問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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一族の物語 ―我/汝、悪である― ③
一輝は湖札と同化してから何の容赦も、温存もなく力を使っていった。
常に全力の一撃を討ち続け、体力がなくなれば妖力、魔力、霊力を檻の中からかりてひたすら打ち続ける。
『狂気の様な攻め方をするな、外道!』
「うっせえ、絶対悪!これでいいんだよ・・・!」
一輝はそう言いながら、ついに蚩尤と天逆海の神気を燃料にしだした。
別に、この場で使いつくしたとしても檻の中の魂が消滅するというわけではない。むしろ、魂だけとなっている存在なのだから少しすれば回復する。自分の呪力を使い尽くせば話は別だが、後に必要となるので呪力は使っていない。
『兄さん、私のも!』
「・・・悪い、借りるぞ!」
そして、最後に湖札の呪力まで借りて最大の一撃を討ち続け・・・自分の呪力を一部使い、ようやくアジ=ダカーハの心臓を、剥き出しにした。
「はぁ、はぁ・・・どうだ、絶対悪。弱点がむき出しだぜ?」
『フン、予想以上にやりおる。まさか、神殺しである私が、神霊にここまでやられるとは!』
《俺が用意したもの、一つ目。アジ=ダカーハを抑え、同時に対抗できる存在。神霊としての主催者権限に人間としての対抗手段。》
それが、鬼道という存在。人間として生まれ、同時に神霊として生まれた矛盾を使えば、原典候補者でなくとも対抗手段となることができる。
さらには、一輝のいた世界にしか存在しない神霊の存在と予定外であった湖札の・・・歪みから得た主催者権限。これによって、ゲームクリアはほぼ不可能となる。
「悪いけど、俺は人間をやめたつもりはないんだよ。・・・神霊の部分はどうにかする手段があるのかもしれないが、人間のと同時に消しされるのかな?」
『確かに、それは難しい。が・・・もうまともに動けそうにもないな?』
アジ=ダカーハの言っていることは事実だ。一輝はもう、自分の体を動かすだけの余力が存在しない。妖怪、魔物、霊獣、神からかりた力は、切り札を切るのに必要なぬらりひょんの力が十割と、一輝自身の呪力が四割。これ以外すべて使いつくしている。
だが・・・まだ使っていない要素が、残っている。
「我、第六十三代鬼道の名のもとに、汝らの封印を解く。力をよこせ、スィミ、ヴァチ!」
「二体分、耐えられるかのう!』
「・・・・・・・・・・・・』
封印を解除したのは、一輝に対して有効的な歪みのスィミと、一輝と湖札の二人によって殺された歪み、ヴァチ。
その二体は一輝の左右に顕現し・・・そこにいるだけで、世界が死に近づきそうになる。
『・・・中々に危険なものを飼っておるのだな。』
「飼ってる、ってよりも封印してる、なんだけどな。」
「何、敗北し封印されたこやつにも、一輝に興味を持ち契約したワシにも、世界を殺す意図はない。安心せい、トカゲ。』
『フン。・・・病巣、といったところか。』
湖札の主催者権限があっても、直感的な感性までは封じることができない。
だからこそ、一輝はアジ=ダカーハの病巣という表現に少し冷や汗をかいたが、どうにかそれを表情に出さず左右の歪みに手を触れ・・・それを自分の体に同化させる。
「・・・さあ、これが最後のブーストだ。」
『つまり、それを討ち破れば私の勝ちというわけだな。』
「ま、そうなるな。・・・討ち破らせる気はねえけど!」
そう言った一輝の足に蒼翠の光が集まり、それがはじけた瞬間・・・一輝は第六宇宙速度で、アジ=ダカーハに迫る。
『むぅ・・・!?』
「疑似創星図、混合、起動・・・!」
その途中で一輝は疑似創星図を混ぜ合わせ、起動させる!
