黒猫が撃つ!
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四弾 好奇心猫を殺す? 黒猫はミルクを好む?
前書き
3話分溜まったので更新します!
最新話は別のサイトでアップしてますのでよろしければそちらも……。
ではまた。
「どうやって入ったんだ……って言いたいところだが、トレインが入れたんだな」
キンジは顔をげっそりさせながら俺に向けてそう言うと、「はぁー」と溜息を吐いた。
「入れたら駄目だったか?」
女嫌いだとは聞いていたが、溜息を吐くほど、ここまで嫌がるとは思わなかった。
「何よ!あんたはレディーを玄関先で待ち惚けさせる気だったの?許せないわ」
キンジが溜息した事に、逆ギレしたアリアが噛みついたがそれにキンジがすかさず反論した。
「逆ギレするようなヤツはレディーと呼ばないぞ、でぼちん」
「「でぼちん?」」
重なる俺とアリアの声。
その疑問の声にキンジがすぐ様説明した。
「額のでかい女の事だ」
「ああ、なるほど」
「______あたしのおでこの魅力が分からないなんて!あんた達いよいよ人類失格ね」
アリアは大げさに言うと、べー、とベロを出した。
さり気なく俺の事も人類失格扱いしやがったな、コイツ。
いや、なるほどなんて納得したのは冗談だぜ?
本当は分かってるんだ、俺もキンジもな。
アリアが可愛いと言う事は。
その、見 た 目 は な。
容姿が抜群にいいのは分かっているが、性格がな……。
我儘というか、人を巻き込んで自分勝手にやるところとか、感情的でキレやすいところとか俺の苦手なアイツ。
……キョーコとかにソックリなんだよな。
「この額はあたしのチャームポイントなのよ。イタリアでは女の子向けのヘアカタログ誌に載ったことだってあるんだから」
アリアはキンジに背を向けると、楽しそうに手に持った鏡を覗きこんで自分のおでこを見た。
そして、ふんふん♪と鼻歌まで歌い始めた。
キンジは楽しそうなアリアとは逆に不機嫌になったアピールなのか、手に持った鞄をアリアの隣に放り投げやがった。
だが、アリアも慣れたもので、へーぜんと自分の額をご満悦で眺め続けている。
……なんだ、この雰囲気の温度差は。
キンジがキレるのもしょうがねえとは思う。
押しかけて来て勝手に自室に上がった挙句に、アリアに「あんた、あたしのドレイになりなさい!」なんて言われたら誰だってキレるよな、そりゃあ。
昨日は昨日で、猫探しの依頼を受けに行ったかと思えばアリアに付きまとわれたみたいだしな。
だから同情はしてやる。
だけどな……。
ここは、俺とスヴェンが借りてる部屋でもあるんだぜ!
部屋の中を微妙な空気にすんなよ!
そんな事を思っているとキンジは洗面所に入って行った。
そして背中越しに______
「さすが貴族様。身だしなみにもお気を遣われていらっしゃるわけだ」
イヤミな口調でそんな事を言い放った。
それを聞いたアリアは、
「……あたしの事を調べたわね?」
と、何故か嬉しそうにキンジの側に近づいて行った。
「ああ、本当に、今まで一人も犯罪者を逃した事がないんだってな」
「へえ、そんな事も調べたんだ。武偵らしくなってきたじゃない。でも……」
そこまで言うとアリアは壁を背につけ、ぶらん、と片脚でちょっと蹴るような仕草を見せた。
「______こないだ、2人逃したわ。生まれて初めてね」
「へえ。凄いヤツもいたもんだな。誰を取り逃がした?」
「アリアが取り逃がすほどのヤツか、腕のいい奴なんだな」
キンジはコップに水を汲み、うがいを始めた。
俺は口の中に寿司を詰め込みながらそう言うと______
「あんた達よ」
ぶっ!と水を盛大に噴き出したキンジ。
ゴフッ!と口から寿司を吐き出した俺。
ちょっと待て!
俺って、俺は何もしてねえだろうがー!
「お、俺は犯罪者じゃないぞ!なんでカウントされてんだよっ!」
「俺だって犯罪者じゃねえ……少なくとも今は、な」
「強猥したじゃないあたしに!あんなケダモノみたいなマネしといて、しらばっくれるつもり⁉︎このウジ虫!
