問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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悔しさ
目の前で繰り広げられているのは、二人の強者の戦い。自分はそれを、分身体を殴り飛ばしながら見ている。
そもそも、何故自分はあそこにいないのか。そもそも、何故自分達はあいつ一人にすべて任せてしまっているのか。
いや、そんなことはわざわざ問わなくても分かっている。・・・あいつに、希望を感じたからだ。
アジ=ダカーハを殺すために集められた実力者たち。そこにいる誰もが届かないほどの強さを、遅れて現れたあいつは持っていた。
ついこの間までは、自分と同じくらいの実力を持っているものと思っていた。だからこそあの時、黒ウサギをつれて逃げてくれと言ったのだ。もし自分に何かあったとしても、あいつさえいてくれればコミュニティは大丈夫だと、そう思ったから。
だがしかし、実際には全く違った。あいつは、自分とは比べ物にならないほどの高みにいた。そんなやつに対して任せろとは、よくもまあ言えたものだ。
あの時、アジ=ダカーハは言った。
武勇を尽くせ、と。
知謀を尽くせ、と。
蛮勇を尽くし、己を貫く光輝の剣となってみせろと。
そのうち、自分はいったいいくつの剣をもっていたのだろうか。
武勇。これは持っていた。確かに自分は、持てる力のすべてをもって、武勇の剣を示すことができていた。
知謀。これも持っていた。戦いが始まる前にも意見を交換し、対策をたて、戦いに挑んだ。いざ戦いが始まってからも、思考を放棄することはなかった。
では、最後の剣はどうだろうか。・・・否だ。
最初は、持っていたかもしれない。無理を可能にする覚悟も、腕の一本はくれてやる覚悟もしていた。そのつもりで作戦もたてた。だがその全ては、たったひとつの太陽主権で消え去った。
刃の通らないからだ。それがあればすべて解決してしまうのだ。
もちろん、これを渡したラプ子に対して文句があるわけではない。あの場でアジ=ダカーハを倒せなければ、何もかもが終わっていたのだから。
では、あいつはどうだろうか?あいつは一体、いくつの剣を持っていたのだろう。
一つ目の剣。、武勇はどうか。考えるまでもない。家に伝わるという体術に剣術、その他にも様々な技のさえをみせた。ギフトを含めれば、常に使い続けていた『無形物を統べるもの』を用いた攻撃、補助に、『外道・陰陽術』による様々な技のさえ。あれを武勇と言わないはずがない。
では第二の剣、知謀はどうだろうか。これもまた、考えるまでもない。
あの魔王と戦うことができる時点で頭を使っていないはずがないし、そもそもあいつのギフトの一つは、封印している異形の数々についての知識がいなければ使えないものだ。63代目を重ね封印してきた異形は数も種類も想像を絶する数であるはずなので、知謀を尽くしたに決まっている。
では、最後の剣。蛮勇はどうだろうか?・・・前の二つ以上に、考えるまでもない。
何せあいつは、自らの持つすべてを尽くして戦ったのだから。アジ=ダカーハが消えた瞬間、あいつはなにもできずにただ落ちてきた。身体中の力は抜け、目を閉じ、本当になにもできない状態となって。
本拠に運び安倍晴明に見せたところ、呪力や生命力等いきる上で必要なものがほとんどなくなっていると言われた。文字通り、命を削って戦ったあいつに、蛮勇がなかったわけがない。命をかけて、命を削って戦うというのは、そういうことだ。
つまり、あいつは間違いなくアジ=ダカーハの望む勇者であった。
自分とは違い、新に資格のあるものだった。
だからこそ、最後にあの二人は互いに認めあっていた。
鈍色の、美しいとも耀いているとも言えない、しかし目をそらすことができなかった一撃。抜き手の形で放たれたそれがアジ=ダカーハの心臓を貫いたとき、そのままの体勢で互いに神託を与えあった二人は、本当に認めあっていたのだ。
自らを倒すに値する勇者として。
全力を出し、命をとして戦うに値する相手として。
互いのすべてを見せあい、感情のそこまで出しあえる相手として。
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ノーネーム本拠、十六夜の私室。
一輝が目覚めたときき、ギリギリまで帰らずにすむようにしたものの、これ以上居残ることはできないとなったので帰ってきた、十六夜。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。クソッタレ。)
