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101番目の哿物語

作者:コバトン
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第十二話。デート・ア・ミズエ 後編

「何故……どうして?」

いつ、知ったんだ?

「最初は解りませんでしたが、貴方が普通の人間ではないと疑ったのはキリカさんと戦った時からです」

俺の疑問すら想定内といった感じで一之江は答える。

「あの時、貴方の様子が普通ではなかったので二重人格者かと疑いましたが……貴方の後ろを見守る内に貴方は別の人間……違う意思が宿った人間だと気付けました」

まさか、そんな頃から気付かれていたとは……迂闊だった。いや、これは想定内だな。完全に俺のミスだ。最初から解っていた事じゃねえかー。一之江は俺の心が読めるんだからな。

「そうか。で、どうする気だ?」

俺の正体をこのタイミングで明かすということは……。

「どうもしません。これまで通りに貴方は私の標的ですので」

「はい?」

って、おい!
どうもしないのかよ⁉︎

「貴方がどこの誰だろうと、構いません。
変わるはずはありません。
だって……」

一之江はそれまで見せたことのない笑顔で俺に告げる。

「貴方を殺すのは……殺していいのは……私だけなんですから」

……一之江のそんな表情を見てしまった俺は、不覚にも。
不覚にも、可愛いなんて思ってしまった。










それから5秒後。

「さて、デレタイムは終了です」

「って、今のデレタイムなのかよ!」

「当たり前じゃないですかー、私が貴方にデレるはずがあるわけ……以下略」

「……どうせなら最期までツンデレしろよ」

「嫌ですよー、面倒くさい」

うん、これでこそ一之江だな。

「デレタイムは時給五百万円です」

「高っ!」

「滅多に見れない貴重な時間ですからね。これでも安いくらいです。続きを見たいなら五百万円で見れますよ。どうですか、是非?」

「気楽な感じに誘われても払えんぞ。普通の人には支払えん金額だからな」

「……うわぁー。まだ『普通』の人感覚でいるんですか貴方は。『普通』の意味を辞書で調べる事をお勧めします」

どういう意味だ!

「俺はごくごく普通の平凡な高校生だ!」

「……普通の高校生は自分から普通なんて言いませんて。普通の高校生は呪いの人形に追いかけられても抱きついたりしません。普通の高校生は……」

「すまん、勘弁してくれ!」

俺は即座に日本人伝統の奥義『DOGEZA』を行った。





月隠駅の隣駅に近い辺りを歩く俺と一之江。
彼女お勧めのハンバーグ屋はもう少し距離があるとの事なので二人並んでゆっくり歩く。
隣を歩いていた俺はふと思いついた疑問を一之江に聞いてみる。

「そういえば『主人公』と『普通のロア』って何が違うんだ?」

「そういうのは『主人公』同士で会話して下さい。こう、バラっぽく」

バラの意味はよく解らんが、なんか嫌な響きだな。
そんなことを思いながら、一之江が指した先を見る。そこには……。

「あいつは……」

昨日、俺や一之江を襲った男の一人。氷澄(ひずみ)が私服姿の女の子と歩いていた。

「なんだ、デートしてんのか?」

好き好んで女子と出かける奴の気持ちはよく解らん……と言いたいが、今の俺の状況も似たようなものなので声には出さないようにする。

「ですが、なんか見覚えのあるロリっ子ですね」

一之江の言葉が気になった俺は探偵科(インケスタ)で習った足音を立てない歩き方を実践し、近づいて二人の様子を見ることにする。
氷澄はつまらなさそうな仏頂面で歩いていた。デートという雰囲気ではない。
しかし、隣を歩く少女は弾むような足取りで浮かれていた。
まるで対照的な二人の様子だ。

「あれは私服姿のラインさんのようですね」

「……マジかよ」

確かに、言われてみれば……髪型も服装もごくごく普通の健康的な女の子のものだから印象は違うが、よく見れば『境山のターボロリババ』こと、ラインだった。

「なんか声、かけづらくないか?」

雰囲気的に声をかけてはいけない気がする。

「ふむ……」

一之江は二人の様子をしげしげと見つめ少し考え込み。

「『ふふふ、ひーずみっ! 今日はとっても楽しかったのうー』」と、ラインのセリフを勝手に捏造し始めた。
オイオイ一之江そんなこと……と思っていたら、一之江が近づいてきて、俺の耳元で囁いた。
何? そんなことを言えだと?
かなり恥ずかしいんだが……って、解った。解ったから背中を刺すな!
言えばいいんだろう?
すまん、氷澄。一之江の脅しには勝てん……。

