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ロード・オブ・白御前

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オーバーロード編
  第11話 紅と翠の交錯

 鎧武、バロンは、それぞれのロックビークルで“森”へ入った。

『またこいつを使おう』

 鎧武が取り出したのは、ピーチのエナジーロックシード。

 白鹿毛がマリカとの再戦で勝利の証に手に入れた物だ。それを、しばらくして急に紘汰に譲ると言って持ってきた。曰く「最初はあの人に勝った感動に浸ってましたが、飽きました」と。――イマドキの中学生は分からない。

 このロックシードの付加性能は、聴覚の強化。

《 オレンジアームズ  ミックス  ジンバーピーチ  ハハーッ 》

 陣羽織を思わせる鎧をまとい直してから、鎧武は耳を澄ました。
 多彩な音が入ってくる。梢のすれ合い、川の流れ、インベスの鳴き声――


 ――歩き疲れたら、隠さず素直に言うんだよ。
 ――もぉっ。兄さん、ちょっとはわたしのこと信頼してくれたっていいじゃない。


『見つけた! ミッチとヘキサちゃんの声だ』
『どっちだ』
『ここから西…いや、もうちょいずれる…西の南寄り…南西に5キロ!』

 鎧武は判明した方向へ走り出そうとした。幸いにも、バロンも同じ方角を目指してくれるようだった。

 樹の上から突然、紅いオーバーロードが現れ、襲って来さえしなければ。





 同時刻。光実は碧沙と共に、とある崖の底にいた。
 草木に染みて赤黒くなっているのは、まぎれもなく人間の血だ。しかも大量。

「崖から落ちたって、裕也さん、言ってたね。本当だったんだ……」
「光実兄さん、あれ」

 しゃがんで血を見ていた碧沙が立ち上がり、ある方向を指差した。点々と血の跡が“森”の中へと続いている。

「移動したってことかな。こんな高さから落ちて、無事だっただけでも儲け物なのに、一体どこへ……とにかく辿ってみよう」
「ええ」

 光実は碧沙の先を歩き、段差やぬかるみがあれば、碧沙に手を伸べてエスコートした。このくらいしないと危なっかしい妹なのだ。

「ねえ、兄さん。なんだか遺跡みたいな物が増えてきてない?」
「オーバーロードの文明の跡だね。そういえば碧沙は、見るのは初めてだっけ」
「ええ。クリスマスではここまで奥には来なかったから。――ふしぎ。別世界にいるのに、ただの散策みたい。これで巴も一緒だったら……」

 碧沙は本当に関口巴が好きなのだと思い知らされる。
 碧沙にとっては初めての学友。光実にとっての舞のようなものなのだと考えると、気持ちはよく理解できた。

(ここがただの史跡で、紘汰さんがいて、裕也さんがいて、舞さんがいて。ううん、チームのみんながいて、ピクニックみたいに歩いてたらどんなかな。分かんない~ってはしゃぐ紘汰さんに説明してあげたり。そしたら舞さん、すごいって思ってくれるかな――)

 光実が楽しい想像を膨らませながら歩いていた時だった。

「兄さん危ない!」

 唐突に碧沙は光実の背中を押した。

 二人して地面に転がった。見上げれば、木の幹に刺さった紅いソニックアロー。

『残念。ハズレか』
「シド、さん」

 呆然と呟いた碧沙を、立ち上がった光実は背中に庇った。

 アーマードライダーシグルド。ビートライダーズだった頃から何かと光実と因縁のあるライダー。
 腸はシドへの怒りで煮えくり返っている。

(あんな危ないもんを、碧沙に向けて撃った。よりによって碧沙に)

 もしこれで碧沙の体に傷の一つでも付いていたら、光実は5秒となく変身し、1秒でシグルドへ詰めて脳天をブチ撒けていたと断言できる。

 兄を奪っておいて、この上、妹まで奪うなど許せない。

「隠れてて、碧沙。すぐ片付ける」

 光実は戦極ドライバーを装着し、ブドウの錠前を開錠した。

『おいおい、よせって。戦極ドライバーとゲネシスドライバーじゃ性能が桁違いだぜ』
「うるさい」

 ゲネシスドライバー自体は持っているのだ。だが、ロックシードがない。だからこう変身するしかない。
 もっとも、光実とて簡単に負けてやる気はさらさらなかった。

「変身」
《 ハイーッ  キウイアームズ  撃・輪・セイヤッハッ 》

 キウイの甲冑が光実を鎧い、光実を龍玄へ変身させた。

 龍玄は即座に、シグルドのいる場の頭上、梢に向けてキウイ撃輪を投げた。折れた梢がバサバサとシグルドに降り注ぐ。その隙を突いて、龍玄はシグルド本人にキウイ撃輪を投げ放った。

 シグルドは健在だった。

『なかなかいい動体視力してんじゃねえか。でも残念だったな。その程度の武器じゃあ、ゲネシスの鎧に傷一つつかねえぜ』
『くっ』

 戻ってきたキウイ撃輪を構えつつ、龍玄は頭をフル回転させる。この圧倒的性能差を覆すだけの策を練る。

 シグルドが弓で斬りかかってきたので、龍玄はキウイ撃輪でそれらを流した。

(考えろ、考えろ、考えろ。ここにシドがいるということは、検体の碧沙を取り戻しに来たんだ。だからって碧沙をオトリに使うなんてありえない。逆に言えばシドだって碧沙を傷つけられない)

 龍玄はキウイ撃輪を両方とも放ち、バックルのロックシードをキウイからブドウに変えた。

《 ハイーッ  ブドウアームズ  龍・砲・ハッハッハッ 》

 近くの木陰に入りながらシグルドを撃った。
 当たりはする。だが、シグルドにほとんどダメージを与えられない。このままでは詰む。


「きゃああああ!」


『! 碧沙!?』

 龍玄は勝負を忘れ、碧沙の悲鳴がした方向へ走った。

 木の幹を背に、翠のオーバーロードに杖槍を突きつけられる碧沙がいた。

『新手のオーバーロードだとぉ!?』

 龍玄を追ってきたシグルドも、この展開には驚いたらしい。

 迂闊だった。報告されたオーバーロードは1体だったが、他に同類がいないとは限らない可能性を見落としていた。もしかしたら、視界に入らないだけで木の陰にうじゃうじゃいるかもしれない。

『コれハいイ拾いモのヲシた』

 翠のオーバーロードは杖槍を返し、石附で碧沙の鳩尾を突いた。碧沙はそのまま座り込んだ。気絶している。

『碧沙!!』

 龍玄はブドウ龍砲を翠のオーバーロードへ向けて連射した。翠のオーバーロードは尽くを杖槍で防いだ。

 翠のオーバーロードが碧沙を抱き上げた。

『オマエたチ、禁断ノ果実がほシいのナラ、付イて来るトいイ』

 このキーワードはシグルドのほうに覿面に効いたようだった。

 翠のオーバーロードは滑るように“森”の奥へと進み始めた。浮いているかのように、速い。

 シグルドがサクラハリケーンを投げて展開した。
 そうだ。自分たちを追って来られたなら、ユグドラシルには光実が壊しきれなかったロックビークルがあったことを意味する。よりによってシドが持っているとは思わなかった。これは光実のミスだ。

 龍玄もローズアタッカーを投げて展開し、座席に跨った。

 両者は同時にロックビークルのエンジンを吹かし、翠のオーバーロードを追った。 
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