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俺と乞食とその他諸々の日常

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七話:道場と日常

 ミッドチルダ南部にある抜刀術天瞳流第4道場に俺は来ていた。
 ここはミカヤが師範代を務める道場でなぜか来て欲しいと言われたので来たのだがどうにも空気が殺伐としている。
 それもこれも―――

「天瞳流抜刀居合 水月!」
「覇王流…っ!」

 ミカヤと碧銀の髪にオッドアイというどこかの覇王様にそっくりの見た目の少女、アインハルト・ストラトスが目の前で激しい攻防を繰り広げているからだ。
 最近の子供はどうしてこうも戦いに精を出すのだろうか。
 俺がこの子ぐらいの年だった時はひたすら家でゴロゴロしていたというのに。
 あれ? 今も大して変わらなくないか。まあ、いいか。
 今はミカヤが激しく動くたびに共鳴して動くおっぱいを見る方が大切だ。
 サラシを巻いているというのにあのボリュームというのはやはりおっぱい剣士の名前は伊達じゃないということか。
 そんなことを考えていると一端戦いが終わり休憩の時間になった。

「なんで俺が呼ばれたのか未だに分からないが取りあえず二人共お疲れ様。ほら、常温で不味くなったうえに健康を考えて薄めてさらに不味くなったスポーツドリンクだ」
「飲み手への負の配慮を欠かすことがないね」
「え、えーと……ありがとうございます」

 いつもの様に軽く談笑をしながらドリンクを渡す。
 そんな様子にアインハルトちゃんが戸惑いながらもドリンクを受け取る。
 そして、無表情のまま飲み干す。好き嫌いしないのは偉いな。
 冗談抜きで美味しくないからすごい。

「それで、俺はどうして休日の朝から呼び出されたんだ」
「君への嫌がらせに決まっているだろう」
「さらりとエグイことを言うなお前は」

 なんで、こんな奴と親交を続けているのか自分でも不思議になって来た。
 アインハルトちゃんがミカヤの余りの変貌ぶりに目を点にして驚いているのがちょっと可愛い。
 というか、本当に嫌がらせなのか。俺にとってこの上なく陰湿な嫌がらせを的確に選んでくる辺りは流石と言わざるを得ないが。

「まあ、三分の一程は冗談だ。ちゃんとした要件もあるよ」
「やばい、こいつ半分以上は嫌がらせだ」
「サイフとして呼び出したんだ」
「おい待て、三分の三が嫌がらせだろ、それは」

 確かにここに来るまでに頼まれてスポーツドリンクも買ったし、シップとか包帯とかの医療品も買わされたが後で金は払われるものと思っていたのでショックだ。
 え、本当にそれしか理由がないのか?
 アインハルトちゃんも軽く引いているぐらい理由が酷いぞ。

「冗談だよ、素人目に見た感想が聞きたかったんだ」
「今度からおっぱい侍として売り出していこう」
「おっと、つい手が滑って君の首筋に刀が」
「本当におっぱいつけられると狂暴になるな、お前」

 一般人に対して静かに首筋に刀を押し付けてくるのは武芸者としてどうかと思うがこれが最近のミカヤとの挨拶みたいなものとなっているので気にしない。
 それにしても感想か……正直言って細かいところは見えなかったからな。
 大雑把に言うとしよう。

「万が一、格闘型に間合いを詰められたらどうするんだ?」
「そうならないように今、何もさせずに斬り落とす鍛錬をしているんだ」
「いや、それは分かる。俺が言っているのは保険があるかどうかだ。万が一にも起こるのならそうなった時にどうするかぐらいは考えておくべきじゃないかと素人ながらに思った」
「そうか……ありがとう、参考までに考えてみるよ」

 少し、思案気な表情をしながら答えるミカヤ。まあ、何かしら考えているんだろうな。
 さて、後はアインハルトちゃんだが正直始めて見る型だから何とも言えないな。
 まあ、強いて言うなら―――

「その猫ちゃん可愛いな」
「えっと、ティオは一応猫じゃなくて豹です……」
『にゃ~ん』
「………豹なのか」
「……豹です」

 アインハルトちゃんが頑なに言い張るという事は、ティオは豹なんだろう。
 鳴き声が例え猫っぽくても豹なのだろう。
 そう、例え俺が猫じゃらしで遊んでやっているとしてもティオは豹なのだ。
 猫じゃらしにつられてコロコロと転がっているとしても豹なのだ。
 決して猫ではない。

