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IS~夢を追い求める者~

作者:かやちゃ
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第1章:修正の始まり
  閑話1「プロローグ~Another~」

 
前書き
今回の話は桜視点です。
桜がどうやって秋十君の下へ辿り着いたかが分かります。
...ちょっと物語の核心に触れている部分がありますけど。

それでは、どうぞ。

 

 


       =桜視点=









   ―――.....ここは...どこだ....?

  意識が朦朧とする中、俺はただそう思った。





「―――....。―――。」

   ―――誰....だ...?

  そんな中、視界に誰かが映ったのが見えた。何か語りかけてくるが、良く聞こえない。

「―――ぇますか?....聞こえますか?聞こえるなら何か反応を示してください。」

  今度の言葉は聞こえた。

   ―――反応...?どうやって...。

  反応を返そうにもなぜか声は出ない。身動きもできない。

「...聞こえているみたいですね。」

  何も反応は返せてないと思ったのに、目の前の人物は聞こえていると分かったようだ。

「勝手な願いだと言うのは分かっています。ですけど、今頼めるのは貴方しかいないんです。」

   ―――頼み.....?

「はい。今、貴方のいる世界はとある存在...転生者によって歪んでいっています。このままでは、世界の道筋は捻じれ切れ、世界そのものが崩壊してしまいます。」

  また言葉も返せていないのに、心を読んだように自分と会話を成立させる目の前の人物。...聞こえてくる声色的に女性だろうか?

   ―――崩壊...だって...?

「はい。世界には元々、決められた道筋というモノがあります。所謂運命みたいなものでしょうか?その道筋は世界の行く様を定めており、多少逸れる事はあっても完全に外れる事はないのです。」

   ―――それが、捻じ切れる?

「そうです。転生者という、輪廻から外れ、無理矢理この世界に入り込んだ存在は、世界の道筋を完全に無視してしまっています。その影響で、世界に不具合が生じ、道筋が消えてしまうのです。」

  ...話が壮大すぎたけど、何となくわかった。...つまり、端的に言えば転生者の所為で世界が崩壊の危機を迎えているって事だな。

   ―――話は分かったけど、どうすればいいんだ?

「簡単な事です。幸い、転生者は一人しかいないので、それを抑えつつ道筋を元に戻せばいいだけです。」

   ―――...でも、なんで俺なんだ?

「それは、貴方の存在が道筋に大いに影響しているからです。」

   ―――俺が?

「はい。貴方の親友、篠ノ之束は世界の情勢を変えてしまうような発明品を造ります。」

   ―――...っ、束が....?

  束とは、幼稚園の頃からの親友だ。頭が良すぎたが故にどちらも孤立していて、孤立していた者同士仲良くなった。そしてもう一人、千冬ともその後仲良くなった。

「本来なら、貴方と織斑千冬の三人と共に夢見た宇宙へ飛び立つための発明だったものです。」

   ―――あれか....。

  賢すぎた俺たちでも、宇宙の果てなどは決して分からなかった。だから、自由に(そら)を飛びたいと夢見た事があった。おそらく、そのための発明だったのだろう。

「ですが、その発明は宇宙開拓の物としては見られず、兵器として見られるようになってしまいました。さらには、女性しか乗れないと言う不具合から、世界は女尊男卑になってしまいます。」

   ―――束は、そんなの望んじゃいないだろうに...。

「はい。ですから、近々目覚める貴方はその世界を知り、元の男女平等の世界に戻し、かつての夢を叶える。...そんな道筋でした。」

   ―――...それが、転生者によって狂わされた...と。

  大体は理解できた。確かに、俺がいないと影響が大きいな。

「その通りです。転生者を転生させた存在がいたのですが、その存在が厄介な能力を転生者に与えていたんです。」

   ―――能力?それに、その存在は...?

「能力については、簡単に言えば洗脳です。それと、その存在についてですけど、その存在はきっちりと相応の裁きが下されました。もう干渉する事はないでしょう。」

   ―――洗脳...だって?まさか、束達はそれで...。

「はい。転生者にとっての“原作”に沿うために、彼女達は洗脳されてしまいました。」

  その言葉を聞いた瞬間、何も身動きも取れないのに、怒りでいてもたってもいられなくなった。

「落ち着いてください。そのために一時的に貴方を呼び寄せたんです。」

   ―――呼び寄せた?

