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黒き天使の異邦人

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第3話 一人の少女の出会いとこれからの事

 
前書き
最初に、前回の最後から登場したオリキャラは原作キャラの身内という設定だったりします。
原作が完結してないし、大部分の設定も明かされてないので無謀な事とは思いますが、何卒ともご容赦を…… 

 


 不思議というか変な人。

 それが予約していた本が届いたと馴染みの書店から連絡を受けて、受け取りに行った帰りに出会った一人の少年とも青年とも言える一人の男性の印象だった。
 昨日の夜、本が楽しみだったという事もあるけれど色々とあって寝坊して、理由が何もない場合は寮の食堂は容赦なく時間外は食べさせてもらえないし、売店には栄養価はあっても普通よりも美味しくない合成食しかない。
 昼を食べる為に待っていたら間違いなく門限に帰れなくなるから、夜まで我慢すればいいかと考えて出かけてきたら。


「よく知らない男の人にお腹の音を聞かれるなんて、恥ずかしい……」


 さっき出会ったばかりの男の人に、私のお腹が派手に食材を要求する音を聞かれてしまった、穴があったら入りたい。
 これが今の私の正直な心境だ。
 誘いを受けたのは本当に気紛れ、ううん、学校に帰っても色々と面白くない事も多いから少しでも気の紛れる所にいたいと思ったのが、本当に正直な所だと思う。

 こんな私の様子を見て苦笑いを浮かべた彼は、鞄の中から一つの大きなお弁当箱、今となっては滅多に見る事のない重箱、それも二段重ねの物だ。
 正直に言えば空腹が限界に近いから、お弁当から漂う美味しそうな匂いが合成食とは違う天然の食材を使ったお弁当だと本能が知らせてくる。


「じゃあ、良い場所を知っていたら案内してくれないか?」


 そう言って彼は私に聞いてくることから、ここに来て間もないのかもしれない。
 今のご時世に引っ越しが出来る位に余裕があるという事なのだろう、自慢というわけではないが私の通っている海洋技術統合学院に身内が入学すれば、国からの援助が家族にもある程度は与えられるために相当な余裕が生まれる。
 だから引っ越してきたのかもしれない、天然物の食材を使ったお弁当を作れるくらいだから、余裕のある山間部の農村地帯にいたのかもしれない。


「えっと、こっちの方にたまに友人達と一緒に外食したりする場所があるんで案内します」

「ありがたい」


 そうして案内をし始めた私に付いてくる彼の姿を見つつ、我ながら現金というか厚かましいと思いながらも、双子の姉や幼馴染達と出かけた時にいつも軽食を食べる公園というか広場に向かって歩いていく。

 こんな変な出会いが、これから長い付き合いになるパートナーといえる男性との出会いだった。
 もっとロマンチックというか、女の子ならば憧れるようなシチュエーションで出会ってみたかったは思うけれど、現実でのパートナーとの出会いっていうのはこんな感じなのかもしれない。
 いつも姉に私の読んでいる本とかで少女趣味と言われてからかわれるんだけど、日記を後から読み返して思うのはやっぱりもっとなんて言うか、白馬に乗った王子様が迎えに来たっていうシチュエーションが良かったな、なんて思っていたりはする。








~黒き天使の異邦人~
~第3話 一人の少女の出会いとこれからの事~









 俺は彼女の案内で弁当を食っても問題ないような広場について、弁当を広げて美少女と昼食を食べるという前の世界じゃ経験した事のないシチュエーション。
 まあ彼女とは今日初めて会ったばかり、それも一時間近く前に知り合ったばかりという奇妙な縁ではある。

 そうして彼女は俵の塩お握りを口にした琴璃は表情を綻ばせる。


「塩加減が絶妙で美味しいです!それに卵焼きもちょっと甘めですけど、好みです」

「口に合って良かったよ」


 どうやら俺の作ったお握りやら卵焼きは彼女の口に合ってくれたらしい。
 今から考えると弁当を作り過ぎたと思ってはいたので、琴璃が誘いを受けてくれて良かったと考えていた。