『にゃあー!』

 ……猫ではない。吾輩は豹である、名前はティオである。

「ま、まあ、取りあえず俺みたいに常にリラックスして挑めばアインハルトちゃんは大丈夫だろ」
「君はリラックスしすぎて頭のネジが五、六本はずれているけどね」
「失礼なことを言うな。せいぜい二、三本の間違いだろ」
「あの……二、三本でもダメなのでは?」

 そろそろといった感じだがアインハルトちゃんのツッコミが入る。
 このまま磨きをかけていけばいつかは立派なツッコミ役へと進化できるだろう。
 思わず、将来有望なアインハルトちゃんの頭を撫でてしまう。
 どうすればいいのか分からずに顔を赤らめさせている姿が非常に可愛らしい。

「どうやら、今夜の月はロリコンの血で赤く染まりそうだ」
「待つんだ。最近よく間違えられるが俺の好みはおっぱいの大きな女性だ」
「それは告白と受け取ってもいいのかな」
「むしろ、お前はこんな最低の告白でいいのか」

 無表情のまま頬に手を当ててテレるミカヤに思わずツッコんでしまう。
 こんなにノリの良いやつと親交を持っていられるのは嬉しいが俺以上のボケは俺の影が薄くなるからNGだ。
 アインハルトちゃんはまだ頬を赤くしながらボケの嵐に混乱している。やっぱり、可愛い。

「アインハルトちゃん、お兄さんの妹にならないかい?」
「ロリコンに妹属性好きとは……救いようがないな」
「待ってくれ、冗談だから通報はよしてくれ」
「あの、私は別に嫌というわけでも……」

 やばい、アインハルトちゃんが天使に見えてきた。
 思わず、ティオと一緒に抱き寄せてしまう。

「ありがとう、愛しているよ、アインハルトちゃん」
「すいません、管理局でしょうか? 家の道場にロリコンの変質者が現れて……」
「待て、すぐに離すからやめてくれ! それと招いたのはお前の方だ!」

 慌ててアインハルトちゃんから離れる。
 その時ちょっと残念そうな顔をしていたような気がするが多分気のせいだろう。
 それと、ミカヤは舌打ちするな。お前本気で通報する気だっただろ。

「全く、君の女性の趣味はどうなっているんだい。普通なら黒髪ストレートでスタイル抜群の年上のお姉さんが好きなはずだよ」
「この上なく正確な自己紹介ありがとう」

 そもそも、ミカヤに対してフラグを立てた記憶などない。
 すると今度は頬を赤らめて手を後ろに回してモジモジとしながら上目遣いで見つめて来た。

「君は私の事をどう思っているかはわからないけど……私は君の事が」
「ミカヤ……お前―――弟子達がドッキリ成功の看板を持って物陰から覗いているぞ」
「テヘ☆」

 ミカヤがばれっちゃった、とばかりに可愛らしくテヘペロをしたので写真を撮る。

「アインハルトちゃん、君のお師匠さんにミカヤのテヘペロ写真を見せてあげるんだ」
「はい、わかりました」
「待つんだ。ナカジマちゃんの前では出来る友達としていたいんだ」
「私が教えればすぐにばれると思いますが?」
「……アインハルトちゃん、何か欲しい物は無いかい? 今なら何でも買ってあげるよ」

 こいつ、幼女に対して買収という汚い手段に出てきやがった。
 それでも剣士なのか? 師範代なのか?

「勝てばよかろうなのだァァァァッ!」
「あの正々堂々としたお前はどこに行ったんだ。後、さり気に心を読むな」
「ドン引きです……」

 アインハルトちゃんもだんだんと遠慮が無くなって来たようでなによりだ。
 まあ、ミカヤは全く気にした様子がないけどな。
 さて、そろそろ帰るから最後にいつものやつをするか。

「そして、これが後のおっぱい侍の誕生であった」
「今宵の晴嵐(せいらん)は血に飢えている……」
「律儀に返してくれるお前の事が好きだよ、俺は」

 俺の首筋に刃が当てながら無表情でテレるこいつは本当に器用だと思う日常だった。
 
 

 
後書き
ミカヤさんを書くのが楽しい。 
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