異世界を拳で頑張って救っていきます!!!
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
遺跡出現までの10日間【3日目】 その5
【3日目】 その5
「はい、では金貨20枚で15番の方! ありがとうございましたー!」
暗い裏路地を進むと大勢のエルフ達が大きな鉄格子がはめてある馬車を囲んでいた。
エルフ達は全員そこそこ豪華な服を着ており金持ちオーラが滲み出ていた。全員の胸には番号が張っており、15と掻かれている番号の札を胸につけた厳つい顔のエルフが馬車の近くにある小さなステージの方に歩み寄って行った。
小さな木箱か何かで作られたステージの上には掴み所のない笑みを浮かべている痩せ型の燕尾服を着たエルフとみすぼらしい服を着た犬っぽい耳を生やした10歳くらいの男の子が立っていた。目には大粒の涙がたまっており細い体はぶるぶると震えていた。男の子の首には鉄の枷がついておりそこから延びる細い鉄の鎖は燕尾服の男にしっかりと握られている。
「では、右手を失礼します」
「おう」
燕尾服を着たエルフはステージに上がった金持ちエルフの右手に恭しく触れると犬耳が生えた男の子の指を小さなナイフで切りつけ右手にこすりつけた。
「くっ……あぁ……」
犬耳が生えた少年の顔が苦痛にゆがむ。すると金持ちエルフの右手に赤い紋章が一瞬薄っすらと浮かんで消えた。
「奴隷契約、完了いたしました」
「うむ」
恭しくお辞儀をしながら燕尾服のエルフが言うと満足そうに金持ちエルフはうなずいて金貨を20枚燕尾服の男に手渡す。
「ほら、はやくこい!」
「あうっ……」
燕尾服を着たエルフに渡された首についた細い鉄の鎖を乱暴に引っ張りながらそのエルフはステージから降りていった。……まだ子供じゃないか……あんなにひどい扱いをしなくても……。僕は自分の拳に力が入るのを感じる。
「では次、商品ナンバー76番でございます!」
そう言いながら燕尾服の男が芝居のかかった動作で馬車の中から気弱そうなウサギの耳が生えた女の子を連れてくる。この少女も先程の犬耳の少年と同じように今にも泣きそうな表情で辺りを見回していた。
「こちらの商品、金貨1枚からのスタートになります。ではスタート!」
燕尾服を着たエルフが芝居のかかった動作で競りを開始する。
「5」
「7」
「10」
「12」
「15」
「17」
金持ちエルフ達はジロジロと気弱そうなウサ耳の少女を眺めながら次々に手を上げて値段を上げていく。そしてメガネをかけた老エルフが17と言うと途端にシンとなり手を上げて値段を言うものはいなくなる。
「はい、そこの34番の方の17枚以上出す方はいらっしゃいませんか?」
燕尾服を着たエルフがおどけた動作で周りを見渡す。
「デュフフ……30」
「!?」
先ほどの老エルフが提示した額の約2倍の値段を提示したエルフが気持ちの悪い声を出しながらでかい腹をゆすりながらステージの前に立つ。途端に少女の顔に絶望の表情が現れた。
「うーむ、いい声で泣きそうだ……ゲヒヒヒヒ」
歪んだ笑みを浮かべながらブクブクに太ったエルフは顔を近づけ、ウサ耳の少女を舐めまわすように見る。
「セルバーニ様、お手を失礼します」
「おう、早くしろ奴隷商」
セルバーニと呼ばれたブクブクに太ったエルフは燕尾服を着たエルフに向かって乱暴に脂肪がつきまくった右腕を突き出す。
「おい……またあいつか……」
「全くだ……いい趣味してやがるぜ…………」
「何人買ったんだ?」
「あれで7人目だ……」
他の金持ちエルフたちのヒソヒソ話に耳を傾けるとあまり芳しくない内容が耳に入ってくる。セルバーニと呼ばれていた太ったエルフの左手には7本の鎖が握られておりその先には7人の獣人の女の子たちが泣きそうな表情で立っていた。
「あのぉ~」
「ん?」
今の光景を嫌なものを見ているような顔で見ていた黒縁メガネをかけた一人の金持ちエルフに声を掛ける。
「あの人ってあんまりいい目で見られてないんですか?」
「いい目も何も……あいつ、セルバーニは女の獣人を買えるだけ買って家で傷めつけたりするのが趣味のクソ野郎だ。あいつに買われた奴隷は可哀想だよ……おそらく1か月も持たないだろうな……」
僕の質問に黒縁メガネをかけたエルフは声を潜めて答えてくれた。
「そうなんですか………」
あまりにも酷過ぎる情報に僕は顔をしかめる。
「はい、ありがとうございましたー。ではでは本日最後の商品、ナンバー77番の登場にございます! 」