 そうしてミニハンバーグやウインナーも全て二人で半分ずつ平らげていく形にはなったが、全て食べ終わると水筒に入っているお茶を紙コップに入れて渡すと食後のお茶を飲んでいた。


「だけど、東夜さんって料理がお上手なんですね」

「まあ、家族が生活力のない人間ばかりでな、自然と身に付いた形になるんだ」

「私って洗濯とかは出来るんですけど、料理とか全然なんで羨ましいです」


 事前に調べてあったことの一つで、食料品、特に天然の食材は厳重な統制下にあるが、極たまに天然食材の配給が行われることがあることや、数と規模は小さくなっているが山間部の農村地帯では普通に天然食材を料理することもあるという事だ。
 だからこう言えば、ある程度は俺が横須賀に来たばかりというのを誤魔化せると踏んでいた。

 だけど気になる事はある。


「ん? 海洋技術統合学院なら調理実習みたいなのとかは無いのか?」

「ああ、そういうのは無いんですよ」

「そうなのか?」


 軍直轄であり将来の軍人を育成が最終的な目的ではあるが、他には海洋技術や文化などの様々な多様な技術の保存と保護も目的とされて居た筈だ。
 料理の実習とかはしないのか? と疑問に思っていた俺の様子を見た琴璃は苦笑いに似た表情になる。


「えっと、調理とかはそれを専門とする部署を希望しないといけないんです」

「ああ…… 食材が貴重だからか」

「はい、なので同級生の中で料理が出来る子って少ないんですよね」


 それを聞けば納得いく理由でもある。
 まあ、訓練や演習中に不測の事態に備えたサバイバル術やらサバイバル料理は習っているかもしれないな。
 この辺まで聞けば流石に怪しまれると思って聞いてはいないけれど、軍直轄型の学校というのならばそういう訓練をしていない方がおかしいからな聞いてはいない。

 それに彼女も答えてくれているようで、本当に当たり障りのない部分しか答えていないし変な事を聞けば、彼女から学校へと報告されて戸籍やらを調べられて政府にまで話が言っても面倒なことになりそうだというのもあるから、迂闊には聞けない事も多い。


「話は変わるけど、そんな厳しい所の食事を抜いてでも買いに行くなんて余程楽しみだったんだな」

「えへへ、はい、前からすごく楽しみにしてたんです」

「へぇ、どんな本なんだ?」

「えっと、普通の小説です、恋愛物ですね」


 俺の問いかけにお茶目というか可愛らしいという表現を付けて良い少女の様子は、本当に彼女が予約していた本を読める事を楽しみにしていた事を表していた。
 やはりというか娯楽関係に関しては質を落としても、なるべく発行や発売を続けているようだといえる状況ではある。

 第二次大戦中の日本であっても供給される媒体こそ戦前よりも質を落とし、更には物を変更してでも供給されていた、まあ、日本人ならではという部分もあるかもしれないけどな。
 まあ、こんな戦時下それも困窮するレベルの状況下で恋愛小説の需要があるという事は、人間って言うのは存外逞しいのかもしれない、否、こんな状況だからこそなのかもしれない。


「そうだ、もう時間だから行かないと……」

「食事に付き合ってもらった後、話し込んでしまったから、悪いな」

「いえ、それに美味しいお弁当のご相伴に預からせて貰えたんで私としては得しちゃってます」

「美味いって言ってくれて、ありがとな」


 そう言って携帯端末(この世界の普通の民間人では持つことなど出来ない最新型だな)を確認した琴璃は立ち上がる。
 俺自身も腕時計で時間を確認すれば既に16時に差し掛かろうという時間だったので、飯を食い終わった後、結構な長い時間話し込んでいた事になる。
 立ち上がった琴璃は俺に対して頭を下げてお礼を言うと、小走りで走り去って行った。

