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黒魔術師松本沙耶香  紅雪篇

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14部分:第十四章


第十四章

 動かしただけであった。それで紅の吹雪の勢いが増す。それは沙耶香の黒い炎と完全に拮抗していたのであった。
「やるわね、ここでも」
「貴女が向かって来るというのなら」
 女は答えてきた。
「私もまた」
「そう。けれどね」
 沙耶香はそれに応えて言う。
「こちらも。やらないわけにはいかないのよ」
「戦うのね」
「さっきも言ったわね」
 言葉の繰り返しになるがあえて言い返した。
「そうよ。この雪を止める為」
「そう」
 女はそれを聞いて目をまた動かしてきた。
「そうなの。雪を止めないのね」
「だから言ってるわよね」
 また女に述べる。
「さっきから。そうだって」
「それだったら」
「!?」
 女の声の色が変わったのに気付く。それを見て攻撃を控えさせる。
 それは女も同じであった。二人は同時にそれぞれの吹雪を収めたのであった。
「どういうこと!?それは」
「私は戦うつもりはないの」
 女は述べてきた。
「それはわかって」
「こちらが仕掛けて来なければ、ね」
「ええ」
 こくりと頷いてきた。その通りであるということだ。
「だから」
 そしてまた言う。
「私は争わないわ」
「待って」
 沙耶香はそんな彼女を呼び止めた。既に炎の翼は消している。また雪が積もっていく中で話をするのであった。女も既に吹雪から普通の雪に変えていた。
「それでも雪は降らせるのね」
「それはね」
 止めないと言う。一見矛盾していた。
「止められないわ」
「止められない」
「そうなの」
 彼女は今確かに止められないと言った。それは沙耶香の耳にも確かに届いた。
「今のままでは」
「では聞くわ」
 沙耶香の目が光った。戦いではなく思考に。
 ゆっくりと、だが確かに。沙耶香は女に問うた。
「貴女は雪を止められるのね」
「止められるのは私だけ」
 はっきりと述べた。
「そう。そして」
 それを聞いたうえでまた問う。事実を確認するかのように。沙耶香はそこに何かを見ていた。
「今は止められない」
「そうよ」
 そして彼女はそれも同時に認めたのであった。
「その通りよ」
「そう、わかったわ」
 沙耶香はその言葉を聞いて矛を収めた。もう戦うつもりはなかった。
「じゃあ。またね」
「帰るの」
「ええ。ただし」
 沙耶香はここで言ってきた。
「必ずこの雪を止めてみせるわ。これは仕事だから」
「そう、私を止めるということね」
「そうよ。それは覚えておいて」
「わかったわ。ではまた」
 沙耶香が言うと女はすうっと姿を消した。まるで煙のように紅の世界の中に消えてしまったのであった。後には何も残ってはいなかった。
「去り際には何も残さない」
 沙耶香はそれを見て呟いた。
「綺麗ね。惚れたわ」
 誰もいない雪の街でそう呟いて微笑んだ。これが彼女と女の出会いであった。


 
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