十六夜は見てしまった夢の内容を忘れるために頭を振り、汗に濡れたシャツを脱ぎ捨てる。そして、回想する。
自分がやるべきはずだった役目を。自分がたどり着きたかったレベルの力を。それを目の前で見せたあいつを見て・・・
「クソ!!」
ただただ、悔しかった。
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「ハッハッハッハッ」
一輝は走っていた。理由としてはとても単純で、落ちに落ちた体力と筋力を戻すためだ。
自分自身を神とすれば体は自然と全盛期のものになるのだが、ずっとそうしているわけにもいかないし、何より本人も周りの人もその神威に当てられてきづかれしてしまう。それでは何がしたいのか、という話しになるのだ。
「ふい~、疲れた~!!」
そんな一輝はランニングを終え、『ノーネーム』の子供たちが主だってやっている農園のすぐそばに倒れこんだ。
「あ、一輝さん。お疲れさまです。もしかして、今までずっと走っていたんですか?」
「ん?ああ、リリか・・・走ったり木を駆け上がったり川を走ったり、ほとんど走ってたかな。腕立てとかもしたけど」
それはもう色々と落ちた一輝は、『とりあえず走るか』という考えのもと、とにかく走った。具体的には、
「・・・確か、お日様が上るより前に出ましたよね?」
「それくらい、だったかなぁ・・・一人分だけ早くつくってもらっちゃって、わるかったな。」
「いえ、元々起きていたのでいいんですけど・・・今、もうお昼ですよね?」
そう、日が上る前に走り始め、太陽が真上から少し進んだくらいの時間まで、とにかく走り続けたのだ。
リリは言ってから真上を見たりお腹のすき具合から昼食をとったかを確認したりして、間違っていないという確信をえた。
「やっぱり、まだそれくらいだよなぁ・・・あー、体力落ちたなぁ・・・」
「それで落ちてるんですか・・・」
「もといた世界じゃ、一日二日全力で戦い続けることもあったし、それに耐えられるくらいの体力はあったんだよ。それを考えると、結構ね・・・っと」
息も整ってきた一輝は、清明から届いたジャージの上を脱ぎ、それを絞る。
したに小さな水溜まりができると、次はインナーも脱いで、絞る。水溜まりはさらに大きくなった。
「・・・全部汗、ですか?」
「そうだけど。水分補強とかは水樹の枝でできたし、汗はかきつづけた。リリ、どばっと水かけて」
「あ、はい」
一輝から水樹の枝を受け取ったリリは、言われた通り思いっきり水をかける。
「あー、汗も流れてスッキリした!ありがとな、リリ」
「いえ・・・えっと、お風呂はいれますけど、入りますか?」
「そうする。軽くほぐしとかないと、筋肉痛になりそうだし」
そういいながら立ち上がった一輝は脱いだものを着なおしてから風呂場に向かう。
念のために、と脱衣場で一通り確認をし、声も出してみて先客がいないことを確信してから、服を脱いで洗濯かごに放り込み、タオルを一枚だけもって入る。
そこに充満している樹の香りを胸一杯に吸い込むと、かけ湯をしてから湯船につかった。
「あー・・・やっぱ風呂はいいよなぁ・・・」
なんだかんだ言って神社育ちの純日本人である一輝は、表情を緩めてもう少し湯船に沈む。そのとき腰に巻いたタオルが目に入り、一瞬もやっとするがまあ仕方ないとして流す。本人としては気にしておらず、件の相手も気にしていないのだが、外聞的な問題とでもいうべきか、まあそういう方面で多少の問題があるのだ。ついでに、うっかり入ってきてしまったときのためでもある。年頃の少女がいる以上、必要なことなのだ。
「ふぅ・・・もうちょい筋肉つけないと、スレイブは使えそうにないな。獅子王は、完璧じゃないけど使えなくもない」
湯船の中で軽く腕を動かしてみたり肩を回してみたりして調子を確かめつつ、リラックスする。ここでまで鍛えるつもりはないが、確認くらいはしておきたい、というところだろう。
「体術の方は、使えて全体的に十の型までかな。他は・・・早々使わないし、いいか」
もとの世界ではそうでもなく、全体的に鍛えていた一輝なのだが、ここは修羅神仏の遊び場である箱庭。そういう考えから、今はまだ使えてもこれから先使えなくなる技術は捨てることにする。これまで身に付けたものまですてるのではなく、これ以上の鍛練をしないという形で。
アジ=ダカーハと戦った結果、これ以上成長したとしても通用しない、とわかってしまったのだ。
