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俺と乞食とその他諸々の日常

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六話:放課後の日常

学校の終わり、つまり放課後。それは学生にとってのパラダイス。
 部活に打ち込むのもありだし、家に帰ってのんびりと過ごすのもありだ。
 それに今の俺のように学友と一緒に買い物をするというのも放課後の楽しみ方の一つだろう。

「おい、今度はあそこのカップアイス買ってこいよ。勿論、お前の奢りな」
「待つんだ、ハリー。いつの間に俺はお前のパシリになったんだ?」
「ついさっきだ」
「今明かされる衝撃の真実」

 不良らしくないとは言ったがこんなことは求めていない。
 みんな仲良く楽しもうよ。いじめ良くない。

「自分達の分もお願いっス、バニラで」
「アタシはチョコで」
「ミックスで」
「お前ら本気で容赦ないな」

 不良ズが私も私もと、可愛らしく頼んでくる。正し、俺の奢りだ。
 こいつらは俺の財布を空っぽにする気か。
 ただでさえ家にはジークという穀潰しがいるというのに四人分奢ると今月の俺の小遣いが残らない。

「お前らは俺を餓死させる気か」
「お前は確か今日マンガを大人買いする予定だっただろ」
「なぜ知っている!?」
「カンだよ、そんなもん」

 得意気にハリーが答えるが、もはやカンのレベルじゃないと思うのは俺だけか?
 それとも俺がやたらと分かりやすい性格をしているのだろうか。
 どっちにしろ、俺に逃げ場はないのだが。

「ふん、いいだろう。奢ってやる。べ、別にカッコいいところを見せたい訳じゃないんだからな!」
「そっか、じゃ頼むな。あ、俺はストロベリーな」

 スルーされるというのはスベるよりも悲しいということを俺はたった今学んだ。
 今度ジークにやってみようと思う。

「取り敢えず、買ってやるが運ぶのが大変だからハリーは手伝ってくれ」
「両手じゃ足りねえからお前の分はレッドホークで持つからな」
「俺のアイスの寿命が儚すぎる件」

 三秒くらいで溶けて消えるだろ、絶対。
 後、そんなことに使われるレッドホークが可哀想だ。
 多分デバイスってなんだっけって自分のあり方に悩むぞ。

「おばちゃん、バニラ、チョコ、ミックスとストロベリーを頼むよ」
「はいよ、デートかい、お二人さん?」
「はぁ!? だ、誰がこんなやつと!」
「全くだ、それと俺はチョコミントをお願いします」
「おらっ!」

 なぜか、顔を赤くしたハリーに頭を叩かれた。暴力反対。
 どうやら俺と付き合うなど考えたくもないらしいが、真顔で否定されるのも女として複雑らしい。
 乙女心って難しい。そんなことがあったものの取り敢えず、アイスを手に入れた俺達は不良ズが待つ場所へと向かっていく。
 因みにハリーからの襲撃を避けるためにハリーのストロベリーは俺が持っている。

「ん、何やってんだ、あいつら」
「まさか……ついにカツアゲを始めたのか!?」
「あいつらはそんなこた、しねえよ」
「番長に言われても説得力が……あるな。お前いい子だもんな」

 不良ズが小学生らしき二人の少女となにやら話していたので最初はカツアゲかと思って嬉しくなったがハリーに言われて考えを改め直すどこに出しても恥ずかしくない、いい子である不良ズがそんなことをするはずがない。
 ……不良ズって名前がもはや違和感しか感じないな。
 今度からいい子ちゃんズと呼ぶことにしようか。

「おーい、何やってんだ、お前ら」
『あ、あなたは!』

 何か、ツインテールの子と八重歯が可愛い子がハリーを見て驚いている。
 迷子になったときに助けてもらったのだろうか?

『砲撃番長として名高い、ハリー・トライベッカ選手!』
「お、おう。そんな凄いもんでもねえぞ」
「あの、サインもらえませんかー?」

 なんだ、ハリーのファンなのか。つまらないな。
 ハリーの奴もなれていないのか頬を赤くして照れながらサインを書いている。
 ふむ、ここは一つ少女達に現実を教えてやろう。

「ボス、こいつら舎弟にしちゃいましょうか」
「誰がボスだ。勝手に捏造してんじゃねえよ」
「待て! 俺のチョコミントを振りかぶるな! 話せば分かる!」

 俺のチョコミントを人質に取り、これ見よがしに振りかぶるハリー。
 こいつ……やはり卑劣! そんな漫才を繰り広げているとミア達が少女とインターミドルの話をし始めた。
 なんと、少女達は非常に可愛らしい年齢であるにも関わらず今度のインターミドルに友達と一緒に出るらしい。

「その年齢で偉いな、ほら、ご褒美のアイスを進呈しよう」
「おい、それ俺のストロベリーアイスじゃねえか!」
「黙れ、さっきの仕返しだ」
「えーと……仲が良いんですね」
『よくない!』

 八重歯ちゃんの言葉にピッタリと揃ってお互いを指差し合ってしまう。
 ふむ、これなら漫才コンビとして十分やっていけるだろう。
 ところで、この子達の名前は何なのだろうか。
 流石の俺も初対面の子どもに八重歯ちゃんなどというふざけた名前で呼んだりはしない。