それと、トレインはまだ正式に武偵じゃないのに帯銃してるじゃない!
改正銃刀法って知ってる?」
「カイセイジュウトウホウ?
何だそれ?」
「何でそんな事も知らないのよ?
いい改正銃刀法って言うのはね……」
聞いた事もない言葉に聞き返すとアリアは説明を始めようとしたが……。
それを遮るようにキンジが怒鳴った。
「だからあれは不可抗力だっつってんだろ!それにそこまでの事はしてねえ!」
「うるさいうるさい!______とにかく!」
びしっ!とアリアは真っ赤になりながらキンジを指差した。
「あんた達なら、あたしのドレイにできるかもしれないの!だからキンジ、あんたは強襲科に戻って、あたしから逃げたあの実力をもう一度見せてみなさいっ!」
アリアはそうキンジにいい放った。
キンジを強襲科に戻したいらしいが何でだ?
キンジにはアリアが求める何かがあるのか?
確かに、あの時のキンジは凄かったけどな。
ここ数日のキンジを見てると何故キンジにまとわりつくのかわからねえ。
キンジは確かに一般人だとは思わねえけど、Sランクのアリアが目をつけるほどの能力があるとは普段の生活を見ている限り思わねえんだけどな。
俺がそんな風に考えているとキンジは口籠もりながらもアリアに反論していた。
「あれは……あの時は……偶然、うまく逃げられただけだ。俺はEランクの、大した事のない男なんだよ。はい残念でした。出ていってくれ」
キンジはそう言ってアリアを部屋から追い出そうとしたが______
「ウソよ!あんたの入学試験の成績、Sランクだった!」
アリアはすかさず反論した。
その表情は何かを確信しているかのような、そんな顔をしている。
ってキンジの奴、Sランクなのかよ⁉︎
アリアクラスの奴がこんな身近にもいたなんてな。
キンジの顔を見てみると、「そうきたか」といってるような顔をしていた。
「つまりはあれは偶然じゃなかったって事よ!あたしの直感に狂いは無いわ!」
アリアは自信満々に告げた。
直感に狂いは無い、か。
その通りだな。
本来なら、「直感なんて信じられねえ!」と笑ってやりたいところだがその直感の恐ろしさをさっきの戦いで見せられたからな。だからアリアの直感は信じられる。
「と、とにかく……今はムリだ!出てけ!」
「今は?って事は何か条件でもあるの?言ってみなさいよ。協力してあげるから」
そうアリアが言った途端、キンジの顔は______かあああっ、と真っ赤に染まった。
何だ?
今の発言の何処かに、顔を赤くするようなところはあったか?
首を傾げる俺とは対照的にアリアは______
「教えなさい!その方法!ドレイにあげる賄い代わりに、手伝ってあげるわ!」
「……!」
そんな発言をしてキンジをさらに動揺させていた。
何でキンジが動揺してるのかはわからねえがもう止めてやれ、アリア。
「なんでもしてあげるから!教えて……教えなさいよ、キンジ……!」
キンジにずずいっ!と詰め寄るアリア。
詰め寄られたキンジはアリアを______
「______!」
ドン!と押しのけてソファから立ち上がった。
「……一回だけだぞ」
「一回だけ?」
アリアが聞き返すと______
「戻ってやるよ______強襲科に。ただし、組んでやるのは一回だけだ。戻ってから最初に起きた事件を、一件だけ、お前と一緒に解決してやる。それが条件だ」
キンジはそう言い放った。
「……」
「一回だけ?