「『フン、デートくらいで浮かれるな、ライン』」

「『ああん、氷澄はつれないのう……昨夜はあんなに激しかったというのに……』」

激しかった? 何をやったんだ。 いいのか氷澄、ラインは見た目的には犯罪だぞ。

「『フッ、あれ以上の激しさを今晩も見せてやる……』」

激しかったの意味はよく解らんが、一之江の言葉に乗っかてみた。

「『ぽっ、夜の『音速境界(ライン・ザ・マッハ)』も楽しみじゃな、氷澄……』」

「『ふっ、俺の『厄災の眼(イーヴルアイ)』はいつだってお前だけを見てるさ……』」

見つめ合う二人。
そして、二人は……。

「『氷澄……』」

「『ライン……! ガバァ!』」


「何がガバァだ!」




ゴチン‼︎


「痛てぇ!」

氷澄の頭突きが炸裂した。
この痛み……これは、間違いない。遠山家に伝わる奥義だ。

「何故、お前がその技を使えるんだ?」

「ふん、キンゾーにやり方を習っただけだ。
ハーフロアの俺ならば、人間離れしたあいつの技も少しは使えるからな」

「馬鹿な……ありえん⁉︎」

何教えちゃってんのキンゾー。
いくら氷澄が人間離れした力を持つハーフロアだからって、そんな簡単に技教えたら駄目だろう。

「心配しなくても悪用なんかしない。
それに出来るのはほんの一部だ。流石にマッハは出せんからな。
今は『秋水』(しゅうすい)を取得中だ」

「なんだそれなら安心……出来るかよ!」

『秋水』を教えるとか、何しちゃってんの。あの馬鹿弟は⁉︎

「『秋水』?」

「なんだ、パートナーなのに知らんのか。キンゾーが言うには『余すことなく全体重を拳に乗せて放つ一撃』、それが『秋水』という技らしいぞ」

「そうですか。こんな感じですか?」

一之江が近づいて来たと思った次の瞬間。

「かはっ……」

俺の体は5〜6m吹き飛んだ。
ちょ、ちょっと待て!
今のまさか……?

「ふむ。初めて使いましたが、なかなか難しいですね。余すことなく、体重を乗せるのは……」

いやいや、いきなり出来るお前の方がおかしいからな!

「……俺の認識は甘かったようだな。キンゾーほど非常識な人間はいないと思っていたが、お前達ほどではなかったな」

「いやいや、一之江やキンゾーと同じ扱いにするな! 俺は普通の人間だから!」

「普通の人間は秋水をくらって平然と立ち上がらんぞ」

くっ、ラインの奴。こんな時に正論を言いやがって。
言い訳できん。

「ところでお主達はデートか?」

「いえ、荷物持ちをさせた帰りに食事を恵んでやりに行く途中です」

「なるほどな。わらわ達は新作ゲームを買った帰りじゃ」

本当にラインとはゲームで契約してんのかよ!
やっぱりレースゲームとかか? いや、ラインくらい速かったら逆に遅く感じてつまらんだろうし、別のジャンルなのかもしれんな。どんなゲームをやるのか気になるが、今は他に聞きたいことがあるからそっちを聞くか。

