異世界を拳で頑張って救っていきます!!!
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遺跡出現までの10日間【3日目】 その3
【3日目】 その3
「ハッ……ハァ……ハッ……」
苦しい、息がうまくできない。お腹がとても痛い。目から涙が止まらないし、捕まれている腕が悲鳴を上げている。私が何をしたって言うの……ひどいよ……こんなのひどすぎるよ……。
「ガハッ!?」
「?」
突然私の手を乱暴につかんでいた手が離れる。体がふわりと持ち上げられた。……こ、これはお姫様抱っこ!?
「老若男女とワず持っている最強ノ武器を教えてやろウか?」
この声は……ケント……さん……?で、でも似てるけど……何か違う……私の知っているケントさんはこんなに怖い声はしてなかった。少し呼吸が落ち着いてきて涙が止まってきた。私は私をお姫様抱っこしている人を見上げる。やっぱりケントさんだ……。でも……なんだかちょっと怖いな……。
ケントさんは私ではなく地面を見下ろしていた。……とても、とても怖い目で。視線だけを下に向けると私を殴った赤髪のエルフが倒れていた、両腕が変な方向に曲がっている。周りを見ると私達に絡んできたエルフは全員地面に倒れ伏していた。
「腕がぁ……俺の腕がぁあああ」
赤紙のエルフは悲痛な表情で叫びあげる。どうやら腰が抜けているらしくその場に寝ころんだまま動かない。
「………かかとだヨ」
「グボッ!?」
すごく、すごく冷たい声とともにケントさんが赤髪のエルフの胸にかかとを振りおろした。バキッといういやな音が胸からなり赤髪のエルフは口から血を吹きだす。
「こんなもノで終わると思うナヨ」
「「「「ひぃぃぃいいいいい」」」」
ケントさんの瞳に他のチンピラエルフたちが震えあがる。正直私もすごく怖い……どうしても震えが止まらない……。
「こらこら、やりすぎはよくないよ」
「!?」
後ろから青年の声が聞こえた。ケントさんは私をお姫様抱っこしたままバットすごいスピードで振り返る。この声は……まさか――――――――
「昨日ぶりだね、ケント君……アカリちゃんは久しぶりかな?」
目の前に今まで私が見てきたなかで、一番悲しい瞳をしていた人物がニッコリと笑って立っていた。
☆ ☆ ☆
ボロボロの少年は真っ赤な絨毯が敷いてある真っ白な神聖な雰囲気がにじみ出ている部屋にいた。いや、床に敷かれてあるのは絨毯などではなくただただおびただしい量の血。周りにはものすごい量の肉片や臓物が転がっており部屋の臭いを血に染めていた。
少年の整った顔は血やススで汚れ、鎧はもう修復できないと思われるぐらいにあちこちが外れてへこんでいる。青い瞳には全く感情がなく、青い髪は血で真っ赤に染まっておりボサボサだ。
「…………」
一切の表情が消えた顔で少年は自分の右手に握られてある片刃の大剣を見つめる。
『あら、あなたが私の主?』
頭の中で女の声が響き渡る。
「……………」
少年は何も答えない。いや、ひょっとしたらなにも聞こえていないのかもしれない。
『フフフ、何もしゃべらないだなんておませさんね』
頭の中の女の声はクスリと妖艶な笑い声をあげる。
『まあいいわ。私の名前はミスティルテイン、これからよろしくね』
「……ために――――――――――」
『?』
『ミスティルテイン』と名乗った大剣の自己紹介に耳を貸した様子もなく少年は何かを呟く。そして――――――――
「こんなもののためになんで全員死ななきゃならなかったんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
何かが切れたように大声で叫んだ少年は真っ赤な地面に座り込む。少年の青い瞳から透明色の大粒のしずくがポツリポツリとこぼれ出る。
「ちくしょう! 何が安全だ!! 何がマッピングされているだ!!! 全然情報が違うじゃないか!!!!」
『わ、私をこんなもの扱いするだなんて我が主は物の価値がわからないのかしら……』
『ミスティルテイン』は突然叫びだした少年に戸惑った声色を見せる。
「みんな死んだ、全員死んだ! ケインもシリアもダンソンもリズも……皆……みんな死んだ!!!」
『しかたないわよ、ここは《試練の間》。選ばれし者以外は全員死ぬわ』
「ちくしょう……言われてたことと全然違うじゃないか……ちくしょう………」
少年はがっくりと肩を落とすと握っていた大剣を血で覆いつくされた地面にゴトリと置いた。
『あらあらあら、もしかして騙されたのかしら我が主は……。あと―――――――――』
少しあきれたような声が頭の中に響き渡る。
『お客さんよ?』
気配を感じたのか少年は生気のない瞳で後ろを振り返る。そこには不気味な仮面をかぶり黒いマントを纏ったエルフが4人いた。
「よし、適正者がやっと見つかったか、長かったもんだ……」
一番先頭に立っていた仮面がやれやれと言った感じで首を振る。
「悪く思うなよ坊主……お前にはここで死んでもらう」
先頭のエルフがそう言うが早いが黒いマントを纏ったエルフ全員があちらこちらから武器を取り出す。
『どうしますの、我が主? ここで果てます?』
黒いマントの男たちを見つめていた少年の瞳に生気が宿る。
「いや、生きる。そして絶対に殺してやる。僕を……俺達を陥れたこの国を!!!」
少年は叫びながら大剣―――――『ミスティルテイン』を拾った。
『フフフ、じゃあ始めましょうか』
いかにも楽しそうな声を出しながらミスティルテインは言った。
『我が主の復讐を』
☆ ☆ ☆
「ッ!?」
少年の意識が覚醒する。夢だったのかと思うが今まではなかった背中にある重み、全身の血が現実の出来事だということを思い知らせてくる。
「………」
辺りを見回すとどうやら城下町にいるらしい。
『驚いたかしら? 私の能力だから安心してね』
「………お前の能力?」
『あ、やっと私に興味を持ったみたいね我が主は』
自分に興味を持ってもらったことがよほどうれしかったのかミストルテインは少年の頭の中で声を弾ませる。
『私は空間転移ができるのよ、我が主。私に銘じてくれればどこへでも転送してあげるわ。ま、それなりの魔力はいただくけどね』
「……そうかい……」
抑揚のない声で少年はミストルテインの言葉に反応する。先ほどの戦いの直前に見られた瞳に移った生気はなかった。少し心が落ち着いたからなのか瞳がジワリと熱くなる。すると―――――――
「あ、あの――――――――」
「!?」
突然後ろから声を掛けられる。少年は驚いて飛び上がりながら後ろを見ると茶色の髪をポニーテールにした少女が立っていた。
「大丈夫ですか?」
この少年がのちに聖騎士となることなど少女が知るはずもなかった。
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