なあ、キンジ……手を抜いたりしないよな?」
何となくキンジが手抜きする、そう感じた俺はキンジに言っていた。
「ッ⁉︎
……し、しねえ……よ」
オイオイ……動揺しまくってんぞ、キンジ。
「キンジ、あんたまさか……」
疑いの眼差しでキンジを見るアリア。
キンジは動揺しながらも俺を見て「黙れ!」と短縮マバタキ信号を送ってから続けてアリアにいい放った。
瞬き信号の基礎をここ数日、キンジやスヴェンから教わっていたから解読出来たが……キンジよ、こんなの直接口で言えよ。
「あー、もう、わかったよ。
戻ってやるよ______強襲科に。
そこで一件だけ、事件を解決してやるよ______全力でな」
「よし、全力でやれよ。
それじゃあ、そう言う事でいいか、アリア?」
「……それでいいわ。じゃあ、この部屋から出てってあげる」
アリアは俺の提案に頷いた。
キンジは俺に再びマバタキ信号を送ってきたがスルーしてアリアに同意を求めた。
「あたしにも時間がないし、その一件で、あんたの実力を見極める事にする」
「……どんな小さな事件でも一件だぞ」
「OKよ。そのかわりどんな大きな事件でも一件よ。
それとちゃんと全力でやんなさいよ」
「ああ、分かった……」
「ただし、手抜きしたりしたら風穴開けるわよ」
「ああ、約束する。全力でやってやるよ」
キンジがそう言うとアリアは自身の荷物を纏めて部屋から出て行った。
「じゃあ、出て行ってあげるけど約束守りなさいよ!
それとトレイン今夜待ってるわ」
そう言い残して。
アリアが出て行くとキンジがソファーに倒れこむように腰掛けた。
「……なんのつもりだ」
「ん、何がだ?」
「何で俺が手を抜くのが分かったんだよ?」
「さあな、武偵なら自分で調べろよ。
それより俺はお前が隠している事の方が気になるけどな……」
「……トレイン、お前なあ。
好奇心猫を殺すって言葉、知ってるか?」
好奇心猫を殺す?
何だそれ?
「殺れるもんならやってみろ!
不吉を届けてやるからよ!」
ちなみに、先ほどキンジから送られてきた瞬き信号の内容は「余計な事言うんじゃねえ⁉︎
黙ってろー」というような感じだった。
まあ、それもしょうがねえよな。
キンジの実力に興味が湧いた俺は悪戯心で「全力でやれよ」と言ったがキンジにしてみれば余計な事だからな。
だからキンジの気持ちも分かる。
だが、キンジが隠している能力に興味を持った俺はキンジの側に近寄りこう言ってやった。
「俺が何でお前が手を抜こうとしているのかが分かったのかだって?
決まってんだろ……それはな、ただの……」
それは、先ほどのアリアとの戦いの際に彼女が俺に向けて言った言葉だけどな。
「直感だ!」ってな。
「遅えーな、アリアの奴……」
午後8時。
俺は女子寮の前の温室でアリアが来るのを待っていた。
片手には来る途中で男子寮の真下にあるコンビニで購入した桃まんと自分用に買った牛乳が入った袋をぶら下げている。
待ち合わせの時刻になってもアリアはまだ現れない。
もしかして寝ちまったのか、あるいは桃まんの食い過ぎで腹を壊したのではないか?
そんな事を考えていると。
「にゃーあー」
温室の中から鳴き声が聞こえてきた。
ゆっくりとその声の元に近づいていくと一匹の白猫がその小さな身体を震わせて弱々しく鳴いていた。
「しゃーあー」
満足に動けないのか、丸まったまま、此方を警戒するような眼で見て尻尾を立てる。
「ん、捨て猫か?」
俺は猫の側に近づくと震えるその猫を抱き上げようとした。
猫は尻尾を立てて威嚇して鳴いてきたが弱っているせいか暴れようとはせずにその小さな身体はすぐに俺の腕の中に収まった。
「大丈夫か、お前?」
俺の問いに猫は鳴いて答える。
「にゃー」
「気にすんな、か……大丈夫ならいいけどよ」
「にゃーあ」
「それにしてもアリアの奴、来ねえな……」
「にゃー、にゃー」
「ん?腹、減ってんのか?」
にしても猫が弱々しく鳴く姿を見ていると庇護欲を注がれるな。
そう思い、猫を一旦放した俺は袋の中に入っていた紙パックの牛乳を取り出して、温室前に捨てられていたプラスチックの容器を温室に設置されている水道で洗って皿代わりにしてやり牛乳を中に注いで、猫の前に置いてやった。
猫は尻尾を立ててまま、最初は警戒していたが、食欲には勝てなかったのか、すぐに牛乳を飲み始めた。
「美味いか?」
「にゃー、にゃー」
もっと牛乳寄越せ!と言わんばかりに器用に前足を使って容器を俺の方に押してくる猫。
容器に牛乳を注いでやると猫は「にゃー」と一鳴きしてから物凄い勢いで牛乳を飲み始めた。
立てていた尻尾も今は横に揺らしている。
「あーあー、その子もトレイン君に餌付けされちゃったようっスね」
背後から聞こえてきた声に振り向くと俺と同じように片手にスーパーの袋をぶら下げているサヤの姿があった。
「コイツ、サヤの猫か?」
「違うっスよ!
