神葬世界×ゴスペル・デイ
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第一物語・前半-未来会議編-
第七章 夜中の告白者《1》
前書き
好きな子って誰!?
ということで、始まります。
日は山の後ろへと沈み、盆地の日来は黒く染まる。辺りが暗くなるにつれ、住居や建物、区域が灯りを照らし始める。
西にある貿易区域の停泊場。その停泊場を囲むように大小様々なコンテナが連なっている。
そのコンテナの上に、一つの人影が立っていた。
「それじゃあ、この俺幣・セーランの告白のため、そろそろ頼むわ」
「「了解!」」
『『了解!』』
セーランを囲む組と、映画面|《モニター》に映り別の場所にいる組とで別れている仲間が返事を返す。
照明で辺りを照らしているため、彼らがいる場所は明るい。
白い息を吐きながら、仲間達が走り散らばる。
そして、セーランは左手に持ったマイクを口に近づけ叫ぶ、
「告白前の者、告白前者による告白タ――イム」
それと同時に、西二番貿易区域の照明全ての明かりが消えた。
「始動!」
その言葉と同時に、空には巨大な映画面が映った。
●
辰ノ大花の戦闘艦内、個室になっている部屋の中に一人の少女が椅子に座っている。細身で、髪は青く地に付きそうだ。
彼女はふと思い、椅子から立つ。個室と通路をふさぐ扉が開き、歩き出した。
「日来の長が七時に騒ぐとか言っていたな。楽しそうだから見に行ってみようかな」
一歩、二歩を歩み、木材でできた床を音を立て進む。
制服の上に防寒用のマントを着て、それが歩くたびに左右に揺れる。
床を踏む音が周りに伝わり、それがまた反響し通路に音を返す。
数歩歩いき、上の甲板に行く階段へと近付く。それと同時に、後ろから声が聞こえてきた。
「奏鳴様、どちらへ」
その声に奏鳴は前へ踏み出そうとした足を引き戻す。
この声は何時も聞く声だ。優しいが、力強く、意志が入った言葉。その持ち主は、
「実之芽」
振り返り、後ろに立つ彼女の名を呼んだ。
背が自分よりも高く、すらっとした体つき。髪は黒に近いが、よく見ると茶色だ。その髪を背中の中間まで伸ばしている。
手と手を後ろで握り、女性らしい立ち姿。
やっぱり、実之芽って美人だよなあ。
奏鳴は彼女を見て、それが気になったのだろう実之芽は首をかしげた。
「どうしました、私の顔に何か付いてますか?」
「何でもない。ただ実之芽は美人だな、て思って」
「私は美人ではありませんよ。でも、そう言って頂けるのは嬉しいです」
実之芽は眉を下げ、頬を少し赤めた。照れくささからだろう、しかし彼女は恋する乙女のような表情をしていた。
もし私が男性なら、奏鳴をすぐさま奪ってしまうのに。そんな私を神は女性にするなど、なんと言う外道。
何故か怒りが込み上げてきたが、それを押し止める。
落ち着いたところで、実之芽は口を開く。
「報告したいことが。聞いているとは思いますが、出航は明日の午前十一時に決定し、同時刻から日来の完全監視態勢を奥州四圏は取るそうです」
「そうなるだろうな。今監視を続けている艦にもそろそろ増援が加わるだろう」
実之芽は奏鳴の言葉を聞きながら、後ろを覗くように体を左右に動かす。
直線に進む通路と、左側には甲板へと続く階段がある。
今この艦は、船首を北側に向け停泊している。甲板に繋がるルートは、ここを含め五つある。この通路はその内の一つのルートだ。
そしてこの通路の先は船首へと続き、最終的には弾薬庫に繋がる。
実之芽は奏鳴が弾薬庫には寄らないだろうと推測し、そして答えを一つ出す。
「甲板へと上がるのですね」
「バレたか」
ふふ、と実之芽は笑う。
「見に行くのですか、日来の長が言っていた騒ぎに」
「駄目かな、少し楽しみなんだ。久しぶりに外に出られたから……」
奏鳴の顔が下を向く。
確かに奏鳴は久しぶりに外に出たと実之芽は思う。
竜神の血を宿し、それによる暴走がここ最近頻繁に起こる。それにより奥州四圏内でも危険視され、他国を刺激しないようにと辰ノ大花にある屋敷にここ半年近く引きこもっていた。
そうね、と実之芽は言葉を続けた、
「監視のついでに見てきましょうか」
「いいのか?」
「密閉空間ばかりにいては体に悪いというもの。多少の息抜きは必要かと」
「すまない、ありがとう」
いいえ、と謙虚の言葉を述べ、実之芽は奏鳴の左に付く。
移動の合図に、左手を前にやり意思を伝える。
「行きましょうか」
