女達がこれ以上苦しむ姿は見たくない」

俺が死ぬから死なせないように頑張る。
そんな苦しみを彼女達だけにさせたままで、自分だけ平穏に暮らす?
そんなこと……出来るはずないだろうが!

「どんな理由があろうが、あいつらが泣くのは許せないんだ。……大事な妹だからな」

そして、それは俺の傲慢でもある。
一文字の居場所を俺は意図せずとはいえ、奪っている。
俺が今受けている、感じているこの苦しみや悩みは本来なら一文字が受けるはずのもの。
理亜が助けたい、死なせたくない兄は俺ではなく、一文字疾風なんだから。
俺は理亜と一文字が本来語り合う時に、その機会を奪ってしまったのだから。
だから……これは俺の我儘だ。

「まあ、解らなくもありません。私にも双子の妹がいるので」

「ああ、そういや、前に言ってたな」

『優都は……妹は、私が守る』。

一之江に襲われた時。あの時、確かにそう言っていた。
それにしても、一之江の妹かあ。どんな妹なんだろうな?
双子って事は外見は似てるのだろうけど、まさか中身まで似てるとかはないよな?
一之江のようなドS少女が二人もいるとか……それはそれでホラーな都市伝説になりそうだ。
いや、反対にすごく優しいいい子っていう可能性も……一之江の外見で優しくて健気でいい子。
……俺の知り合いでいうと……白雪のような感じで。

…………

………………


…………あれ? それはそれで心配になってきたぞ。

大丈夫か、月隠市?

などと隣町の心配していると。

「貴方には会わせませんよ。ハーレムの一員にされたらたまりませんから」

「ハーレムってお前なあ……」

俺がいつハーレム(そんなもん)を作った!
病気(ヒステリアモード)を抱える俺がそんなもん築くわけないだろうが!

「妹にはロアも何も知らないままでいて欲しいので。なのでまあ……貴方と妹さんの気持ちは、少なからず解らなくもない、みたいな気持ちでいます」

______ああ。そうか。だから今日は、一緒に外出してくれたのか。
面倒くさがり屋な一之江が、一緒に外出してくれた理由が解らなかったが。
身内を巻き込みたくない気持ち。それが解るから俺の相談に乗ってくれたんだな。

「だからこそ、理亜さんの気持ちも解らなくはありません。結局、向こうは貴方に戦って欲しくないのです。力ずくでも。きっと、そこには強い覚悟があるわけですよ」

このままだと、俺が『死ぬ』。そんな『予兆』を見せられた理亜。
だからこそ、俺に戦わせたくないのだろう。俺を死なせない為に。

「だから、貴方自身ももっと強い覚悟を見せないといけないんです。単に彼女を巻き込みたくない、では弱い。貴方自身が何をしたいのか。______苦しみ、もがき、辛さがあるけど乗り越える。そんな道を示して、その覚悟を見せないことには、理亜さんは納得しないでしょう」

一之江は俺を見つめる。
俺は負けじと一之江を見つめ返す。
覚悟。そんなことは解ってるんだ。本当の『主人公』になる為の、守られるだけじゃない、何があろうと仲間を信じて、仲間を守り抜く。そんな覚悟なら出来ている。
だが……。

「だけどさ。どんな苦しみが建設的な覚悟に繋がるんだ?」

「建設的な覚悟。面白い言葉ですね」

俺の言葉に一之江は小さな笑みを浮かべる。
あれ? 笑うところか、ここ。

「例えばモンジ。貴方は私のロア能力に消えて欲しいですか?」

「一之江のロアが消える?」

ありえんだろう。そんなこと。

「そうすれば、私はただの美少女金持ち女子高生に戻ります。危ない目に遭ったり、痛い思いや苦しさを味わうこともありませんし、誰かを殺し続けなければいけない、なんて罪を犯し続けることもなくなります」

「なるほどなあ……」

一之江がただの人間に戻ったらどうなるか、か______。ごく普通の女子高生になったこいつ、というのがまるで想像出来ない。ああ、つまり。

「一之江は能力が無くなっても、戦いを止めたりしないだろ?」

「どうしてそう思いますか?」

「一之江がどうして『メリーズドール』のロアになったのかは知らないけどさ。でも、一之江がその物語をとても大事にしているっていうのは知ってるからな。すっげえ誇りに思っていることだって解ってる。だから、お前はその力が無くなったって『メリーズドール』のまま、戦い続けようとするだろう?」

「その通り。解っているようで何よりです」

俺は『百物語』の能力を使った時に、コイツの物語に触れた。
あの時、そこに描かれていたのは、強く、気高い『メリーズドール』だった。
復讐相手を探している哀れで悲しい人形なんかじゃない。
あくまで自分の意志で相手を殺すまで追い詰める、誇り高い殺人鬼。その『対象の抹殺』こそが『月隠のメリーズドール』の真髄なのだから。
一之江はそれを貫き通す、その覚悟を持っていた。

「格好いいな、なんて思っちまったんだよ。……不覚にもな。一之江の物語。いや、殺人鬼を格好いいなんて思っちゃいけないんだろうけどさ。でも、それって一之江は敢えて『最強で最恐』の存在になることで、悪さするロアを止めようとしているってのもあるんだろう?」