その子は温室に住む野良猫。
一週間くらい前から住みついていたっス」
サヤは猫の側に近くと猫が舐めている容器の中にスーパーで買ってきたアジを丸々一匹入れてやった。
猫はアジを見ると目の色を変えて「ふしゃあぁぁぁー」と鳴き、齧りついた。
「毎日餌やってんのか」
「うーん、依頼がない日に来ることが多いっスね。
今日は久しぶりに大物を捕まえられたからこの子にもお裾分けっス」
「依頼行ってたのか」
「うん。これでも強襲科のSランクっスからね!
そういえばトレイン君は試験はいつ受けるんっスか?」
ここにもアリアクラスの奴いたよ。
俺の周り、Sランク率多くねえか?
「さあ、知らねー」
「自分の事なのに、何で知らないっスかー!」
「そういうのは相棒に任せてるからな」
「おお、随分と信頼しているみたいっスね!もしかして、これが理子ちゃんが言ってたびーえると言う奴なんっスかね?」
びーえるって何だ?
意味はよく分からねえけど、なんとなく嫌な予感しかしねえ。
「何を言ってるんだ、お前?」
「意味はよく分からないっスけど、理子ちゃんが妹萌えとギャルゲーは好きだけどびーえるという属性は好きじゃないって、前にキンジ君とトレイン君、スヴェンさんの写真を見ながら話していたっス。
それより今日はなんだか暑いっスね……」
理子とか言う奴が俺とキンジとスヴェンの写真を見ながら話てた?
さっぱり訳わかんねえけど、なんか嫌な予感しかしねえから知らない方がいい気がするな……。
あんまり知りたくねえし、話題変えるか。
「あー、ところでアリア見てねえか?」
「ん?アリアちゃん?
今日はまだスヴェン先生達しか見かけてないっスよ。
どうかしたんっスか?」
「いや、ここで待ち合わせしてるんだ。
8時に来るはずなのに来ないからなんかあったのかと思ってな」
「んー、電話してみたらどうっスか?」
「アリアの番号まだ知らねえよ」
「仕方ないっスねー。ちょっと待ってて」
サヤは携帯電話を取り出すと電話をかけ始めた。
直ぐに繋がったようで電話越しにアリアの声が聞こえた。
「……うん、うん。え?トレイン君を……一人で?
ちょっとそれは……うん、うん。わかったっス。そういう事なら貸してあげるっス。
でもあげたりはしないっスよ?
……分かったっス。」
なんか、変な事を言っているような気がしたが……サヤ、お前何の話をアリアとしてるんだよ。
「トレイン君、お電話代わるっス。アリアちゃんに繋がっているっスよ」
「代わったぜ」
「かけてくるのが遅い!風穴」
電話番号知らねえのに、理不尽だろ。
「もっと早く電話するか、とっとと部屋に来なさいよ!
それくらいアンタならできるでしょー?
国家機密A認定の抹殺人、黒猫なら」
「一体、誰から聞きやがった?」
「それも含めて大事な話があるから早く上がって来なさい!
サヤには電話で伝えたけど今ちょっと手が離せないから一人で来て」
そう言うとアリアは電話を切りやがった。
「もう終わったっスか?」
「ああ、早く上に来いだとよ。
全く、何様だよ」
「まあまあ、いいじゃないっスか。
女の子の部屋に呼ばれているなんてきっと武藤君あたりが聞いたら発狂ものっスよ?