その手に蒼と翠の光が集まり、混ざっていき・・・蒼翠に怪しく光る、大鎌が現れる。
「魂を喰らいつくせ、■◆■◆■◆!」
その大鎌は無数の牙を刃に宿らせ、アジ=ダカーハの魂を喰らいつくさんと迫り、
『“アヴェスター”起動。相剋して廻れ、“疑似創星図”………!!!』
アジ=ダカーハはそれを自らに上乗せして自分に向けられた刃にぶつけ、その場を圧倒的な破壊が・・・荒れ狂わず、全て一輝の支配下に置かれる。
『ほう・・・疑似創星図同士がぶつかり、発生した破壊を支配下に置くか!』
「形のない物は全て俺の手足みたいなもんだ。それに・・・」
そう言いながら大鎌から片手を放し、指を揃えて後ろに引いて・・・その手に、鈍色の光が集まる。
『・・・キサマ、一体幾つの疑似創星図を・・・!?』
「自由に使えるのは、借り物を含めて三つだ。・・・この力、上乗せできるか・・・!?」
一輝に言われ、アジ=ダカーハはその力を上乗せしようとするが・・・半分程度しか、乗せることができない。
その事実に対してアジ=ダカーハが顔を歪めたのを見て、一輝は賭けに勝ったことを確信する。
「乗せられるはずがないよな!この力は人間と神の合作で生まれたもの!お前の疑似創星図は、人類の生み出した遺産は上乗せできない!」
《アジ=ダカーハの切り札。その一つ目があいつの疑似創星図だ。あれを無視できる力は、あの三頭龍と宇宙観を共有していなければならない。・・・だからこそ、このイレギュラーな疑似創星図を生み出した。・・・疑似創星図でありながら疑似創星図ではない、俺達外道にふさわし、な。》
ありとあらゆる事象においてイレギュラーを生み出し、敵の考えや世界の真理すら無視する外法。それを使い、アジ=ダカーハを倒そうとする。
『魔王を―――“絶対悪”を甘く見るでないわッ!!!対応できぬのなら、同時に使えばいいだけの事!』
だがしかし、その工夫すらアジ=ダカーハは超える手段を手に入れる。
絶対にできないと思われていた、“アヴェスター”と“覇者の光輪”の同時使用。
アラハバキであるぬらりひょんによって生み出された疑似創星図をアヴェスターで防ぎ、示道によって生み出された疑似創星図を覇者の光輪で焼き尽くす。そのために、口内に閃熱を収束させていく。
だがしかし・・・
《そして、あの魔王は進化を遂げる可能性がある。最も恐れるのは、二つの切り札を同時使用できるようになった場合だが・・・そのために俺は、長い年月をかけて一体の封印をした。》
《は・・・?今聞いたのに対応できるような霊獣、いないはずだが・・・まさか今から歪みを一体従わせろなんて言わないよな?》
《そんなこと言うわけないだろ。何・・・石川県にいるような、ただの妖怪だよ。》
そんな進化すら、示道は対策を討っていた。
「神格をくれてやる。先陣を斬れ、火取り魔!」
その瞬間、一輝の右手に集まっていた鈍色の光から小さな靄のようなものが飛び出し・・・三つの疑似創星図を除く、全ての光が喰われた。
当然、覇者の光輪も含めて。
『何・・・!?』
「残念でした。オマエのその進化は、とっくに対策されてんだよ・・・!」
そして一輝は、手に集まった鈍色の光を一層輝かせ・・・
六十三の道。その輝きを、完全に宿らせる。
「百鬼よ駆けよ、“百鬼矢光”・・・!!!!」
その手を突き出し、光の矢をアジ=ダカーハの心臓に向けて放つ。
その光の中には、色んな姿が見られる。
妖怪の総大将であり、アラハバキであるぬらりひょんの姿が。
牛の頭をもつ中国の鍛冶神、蚩尤の姿が。
ハロウィンの主役であり、子供たちを愛する悪魔、ジャックの姿が。
スサノオの穢れより生まれた鳥の頭をもつ女神、天逆海の姿が。
中国より日本に来た天狗、是害坊の姿が。
湖よりつながる地底世界の王、ユランの姿が。
地を揺らす神格をもった大蛇、パロロコンの姿が。
人を惑わせ、背後から操る九尾のキツネの姿が。
国を作り出した巨人、ダイダラボッチの姿が。
八の顔をもつ、ヤマタノオロチの原型、八面王の姿が。
英知と九つの目をもった中国妖怪の長、白澤の姿が。
百の物語より生まれる、百一の姿をもつ鬼女、青行燈の姿が。
牛鬼、河童、鬼、夜行さん、機尋、天邪鬼、納豆小僧、日本に存在する妖怪のほぼ全てに加え、世界の妖怪、魔物の一部。それらの姿が一輝の放った光の中にあり、光とともにアジ=ダカーハの心臓を貫き、駆けていく。
