黒き天使の異邦人
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第2話 変わり果てた日本
あれから俺が行った事はと言えばPT(パーソナルトルーパー)と呼ばれる、人型兵器に搭乗してみた事だ。
シミュレーターを起動しただけだったけど、一度で良いから乗ってみたかったというのが本当の所といえる。
まあ乗ってみた結果、余計に頭が痛くというか今度こそ本当に頭痛がして頭を抱えたんだけどな。
「なんでゲームの中でしか見た事のない、しかもコックピットも見た事がないのに操縦方法が分かるんだよ……」
コックピットを見た時には分からなかったが、中に座り操縦桿を握ったと同時に頭の中に情報が流れ込んできたのだ。
だけど普通なら操縦方法が分かったとしても手足のように操縦できないのが普通なのに、シミュレーターの中で俺はスイスイと操縦して敵のPTを撃墜した事、これも自分自身で奇妙としか言いようのない感覚に陥っていた。
「お、おぶぅ、おぼぼ……」
まあ、操縦できると分かっても十数分乗っただけでグロッキーになる以上は、体を鍛えないといけないし幸いにしてもスペースノアという宇宙戦艦の中にはトレーニングルームもあるだろうとポジティブに考えることにした。
じゃないとヘルメットの中に、まあ、なんだ? 戦闘中におrrrrする事になるんだしな。
こんな世界で引き籠って過ごせる、もしくは上手く宇宙へ脱出できるなんて考えてない、霧の艦隊が全世界の海洋封鎖を行う前であればどうにかは出来ただろう、否、大海戦の直前か直後だったら容易に宇宙に行けたと思う。
今の状況は脱出するにしても引き籠るにしても最悪と言える状況だしな。
いつかは必ず本艦は見つかるし、俺自身も元の世界に戻る事や戻れない場合に置いての身の振り方を考える前に死ぬなんて真っ平ゴメンだ。
「その為にも、ここにある機体を乗りこなせるようになって、スペースノア級を指揮した上での戦闘も最低限はやれるくらいにはならないとな……」
ハロ達が用意してくれたタオルで口元を拭い、彼らに汚れたパイロットスーツを預けながら俺は早速と言って良いくらいにトレーニングや知識を得るための事を考えていくのだった。
何しろ、まだ見つかってないという事は力をつけられるという事でもあるのだ。
時間はある、だからまずは俺自身が力をつけて、世界を調べるのはそれからだ。
そう決意を新たにしていたのだった。
~黒き天使の異邦人~
~第2話 変わり果てた日本~
あれから二年の歳月が流れて2052年、俺はようやく普通に様々な戦闘をこなせる様になり、更には生身に置いての戦闘技術についてもかなりの訓練を積めていた。
何しろ艦内には生身での訓練シミュレーターまであり、ゼンガーやアクセル・アルマーといったスパロボOG世界における生身でもかなりの実力を備えた人達と濃密な戦闘訓練を行えたのは本当に大きい。
最近ようやく戦闘中にアクセルの背後をとって倒せる事ができるようになった位で、彼らにはまだまだ遠く及ばない程度の実力ではあるけどな。
「ここが、この世界の日本……」
一度だけ外に出た事があって更には一悶着以上の事があったんだが、今は割愛させて貰う。
俺は一番強力であり機体を異空間に隠せるアストラナガンでアオガネを出発して、海中を霧の艦艇に見つからないように進みながら日本に到着した。
到着後はアストラナガンを異空間に移して更には艦内で得た様々な情報を元に、現地に行っても違和感のない服装に着替えて遂に日本の中でも最大といえる都市、横須賀に上陸した。
「ハロのジャミングが上手くいっている事を願うか」
今の日本は俺が生きていた時代から40年以上もの未来、幾ら霧に敗れて海洋を封鎖されて国が困窮しているとは言っても、基盤となる技術や国内に予め設置されていた物まで衰退することはあり得ない。
だからハロの中で一番電子関係に強い個体を選んで連れて来て、色々とハッキングによる情報の誤魔化しを行うことにしたのだ。
「この世界で生きるにしても、元の世界に戻るにしても、宇宙に脱出するにしても、どの選択を選んでもこの世界を知らない事には始まらないしな」
どうして上陸を決意したのか、それは俺自身がどういう選択をしようとも今の世界を知らない、知ろうとしない事自体が害悪である事だからでもある。
確かに艦内の観測機器で色んな情報を仕入れる事は出来る、だけど、自分の目と肌で感じた世界を知らないという事、それは自分自身で世界を狭める事にも繋がるし取れる選択が限りなくなくなっていくことを意味する。
「治安状況とかも含めて俺が住んでいた日本とは全く違うだろうな」
早速歩きだして人のいる場所を求める。