女の花園、女子寮にお呼ばれされるなんてなかなかないっスから」
「別に行きたくて行くわけじゃ「美味しいミルクが用意してあるって言っていたっスよ?」マジ⁉︎すぐ行くぜ!「……トレイン君?」……ほ、ほら、親睦を深めたり情報を交換したりするのも大切だろ?」
「既に餌付けされているんっスね……」
何故か半眼で睨んできたサヤ。
餌付けとか人を動物扱いすんな。
「まあ、トレイン君が浮かれるのも無理ないっス。
アリアちゃん家にある高級ミルクはマジ美味しいっスから」
「マジで⁉︎」
「マジっス!」
高級ミルク……早く飲みてえ。
「伊達にイギリス貴族の出身だけあるっスよ。
まあ、でも……あの子の家もいろいろ大変みたいっスけど……」
「そういやぁ、キンジがアリアの事を貴族のお嬢様って言ってたな。
そんなに有名な一族なのか?」
「トレイン君はまだこっちの世界の事をあまり知らないから分からないのも無理ないっスね。
アリアちゃんの一族は、この世界の人々なら誰でも知っている。誰でも一度は聞いた事がある歴史上に名を馳せた、とある有名な人物を先祖に持っているんっスよ」
「へえー。有名な先祖の末裔……ね」
あのアリアがな。
普段の生活を見ているとそうは思えねえけどな。
「詳しい説明はこの後、アリアちゃんから聞くといいっスよ。
さて、と・こ・ろで……トレイン君。
君、アリアちゃんに手を出したって本当っスか?」
急に話題を変えたサヤはフワフワした日常モードから瞳を鋭くしたお説教モードに切り替えて猫を背にして俺に向き合った。
その身からはピリピリっとした怒気が発せられている。
「いや、確かに手は出したが……」
「言ったっスよね?
アリアちゃんに手を出したら駄目って」
「いや、だが……」
「そんなにアリアちゃんがいいんっス?
小ちゃい子じゃないとトレイン君は興味を持てないんっスかー」
「……は?」
「そんなに小ちゃい子がいいんっスかー」
「意味わかんねえぇぇぇーし、痛てえええぇぇぇよ⁉︎」
顔を赤くして怒鳴りながらボコボコ俺の胸元を叩いてくるサヤ。
サヤのその背には不動明王の姿が見える。
これが噂に聞く、「滅殺」か?
いや、だがあれはセフィリアしか使えないはずじゃ……。
「知ってるんっよ、私。
トレイン君がイヴちゃんと映画デートしてた事も……」
サヤはそう言ってボコボコと手をグーにして叩いてくる。
叩くたびに力強くなっている。
「何でそんな事知ってるんだよ」
「ヒック、さっきスヴェンさんから聞いたっス。
お酒飲みながらトレイン君の事いっーぱい話していたっスよ……ヒック」
ん?酒?
「おい、サヤ……お前」
「なんすか?
……ヒック……暑い、なんか暑いっスねー」
そう言って浴衣の胸元をパタパタめくるサヤ。
めくる度にその胸元から神秘が見えそうになり……っ何見ようとしてんだ、俺は⁉︎
「バカ、止めろー⁉︎」
「なんすかー暑いからちょっと脱ぐだけっスよ?」
サヤはシュルッと浴衣の帯に手をかけた。
「バカ止めろー、脱ぐな⁉︎」
脱がせるか!
と俺はサヤの手を抑えた。
「嫌だっスー!脱ぐっスよー」
しかし、酔ってるとはいえ、サヤも長年武偵をやってきただけあり俺の腕を掴んで足を払い、俺を背負いそのまま地面に投げやがった。
「痛っ⁉︎」
俺が倒れている合間にもサヤの暴走は止まらず……。
シュルッ、シュルッりと布が擦れる音が
聞こえた。
「だから脱ぐんじゃねえええぇぇぇ⁉︎」
「暑いのが悪いっス……浴衣はやっぱり脱ぎ易くていいっスねー」
「脱ぐなー!お前酒飲んだな」
「酒?飲んでないっスよ?
スヴェン先生がトイレに行った間にジュースなら注文したっスけど……」
「なんて言うジュースだ?」
「んー?確か……カシス・オレンジっていう奴っス……」
「それは酒だろうがあぁぁぁ⁉︎」
その後、俺はサヤを背負い女子寮に行った。まあ、実際には背負うというより抱きついたサヤを引きずったという方が正しいけどな。管理人さんに事情を話しサヤを預けようとしたが……何故かニコニコ顔の管理人さんは首を横に振り、管理人さんにサヤの部屋の鍵まで手渡された。
エレベーターに乗る直前に管理人さんから「あまりお姉さんに激しくしちゃ駄目よ♪」とか言われたが……何を言ってるんだここの管理人は?