「んで、呪術の方は・・・」
一輝はそう言ってから目を閉じ、体中に呪力をめぐらせる。イメージしているのは、血管。常に血が流れていて感情によってその速さが変わる血管というのは、常に体中に呪力を巡らされ、怒りによってその量が一気に増える一輝にとってはとてもイメージのしやすいものであった。他にも、血が流れるという光景をよく見るから、という理由もあるのだが。
今回はそれを、意図的に流れる量を変え、どの場所により多くいかせるのもかえる。
「・・・よし、ちゃんと動いてるな。これならよっぽど何かあっても大丈夫そうだ。」
「確かに、ちゃんと動いてるね!体の方もある程度なら戦えそうだし。」
うん?と返事が帰ってきたことに一輝は首をかしげるが、目を開いて目の前にいる人物を見て納得する。
「ヤシロちゃんか・・・いつの間に入ってきたんだ?」
「お兄さんが目を閉じて集中してる間にこっそりと。それにしても、一日で結構ついたね~」
ヤシロはそう言いながら一輝の腕をふにふにする。足の方も軽くさわって確認している。ただボディタッチをしているだけという可能性もあるのだが、まあそこは気にせずにいこう。
「普通の人間と比べると、かなりついてる。つい最近までベッドで寝たきりになってたとは思えないくらい。けど・・・」
「前に比べると落ちてるし、そもそも相手は人間のわくにいない。体一つで戦うのはしばらくは無理かな」
念のために言っておくと、前だってムッキムキだったというわけではない。服の上からでも分かるほど、というわけでもなく、ただ脱いだら驚くとか、さわってみて驚くとか、そういう部類だ。
「まあ、あそこまでとは欲張らないけど、スレイブを使いこなせるくらいまでは戻したいところかな」
「それくらいになった方がいいのは、間違いないね~。よいしょっと!」
ずっと一輝の体をさわっていたヤシロは、そこで一輝の足と足の間に入り、一輝の体を背もたれにして座る。せっかくの広い風呂場なのになにしてんだ、といいたくなる光景だが、一輝はもうなれた様子で座りやすいように足を開き、髪が湯船に浸からないようにまとめているその頭を撫でる。
あ、本当に今さらだけど、ヤシロは真っ裸だ。見た目十歳ほどなのでほほえましい光景ととるかいかがわしい光景ととるかは皆さんにお任せします。大抵は後者だろうが。
「それにしたって、こんなに早く筋肉とかって戻るものなの?お兄さんが神霊なのと関係してる?」
「いや、そっちはなにも関係ない。ただ、呪力でちょっと刺激しながらやって、戻りやすくしたってだけ。なんだかんだ、体はちゃんと覚えてるからな」
「へぇ~。便利だね、呪力って」
ヤシロはそう言うと頭をポスンと一輝の胸にのせる。
「そうは言っても、一気に戻せるのは今くらいまでが限界な上に、一度でかなりの運動量が必要になる。そう都合よくはいかないんだよな」
「うまい話しには裏がある、ってことだね」
「そういうこと。ここからは地道にやってくしないかな。ま、じきにスレイブは使えるようになるし、そこまで大きな問題ではない」
「上層とケンカすることになっちゃったら?」
「そのときは神霊になればいいだけだかららなんも問題なし。」
「それもそっか。そもそも、今このタイミングで手を出してくる人はいないだろうし」
かなり印象が悪くなるだろうし、そもそも情報不足にもほどがある。そんな馬鹿はいないだろう。
「そういえば今さらなんだけど、何でこんな時間にお風呂に入ってるの?」
「ほんとに今さらだな・・・ついさっきまで走ってたから、汗を流したりリラックスしたり、あと軽くマッサージしとかないと、とな。そういうヤシロはどうなんだ?」
「私はリリちゃんからお兄さんがお風呂に入ってるって聞いて、ちょうどお姉さんたちもいないから突撃してきただけだよ?」
「そうか。」
もはやそれくらいのことでは驚かなくなってきている一輝。『ヤシロだから』という理由で受け入れてしまっている。
「じゃあ、私がマッサージしてあげようか?」
「あー、なら頼んでもいいか?何だかんだ言って、かなり疲れたし。」
「オッケー!体もまだ洗ってないよね?」
「かけ湯しかしてないな」
「りょうかーい!さ、お兄さん。上がって座って!」
一輝はヤシロに手をひかれるまま湯船を上がり、そのまま椅子に座る。
ヤシロはその後ろに立つと、ボディーソープを手にだし、泡立て始めた。どうやら、手で洗うつもりらしい。
「えっと、全部私が洗っちゃっていいの?」
「さすがに前は自分で洗うぞ。絵的にまずいだろ」