「ところで名前は何なんだ?」
「あ、私はリオ・ウェズリーでこっちが……」
「コロナ・ティミルです」
「なるほど、名前も容姿も可愛らしいな。お兄さんはリヒター・ノーマンだ、よろしく」
「リーダー、通報しましょう。こいつロリコンっス」

 最近は幼女に挨拶をするだけでお縄にかかってしまう世知辛い世の中になってしまったらしい。

「失礼な、俺はyesロリータnoタッチの紳士だ」
「おい、ロリコンを認めたぞ、こいつ」

 しまった。ついノリで認めてしまった。
 お陰でリオちゃんとコロナちゃんが少し距離を置いてしまったじゃないか。

「安心してくれ。さっきはああ言ったが俺の好みはどちらかというとおっぱいが大きい女性だ」
「さらにセクハラ発言を重ねてんじゃねえよ」
「じゃあ、何て言えばいいんだ!?」
「逆切れしてくんなよ!?」

 ロリコンじゃないと証明するために大きなおっぱいが好きだという以外に一体どういえばいいと言うんだ。
 ハリーのおっぱい? はっ、出直して来い。

「今なんかすげーイラってきたんだけどよ」
「気のせいだろ。それよりも早いとこアイスを食べないと溶けるぞ」

 危なかった。ハリーの勘というやつはどうやら相当な精度を誇るようだ。
 地味に額に青筋を浮かべている。今度からは気をつけて弄っていかなければいけないな。
 というか、リオちゃんとコロナちゃんがどうすればいいのかといった顔で俺達を見ているから早い所ハリーはサインを渡しなさい。

「ちぇ、それもそうだな。ホレ、こんなんでいいか?」
「ありがとうございます!」

 嬉々とした顔でハリーからのサインを受け取る二人。しかし、その顔は何故か驚愕に変わる。
 何事か思って俺もハリーのサインを見てみるとそこには小さめのサインとやけにファンシーなおまけの絵が描いてあった。
 あー……これは番長のイメージとかなり違うから驚いているんだな。
 俺もよく抱く気持ちだから良く分かる。

「二人共、こいつは番長などと呼ばれているがその実はただのいい子ちゃんだ」
「い、いい子ちゃんですか?」
「優しい人だというのは分かりましたけど……」
「お、おい! 何ふざけたこと言ってんだよ!」

 ハリーの秘密を二人に教えていると何故か横からどつかれてしまった。
 おかしい、俺は間違いなく褒めていただけのはずなのだが。
 そうか、ようやくこいつの本質が分かったぞ。こいつは―――

「こいつは見ての通りツンデレ系乙女だ」
「悪い、手が滑った」
「お、俺のチョコミントが優雅に宙を舞っているだと!?」

 ハリーのほぼ間違いのない計画的犯行により羽もないのに宙を舞うチョコミント。
 まるで『飛ばねえアイスはただのアイスだ』とでも言いたげな優雅な飛翔は見る者をくぎ付けにする。
 しかし、俺にとってはそれどころではない。

「させるかぁぁあああっ!」

 重力に従い真っ赤な果実のように落下していくチョコミント目掛けて決死のダイブを試みる。
 あと少しで地面に落ちるというところで俺の手はアイスを見事に救い出すことに成功する。
 手に感じるヒンヤリとした感触を味わいながら俺は安堵の息を吐く。
 後ろでは俺のスーパーキャッチへの惜しみない拍手が送られてくる。
 そこで実感する俺は守り抜いたんだと!

「リヒターって無駄に能力高いよな」
「失礼な、この能力のおかげでチョコミントは守られたんだぞ、ルカ」

 溶けないうちにパクパクとアイスを食べながら返答しているとリオちゃんとコロナちゃんが帰ろうとしていたので最後にエールだけ送っておく。

「頑張れよ、運良く起きられたら応援に行くからな」
『ありがとうございます!』

 うん、どこかのツンデレとは違って素直に俺の激励を受け取ってくれるいい子だ。
 きっと、二人とその友達ならいい結果を残してくれるだろう。
 そんなことを思いながら見送っているとなぜか、信じられないような顔でハリー達に見つめられた。
 毎回毎回なんなんだ、一体。

「今まで休日は“寝る”の一言で誘っても来なかったお前が、応援…だと!?」
「やけに失礼な言い方だな。まあ、事実だが」
「おい、どうしたんだ、お前。もしかしてさっきのダイブで頭打ったのか?」
「やめてくれ、本気で心配されると流石の俺もへこむぞ」

 凄く不安そうな顔で俺の頭に手を添えてくるこいつらは親切のつもりかもしれないがこの上なく俺を馬鹿にしていることに気づいているのだろうか。
 ……朝に弱いのは周知の事実だけどな。
 今年はジークの飯の準備ぐらいしてやろうと決めたから仕方ないんだ。
 そう、説明したらますます心配されて脳の病院に無理やり連れていかれそうになったのは本当に解せない。
 ……俺ってこいつらに一体どう思われているんだ?
 
 

 
後書き
番長は乙女可愛い。 
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