黒魔術師松本沙耶香 紅雪篇
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13部分:第十三章
第十三章
「貴女は」
「ええ、そうよ」
沙耶香は彼女に答えた。答えながらその前にやって来た。
「見えるわ、その白い姿が」
「そう」
「貴女は唯の人間ではないわね」
普通の者に見えない時点でそうだ。だが彼女はそれをあえて聞いたのである。
「かつてはどうだったかは知らないけれど」
「私は雪女」
女は声もまた透き通る感じであった。やや虚ろな声でそう述べてきた。
「雪女よ」
「そう。じゃあ」
沙耶香はその声を聞いたうえで尋ねてきた。
「この雪は。貴女の仕業ね」
「私がいるせいで雪が降るというのなら」
彼女はそれに答える。
「そうなるでしょうね」
「そう、やっぱり」
沙耶香はそれを聞いて頷いた。
「この雪は」
「ええ」
女はその問いに答えてきた。
「そうよ」
「やはりね。それじゃあ」
沙耶香の黒い目が光ってきた。戦う目になっていた。
「行くわよ」
「この雪を止めるつもりなのね」
「勿論」
それを言うと同時に動いた。左を滑っていく。
それは本当に滑るような動きであった。雪の上を。その動きで沙耶香は雪女に対して攻撃を仕掛けようとしていた。
その手に何かを出す。それは黒い鞭であった。
「これでっ」
鞭を女に向けて放つ。しかしそれは女のすぐ手前を動きを止めてしまった。
「むっ!?」
「無駄よ」
女は氷の如き冷たい声で述べてきた。
「その鞭には水気があるから。だから」
「凍ったというわけね」
「ええ」
見ればその通りであった。鞭は凍って今粉々に砕け散ったのであった。
「お見事」
沙耶香はその粉々に砕け雪の上に落ちた自身の鞭を見て述べた。
鞭はこれでなくなった。しかし沙耶香は諦めたわけではなかった。
今度は右手に何かを宿してきた。それは赤い稲妻であった。
「ではこれはどうかしら」
その稲妻を右手にたぎらせながら言う。その稲妻が彼女の整った白い顔を紅く照らし出していた。
「稲妻ね」
「そうよ」
女に対して答える。
「これならどうかしらね」
その稲妻をたぎらせた右手を横に払う。それで撃ちつけてきたのであった。
稲妻は紅い球体となり女を襲う。凄まじい稲光と衝撃を撒き散らしながら複雑なうねりを見せて女に襲い掛かる。しかし女はそれを前にしてもやはり全く動きはしなかった。
「どういうこと!?」
沙耶香が思ったその時だった。女の目が一瞬だけ動いた。
「!?」
沙耶香がそれに気付いた時には稲妻は止まっていた。そして氷に包まれていく。
「稲妻も捕まえるというのね」
「そうよ」
女は静かに答える。やはり冷たい声であった。
「氷は全てを止め雪は全てを覆う」
女は言った。
「だからよ」
「いい言葉ね。けれどそれなら」
沙耶香にも考えがあった。その考えをすぐに実行に移してきた。
今度出したのは稲妻ではなかった。コートに黒い炎を纏わせてきたのだ。
「炎・・・・・・」
「そうよ」
女に対して答える。漆黒の炎は紅の雪を溶かしながら今巨大な翼となった。沙耶香が黒き翼を持つ堕天使となったかのようであった。
「氷に対しては炎」
そう述べる。
「そうではなくて?だからこそ」
翼を大きく広げる。そこから無限の羽を放つのであった。
羽は漆黒の吹雪となった。それで紅の吹雪を消し去ろうとする。しかし女はそれにも動じずその目を冷ややかに動かすだけであった。
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