「あー、確かにそうだねー。じゃあそういうことにして、となると足もお兄さんが、かな?」
「そうなるかな。足を洗おうと思うと、前に回ってこないといけなくなるし」
二人とも、恥ずかしいとかそういう方向は一切なくただ外聞的な理由で判断している。なんだこれは。
もうほんと、この二人の思考回路はどうなっているのだろうか。
「うんしょ、うんしょ、と・・・」
「・・・なんかくすぐったいな」
「手で直接洗ってるからね~。それくらいは仕方ない、ってことで我慢してくださいっ」
そんなことを言いながらヤシロは手を動かし、鍛えている分肩幅も大きく、広い背中を洗っていく。
「よし、お兄さん右腕上げてー」
「あいよー」
自分で洗う部分は終わった一輝は、ヤシロに言われるままに体を動かしてヤシロが洗いやすいようにする。
ヤシロは新たにボディーソープを泡立てると、一輝の腕に自分の腕をからめるような体勢でその腕を洗う。体格差の都合上腕以外の部分も一輝のからだにあたっているのだが、まあ相変わらず二人に気にする様子は見られない。というかもう、ヤシロの方はわざとだろ。
「うんうん、意外と楽しいね~。他の人の体を洗うのって」
「そうなのか?俺は今、妙なくすぐったさと違和感を感じてるんだけど」
「貴族っぽいなー、とかそういう優越感は?」
「これがまた見事にない。強いて言うなら、真新しさを感じるかな」
「不快?」
「それは一切ないから安心していいぞ」
「なら続けるねー」
そう言ったヤシロは逆の腕も洗い、桶に湯をためて泡を流していく。そうして泡を全て流してから、次は頭に湯をかけて髪を湿らせる。
「じゃあ次は頭を洗うから、一応目を瞑っておいてね、お兄さん」
「あいよー」
一輝が言われたとおりに目を瞑ると、ヤシロは髪を洗う。表面だけではなく地肌まで洗い、佐羅にはマッサージまで組み込んでと、中々に有能だ。
「なんつーか・・・慣れてるのか?」
「そうでもないよ。ただ、ちょっとロアの知り合いからコツを聞いてただけ。うまくできてるかな?」
「出来てるよ。すっごく気持ちい」
その言葉にヤシロはさらに笑みを浮かべ、指を動かす。
背中に比べて面積が少ないおかげか、頭を洗う作業は比較的すぐに終わり、二人はそろって風呂を出る。ヤシロはただ一輝と一緒に入るために来ただけなので、またあとで洗うつもりなのだ。
ついでに洗ってしまえば、というのは気にしない方向で。
「じゃあお兄さん、マッサージするねー」
「よろしく。・・・大分硬くなってると思うから、無理そうだったら遠慮なく言ってくれ」
うつぶせに寝転がった一輝にそう言われ、一輝の腰辺りに座っているヤシロはまず肩に手を当てると、
「・・・本当に硬いね。冗談じゃなくて石みたい。人の体ってこんなになれるものなの?」
「体質もあるみたいだけど、呪力で強化したりするとこうなる。ほぐせばちゃんとほぐれるんだけどな・・・」
「そっか・・・じゃ、頑張る」
そう言ったヤシロは座る位置をもう少し前にして、体重をかけるようにして肩をほぐそうとする。
「あっ、ん・・・ふにゅ・・・」
「辛いか?」
「大丈、夫・・・んっ・・・」
とりあえず力ずくでもほぐさないと始まらないので、力を込める。途中でこのままでは無理だと気付き、曲げた肘を乗せてグリグリしたりもするが、辛そうな声はなかなか消えない。
「あー・・・そうだ、ヤシロちゃん。一つ聞いてもいいか?」
「いいよー。んっ・・・なあに、お兄さん?」
「なんかさ、最近十六夜おかしくないか?」
先日十六夜と話をしたときに違和感を感じた一輝は、そうヤシロに尋ねる。一輝の知る中でそういう方面に一番敏感なのは彼女だ。
「そうだねー。んっ、んー・・・何か無理をしてるのか、隠してるのか、ごまかしてるのか・・・そんな、感じかな?」
「やっぱり、そんな感じだよなー」
そして、その八代が自分と同じ考えであることを知り、まず間違いないだろうと確信する。つまり、あの十六夜に何かあった。そして・・・
「・・・どうすっかなー・・・」
「んあっ・・・いつも通り、でいいんじゃないかな?」
「いつも通り?」
「うん、そう。あんっ・・・・お兄さんらしく、真正面から」
「・・・ま、それもそうだな。いつもと違って男相手だから、遠慮なく殴れるし」
はっきりとそう言った一輝にヤシロは笑みを見せ、再び全体重を肩にかける。
この後しばらくの間、一輝の部屋からヤシロの悩ましそうな声が聞こえてきたとかなんとか・・・
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