「はい。貴方は、ここに来る前の記憶を覚えていますか?」

  そう言われて思い出してみる。...そうだ。確か、俺は束を庇って車に....。

「...その様子だと思い出したようですね。車に轢かれた貴方を、篠ノ之束は回収して、自作の治療カプセルに入れて自力で回復させようとしていました。」

   ―――...束、そんなもの作ってたのか...。

  まだ小学一年生なのに凄まじいな。...俺が言える事じゃないが。

「本来なら、篠ノ之束は貴方の治療を続け、今頃には既に完治して目覚めているはずなんです。」

   ―――それは、洗脳された事によって変わってしまったのか?

「その通りです。洗脳された結果、“原作”には登場しない貴方の事を忘れてしまい、貴方は放置されてしまっています。」

   ―――治療しているのを放置されたら、死ぬんじゃ...。

「大丈夫です。元々10年程放置しても保つ装置でしたし、篠ノ之束の音を調べるために捜索していた研究者達が貴方を別の場所に連れ出し、治療を再開しています。」

  ....それはそれで心配なんだけど...。

「...これから貴方は目覚め、世界を元の道筋に戻すよう行動してもらいます。」

   ―――行動...って言ったって...。

「簡単な事です。洗脳を解除し、女尊男卑の世界を正せばいいだけです。」

  確かに言うだけなら簡単な事だ。...だけど。

   ―――女尊男卑はともかく、洗脳はどうやって...。

「あまり干渉できないから心許ないですが、貴方に強い“きっかけ”となる事を示せば、洗脳を解除できる能力を授けます。」

   ―――...随分、偏った能力だな。

「これ以上便利にすると転生者とは違う悪影響が出かねないので...。ちなみに、“きっかけ”となるものは洗脳される前の事であれば貴方が関係していない事でも構いません。」

  使い勝手が難しい能力だけど、洗脳を解除するにはこうするしかないのなら仕方ない。

「それと、念のため“原作”の知識を授けます。後、洗脳に関しては貴方が世界の修正の一歩を踏み出したら使えないように世界の修正力が働きますので、二度手間になる事はありません。」

   ―――...分かった。

「...では、世界の事を...私が大切にしている貴方の世界を、頼みます。」

  彼女がそう言うと共に、俺の視界は光に満たされ、意識が沈んでいった。





















   ―――...コポッ...





「(...っ、ここは....?)」

  目の前に水泡が浮かんでいくのを見ながら、意識を取り戻した俺はそう思った。

「(....これは...一体...。)」

  黄緑色の液体が視界を覆っている。...というより、何かしらの液体の中か。これは。

「....おぉ...!目を覚ましたぞ!」

「(...誰だ?)」

  目を開けた俺に気付いたのか、白衣を来た男が驚きの声を上げていた。

「昏睡状態からなかなか変化がなく、どうしたものかと思っていたが...。これはいい...。」

  そう言いつつ、俺の傍にある装置を弄る。

   ―――プシューッ!

「ぅ....ぁ....。」

「おっと。...無理もないか。約13年もカプセルの中だったようだからな。」

  液体がなくなり、カプセルが開く。俺は地力で立とうとするが、倒れそうになって男に受け止められる。

「ぁ...じゅ...さ..ね....?」

「声も出ないか。まぁ、いい。」

  確か、事故を起こしたのは小学生一年だったはず...。だとすると、今の俺は20歳ぐらい...?

「あの篠ノ之束の友人となれば、いくらでも利用価値はあるな。...まずは逆らえないように“コレ”でも付けておくか。」

  そう言って男は俺の首に何かを付ける。

「容姿も篠ノ之束にそっくりなのは驚いたが...まぁ、大した支障はない。」

「....な....に....を....?」

  途切れ途切れに声を出して聞いてみる。...嫌な予感しかしない...。

「なに、私達の目的に利用させてもらうだけさ。」

「(...やっぱり、研究者とかに連れられるって碌な事にならないんだな。)」

  マンガとかでありそうな展開に、俺は呆然とそんな事を考えていた。







     ~10ヶ月後~





「...ふむ、これで終わりだ。ご苦労。」

「....はぁ。」

  俺を監督している男にそう言われ、俺は溜め息をつく。

  この10ヶ月間、俺はまず体の機能を取り戻させられ、首についてるリング(爆弾だった)を脅迫材料に、強制的に従わされてきた。...と言っても、そこまで非人道的な事はされてないが。