「ああ」
実之芽が先行し、その後ろに奏鳴が追う形で歩き出した。
●
甲板と艦内を隔てている扉がスライドする。艦内からは、二人の少女が甲板へと足を出す。
辺りは照明の明かりで眩しい。冷たい空気が体を包む。
「日が沈むと寒いな」
「日来は山々に囲まれた盆地ですから、冷気が貯まりやすいのでしょう」
白の息を吐き、甲板を歩む。
地上は照明があり明るいが、空は漆黒の黒に覆われている。空には所々に星が光るが、辺りの明かりにより見えにくい。
実之芽は日来の長が言った東の方角へと進む。
全長八百七十メートルのドレイク級中型戦闘艦・華空の甲板は幅三十メートルあり、長さは三百メートルある。
その甲板の中間近くに二人は着く。
厚さ二メートルある装甲に奏鳴は手を付く。冷たく、体温を奪っていくような感じがした。
しかしそれを無視し、身を外に出す。
実之芽がそれを見て、
「奏鳴様、危ないのでお辞め下さい」
「ごめん、でも夜の外というのは昼よりも綺麗だな」
「そうですね、照明の明かりがなければもっと綺麗ですよ」
「そうなのか?」
はい、と言い実之芽は頬を上げる。
屋敷の寝室からも外は見えるけど、こんなに広い夜景を見るのは久し振りなのよね。
実之芽は奏鳴の左に付く。一歩後ろに立ち、奏鳴が向いている方に同じく顔を向ける。
「さすが世界最大の盆地と言ったところですね。山がまるでこの地を、日来を守っているみたいです」
「日来は世界最後のアマテラス系加護で守護されている特別な地だからな」
そう、日来は世界で最後のアマテラス系加護の守護が及ぶ場所だ。
奏鳴の言葉に、実之芽は言葉を続け、
「昔は多くの地がアマテラス系加護で守護されていましたが、他の神が葬|《はぶ》り祀られるようになってからは徐々に少なくなっていきました。
百年前にはとうとう三地域になり、八十年前にその中の一地域が別の加護でその土地を守護することを選んだ」
一息入れ、続ける。
「最近では十年前に、地図にも載らない小さな村が王道宗譜|《テスタメントスコア》のお告げにより滅ぼされました。それによりアマテラス系加護の守護で護られる土地は日来一地域となったわけです」
この滅ぼされた村の住人は一人残らず殺されたと言われている。王道宗譜の代表者によれば、神のお告げに異端を滅せよ、とあったので排除したまでと公表している。
この世界は神の下に存在していると、改めて知らしめるような出来事だった。
暗い話はあまり良くないと思い、実之芽は話の主旨を変える。
「日来の長が騒ぐとか言ってましたけど、よく監視状態のときにそんなことが出来ますね」
「日来は人には言えない事情を抱えた人々が多く集まる土地だ。多分、異常とも言える日々を過ごしているからこそ、出来るのかもしれないな」
夜風を浴び、奏鳴の髪が宙に遊ぶ。
実之芽は自身の髪を手で押さえ、乱れないようにする。
「風が吹いてきましたね」
「そうだな、予報では明日は――」
言おうとしたときだ、突如西二番貿易区域を照らしていた照明の明かりが消える。それも一つ、二つではなく全部だ。
言葉を繋げようとした奏鳴の口が止まる。
実之芽は突如の事に焦りを感じた。しかしすぐに落ち着きを取り戻し、同じ甲板上にいる護衛の為に連れてきた同級生に指示を出す。
「事故かもしれないけど油断はしないで。艦の明かりを頼りに、何が起きたか把握すること」
見渡す限り、明かりが落ちているのはこの区域の照明だけだ。艦の光で周りは幾らか見えるが、それだけでは足りない。
実之芽は艦内へと向かう一人の女子生徒に声をかける。
「貴女、明子をここへ来るように報告を。今は食事をしている頃だから個室に行けば会えるわ」
「……? りょ、了解しました」
女子生徒は慌てて返事をし、艦内へと入って行った。
何が起きたのか明確には分からない。しかし、推測はしている。
ただ偶然の事故なのか、意図的にやった仕業なのか。
それともその他か、よね。
意図的にやるにはおかしな点がある。それは何故この区域だけなのか。やるなら日来全ての明かりを消したほうが何かと都合がいい筈だ。
上空にいる監視艦がこの事態に気付き、スポットライトをこの貿易区域に向ける。
全ての艦がそれを行うわけではなく、警護用に来た二艦の小型戦闘艦が空に上昇するまで、上空にいる二艦がこの作業をする。
「どうなっているんだ、これは?」
「奏鳴様、落ち着いて下さい。私にも分かりませんが、意図的にしては気になるところもあります。しかしこれは事故ではないと思います」