ちなみに俺の今の恰好は白のTシャツにGパンという恰好だ、背中にはハロを含めた軽い荷物が入っているリュックを背負っていて、リュックの中のハロはリアルタイムで各種電子機器のジャックを行っているらしいのだが、本当なんだろうか? と、半信半疑である。
「…… 覚悟はしてたけど、やっぱ違うもんだ……」
俺の目の前にある光景は、バラック小屋とも言えるような長屋とも言える構造の家が広がり、屋根には太陽光発電のためかパネルが設置された第二次大戦の後の日本の住宅といえる光景と、ここが未来という事を示す物が同居するというアンバランスな住宅街が広がっていた。
更には目に見える人々は俺が過ごしていた時代の日本とは違い、着古したような洋服に身を包み粗末な舗装の道路を歩いている。
これが別な世界とは言ってもかつて俺が住んでいた日本という国の現在の姿なのか…… あの当時でも言われていた事がある。
それは日本が海洋を完全に封鎖された時はどうなるのか? という事だ、この答えが目の前に広がっていた。
「食料は食料管理庁と呼ばれる所からの配給で、外食産業は衰退しつつはあるが、金持ちや要人が利用する高級店は普通にあるみたいだな」
そんな住宅街を抜けて、こんな状況になる前は市民の憩いの場となっている筈であった噴水がある広場には、食料管理庁と書かれた無人車による食料の配給が行われていて沢山の人が群がって配給される弁当形式の食糧を受け取っていた。
事前に確認した通りでもあるな、食料に関しては厳しい統制下にあり庶民が利用できるような外食産業は衰退の一途を辿り、かつての日本の様に闇ルートの食料品も手に入りにくい。
「やっぱり、海面上昇によって陸地が後退した事が大きいのか……」
第二次大戦中の日本であっても、戦後の混乱期はともかくとして戦時中に統制下に置かれている時は、まだマシといえたはずだ。
あの当時は家庭でも農業を軽くではあるが行えるくらいの土地があり、更には広大な平野もあった事で普通に農業や酪農に畜産を行えており、市民は配給するだけではなく横流しという闇ルートでの食料調達の方法もあった。
だからこそ、庶民向けの多種外食産業が衰退する事はなかったんだが、陸地が減り農業に活用できる土地が減った上に海洋を遮断されたという影響の凄まじさをみる事が出来ていた。
「電気の販売や、海中から椅子をサルベージしての販売…… 逞しいよな、やっぱり」
そうやって歩いていると俺の時代とは違う電車、まさにSF映画に出てきそうな電車を改装して様々な商売を行っている者達の店舗が現れる。
電気の販売は電気自体も配給制となっていることから、蓄電型のバッテリーに電気を供給する商売であり、間違いなく俺の時代にはなかったものだ。
そう考えるとあの当時の俺達の暮らしは本当に贅沢なものだったのだと、そう理解させられる。
「海面上昇と海域封鎖が重なれば、こうなってしまうのか……」
ただ、こんな状況であっても子供達は元気に走り回って遊んでいて俺が幼い頃に遊んでいたゲーム機の変わりが、そこら辺にあるタイヤとか廃材なのは状況を感じさせてくれるものではあった。
これが、今のこの世界に置いての日本の姿。
正直にいえばショックを受けなかったと言えば嘘になる、あの様々な物に溢れて食事にも困る事はなかった国が、この世界ではこのような状況に置かれている事、それになにも感じなかったかと言われれば嘘になる。
だけど、俺にはこうした状況を打破は難しいだろうが動かすだけの力はある、あるけどこの日本を救う為に振るうとかそういう考えには全く至らない事、これがやっぱり俺が異邦人なのだと自覚する事でもあった。
空腹を感じて俺は昼食にしようと思ったんだが、艦内で俺が作って持って来た弁当を下手な所で食おうと思ったら妙なことになるのは確実だ。
ここに来る前までは状況を甘く見ていた、やっぱり向こうの世界の日本の基準で色々と判断してはいけないな。
「どこで食うとするか……」
思わず小声で漏れた声だが、正直な話で言えばもっと情報と言えるものを収集したいし、更には弁当食うためだけにアストラナガンの中に行くのも大袈裟だ。
弁当の中身は体を動かす事もあって少し多めにしてあるのだが、シンプルに卵焼きにタコさんウィンナーやデミグラスソースをかけたミニハンバーグ、俵の形に握った塩おにぎりといった内容だけど、今の日本で言う所の天然品だけで占められている。
ここに来るまでに一度だけチラリとみる事が出来た合成食の弁当の見た目とは違って、天然の食材を使った弁当だと分かるのだ。
あの明らからに美味くなさそうな合成食の弁当しか口にしていない人達の目に触れる、もしくはあの程度の量じゃ足りない子供たちの目に触れればどうなるか、火を見るよりも明らかだ。
「適当な所を探して食うか」
結局はそれになってしまう。
人気のない所を探して食う以外にないな、何しろ金持ちがこういった弁当を持っているのならばともかく、今の俺は市井に紛れる為に普通の人と同じ格好をしている。