ヒステリアモードの時に思い浮かべていた事をここで聞いてみる。

「______そこまで気づかれていると恥ずかしいのは確かですが。私の物語に触れた貴方なら仕方ないのかもしれませんね。くそう」

一之江は俺の言葉に小さく悪態を吐く。

「私にそういう想いがあるように。理亜さんにも譲れない想いがあるように。モンジ、貴方にも貴方にしか大事に出来ない我儘な強い想いがあるはずです。それをぶつけてみることです」

そうか。そうだな。
俺にも俺の想いがある。
絶対に譲りたくない我儘な強い想いがあるんだ。

「……よし」

「それで駄目だったらまあ……禁断な妹とのあれこれにでも走って説得して下さい」

「禁断のあれこれって……おい」

「ん? ああ、でも従姉妹なんでしたっけ。だったら禁断でもなんでもないので、ただのいちゃつきになりますね。そんなものに価値はないのでやっぱり今のはなしで」

「価値はないのか?」

「当たり前なことをしても当たり前の結果しか出ませんよ。ものごと、危ない橋を渡ろうとする人の方が革新的な結果を生むものです」

「そういうものなんだな」

意外と深い事を一之江は語ってる気がするが。よくよく考えてみると、この件には実妹のかなめも絡んでるから、危ない橋を渡ろうとしている俺は革新的な結果を生み出せるのか?

「まあ、買い物に付き合わさた分くらいは私も貴方の我儘に付き合いますよ。貴方には、どの『主人公』にも負けて貰うわけにはいきませんからね」

そんな風に語る一之江の顔はどこか赤くなっている気がした。
これはあれか? 今が夕暮れ時だからか?
某有名検索エンジンに今の一之江をかけたら『もしかして・ツンデレでは?』とか出るのか?

「ま、一之江が絶対消えないように。俺も全力で『主人公』をやるからさ」

例え、俺は死ぬ未来が待っているとしても。あんなに血塗れになって倒れるにしても、きっと……背中だけは無事なんだと。今ならそう信じられるから。
背後にコイツがいるのなら、俺はどんなに怖い、強い存在にだって立ち向かえる。

「……信じてるからな。一之江」

「約束ですよ?」

『貴方を殺すのは私です。私だけが、貴方を殺していいのです。
ですから、私に殺されるまで。貴方は生き延びて下さい』

そんな一之江の声が聞こえたような気がした。

「……っと、そうだ⁉︎ 一之江、これ」

俺は右手に持った紙袋を一之江に渡す。

「これは?」

「開けてみてくれ」

一之江は紙袋の中を開けると、その瞳が大きく見開きられた。
紙袋の中から出てきたのは指輪______がチェーンに繋がったネックレス______だ。
『月の光(clair de lune )』。
一之江が住む街。そして彼女のロアの名前にもある『月隠』にちなんで月をイメージしたそれを選んでみた。
シャトンbbの店頭に並んでいたそれは、月をイメージした指輪型のネックレス。
イベントが始まる前に店内を物色していた時に目に付いたもの。
それを俺は一之江へのプレゼントとして購入することにしたのだ。
もちろん、代金はイベントの優勝によって無料。
店内価格は……今の俺では手が出せないほどだ。
では、どうしてこんなものをプレゼントしようと思ったのか。
それは______俺の身の安全の為だ。
一之江のストレスが溜まるとそれは周りにいる人物______主に俺に当たるからな。
一之江の精神的なストレスを緩和させ、俺に対する刺突行為を減らす目的と、日頃、世話になってるお礼を兼ねて贈ってみた。
ジャンヌがいない今、女のストレスを緩和させる有効な手段が思い浮かばなかったから、物を与えて懐柔するという手段を取ってみた。古典的な方法だが、上手くいったみたいだな。

「……も、モンジ。これは、一体?」

「そのまんまだ」

日頃の感謝を込めて渡した。それ以外に理由なんかない。

「……受け取っていいんですね?」

「ああ、受け取ってくれ」

「本当に受け取りますよ?」

「ああ、なんなら指輪をチェーンから外して指に付けてやろうか?」

見た感じ、一之江のサイズは……アリアくらいだな。
他の指だと抜けちまうな。
なら……。

「左手の薬指にでも付けるか?」

「……っ⁉︎」

俺の言葉に一之江の体はビクッと震えた。

「ん? どうした? なんで震えてんだ?」

「……貴方という人は、本当に……」

ん? 小さな声でよく聞こえないが。
なんでそんな情緒不穏になってんだよ?

「……本当に、真性のバカ、なんですから」

そう言いながら、一之江は俺の右手を左手で掴む。
しっとりとしていてら気持ちいい、細くて繊細な手が俺の右手を包み込む。

「え、ど、どうした、え、な、なんだ?」

「……モンジ。
今だけ、むちゃくちゃ嫌々ですが、貴方を確実にレベルアップさせる呪いの呪文をかけてあげます」

「呪い? いや、そんなのいらん」

一之江自身が呪いの人形なだけに、なんか嫌な予感がする。
どうせ、女運が悪くなるとか。
何かあるたびに背中を刺されるとか。
そんなもんだろ。

「い・い・か・ら、かけますよ?」

「……はい」

「私を消さないで下さいね。……金次」

ぽそ、とはにかんだように呼ばれた俺の名前。
その名前を聞いた俺は……。






今更ながら一之江にも俺の正体が気づかれていたと、ようやく理解した。 
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