「身体能力、頭脳共にとんでもない数値だな...。やはり天才は天才を呼ぶのか?」

「.....。」

  俺から取ったデータを見ながら、最初に出会った男がそう呟いていた。

「...そろそろいいだろう。そこに座れ。」

「...はい。」

  言われるがままに指定された椅子に座る。

「君の大体のデータをほぼ取れた。...そこで、君にやってもらう事がある。」

「...なんでしょうか。」

  大人しく従う様に返事を返す。下手に怒らせたりしたら、首のリングで死ぬからね。

「この“ISコア”を解析してもらおう。」

「コア....を?」

  “ISコア”。束が開発した宇宙開発のためのパワードスーツ“IS”の核とも言えるもの。世界に497個しかなく、一介の研究所が持っているとは思えないんだが...。

「これは一体...?」

「なに、君を発見した時に一緒に置かれていてね。おそらく、ISのプロトタイプのようなものだろう。」

「...そうですか。」

「では、解析を頼むね。」

  そう言って部屋を出て行く男。...俺は、この研究所では一応実験動物のような扱いだ。...ただ、ひどい事をされる訳でもなく、ただ言う事を実行させられるだけだ。...一人だけ、俺にコスプレをさせる変態がいたけど。...やっぱり変人が集まるんだな。研究者とか科学者は。

「....とりあえず、解析っと。」

  このISコアが男の言った通り、俺の傍に置かれていたのなら、元々これは俺と束で開発しようとしていた“本当”のISコアなのだろう。だったら、もしかすると...。

   ―――カタカタカタカタ....

「...やっぱりな。」

  簡単に解析が終わり、ISコアの所有者に俺が登録される。元々これは俺のために束が作ったものなのだろう。だから俺だと簡単に解析ができたし、俺が所有者に登録されたんだろう。

「...ほとんど完成しているな。」

  機体の形や、名前などは決まってないが、それはこれからどうにかしよう。

「...今の内に....。」

  ISコアに機体の形や名称を登録していく。研究者達はまだ俺が解析しきったとは思ってないだろう。作業を監視されてるだろうけど、解析してるように見せかけてるから大丈夫だ。...というか、案外ザル警備だ。