こんな弁当を持っていることがバレれば確実に面倒なことになるだろうな。
今の俺は戸籍はおろか、この国にはそもそも生まれていない事になっているのだから。
「見つからなかったら持って帰ればいいか」
どうしても見つからない時はアストラナガンの中で食うか、それか持って帰って食えば良いだけだとポジティブに考えるしかない。
もっとマシというか、そんな世界であればどんなに良かったか、そんな事を考えていた俺は少しだけ周囲への注意が散漫になっていたのだろう。
「きゃぁ!!」
「っと」
曲がり角を曲がった時に突然、胸の辺りに衝撃を感じた俺は立ち止まってぶつかった人を確認する。
白い制服、たしか海洋技術統合学院とか言っていた今の日本に存在する最大である学校だったはずだ。
茶色の髪に黒いカチューシャを着けて、少し気の弱そうな表情と瞳を浮かべた少女はぶつかって尻もちをついて少し痛そうにしていた。
「前をよく確認していなかった、すまないな」
「あ、いえ…… こちらこそ、すいませんでした」
尻餅を付いている少女へと向けて手を伸ばして彼女を立ち上がらせる。
立ち上がった彼女は制服についた汚れを払っていた。
「怪我はないか?」
「あ、はい、大丈夫です……」
「本当にすまないな、前を確認していたらぶつかる事も無かったんだが」
「い、いえ、私の方もちょっと欲しかった物が買えたので急いでいたから」
こうしてみると彼女は引っ込み思案なのだろうか、俺の顔色を窺っているとしか思えないような様子だ。
まあ彼女の性格なのかもしれないな、来ている制服が今の日本として考えた場合、非常にいい素材でできているしよく確認しなかった事が悔やまれる。
情勢と自分自身を鍛えるという事を先に回し過ぎたな、帰ったら調べておかないといけないか。
「じゃあ、お相子だな」
「はい!」
彼女が欲しかった物というのは今も抱きしめるように持っている、本が入っていると思われる物だろう。
目の前の少女に機にしないようにという意味も込めて、微笑みに近い表情になってしまって言ったが、彼女も同じように華が咲いたと言える笑みを浮かべて返事を返してくれた。
「じゃあ、私、失礼しますね」
「ああ」
そうして別れようとした瞬間、少女のお腹から可愛らしい音がくぅと鳴り響く。
「あ、あぅぅ……」
「…… 腹が減ってるのか?」
俺に聞かれた事による羞恥か、顔を真っ赤にした少女は声にならない声を上げていた。
彼女の自尊心を傷つけないように注意はしつつも問いかけた俺の言葉に、頷きを返してくる。
「えっと、今日は朝を寝過して食べれなくて、昼もこれを買いに行っていたから食べれなかったんです……」
「寮の食堂ってわけか」
「はい…… 夕食までまだ時間があるから……」
どうやら海洋技術統合学院は全寮制のようだ。
更には今の日本の状況を考えれば簡単に買い食いなんて出来るはずもないか、現在の時刻は14時を少し回った辺り。
ふむ、丁度良いかもしれないな。
「じゃあ、俺の弁当を一緒に食わないか?」
「えっ?」
初対面の人間からの誘い。
まあ普通なら受ける訳もない俺自身としては、受けてくれたら情報が手に入るチャンスが出来てラッキー位にしか考えてなかったりはする。
美少女と言える目の前の女の子と一緒に食事が出来るかもしれないという、そんな邪な感情はあったりするけどな。
「まあ、天然の素材が手に入ってなそれを俺が調理した奴にはなるが」
「天然の食材なんですか?」
「ああツテがあってね手に入ったんだ」
そうして少し考えた少女が出した結論は俺の誘いを受けるというものだった。
まあ合成食じゃない天然物の食材を使っているという事に惹かれたのかもしれないけどな。
それから俺は彼女の先導を受けて、屋外で食事をしても邪魔されないような場所へと案内されていた。
「あ、そうだ」
「どうした?」
「お名前をお伺いしても良いでしょうか?」
不意に彼女が立ち止まると俺の方を振り向いて微笑みを浮かべながら、そう言ってきた。
そういえば自己紹介すらしていなかったな、そう思って苦笑いに似た表情を浮かべると彼女の方を向いて口を開く。
「そうだな、俺の名前は紫藤 東夜、見ての通りしがない一般人さ」
「私は天羽 琴璃って言います、よろしくお願いしますね」
これが、これから長い航海といえる旅の間ずっと俺の傍に居続けてくれる、そんな無二の相棒である少女との初めての出会いだった。
この時の俺にはまだ理解はしていなかった、霧の艦隊と、彼らの後ろにあるものの事を。
後書き
最後に登場した女の子は原作に登場したキャラの身内という設定です。
ただ、オリジナルですので、あまり厳しい突っ込みは勘弁という所です。
関係とかはまた次回にでも……
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