「う、うん。解ったからその、離してくれないか」
「え?」
その言葉の意味が理解出来ない実之芽だが、その声が聞こえる方に顔を向ける。
声が聞こえたのは下からだ。
顔を下に向け、胸元を見た。そこには自分の胸に埋まるようにして顔を入れている、いや違う、自分によって入れられている奏鳴がいた。
顔全体を胸の奥まで押し入れられ、身動きを取れていない。慌てて実之芽は奏鳴の顔を、自分の胸の間から引き抜く。
「すみません奏鳴様!」
「あはは、急にやられたからびっくりした」
「本当にすみませんでした。あの、何時からやってました?」
「目の前の光が消えて直後だな。私の視界から完全に光が消えたのは」
そう言えば、自分が止めた女子生徒の返事が少し変だったと今思う。
私ったら奏鳴が心配だからってちょっとやり過ぎよね。でもいい経験だったわ。
ふふふ、と不適な笑みをする実之芽を奏鳴は不思議そうに見た。
「それにしても、監視艦のスポットライトがないとまともに周りを見れないな」
「全く、日来のすることは理解出来ませんね」
黒の空を見つめ、実之芽は言う。
見るものも見れない今、実之芽は様々な角度に顔を向ける。
視線を地上へと下げれば、光系術を使い辺りを照らしている者達がいる。自分と同じ三年生の生徒が、三人一組で偵察していた。
思い出せば自分達の近くには日来の住民はいなかった。当然と言えば当然だ。自身の未来を告げる者とは、普通は仲良くは出来ない。
しかし、今まで作業をしている日来住民との距離は不可解な程距離が離れていた。
……何かあるわ。
今までの経験の上で下した答えだ。
その答えは正しかった。
偵察を行っていた組の内、一人の者が発動している術の光を空に向ける。声からして男子生徒だろう。そしてこう聞こえた、
「空に何か映るぞ!!」
その声に自分を含め、偵察をしている者も、甲板で警護を行う者も、皆が空を見る。
空の一角に、霧が漂うように一部が靄のようにぼやけている。
実之芽はこれがなにか知っている。
「映画面|《モニター》が表示されるわ!」
靄のように空気中を漂っていたそれが、直後一部に集結し、一つの巨大な映画面を生み出す。
先程の靄のようなものは、巨大な映画面を表示するために集まった流魔だ。
流魔は伝子と呼ばれるものに集まる習性がある。簡単に言えば、伝えようとする力にだ。映画面を表示する際、それがあまりにも巨大な場合は流魔がその形に集結し結合するのに時間が掛かる。
今はその映画面が空に表れ、皆の視線を集める。
そして、その映画面から声が聞こえた、
『さあさあ皆さん始まりました、始まってしまいました。どうなるこれから、なにやる今から、監視されている今この頃。その場を動くな、この声聞けよ、みんなの視線を独り占め――』
言葉の列が聞こえ、その列はまだ続く。
『不思議な存在、不気味な存在、どんな存在であろうとも、この俺幣・セーランが、この地に花を咲かせましょう。行かねばならん、やらねばならん、なぜなら俺が決めたから。行くぜ今から、やるぜ今から、今から動くぜこの俺が!』
●
暗闇の空間に浮かぶ一つの映画面|《モニター》から、言葉を言う者がいた。
それは、
「あれは日来覇王会の長、幣・セーラン!?」
ドレイク級中型戦闘艦・華空の甲板にいる実之芽は、 艦の装甲に手を付き身を出すように声を上げた。
宙に表示されている巨大な映画面には、左手でマイクを持ったセーランが映る。
『聞こえてるか、宇天覇王会ヶ長』
「ああ、聞こえてるぞ」
問われたので、奏鳴は返事を返す。
映画面に映るセーランは、その返事に頷き口を開いた。
『好きだ』
「え?」
突如、三文字の言葉が聞こえた。
しかし、奏鳴はその言葉を理解出来なかった。
数秒の沈黙、皆は黙っていた。
「「えええ――――!?」」
その数秒間分の言葉を吐き出すように、驚きの歓声が西二番貿易区域から、そして日来全土から沸き上がった。
後書き
告白しましたね。
たった三文字「好きだ」、ですよ。
ストレートな告白もいいですけど、そんなんで落とせるのか?
自分も若いときはモテモテで、毎日が大変だったなあ……。※これはモテてもいない、悲しき作者の勝手な妄想《フィクション》です。実際の人生とは一切関係ありません。
んん、ということで次回、告白の続きです
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