「...これで良し...と。」

  そう言ってエンターキーを押して、作業を完了する。

「(...これならその気になればいつでもこの研究所を脱出できるな。)」

  首の爆弾も、このコアをを使えば簡単に解除できるし、研究所のシステムも掌握できる。

「(...タイミングは、奴らが油断したその時だ。)」

  作業が止まったのを見て、解析が終わったと判断して研究者が部屋に入ってくる。

「どうかね?解析の方は。」

「...大体は解析できました。ただ、やはりプロトタイプだったようで、現在のISコアよりも劣ります。」

「...ふむ。どうやら、利用する事は難しそうだな。致し方ない。」

  嘘の報告を真に受ける男。...まぁ、俺が従順な態度を取ってるから嘘をついてるとは思っていないのだろう。演技だけど。

「ただ、所有者に自分が登録されていました。」

「ほう、やはり友人となれば、専用の機体が与えられるのか。...とりあえず、このコアは預かっておこう。」

  さすがにコアを持たせておくのは危険だと思ったのか、コアを預かろうと迫ってくる。ただ、今まで散々従順に従ってきたからその動きは油断していた。

  .....このタイミングか。

「....来い、想起(そうき)!」

  コアを起動させ、機体を展開する。機体の形は俺専用に設定されてないだけで、デフォルトの形があったので、今回はそれを使わせてもらう。...最適化もまだだしな。

「なっ、なに!?」

「ハッキング開始...掌握完了!」

  コアを通じてまずは爆弾の機能を停止させる。

「貴様...!..なっ!?爆弾が!?」

「今までただ単に従ってきたと思ったか?こうやってずっと反撃の機会を伺ってたのさ!」

  そう言ってる間にも研究所のシステムにアクセスし、機能を奪っていく。

「さすが束だぜ。まだ未完成なのに、ここまでの機能を備えてる。」

「貴様....!」

  完全に俺を制御下に置けなくなった男は俺をとんでもない形相で睨んでくる。

「なぜ、男の貴様がISを...!」

「そういえば普通のISは男には使えないんだったな。だけど、これは特別製だ。俺の、俺のために作られた、俺専用のISだからな。」

  俺のためのISだから、女性にしか反応しないとか関係ないからな。

「利用できると思って、色々と手を施したのが間違いだったな。」

  この研究所の奴らは、俺の利用価値を上げるために、知識だけでなく、運動機能も上げさせてくれた。おかげで、自分でも分かるほど強くなれた。

「...まぁ、お前らは俺にそこまでひどい事はしていなかったから、殺すことはしねぇよ。じゃあな。」

  そう言って、俺は研究所のシステムを完全にダウンさせ、研究所をある程度破壊していった。

「...ん?...これは...。」

  休憩室のような場所で、雑誌とかを見つける。

「...今の世界の状況を知っておくためにも持っておくか。」

  雑誌をいくつか持ち、拡張領域に入れておく。...今更だけどこのIS、武器ないんだよな。

「肝心な部分の知識は貰ったからこの程度でいいだろう。」

  そう言って、俺は研究所から脱出した。









「...ここらで少し状況を整理しよう。」

  研究所から、他の誰かに見られないように飛んで、森の中に着陸する。操作などはISについての知識を覚えさせられてたのでコツさえ掴めば簡単にできる。

「今の時期は俺が事故に遭ってから14年近く経っている。これは研究所で目が覚めた時に研究者が言ってたから確実だな。」

  その13年間分を埋めるように知識とかを詰め込まれたのはきつかったが。

「...あの人から貰った知識の通りだと、早めに行動した方がいいな。」

  夢の中(?)で出会った彼女から貰った知識は“原作”だけでなく、今の束たちの状況のもあった。

「...織斑秋十...彼を早く助けねば。」

  ふと、雑誌に目を通すと、近々第二回モンド・グロッソが開かれる旨が書かれていた。

「確か、この時に“織斑一夏”は誘拐される。」

  “原作”の知識と合わせ、照らし合わせる。

「...“主人公”に関わる大きな事件だ。何か起こるかもな。」

  今の千冬の所の状況を考えると、織斑秋十が身代わりに誘拐されるかもしれない。

「とにかく、このタイミングで織斑秋十を保護するか。」

  そうと決まれば、日時が明日となっているので、急いで大会の場へと向かう。









「....どこだ...?」

  夜明けぐらいにモンド・グロッソが開催される場所の近くに来れたのはいいが、この人口の中から一人の人間を探すのは困難だった。

「...ダメだ。少し休憩するか。」

  ISのエネルギーもほとんどないので、徒歩で人気のない場所へ向かう。

「...やばいな...。“原作”と同じように誘拐事件が起きるとしたら、悠長な事はしてられんな...。」

  既に大会は始まっている。しかも、もう準決勝が始まるらしい。

「何とかして、探し出さないと...。....うん?」

  休んでられないとその場を立ち去ろうとして、怪しい人影を見つける。

「.....。」

  見つからないように気配を殺しながら、聞き耳を立てる。

「作....成...よう...。」

「織....冬の...誘拐...れば...。」

「(“誘拐”....!)」

  所々聞こえなかったが、肝心のキーワードは分かった。そこから考えると今の会話は大体こんな感じのはずだ。

   ―――「作戦は成功のようだな。」

   ―――「織斑千冬の弟を誘拐すれば...。」

  この事から考えると、会話している奴らとは別に実行犯がいて、こことは違う場所にいるという事か。

「(...連絡を取り合っている機器があるはず。ISコアを接続して逆探知できれば...。)」

  そうと決まれば一気に人影に近づく。

「な、なんだ!?」

「し、篠ノ之束!?」

  さすがに気づいたが、案の定動揺してるから隙だらけだ。...束と勘違いされたが。

「人違いですよっと!」

  間合いを詰める勢いで一人を突き飛ばし、もう一人を軽く攻撃を入れて怯ませた所を気絶させる。突き飛ばした方も、また間合いを詰めて同じように気絶させる。

「....これか。」

  倒した奴(男)の懐からケータイを取り出す。それをISコアに接続する。

「急がねばな....。......ここか!」

  研究所で向上させられた頭脳を生かし、一気に場所を突き止める。

「行くぞ。想起!」

  ISを起動させ、現場へ向かう。....あ、ちなみに一次移行(ファーストシフト)は終わったから最適化も済んでいる。









「....あそこか...。」

  案の定見張りがいる。...さて、どうするか。

「....あー、もう研究所のでストレスが溜まってるんだ。正面突破で行く!」

  ...え?そうすると人質に取られるかもだって?...大丈夫、正面突破と言っても基本音を立てないし、気づかれないようにするから。

「....てな訳で...シッ!」

  見張りの視線が一瞬揃って逸れた瞬間を狙い、一気に近づく。

「...?....っ!?ガッ...!?」

「なにっ!?ぐあっ!?」

  一人目を振り向いた所で顎を掠らせるように蹴って気絶させ、もう一人は蹴りの勢いを利用してさらに回し蹴りをして吹き飛ばす。上手い事頭に命中させたからこっちも気絶させれたはず。