サヤの携帯からアリアに電話するとアリアから「しょうがないわね。じゃあサヤも連れて来なさい。
あんたとサヤを二人にさせるわけにもいかないし」というありがたいお言葉をいただいたのでサヤを引きずってそのままアリアの部屋に向かった。
アリアの部屋の前に着いた。呼鈴を鳴らしてしばらくすると玄関の扉が開き中からアリアが出てきた。
「遅い」
ギロリとその赤い瞳を細めて如何にも、不機嫌よ! といった表情で俺を睨むアリア。
「悪い。
見ての通りサヤがこんな状態だからな」
背に背負ったサヤは、モゾモゾと動きながら「むにゃ……ミルク大臣に私はなる!」と意味がわからない言葉を口にしている。
「……あんた、サヤに何をしたの?」
呆れ顔をしながら俺がサヤに何かしたという前提でアリアが聞いてきた。
「俺は何もしてねえよ!
むしろ俺は被害者だ」
「むにゃ……あ、駄目、トレイン君。そこ、そこは駄目っスよー。あ、あー……すー、むにゃ……」
そう口にした直後、寝ていたはずのサヤがガバッと起き出し、突然喚いた。
よりにもよって、アリアが目の前にいる、この最悪なタイミングで。
状況を理解していないのか、寝ぼけていたのかわからないがサヤは口にした直後、再び俺の背を枕代わりにしておんぶの形のまま、静かに眠りについた。
大きな爆弾を残したまま。
「あ、ああ、あんた……サヤに何をやったのよ!
この変態ーーーーい!風穴!風穴開けてやる!」
アリアの手がスカート下のホルスターに伸びたのを見た俺は背に背負ったサヤを床に振り落とし、すぐ様アリアに飛びかかった。
アリアの両手を掴み、二丁拳銃の銃口の向きを少し上向きにした状態でサヤに当たらないように体の向きを変えてアリアにトリガーを引かせる。
ガガガアァァァ。
弾倉が弾切れになるまで撃ち出した事により、少し落ち着いたアリアの掴んでいた腕を放した。
腕を放すと、アリアはギロッと俺を睨みつけ、銃口を向けたまま、俺に説明を求めてきた。
「どういう事か説明しなさい!」
______それから数分後。
サヤが酔っ払った経緯を説明し終わるとようやくアリアは納得して、部屋の中に入るように促した。
サヤを背負ったまま、アリアの部屋に入ると、そこは豪華な内装、高級で年代物の調度品が数多く置かれた、如何にも貴族の部屋という感じの部屋だった。
「とりあえず、サヤはそこのソファに寝かせておきなさい」
アリアの指示通りにサヤをソファに寝かせるとアリアは高そうな装飾が付いた椅子に座って指をパチンと鳴らした。
アリアが指を鳴らすとキッチンの方から誰かが姿を現した。よくみてみるとその人物の服装は、武偵高の女子制服の上にメイドが身につけるカチューシャとメイド服に付いているようなフリルの付いたエプロンを重ね着にしたアリアよりも少しだけ背丈が低い女の子で、その女の子はアリアの指示に従い給仕の真似事をし始めた。
カップにコーヒーを淹れると俺とアリアの前にそれぞれ置いた。
アリアは「ありがとう、冷めないうちにトレインも飲みなさい」と言い、カップを手に取り一口飲んだ。
その子が淹れたコーヒーを一口、口に含むとアリアは幸せそうな表情で隣で給仕する少女に向けて言った。
「うーん、やっぱりコーヒーは、エスプレッソ・ルンゴ・ドッピオにカンナを入れたものが美味しいわね!
あかりもコーヒーの淹れ方が解ってきたじゃない!」
あかりと呼ばれた少女はアリアに褒められた事が嬉しかったのか、アリア先輩に褒められたー! と1人大はしゃぎをしている。
長い上にまるでゲームとかに出てきそうな魔法の名前をしたコーヒーが入ったカップを手に取ってみた。
目の前に出されたコーヒーを飲んでみると熱々の上にやたらと苦い味がして、思わず吐き出しそうになった。
「苦っ⁉︎ それに熱い!」
猫舌の俺には火傷しそうになるくらい熱い温度のコーヒーが出されていた。
「そう?苦いかしら?
苦さはあまりないはずよ。
それにそんなに熱くないわよ?
