黒き天使の異邦人
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第1話 状況の整理というか現実逃避というか
前書き
やってしまったSS……
このSSにはスパロボの機体は登場しても、人物は登場しません。
この辺の所をご了承ください。
人生、本当に何が起こるのかなんてわからないものだ。
いきなり何を言い出しているんだ? とか思うのだろうが、高卒の普通のサラリーマンが部屋の中で眠りについて目が覚めたら。
見知らぬ軍艦の広めの個室にある簡素なベッドに寝ていたとか、なんの冗談だと言いたくなる。
起きてから少しして寝ボケているだけだな、なんて考えて二度寝してもう一度起きても現実として軍艦の部屋の中だったことには変わりなく、正直、どうして俺はこんな所にいてわけのわからない状況なんだよ、と、考えていた。
「おいおい、俺っておかしくなったのかよ……?」
俺の恰好は寝る前に来ていた寝巻だったんだが、このまま部屋にいても状況は分からないままだと思って、素足のままではあるが部屋を出て軍艦の中を歩いて人を探していた。
だけど、普通ならば人がいるはずの軍艦の中からは人の気配を感じることはできず、ただ、静かな機関音らしき音に加えてSF映画に出てくるような、作業用の機械が艦内を動き回っているという光景だった。
「誰か!誰かいないのか!?」
機械に呼びかけても己自身の作業に没頭するだけ、どこの区画に行っても機会しかいない光景に耐えかねた俺は大声を張り上げながら艦内を歩いていく。
そうして闇雲に歩いているというよりも、後から考えたら何かに導かれるように早歩きで進んでいた俺は、PT格納庫と書かれた一つの扉を抜け、その先へと進んでいく。
「な、なんだ、よ…… これ……」
扉を抜けた先にあったのは高さが百m近くになり、奥行きもほぼ同じ程度で幅は六十m近いと思うような巨大な区画で、そこには複数の人型兵器が鎮座していた。
その人型兵器の全てに見覚えがあった。
寝る前にプレイしていたゲームであるスーパーロボット大戦と呼ばれるゲームに登場した人型機動兵器達だった。
異星人に侵略された地球を守るために独立部隊である主人公達が戦うゲームなのだが、どうしてこんな所にこの人型兵器群があるのかと疑問に感じてしまう。
なにしろ、現実に存在する訳のないものなのだから
「ヒュッケバインMKⅠからMKⅢまで…… それに量産型ヒュッケバインも……」
ゲーム中では馴染み深いというか彼らが一堂に会したスーパーロボット大戦OGにおいて、非常にお世話になった期待ばかりがそこにはあったのだ。
正直にいえば現実に見れるはずのないものが見れたのだ、興奮しているしすぐにでも乗ってみたいという気持ちにはなる。
だが、それ以上に一番奥に鎮座していた機体、俺はこれを確認した瞬間に驚愕という感情がありありと浮かび、顔は相当な間抜け面を晒しているのだろうということも容易に理解できる位に口を開けていた。
「な、なんでアストラナガンがここに!?」
機体の全身が黒く塗装され、更には禍々しさすら感じるフォルム、スーパーロボット大戦@という作品において元は主人公たちの仲間であったイングラム・プリスケンが搭乗し最終決戦までを戦い抜いた機体、アストラナガンがあったのだ。
起きてからの混乱はここに極まってしまうのだが、逆に色んなことが起こり過ぎたことで冷静になるという、あまりにも希少というか経験したくもない精神状態を過ごすことになってしまった。
「とりあえず着替えよう…… それに腹が、腹が減った……」
冷静になったと言ったが、あれは嘘だ。
ただの現実逃避ともいう。
そんな感じで俺は格納庫を後にすると、元いた部屋に歩いて行くのだった。
~黒き天使の異邦人~
~第1話 状況の整理というか現実逃避というか~
元の部屋に用意されていた着替え、海軍の士官とかが来ているような制服に似た服に袖を通していた。
どうも艦内各所で作業していた機械達は単純な命令ならば聞いてくれるらしく、俺が寝ていた部屋に案内する事と着替えを用意して欲しいといえば、部屋に連れて行ってくれて更には今着ている服を持ってきてくれたというわけだ。
この服や艦の本来の持ち主には申し訳ないとは思うが、今の俺が置かれた状況を把握するために利用させて貰うしかないから心苦しくも着替えを終わらせていた。
「えっと……」
その俺が着替えている間中ずっと、部屋の中には案内して着替えまで用意してくれた作業機械が待機していて、一言も喋らないし更には意図も読めないので俺は戸惑っていた。
もしかしたら命令を待っているのか? と、考える。
試しに一つ命令を送ってみるか。
「腹が減ったから、何か食べるものはないのか?」