「ここで会ったのも何かの縁だよな?」

「何だ?」

「実は……『終わらない(エンドレス)千夜一夜(シェラザード)』と戦うことになったんだ」

「何……っ⁉︎」

氷澄はメガネの下で目を大きく見開いて、解り易く驚いていた。

「厄介なロアばかり従えているかと思ったが、お前は本当に厄介なのに好かれるな……」

メガネをついっと上げて、それから頭をかく。その仕草も本当に解り易い男だよな。

「俺は手伝わないからな、あんなバケモノみたいな『主人公』との戦いなんて」

「あれは、本当は心の中で一緒に戦いたいと思ってるんじゃぞ」

「ですね。いかにもツンデレ男子です」

氷澄をニヤニヤ見ながら、ラインと一之江はボソボソと会話している。

「むしろお前さんとこの主人公がピンチになったら助けに行く気満々じゃぞ、あれ」

「ですね。いかにもツンデレ男子です」

「うるさいぞそこ⁉︎」

怒鳴ってるとこ悪いが氷澄……顔を赤くして言っても説得力ないぞ。
ラインなんてケラケラ笑ってるし。

「まあ、ともあれ。ともあれだ。手を貸すことは絶対に、絶対にしないが……アドバイスくらいなら出来るかもしれないな」

その言い回し自体がツンデレ男子になってるんだが、本人は気づいてないな。ここで指摘したらアドバイスも貰えなくなりそうなので黙って頷くことにする。

「『主人公』とただの『ロア』との違いは、『物語』を作っていく側か、物語をなぞる側か、だ。つまり『主人公』同士の戦いは相手よりも強い『物語』を描けるかどうかによるわけだ」

「……えっと……ああ! だから氷澄は、雨の中、それも夜中にあの十字路で俺を待っていたんだな。自分の物語に自信があったから、再び挑みに来るかもしれない俺を待っていた、ってことか?」

「その結果負けたんじゃから、世話ないがのう」

「うるさいぞ、ライン。お前も負けたんだから他人事みたいに言うなっ」

氷澄が突っ込みを入れるごとに、ラインはニシシと意地悪く笑う。

「そもそも『主人公』と『ロア』ではDフォンの機能からして違う。『主人公』のDフォンはコードの読み取ることで自分の仲間に出来るロアを探したり、物語として登録したりする機能があるが、ロア達にはそれがないからな」

「なるほどな。その『自分の物語に合ったロア』っていうのは、誰の選定基準で決まるものなんだ?」

「それこそ、因果______縁だったりするんだろう」

つまり、運命的なものというわけか。『厄介なロア』ばかり従えていると言われたばかりだが、そんな物語でも俺にとっては大事な仲間達だ。そんな彼女らとの出会いが縁だったりするのなら、少しくらい感謝してもいいもしれないな。

「俺が氷澄やライン達と出会ったのも縁の一つなのかもしれないな」

「俺はお前に会ったせいで調子が狂い始めた気がするよ」

溜息交じりに氷澄は言うが、その表情は軽く笑っていた。
だから、俺も笑い返す。
こういう立場の男同士の友人がいるっていうのは、やっぱり心強い気がするな。ヒスる心配もないし。
男同士の友情を見て一之江達も触発されたのか仲良く……。

「なんか怪しい雰囲気じゃのう……」

「掛け算で言うとどっちが前でしょうね」

「氷澄は総受けじゃろうな」

「おい、ライン‼︎」

……仲良くし過ぎだお前ら!

「掛け算とか、変なこと言うの止めろ一之江っ」

お前は通信科(コネクト)の奴らと同類か⁉︎

「いやぁ、いっそバラにでも走ってしまえば女性陣達も仕方ないって思うかな、と」

「どんな諦めだそれは!」

「ロア憲章第十条。『諦めろ。仕える主人公がバラに走ったら即刻諦めよ』」

「嫌な憲章だな、それ……」

こっちはこっちで一之江への突っ込みが大変だった。
っていうか、武偵憲章のことまで知ってんのかよ!
……どこから突っ込めばいいんだ?

「はぁ……まあいい。話はそれくらいだ。そろそろ俺達は行くぞ」

「ですね、私達もさっさとハンバーグを食べるとしましょう」

「ふむ。わらわ達も帰ったらハンバーグにせぬか、氷澄?」

「検討しておいてやる」

氷澄はぶっきらぼうにラインに告げると、俺を見て一度頷いてから。

「ロアの中でも特に『魔女』には気をつけろよ?」

と、言い捨てて俺達の横を通り過ぎた。

「おい、どういう意味だ?」

なんだか胸がざわつく。この果てしなく不安になる感じは……何故だ?

