異世界を拳で頑張って救っていきます!!!
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遺跡出現までの10日間【3日目】 その4
【3日目】 その4
「!?」
得体の知れない恐怖を一瞬、全身で感じた。高揚していた意識が一瞬で冷える。明らかに今の自分とは強さの次元の違う何かが背後に立っていることに戦慄を覚え、頭の中が真っ白になった。
「シ、シグルズさん……?」
僕はかすれた声でかろうじて声を声帯から絞り出す。吹き出していた油汗が冷えていく。
「ケ、ケントさん……?」
アカリちゃんの心配そうな声が耳に響くが頭の中には全く響かない。腕に力が入らず抱えていたアカリちゃんを地面に下ろす。
「やあ」
ニコニコ微笑みながらシグルズさんが立っていた。先ほどの恐怖は一切感じない。相変わらず背中には大剣を背負っており青色の鎧を纏っているその姿は同性ながらも一瞬見入ってしまう。
「これ、忘れ物」
「あ……」
シグルズさんは僕に麻袋を手渡してくる。麻袋の中に入ってる物を引っ張り出すとそこにはロープで色々なところを縛られたオウムが入っていた。
「ごめんね、そのオウム、気性が荒いから少し手荒な真似をしてしまったんだ」
申し訳なさそうな顔でシグルズさんが言う。
「い、いえいえ。ありがとうございます」
オウムを返してくれたシグルズさんにお礼を言いながら僕はオウムのロープをほどく。その動作を微笑みながらと見つめ、シグルズさんは僕の周りに転がっているチンピラ達を見渡した。
そして、少し悲しそうな顔をする――――――ところまでが僕の視界で捉えていた出来事だった。
「これはちょっとやりすぎだよ」
「!?」
いつの間にか一瞬で間合いを詰められ両腕を掴まれる。反射的に振りほどこうとするが圧倒的な握力と筋力に腕を動かすことができない。
「なんの……まねですか……?」
僕はかろうじてシグルズさんがとった行動の糸を質問する。どれと同時に両手を開き腰の位置を近づけた。こうすることによって自分より幾分か力が強い相手に抵抗することができるのだ。
「いや~、君がちょっと心配でね……」
僕の両手を掴んでいる力は全く緩まないがニコニコと優しい笑みは崩さない。シグルズさんの底が見えず僕は本日2回目の恐怖を感じた。そしてその青い瞳で僕の瞳をじっと見つめ――――――――――
「このまま行っちゃうと道踏み外すよ?」
「ッ!?」
一瞬、シグルズさんが言葉を放った一瞬だけまた先ほど感じ取った得体のしれない恐怖を味わう。
「なんちゃってね、こいつらは僕達が対応しておくから君たちはもう帰っていいよ」
僕達という言葉に首をかしげる。辺りを見回すといつの間にか鎧を纏ったエルフの兵士さんたちが倒れていたチンピラをロープで縛っていた。
「アカリちゃんも気を付けてね、今回、ケント君がいなかったら助からなかったかもよ」
「は、はい!」
僕とシグルズさんのやり取りを呆然と口を開けてみていたアカリちゃんが焦った表情で返事をする。吹っ飛ばされた白髪のエルフ君改めフッド君はお腹をさすりながらアカリちゃんにヒシと抱き着いていた。
「ほ、ほら行くぞ。はやくこい!」
何故か自ら体を動かすことができない僕はおじさんに手を引かれながらこの場所を後にした。
☆ ☆ ☆
『珍しく手厳しかったわね』
血を吐いた赤髪のエルフに治療魔法をかけ終わったシグルズの頭の中で女の声が響く。
「ハハ、あのままじゃちょっとまずいかなっと思ってね、つい本気出してしまったよ」
少し苦い表情をしながらシグルズは答える。
『あらあら随分と気に行ったのね、どうしてかしら?』
「………」
興味津々のと言った感じの頭の中に響く声にシグルズは答えない。
『無視なのぉ~』
残念そうな声が頭の中に響く。それにやれやれと首を振りシグルズは答えた。
「彼に………」
シグルズの表情が陰る。
「俺たちと同じ道を歩ませたくはないから」
さっきまでとは比べ物にならないぐらい聞くものを戦慄させる声が発せられた。
『フフフ、そうね。復讐にとらわれる我が主と同じ道はさすがにあの子にはきつすぎるわねぇ、だってとってもとっても弱いから』
その声を楽しそうに受け止める頭の中の声―――――――ミストルテインがあった。
☆ ☆ ☆
「あんた強いんだな……。拳が武器とか痛いセリフ言ってたからちょっと不安だったんだがほんとに拳が武器なんだな……」
「い、痛いセリフって……」
少し失礼な武器屋のおじさんの言葉に渋い顔をする。
「あの聖騎士さんは別物だったな」
ポツリと武器屋のおじさんがその凶悪な表情を陰らせ言った。
「気づいたんですか………」
恐らく先ほどのシグルズさんと僕のやり取りを素人が見ても何もわからなかっただろう。というかシグルズさんの動きが目で追えなかったはずだ。
「あぁ、あんた3回死んでたもんな」
「ハハハ……、ごもっともで」
僕は苦笑いしながら頬をカリカリと掻く。
「そろそろ防具の修復に戻る、あんたはこの子を送っていきな」
後ろを恐る恐るついてきているアカリちゃんとフッド君を指さしながら武器屋のおじさんは言うと僕達とは反対方向に歩いて行く。
「ありがとうございました」
僕はお世話になった武器屋のおじさんに一礼するとアカリちゃんとフッド君の方を向く。
「ごめんね、ちょっと怖かった?」
「い、いえ! 助けていただいてありがとうございました」
アカリちゃんがぺこりと頭を下げる。
「いえいえ、でも気を付けてね、アカリちゃん可愛いからああいう奴らに絡まれやすいと思うから」
「か、かかか、可愛い!?」
僕の言葉にアカリちゃんは顔を真っ赤にする。……何かまずいこと言ったかな……っていててこらオウム頭つつくなよ。
「と、とりあえずセリムの宿まで一緒に帰ろうか」
「はい」
僕の言葉にフッド君がうなずき顔を真っ赤にしたアカリちゃんを引っ張りながら僕についてくる。
「ん?」
10分ぐらい歩いただろうか薄暗い路地が何故か目に入った。なんだろう、気配がする……しかも大勢の……。
「フッド君」
「はい?」
僕の言葉にフッド君が反応する。
「アカリちゃんを連れて戻っといてくれないかな、ちょっと確かめたいものがあって……」
「わ、わかりました」
「ごめんね、最後まで送れなくて」
「いえいえいえ、もう目の前にあるようなものですから! ありがとうございました」
「うん、気を付けてね」
律儀に頭を下げてくるフッド君と今だに顔を赤くしているアカリちゃんの頭をなでると僕は急いで裏路地へと向かった。
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