 とりあえず今日の所は俺もアオガネに帰って今までに得た情報の整理でもしよう。
 そう考えると誰も見ていない所でアストラナガンを呼び出して、ステルス機能の一つであるASRSを展開してアオガネのある海域へと飛行するのだった。







 アストラナガンに搭乗して日本を離れてから今は太平洋上、硫黄島付近の海上を通過した辺りになる。
 どうして転移しないのかと言えば、この機体に搭載されている転移装置を使うと重力震が転移先の空間に発生するのだ、アオガネを隠している今の状況だと明らかに俺にとってよろしくない状況となるために、行きも帰りも地道に飛ぶしかないのが痛い所といえるな。


「本当にもっとソフトな転移が出来ないもんかね……」


 正直、今の人類にアストラナガンが転移してくる時の反応を観測出来るのかは未知数というか、分からない面があるために何とも言えないが、霧の艦隊は絶対に反応を観測してから俺に対して襲撃をかけてくるだろう。
 何しろ前に転移装置を使って日本近海に現れた時に、日本近海の海域封鎖を行っている霧の艦隊に襲撃されて交戦したこともあったからな、彼らには確実に転移してくる時の反応を観測されて次は待ち伏せに合う可能性が高い。


「このアストラナガンの性能で戦えば霧の艦隊を相手にしてもなんとかなるのは証明済みだが……」


 以前に転移したと同時に交戦となった際には、大戦艦1重巡洋艦2軽巡洋艦3駆逐艦4という今の人類を相手にするのであれば十分以上の艦隊に襲われたし。
 まあ、駆逐艦に軽巡洋艦の全てを撃沈、重巡洋艦1隻を撃沈、残りの1隻を大破、戦艦は大破に追い込んで、こっちは無傷という状況だったが、あくまであの戦闘はアストラナガンの性能に助けられて出来た戦闘であって、俺自身の技量で何とかなった訳じゃない。

 念動フィールド、俺自身に念動力の素質があったのは本当に予想外と言えるし僥倖と言える事でもある、何しろあの格納庫にある機体、特にヒュッケバインMKⅢにこのアストラナガンは念動能力が無いと十全な力を発揮できない期待でもあるんだからな。


「さてと、そろそろアオガネを着底させている海域に着くか、ここからは海の中だな」


 この数年間、一人でいる事が多かったからか独り言が増えた。
 今日のお昼に話した天羽 琴璃という少女との会話というかは本当に久しぶりの人との触れ合いだったのだ、俺自身が他人を恋しく思い話したいとかそういう思いがあったのかもしれない。

 本当なら食事を一緒にとか誘う気もなかったのに、気が付いたら口から言葉が飛び出ていたんだからな。
 前の世界で良く聞いた【人は一人じゃ生きられない】という言葉の意味を、違う世界で本当に一人となった時に実際に実感するとは思わなかったけどな。

 そうしてアオガネを着底させている海域から数十海里離れた地点に着いたと同時に、俺はアストラナガンを海中に向けようとする、これは霧にアオガネが発見されないようにするための念のための物で、あの交戦した日以降、ずっと念には念を入れてアオガネに帰還するようにしている。


「海の中は相変わらず慣れないがっ!?」


 霧にも人類にも感知されない位置から海の中に入るために高度を落とそうとした瞬間、唐突に脳裏に嫌な予感が駆け抜ける。
 ほとんど感といえるような動きで機体を横にずらせば、先ほどまでアストラナガンが居た場所を赤いレーザーが一閃して敵襲だという事を否応なく俺は自覚する。


「チィッ!帰還の時を狙われたのかよ!?」


 そうしてアストラナガンのセンサーに艦の反応が現れる、今までエンジンなどの探知される恐れのある物を全て止めて無音で波に乗られていた事で気付かなかったのだろう。
 こちらが回避することを想定していたのか、すぐさまセンサー上に実体弾が多数(数としては20以上)表示され海面から一気に飛び出してくる。