まあ切実な問題である空腹を満たすための命令というか、お願いという感じではあるが意図を汲み取ってくれたらしく、目みたいな所に信号と思われる光が幾つか浮かぶと部屋の扉が開いて、見た目は一緒だけど別な作業機械がアームの部分にプレートを持ってやって来た。
部屋の中に備え付けられている少々というか、軍艦の中にあるにしては豪華といえるテーブルの上に静かに置かれてナイフやフォークなども一緒に置いていく。
内容は少しだけ焼き目のついたトーストにポテトサラダ、恐らくは卵スープにスクランブルエッグといった内容だ。
「思ったより普通だ……」
今までに見たのが機械しかいないから、出される食べ物は不安という感情があったんだが、まともな物が出て来た事で安心して口に入れる。
入れるんだが、この時にも卵の出所とかジャガイモとかハムとかどうしたんだろうという疑問は、とりあえず脇に置いておくことにした。
とりあえずは食わないと間違いなく動けなくなるし、栄養の補給が先だ、これで食中毒にでもなっても俺一人しかいないんなら助かるわけもないし、諦めの境地というか悟りに近い心境だな。
「何かに似ていると思ったら、これ、機動戦士ガンダム00のハロだ」
食事をしながら彼らの正体というか、思い出したことがある。
それはこっちに来る前に見たことのあるアニメで、スーパーロボット大戦にも登場していた作品の一つ、機動戦士ガンダム00というアニメに出てきたハロと呼ばれる各種作業を人に代わって行う機械だ。
アニメでは単純な言語くらいは喋っていたんだけど、今までに遭遇したハロのような機械達は誰も喋らないし、かと言って見た目は状況に慣れた来た今でこそ愛嬌を感じるのではあるが、最初は不気味さしか感じてはいなかったな。
「ありがとう、下げてくれるか?」
出された料理は味としては美味くはないが、かと言って食えないほど不味くもなく、厨房があって人が調理することが可能ならば俺自身の手で作った方がいいとは思っている、じゃないとせっかくの食材がもったいないしな。
まあ、現在の状況の全てを確認するまではハロ達(心の中での便宜上そう呼ぶことにする)に情報を得るためにもな。
「なあ、色んな情報を閲覧できる所ってあるか?」
俺の言葉を聞いたハロの目がチカチカと光ると踵を返す。
どうやら付いて来いということのようだ、こうして俺は彼(?)に先導される形で部屋を後にする。
この後に待ち受ける事実も知らないままに。
そうして案内されたのは艦橋らしく、さまざまな操作コンソールやパネルにモニターといった、いかにもなSFに出てくる軍艦の艦橋という体を見せていた。
ハロは俺を艦長席と思われる一番大きくスペースが取られて、席の作りも他の物とは明らかに違う所に座らされると、目の前に色んな事が書かれたモニターが出現する。
どこかというかプレイしていたゲーム中で明らかに見たことがあるというか、結構見慣れていると言っても良い位に出てきた艦橋の中ではあるが、俺はまずは知るべき情報を選定した。
「この艦の名称と、特徴について教えてくれ」
俺の指示を聞いたハロは目を点滅させると俺の目の前にモニターを出現させる。
そこに書いてあったのは、また頭がパンクしそうになりそうというか確実に現実逃避したくなるような情報だった。
スペースノア級万能戦闘母艦陸番艦アオガネ、艦首にはHTBキャノンを装備しているものの他の兵装は同型艦との違いはない、艦内の作業機械のおかげか乗員が大幅に少なくなっており本艦は十数名の乗員で操艦が可能であること、前の艦の運用データを元に少しではあるが大きくなっているようだ。
それに元は地球脱出用でもあり、異星人への対処も念頭に置いてあるためか、原作では確認できなかった弾薬や食料などの生産プラントも確認できた、特に弾薬に関しては素材を精製するための施設まであり、以前のスペースノアから大型化したのはこういう事なのかもしれないと思う。
食料生産に関しては野菜類などは全て水耕と栽培と土による栽培を両立させているし、家畜に関しては専用の区画を設け、周辺への衛生面に関しても完全に対応させているようだ。
「食料とかは問題なさそうだな、なら搭載している機体は…… げぇぇ……」
ずっと気になっていた搭載している機体はヒュッケバイン008L、ヒュッケバインMKⅡ、ヒュッケバインMKⅢL(ガンナーモジュール、ボクサーモジュール)、量産型ヒュッケバインMK、グルンガスト、アストラナガン、といった陣容だけどパイロットの数さえ揃えば戦争も可能な状況だ。
何しろ量産型ヒュッケバインMKⅡが15機もあり、その他は1機ずつしかないが性能は折り紙つきというよりも一騎当千といったレベルの存在達、彼我戦力差1対1千に近い状況を覆せるほどの精鋭機体ばかりが揃っている
