問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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土地の復興
「あー・・・いかん、割と暇だ。」
一輝はそうぼやきながら“ノーネーム”の敷地の中を歩く。今他の問題児たちは“アジ=ダカーハ”による被害の復興も終わってきてこれまで以上に開催され盛り上がっているギフトゲームの数々に参加している。では、一輝はなぜ本拠の中にいるのか。
確かに完全に戻っていないとはいえ、下層の“ギフトゲーム”に参加するのが難しい状態ではないのだ。にも関わらず、コミュニティにおいて“プレイヤー”として所属している一輝がギフトゲームに参加しないのでは、本当にただ飯を食らっているだけだ。もちろん本人だって、そんなニート状態でありたいと思っているわけではなく・・・
「・・・ギフトゲームに参加させてもらえないとはなぁ・・・」
ひとえに、それが理由であった。どこに行っても、参加を拒否されてしまうのだ。それこそ、清明や蛟劉と言った大物のところに行ったとしても、参加を拒否されてしまうレベルで。
別に彼らだって、嫌がらせでやっているわけではない。だがしかし、下層を救った英雄である一輝をギフトゲームに参加させたら、どうなるか。せっかくの復興のためのギフトゲームなのに、『なんだこいつ、出てくるなよ』と内心で思うのが他のプレイヤーであろう。そして、それをくむのが主催者の仕事。もうどうしようもない。
「はぁ・・・ま、こうぼやいてても仕方ないか。しばらくの間は雑用にいそしむとしよう」
と、一輝は気持ち悪いくらいあっさりと切り替え、何かないかと探し始める。
普段であればDフォンを使い自分のメイドたちに何かないか聞くのだが、あいにく今日はそれもできない。
鳴央とスレイブの二人は一輝がギフトゲームに参加できない分ギフトゲームに参加し、終末論“ノストラダムスの大予言”に妖精の女王“タイターニア”とまあアジ=ダカーハ戦で有名になり一輝と同様の理由で下層の普通のギフトゲームには参加できなくなったヤシロと音央の二人は、それでもまだ参加することのできる“階層支配者”主催のゲームに参加している。要するに、今本拠には一人もいない。
と、そんな現状を自分の中で再確認した一輝は、視線の先にいる二人の人物を見る。
「・・・何やってんだ、二人とも?」
「ん?・・・ああ、一輝殿か。いやなに、この土地をどうすれば元に戻せるか、という相談だよ」
「ああ・・・この土地を、か」
そう言った一輝は一度しゃがみ、廃材をつかむ。それは一輝が深く力を入れる前に砕け散った。ほかにも、路面は乾いてひび割れ、ところどころ陥没しそうな場所もあり、いつしか地割れが起こってもおかしくはない。素人である一輝にもそれは分かる見なれた光景である。なので、
「いや無理だろ。メルンとメリル、メルルの三人だって農地で手いっぱいだろうし」
「クロア殿と全く同じリアクションだよ、マスター」
「つまり、誰であっても同じ感想しか抱かないということだろう。これならいっそどこかの土地神でも招いた方がよさそうだ」
「“ノーネーム”に来てくれる土地神なんているのか?」
「ただの“ノーネーム”であれば無理だろうが、今ほどに有名になっていればどうにかなるだろうよ」
と、二人はどう招くかという話をしているのだが、侍女頭であるレティシアは難色を示した。
「馬鹿を言うな、二人とも。この土地は代々リリの一族が守ってきたものを借りている立場なのだぞ。私たちの独断で土地神を呼ぶなど、不義理にもほどがある」
「ああ、そう言えば宇迦之御魂神の命婦がいたな。神格保持者の直系が残っているなら丁度いい。稲荷大社には私から一報を出しておくから、新たに神格を戴こう」
サラっととんでもないことを言ったクロアにレティシアは目を点にして固まったが、しかし二人はそんなことを気にしない。
「ふぅん、今のリリでも神格を保持できるのか?」
「まあ、私とアルマ殿、それに君からの推薦状でもつければ問題ないだろう。元々彼女は宇迦之御魂神の直系の眷族なのだからな。今はまだ未熟でも、修業をしつつ神格を授かることぐらい訳も無い。リリ君ほど頑張り屋な娘なら向こうも仮免くらいくれるだろうよ」
「それって、俺から神格を渡すんじゃダメなのか?」
「ダメではないだろうが、まあ先程言っていた不義理云々もなくはないし、神格の目的が大分違う。最後にこれが一番の理由だが、リリ君の体に君の神格がなじむかどうかという問題もある。そもそも彼女は戦闘向きの人間ではないのだから」
「あー、それがあったか。ってか、もしかして俺から何人かに神格を渡したりしたんだけど、今は回収してるとは言えまずかったりするか?」