苦さもちょうどいいし……苦いならカンナを入れたら?」
アリアの言葉に釈然としない俺は首を傾げつつも出されたコーヒーを飲むがやはりカップは火傷しそうになるくらい熱く、味も苦さしか感じられなかった。
ふと、アリアの隣にいる少女に目を向けると俺と目があった少女は気まずそうに顔を背けた。
顔を背けた時に小さな声で「ざまあみろ!」とか呟いていたが……まさかな。
色々突っ込みたかったが、騒いでアリアの怒らせたらミルクを飲む前に風穴を開けられかねない。
そう思った俺は聞こえなかったふりをして話題を変え、アリアにカンナとは何かを聞いてみた。
「カンナ?」
「砂糖の種類よ!
キビ糖も知らないの?
エスプレッソ・ルンゴ・ドッピオにはカンナがあうわ」
アリアのお勧めの通りにカンナを入れてみると先ほどとは違い、苦味が和らいで香りが引き立った。
熱さは猫舌だから冷ましながら飲んだけどな。
「うーん、やっぱりコーヒーよりミルクの方がいいな。
おい、アリア。美味いミルクくれ」
「もう、わかったわよ。
あかり。例のアレ持って来て!」
アリアが少女に指示を出すと少女は台所から小さな器を持って来た。
中にはミルクが入っていたがその量はかなり少なかった。
「おい、アリア。
何だ、このちょっとしか入ってない液体は?」
「何って、約束通り世界一のミルクよ」
「こんなちょっとしかないのかよ……」
「仕方ないでしょ!
希少品で1ℓで24ユーロもするのよ!
それにこのミルクは栄養価が非常に高いから1日の摂取量も60㎜ℓくらいでいいのよ」
「ふーん、まあ、いいや」
ちょっと量が足りないが希少なミルクにはかわらないしな。
そう思い容器を手に取り一口口に含んだ。
口に含んだ瞬間、まるでヨーグルトのような味わいがした。
「おっ、これは……」
今まで体験した事がないくらいの、不思議な味わいが口の中に広がった。
「う、う……」
「う?」
「大丈夫ですか?」
「美味えぇぇぇーーー‼︎」
アリアが勧めるだけあって、そのミルクの味は今まで飲んだミルクを凌駕するほどの味わいをしていた。
「こんな美味いミルク飲んだの初めてだぜー⁉︎
おい、アリア。何処で売ってるんだ」
「そ、そう。喜んでくれるのなら良かったわ。
トレインに出したこのミルクはヨーロッパでは割と有名よ。取れる時期が限られているからあまり流通はしていないけど日本でも愛好家はいるわよ。
今日のは北イタリアから取り寄せたものよ」
「取れる時期が限られている?
ただのミルクがか?」
ミルクが何でそこまで重宝されているのか疑問気味に言うとアリアは何を言っているのよ、コイツは的な顔をして説明してきた。
「これはただのミルクじゃないわ。
希少価値が高い、ロバのミルクよ!」
「ロバのミルク?
ロバってあのロバか?」
王様の耳とかになっちまう、あの動物の名を口にするとアリアは頷いた。
そして、ロバのミルクは栄養価が高く、アレルギー反応もほとんど起こさない優れた食品という事を語り始めた。
「はあ〜。凄えんだなーロバって……」
「そうよ。
そしてそんな貴重なロバのミルクを飲ませてあげれる私がどれだけ凄いかわかったでしょ」
「あー、うん。凄え、凄え」
「風穴」
俺の投げやり気味な返事が気に入らなかったようで……。
ガチャっとスカート下のホルスターから銃を抜いて、俺の頭に銃口を向けたアリア。
口より先に手が出るこの少女の様子に、給仕をさせられていたオレンジ色の髪をした少女も慌てている。
「待て、待て⁉︎
冗談だ。冗談!
それよりお前の話とやらをそろそろ聞かせろよ!」
「今度、馬鹿にしたら風穴よ!」
「あ、アリア先輩駄目ですよ!
撃つなら動けないようにして、確実に仕留めないと……」
「おい、お前はどっちの味方だ⁉︎」
アリアを慕うこの少女、さっきから俺に大して敵意むき出しだが何故だ?
今日初めて会ったこの少女に恨み買う覚えはないんだがな。
「そんなの決まってます。
私はアリア先輩の味方です!
先輩達には、アリア先輩は渡しませんからね!」
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