「頭が痛い……」
この艦の性能と搭載している機体の一覧だけで、もうお腹一杯といえる状況だ。
何しろ自立してほぼずっと稼働可能な要塞といえる宇宙戦艦に、搭載されている機体は全て常識というものに則ってはいけないような物ばかり。
しかも全ての機体に俺は搭乗可能とくれば頭の痛さはMAXを越える。
今の状況が夢であるならお願いだから覚めてくれ…… 俺はそう思うしかなかった。
「…… 本艦の状況は分かった、この世界の状況というか歴史みたいなのは分かるか?」
今、この時であっても夢から覚めることがないと言う事は、ここは現実で俺自身は生きていかねばならないという事でもある。
せめて思うのは元々俺がいた現代の地球やそれ以上に未来の地球でない事を祈るのみといえる、様々な技術が発達途上だった近代から技術自体が低い中世以前の世界だと、星を脱出して宇宙を放浪するなんていう手もあるからな、寝る前で過ごしていた現代だとこの艦が現れたら玩具箱をひっくり返したような騒ぎじゃ済まない。
さてと、世界の情報はどんな感じなんだろうか。
「西暦は2050年、地球、現在地はマリアナ海溝の底であり、温暖化などの影響で海面が上昇して陸地が減り地上での生活に支障をきたしているのか」
俺が過ごしていた地球ではまだ現実化していなかった温暖化などの影響による海面上昇と、それに伴う陸地の水没によって大きく変わった世界地図が出ていた。
日本の形も世界各国の形も変わっていて更には消滅した国々もある、この情報だけだと判断はできないが次に出てきた情報で再び驚かされることになる。
「今から11年前、それまで世界中で確認されて小競り合いを繰り広げていた霧の艦隊と呼ばれる正体不明の敵との最終決戦が行われる…… その結果は人類の敗北」
明らかに違うと言えるのは2012年頃から第二次大戦中の軍艦の姿を模した幽霊船が確認されていた事だ。
少なくとも俺の知る限りだとネット上にだろうが、信憑性の薄いオカルト関係の雑誌だろうがこういう話題はなかったはず、さらに言えば兵器の進歩についても違うみたいだしな、2012年にスーパーキャビテーション魚雷が開発されて、世界各国に配備されて、その魚雷の凄まじい性能に海軍は艦艇の性能を含めた刷新が急務となっていた事も違う。
そして今から11年前の通称【大海戦】と呼ばれた戦い、文字通り人類側の全てを結集しての戦いは人類側の惨敗という言葉も温い状況で敗戦を迎えてしまう。
そうして人類は全世界の制海権を失い、それぞれの国々が孤立しているという状況のようだ。
「どうして本艦に戦闘の記録映像が残っているのかは、気にしない方が良いのかもしれないな」
記録で見れば本艦が現在いる場所付近で大海戦は発生したようだから、もしも何者かがいたとすれば大海戦を観測していた可能性があるのか。
まあ、格納庫にあるアストラナガンが出撃した形跡が無かったから、ひたすらじっとして観測に徹していたのかもしれない。
もしくは既に俺がここで眠っていて手を出せなかったというのが正しいのかもしれないけどな。
「まあ、霧と呼ばれる連中が勝てたのは人類側との間に全く比較にすらできないレベルの技術の開きがあっただけっぽいな……」
人類と霧の大海戦の記録を確認した限りだと、突発的に海戦自体は始まったようだがすぐに統制が取れて連携をとり、陣形を組んで火力と防御を最大限に生かしつつ反撃に転じた人類側と、統制も連携はおろか唯只管に自身の超火力と装甲にものを言わせて人類側を力づく、それも戦闘とも言えないような稚拙な動きで捻じ伏せるだけの霧の艦隊は技術が同じ位置であれば間違いなく人類の勝利と言えるような内容の戦いだった。
実際、もう少し火力があれば人類側が勝利とはいかずとも痛み分けで終わらせる事が出来たような、そんな展開が数か所だがあったんだからな。
これが補正のないスパロボ時空なのかもしれない。
「人類の艦艇の姿と使われている兵器を見れば、俺がいた地球よりもより高度な技術なのは間違いないな」
ここまで表示して貰って一度溜息をついた後、紙媒体でもないデジタル媒体、それも未来技術の固まりである空間にモニターが現れるという経験した事のない媒体で読んでいた所為か目が非常に疲れた。
こんな小さい事で唸れる位に余裕が出来たのか、はたまた未だに現実逃避しているのかなんてわからない。
ただ、一つだけ言えるのは、もう元の世界に戻れないのならば俺はこの世界で生きていかなくてはならないという事だ。
それもたった一人で。
この事を考えると、恐ろしさで震えが来てしまうがやらないといけない事があると考えて必死で己の心を誤魔化すのだった。
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