「あいつらは『主人公』に寄生することが多いのさ。悪女に上手いこと騙された『英雄』が破滅したり、いろいろ喰われるという話も多いだろう? だからな」

氷澄は一度も振り返ることなく、そんな言葉だけを残して歩き続ける。
ラインも意味深に笑って俺を見てから、てくてくと氷澄に付いていった。

……魔女に気をつけろ、か。

「キリカはやっぱり信用出来なかったりするのか?」

「それはもう。彼女は本当に最悪の魔女ですからね。
ですが、そんな最悪の魔女が貴方だけはちょっぴり特別扱いしているというのも気になります」

「特別扱いなのか、やっぱり」

「あれほどの『魔女』に気に入られているというのは、つまり貴方自身が興味を持たれているということです。好かれていると言っても過言ではありません」

「俺は……そんな好かれるようないい男じゃないんだけどな」

「ふぅ。タラシはこれだから……いいですか? 貴方には人やロアを惹きつける十分な魅力があります。カリスマ性と言ってもいいでしょう。天性的な将の器……物語的に言うと貴方には生まれながらにして『主人公属性』があるんですよ」

「……俺にそんな属性はない」

「はぁー、まあいいです。そのうち解りますよ。貴方は自分が思っている以上に主人公ですから。
さて、話を戻しますが、彼女の興味対象から貴方が外れた瞬間、貴方は食べられてしまうでしょう。______とっくに、死と隣り合わせなんですよ貴方は」

死と言われて俺は理亜の夢の中で見た光景を思い出す。
崩れた町並み。瓦礫の上に倒れていた______俺。
高笑いしていた少女。
あの少女は誰だ? どこかで聞いたことのある声だったが……。
頭の中に反響していたせいか、それが誰なのかまでは掴めない。

「……一応肝に銘じておく。だけど、今は理亜に付いてる『魔女』の警戒が先だ」

「その情報も掴んでいたのですね?」

「ああ。名前は『予兆の魔女・アリシエル』。自称アリサと名乗る魔女だ。理亜に『もうすぐ死ぬ』と告げて、同時に理亜みたいな『主人公』を探していたと言ってた」

「アリシエル……『予兆』ということはある意味、未来予知みたいなものですか」

「ああ、多分、な」

あの光景は未来予知なのだろう。
とはいえ、あれは予言ではなくあくまで予兆。
つまり、回避する手段はいくらでもあるということだ。それこそ……俺を戦わせない、とかな。

「なるほど。そのアリシエルに貴方に関する不都合な未来を見せられたから、あんなにも冷徹になって戦っているというわけですね。納得しました」

これだけの情報でいろいろ察することが出来る一之江も大概だよな。

「さて、そろそろハンバーグ屋さんです」

「ああ、もう着くのか。難しい話は一旦休憩だな」

「ええ。食べて食べて食べまくりますよ」

「了解だ!」

気になることはまだまだある。
だけど今は……今後の為にも腹ごしらえだ!
腹が減っては戦は出来ぬ、っていうからな。
俺は意気揚々と一之江と共に店の中に入っていった。
そして、注文をしたのだが……。

なに、これ?


目の前にはこれでもか、といったようにタワー状に積み重ねられたハンバーグがある。
注文の際、一之江が「私はいつものを。こっちのタラシには特別メニューのアレを」とか注文したのだが。
特別メニューがこんなトンデモハンバーグなんて聞いてませんよ、一之江さん?
普通のハンバーグの十倍はあるぞ。
食えんのか、この量。

「さあ、遠慮なく食べて下さい。あ、恵んでやったのですから残したらグサグサの刑ですからね」

「なあ、一之江……」

「なんですか? ほらほら早く食べないと冷めてしまいますよ?」

「お前、寝てるとこ起こされたの……絶対根に持ってるだろ!」

「いいえ、せっかくの休みの日に叩き起こされた事なんか根に持っていませんて」

「本当に?」

「ただ、タワーハンバーグを前にした貴方が困る反応を見たかっただけですって」

「この性悪女が!」

言ってからしまった、と思ったが遅い。
背中越しにひんやりとした金属の感触を感じる。

「……それが最期の言葉でいいですか?」

「すみません、一之江様。貴方は大変優しい美少女デス」

背中に刃物を突き刺されながら思う。
なんというか、俺ららしいな。こういうの。 
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