人、妖怪、魔物、霊獣、神。そう言った存在によって組み立てられた攻撃が、人による畏怖、憎悪といった信仰が、世界から受ける救世主としての信仰が、その一撃を絶対悪を討つものにまで押し上げる。
『・・・まさか、まさかここまでの悪を背負うものが存在するとは!』
アジ=ダカーハは自らの心臓を貫く、既に鈍色の光も消えている一輝の手を見ながら、晴れ晴れとした笑顔でそう言い放つ。
「・・・何、ありとあらゆる世界で悪を背負うお前とは比べ物にならねえよ。たったひとつの世界、そこで高々六十二代の悪を積み重ねた程度だ。・・・それでも、絶対悪を受け止める地盤には、十分だ。」
『・・・我が屍のうえこそ正義である。外道、お前は十分に正義だ。』
「悪いが、それを受け入れてもまだ俺は外道、悪を背負う神霊だよ。・・・だからこそ、俺が認めてやる。」
だんだんと崩れ、その端から輝く霧となって一輝に封印されていくアジ=ダカーハにそう告げた。
「神の一人として、お前を許す。悪に敗れた悪なんて格好のつかないものではなく、悪に滅ぼされた正義があることを。誰か大切に思った人のために、“絶対悪”という最も重い人類最終試練を背負ったお前にも一つの正義があったことを、俺が保証してやる。」
『・・・ハハハッ。まさか、まさかこの私が正義を保証されることになるとは!それも、私を倒した勇者に!』
ひとしきり笑ったアジ=ダカーハは、今度は己を貫くのとは逆の手、一輝が先ほどまで疑似創星図の大鎌を握っていた手を握り、告げる。
『では、私も教えておこう。世界の全てより忌まれる悪を背負い、さらに悪でありながら悪を討とうとするその意思。それが覚悟だ。』
「それはそれは。常々ほしいと思ってる物の一つだ。それがあるって言われる・・・それも、神からあるといわれるとは。うれしいね。」
『さらに、私という悪まで自らに取り込もうという。そうまでして業を重ねるか、鬼道一輝よ。』
「それが俺の力になるのなら、いくらでも重ねてやるよ。それがそのまま、俺の大切な人を守る力になる。」
『そうして得た力は、いずれ身を滅ぼすことになるやもしれんぞ?』
「その時はその時だ。・・・いっそ、仲間に殺してもらってコミュニティの名前をあげてもらえれば本望、かな。」
その言葉を聞き遂げると、アジ=ダカーハは線香花火の最後の炎のように燃え上がり・・・その全てを外道に封印されて、消えた。
深紅の布地の“絶対悪”の旗印はその紋様を変え、封印の鍵となった本来の旗印―――自由を象徴する少女と丘の旗印、“アルカディア”大連盟の物に書き換わる。
途端、火山が噴火したのではないかというような大歓声が起きた。
天地を揺るがす声は神仏だけではないのだと訴えるかのような雄々しい声が廃都を満たしていく。
生き残ったことを素直に喜ぶ者。
仲間が生き残ったことに涙する者。
喪ってしまった友を悼んで涙する者。
未来を達観して空を見上げる者。
千差万別の声が響く中で、鬼道一輝は・・・気を失い、“アルカディア”大連盟の旗印を掴んだまま、頭から落下していく。
一輝が主催したゲームは、アジ=ダカーハを一輝が殺したことで主催者側の勝利となり。
湖札が主催したゲームは、アジ=ダカーハが死に、勝利条件を満たせなくなったことで主催者側の勝利となり。
その事実を知らせる白黒の契約書類、輝く契約書類が舞う中、一輝は落下していった。
その途中、一輝の中から出てきた湖札が一輝を横抱きにし、自分の中にいる歪みの力を借りてフワリと着地する。
湖札がそのまま一輝を地面に寝かせると、すぐに四人の少女が駆けよってきて五人で囲み、そのさらに回りを“ノーネーム”の面々が、その外側を今回の戦いに参加した人間が、囲んでいく。
一輝は箱庭で得た仲間たちに囲まれ、ほんの少しの呪力だけを残した、満身創痍の体でそこに倒れていた。
恋する乙女の顔、起きる気配のない仲間を心配する顔、また無茶をしたことに多少の怒りを浮かべる顔、旗印が帰ってきたことに喜ぶ顔。
だが、少し離れたところにいた少年はそんな表情を浮かべてはいなかった。
自分に課せられた役目を果たせず、さらには仲間がたったの一人でその敵を倒したという事実に対して・・・
完全な敗北を味わった逆廻十六夜は、悔し涙を一滴、流していた。
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