「......。」

  音を立てないように扉を開け、中に入る。

「....ISありか....。」

  進んでいくと、男だけでなくISを持った女性もいた。

「(...俺もISを持っているとはいえ、プロトタイプのままでは勝てないかもしれん。なら、展開する前に一瞬で気絶させるか。)」

  身体能力を生かして、音もなくISを持っている女性に接近する。

「.....うぐっ!?」

「....これでよし、と。」

  研究所でなぜか覚える機会があったCQCで気絶させる。

「他の奴は....気づいてないな。」

  それなら好都合だと、他の奴も同じように気絶させていった。もちろん、何度か気付かれたけど一瞬で沈めれば事なきを得た。







「どこだ....?」

  建物の中を探し続ける。途中に出会った奴らは片っ端から片づけて行った。もうすぐ最深部に着くな。

「ここで最後か...。」

  扉が施錠されているな。蹴破るか。

   ―――ガァン!

「な、なんだ!?」

「(ビンゴ!やっぱりここか!)」

  中から声が聞こえてくる。今度はもっと力を込めて蹴る。

   ―――ガァン!ガァン!ゴガシャァン!!

「ここ!?」

  扉を蹴破り、中に飛び込む。中には二人の銃を持った男と、手足を縛られた青年がいた。

「だ、誰だ!?」

「...っ!?篠ノ之...束...!?」

「...束...さん....?」

「君は...君が....。」

  貰った知識にある特徴と一致する。...間違いない。彼が織斑秋十君だな。

  ...それと、やっぱり全員俺が束だと勘違いしているな。

「...残念ながら、俺は篠ノ之束じゃない。」

「なに!?」

「え......。」

  否定の言葉を出すと、全員が動揺する。...好都合。ついでに気絶させてもらおう。

「くっ....!」

「遅い!」

「がぁっ!?」

  一人の男が俺に銃を向けるが、それよりも早く俺は懐に潜り込み、銃を真上に弾き飛ばしてその勢いで背負い投げを決める。

「なっ!?」

「はい、動くなよ?」

  その早業に驚いたもう一人にすかさず弾いた銃をキャッチして向ける。もちろん既に撃鉄は起こしてあるからいつでも撃てる。

「とりあえず、気絶してもらう。」

「うっ....。」

  一気に近づいて気絶させる。背負い投げで蹲ってる方ももちろん気絶させる。

「...あなたは....?」

「俺...?俺は...そうだな...束の幼馴染って所か?」

「束さんの!?」

  俺の事を聞かれたので正直に答えると、凄く驚かれた。

「神咲桜って言うんだ。...こんな名前と容姿だが、男だからな?」

「は、はぁ...?...って、男!?」

  ...やっぱり男に見られてなかったか。そんなに女っぽいか?

「それで...君は、 織斑秋十君で合ってるね?」

「は、はい。」

  秋十君に目線を合わせて話しながら縛っている縄をほどきにかかる。

「...かつての家族と、居場所を取り戻したい?」

「....ぇ...?」

「取り戻したいのなら、この手を取ってくれ。」

  縄をほどききり、手を差し伸べる。

「この狂いに狂った世界も、ぶっ壊せるぞ?」

  貰った知識の通りなら、彼はこの狂ってしまった世界に不満を持っている。だからこんな悪魔の囁きのような事を言ってしまった。...まぁ、こうでもしないと乗ってくれないだろうし。

「...取り戻したい...。」

「うん?」

「...取り戻したい...!皆を、かつての優しい皆を、取り戻したい!」

  彼は力強く、はっきりとそう言って、確かな意志を持って俺の手を取った。

「...いい返事だ。さぁ、行こう。」

「行く...?って、どこへ?」

  秋十君の疑問は尤もだな。...俺がまず向かう場所は決まっている。

「そうだな...。まずは、寝惚けておかしくなってる兎を叩き起こしにでも行こうかな!」

  ...この歪んだ世界を変えるには、まずは束の協力が必要だ。だから、束の洗脳を解いて、味方につける。

  ...居場所は既に貰った知識にある。飛んでいくためのISエネルギーもある。













「....さぁ、世界の修正の始まりだ。」











   ―――カチリ...と、何かが動き出した音がした。







 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか?
ちなみに、桜が貰った知識は“原作”の知識と、今の幼馴染たちの現状などです。
それと、最後の音は世界が元の道筋に戻り始めた事を表す...つまり、洗脳の能力が封じられた事を示します。

次回は束と再会です。

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