「T-LINKシステム起動!念動フィールド展開!最大出力!!」


 こちらに向かってくる魚雷、否、空も飛翔していることから魚雷とミサイルのハイブリットと言える平気なのだろう。
 それら全てに特徴的な反応、重力子反応が確認された為にT-LINKシステムを起動させて全ての魚雷を念動フィールドで受け止めると同時に、真っ黒い深淵とも言える深く黒い闇がこちらのフィールドを飽和してダメージを与えようとするものの、俺は機体を上昇させてこれ以上の消費を回避する。
 弾頭が爆発してその場に残るだけだった先ほどの魚雷の光は目標を失ったために、少しの間は強く輝いていたがすぐに輝きを失って消え去った。

 ここでようやくセンサーの全てが敵の解析を終了させ、コックピットの中にデータを送ってくる。


「潜水艦が3隻か……」


 センサーに表示されているのは、アオガネのデータベース内で確認した事のある大型潜水艦である伊号400型が2隻と思われる艦影に、それほどの大型ではないが別の大型巡航潜水艦が1隻の艦影を映し出していた。
 前回の戦いの時には敵が新の力を発揮できる場所が水上である水上艦が相手であったから、まだやりやすかったんだが、前の戦闘後にこちらが海に潜っていく所をどうやら見られていたようだ。

 だからこそ潜水艦での待ち伏せという手段に出たんだろうな、


「ここから俺が取るべき戦闘手段はどうするべきか……」


 下手な戦い方をすれば派手になり過ぎるほどの力を秘めた機体だ、下手を打って地球の環境がダメになりました。
 なんてシャレにならない事態だけは引き起こしたくはない、俺がいた所とは別の地球ではあるけど、同じ地球ではあるんだから自ら進んで環境を破壊する真似はあまりしたくはない。

 まあ俺の命が掛かるような場面に直面したら容赦なく普通にガンガン戦うけどな。


「アキシオンキャノンにインフィニティ・シリンダーは論外、特にアキシオンキャノンなんて使ったらどんな影響が出るか分からん」


 アキシオンと呼ばれる暗黒物質(ダークマター)を打ち込んで超重力空間(グレートアトラクター)へ通じる穴をあけて対象を問答無用で超高重力空間へと叩き落とし、叩き潰すというトンでも兵装は、宇宙ならともかく地上で使えばどんな影響が出るのかが分からないから論外だ。
 ゲームでは何事もなかったけれど、あれは地球の強度というか物理法則がこっちと違っている可能性すらあるから、思考の端にも入れちゃいけないだろう。
 続いて目標の時間を逆行させて【存在しなかった】事にするインフィニティ・シリンダーもなるべくならば使いたくはない。

 こちらの手の内と切り札を切らされるという意味で、この手の武装は使いたくないというのが本音でもあるけどな。


「という事は、前と同じく中距離もしくは近距離での戦闘を行うしかないか…… 水中で」


 それも今度は水中で、だ。
 ぶっつけ本番の水中戦となるが、シミュレーターならば何度も経験したが今回が初めてとなる、彼らの素早い動きを如何に封殺しつつ立ち回るかがポイントになるな。

 そう思った俺はZ・Oソードを抜き刃を展開すると、再び放たれてきた魚雷を避けつつ海の中へと突入するのだった。

 
 

 
後書き
さて、今回の最後から次回にかけて戦闘が始まります。
相手は潜水艦、しかもオリ主に手の内を明かす気が無い事と地球環境への悪影響を懸念した結果、アストラナガンの最大武装二つは使えない状態です。
というよりも最大威力の武装でも、ぶっちゃけるとかなりの悪影響出そうですしね…… もう一つは論外レベルだし……

だけど、それでも十分すぎるほどの性能をアストラナガンは持ってますけどね。

というよりも見事に後二年ほどした後に活動を開始する群像君達が苦労しそうな感じになってますねぇ……
こいつとの交戦と敗北で霧の側も学んでいくはずですし。
どうなっちゃうんだろうか……? 
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