僕達が話している最中に取引は終わったらしくセルバーニは満足そうな表情で元の位置に戻っていく。セルバーニが戻った場所には複数の兵士が立っており彼の身分がそこそこ高いことが窺えた。
「「「「「「「「「「「「「「「おぉ……」」」」」」」」」」」」」」」」」」
僕がセルバーニに注目していると静かな歓声が上がる。ステージを見てみるとそこには白黒の髪を腰辺りにまで伸ばした10歳ぐらいの女の子が立っていた。パンダの耳見たいな耳を生やしており顔は小顔でとても、いやかなり可愛い部類に入るだろう。今は顔がところどころススで汚れているからおめかししたらもっと可愛いんじゃないだろうか。パンダの耳を生やした少女は先程の子供たちと同じように怯えた表情で周りをキョロキョロと見渡す。
「開始金額は金貨10枚! ではスタートです!」
燕尾服を着たエルフが楽しそうな表情で競りを開始する。
「10」
「15」
「20」
「25」
「27」
「30」
「32」
「40」
「42」
「45」
ドンドン手が上がっていく。どこかで45という声がしたかと思うとぴったりと手が上がらなくなる。
「あと金貨は何枚ある?」
セルバーニが隣に立っている兵士に自分の金貨の枚数を聞く。
「88枚であります」
「ふむ、そうか。では88枚。ヂュフフフフ」
「!?」
セルバーニがそのまんまるな顔を満面の笑みにし立ち上がった。パンダの耳の少女の表情が恐怖に歪む。肩はぶるぶると震え立っているのがやっとの状態に見えた。
「はい、ただ今セルバーニ様の金貨88枚でございます! これ以上出せる方はいらっしゃいませんかぁ?」
「おいおい、冗談だろ……」
「あぁ……普通子供の奴隷は高くても金貨30枚だぞ……」
「正気じゃねえなぁ……」
燕尾服を着たエルフのはずんだ声に周りの金持ちエルフたちはヒソヒソ声を上げる。
「いらっしゃいませんねー、ではセルバーニ様の88ま――――――――――」
「ちょおおおっとまったあああああああああああああああああああああああ」
え、ちょっと何してるんだ僕……。大声を上げながら僕は木箱で作られたステージへ向かって走っていた。
「おやおや、どうされましたか?」
おどけた表情で燕尾服を着たエルフが僕の顔を覗き込む。
「ひゃ……100枚」
気づいたら声が出ていた。燕尾服を着たエルフの表情がこれでもかというぐらいの笑みに染まる。
「はい! 100枚が出ました!! これ以上の値段が出せる方はいらっしゃいますか?」
「ちょ、ちょっとまてえええ!」
油汗をダラダラと掻きながらセルバーニがステージ前に走り寄ってくる。
「こ、こんな若造が金貨を100枚も出せるわけないだろう!!」
「? 出せますけど?」
僕は自分のポーチの中から金貨を100枚数え取り出すと燕尾服のエルフの手に握らせた。
「ほぅ、確かに100枚ありますね。セルバーニ様いかがされます?」
燕尾服のエルフの質問にセルバーニは顔を真っ赤にする。
「ちくしょうがあああああああああああああ覚えておけよ貴様絶対に許さないからな!」
「ハッ。そんな醜い顔忘れたくても忘れれませんよ、少し痩せたほうがいいのでは?」
少し気が立っていた僕はニッコリと笑みを浮かべて挑発する。
「むきいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい絶対許さんぞ貴様ああああああああああ!!!」
セルバーニは顔を梅干しみたいに真っ赤にさせると乱暴に鎖を引っ張りながら去っていった。私兵と思われる兵士たちも慌てた様子で後をついて行く。
「あらぁ、セルバーニ様にケンカを売るとはなかなかの怖いもの知らずですねぇ」
感心した様子で燕尾服を着たエルフが言ってくる。
「あいつ偉いんですか?」
僕の質問に燕尾服を着たエルフは目を丸くさせる。
「偉いも何も公爵様の一人息子ですよ、知らなかったのですか?」
「ええ、ここにきてまだ日が浅いので……」
そもそも侯爵ってどれくらい偉いんだ……?
「ほうほう、まあ手続きに移りましょうか、奴隷紋はお持ちですか?」
「奴隷紋?」
聞きなれない単語に思わず聞き返してしまう。
「その様子だと知らないようですねぇ……」
奴隷商らしい燕尾服を着たエルフは掴み所のない笑みを浮かべる。
「皆さんこれにて解散になります! どうもありがとうございました!!」
燕尾服を着エルフが大袈裟な動作で一礼をすると周りに集まっていた人だかりが散っていく。
「さて、手続きに入りましょうか。ささ、こちらへ」
「あ、はい」
パンダの耳の少女の鎖を引きながら馬車の方へと歩いて行く燕尾服着たエルフ――――奴隷商に僕は着いて行く。
ページ上へ戻る