「主神が自分の眷族に与えて何の問題があるというんだい?リリ君の神格についても、似たような理由さ」
なるほどなぁ、と納得する一輝のよそで、レティシアは全くスケールの違う話に戸惑いながら、しかし同時に妙手だとも考える、
忘れられがちだが、クロアはこれでも立派な主祭神の一人なのだ。それに加えて豊穣神であるアルマテイアの推薦状があればそれで十分だろうし、さらに一輝の一筆も加えれば、彼と繋がりを作ろうという企みから乗ってくる可能性も十分に出てくる。そしてそうなれば、この土地の復興も可能となるだろう。
「・・・まあ、それが一番の手か。では、まずはリリの修行かな?」
「そうだろうね。出来るなら、誰か指導役がいるといいのだが・・・」
「指導役、ねえ・・・」
三人の頭の中には真っ先にアルマテイアが浮かんだが、彼女は基本飛鳥と行動を共にするため無理であろうと却下する。となると、次点は誰であろうかと考え・・・
「・・・あ、俺の檻から九尾出すか?」
「ふむ、九尾の妖狐か。確かに似たような霊格の持ち主であるし、丁度いいかもしれないな」
「確かに、な。問題があるとすれば、あの性格だが・・・」
ああ・・・、とそれを知っている一輝は納得する。しかし、それを知らないクロアからすれば二人が何を悩んでいるのかは全く分からないので、
「何か問題があるのかね?」
「いや、まあな・・・プライドが高いんだよ、異様なほどに。高圧的だし」
「なるほど、確かにその方が九尾らしくはあるがな」
一輝の簡潔な説明にクロアは納得した。いろんな人が持っていると思いたいあの九尾のイメージがそのまま固まったような九尾なのだ。いろいろと面倒になりそうというのが共通の意見だろう。
「まあ、一応ウチの先祖が殺したときも生き肝狩りの真っ最中だったらしいしなぁ・・・」
「本当にそんな相手に教えさせて大丈夫なのかね?」
「一応、今ではそれに比べれば丸くなったし・・・ちゃんと礼節を持って接すればちゃんと対応すると思うぞ」
まあ、そういうことなら・・・と何ともしぶしぶといった様子でそのプランでいくことに決定した二人。なんにしてもやってみないと分からないことではあるが、ちゃんと対応してくれるのであればそれはこの上ない修行になる。そこまでのメリットを見逃すのは惜しい。
「さて、じゃあそんな感じでたまにあいつを出しておくことにする。リリに言っといてくれるか?」
「分かった、伝えておこう。ところで、一輝はしばらくの間本拠にいるのだったか?」
この話はここで終わり、レティシアはこれからについての話に移る。
なんだかんだ色々と忙しくなっている一輝がいつから活動し出すのか、それを確認しておきたいのだろう。
「ん?あー・・・そうだな。とりあえず、しばらくの間は本拠にいることになるな」
「いつから活動を始めるんだ?」
「とりあえず、ちゃんとスレイブ使って戦えるようになるまでは体作りだな。そうなったらたぶんちょっとあるから、それをこなして」
「まて、そのちょっとあるにいやな予感しかしないんだが」
レティシアの言葉を一輝は無視した。一切とり合わず、話を続ける。
「それから、一回“ウィル・オ・ウィスプ”の本拠に泊まりに行く予定だな。俺ん所のメンバーで泊りに行って、今後のこととか色々と確認する」
「色々と、とは?」
「ジャックがいなくてもどうにかなるのかどうか、だな。ジャックがいなくなっちゃうとあのコミュニティでまともに戦えるのはウィラだけだし、あのまま向こうにいて大丈夫なのか、とか色々とな」
既にこの件について一任するという許可をジンからもらっている一輝は、はっきりとそう告げた。その結果によってはまた色々とやらなくてはならないということも、二人なら既に理解しているだろう。
「では、その後は?」
「あー、そうだな・・・そう言えば上層の神群から呼び出しかかってたし、そっちにでも行くか」
「「今すぐ行けよ」」
レティシアとクロアの声がぴたりと一致した。まあ、呼び出されているのに行こうとしないのだから、当然の反応ではある。
「えー、これでもこっちから来い、って言いたいのを我慢してるんだぞ?」
「それを我慢できているのはすごいと思うが、それでも早めに言った方がいいだろう。変に印象が悪くなったら、何をしてくるかわからないのだから」
「だから万全の体勢になるために体作りしてるんじゃねえか。期待してていいぞ、話し合いがうまくいかなければ俺は大量の神を封印して帰ってくるから。これで“ノーネーム”もパワーアップ!」
「「やめろ!何が何でもヤメロ!」」
この日を境に、二人は時折頭痛に悩まされることになる。
『この問題児が何の問題も起こさないでいられるのか』と、そして本当に争えるだけの力があるだけに、戦争にならないだろうか、と。冗談抜きで切実な問題である。
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