問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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兄と妹。その想いに込めるのは。
前書き
書き方とかを思い出すために書きました。
他の作品についても、そう言う意図もあって一話書きます。
では、本編へどうぞ!
これは、少し前に有った出来事。
一輝と湖札が箱庭で再会してから『Tain Bo Cuailnge』が始まるまでのほんの短い期間に有った、本人たちからすれば些細な。しかし周りにしてみれば何やってんだお前らというような出来事の話だ。
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「あれ?何やってんだ、湖札?」
「そう言う兄さんこそ、何やってるの?」
煌焰の都のすぐそばに有る森の中。後に二人が戦う事になるのとは別の場所で二人は遭遇した。
現在の二人の立ち位置は、魔王連盟に所属する魔王の一人と、それに対抗すべく準備をしているノーネームに所属するプレイヤーの一人。はっきり言って敵同士。
普通なら、たがいに武器を抜くかギフトを使うかしての戦闘になるはずだ。敵同士である以上は今後のためにも互いの戦力を削るべき。それもお互いがお互いの主力クラスであるのだがら。
が、しかし。
「俺はちょっと自然の気を吸っておきたくてな。ほら、決戦前なわけだしさ。それと色々と準備をする都合上、万全の状態にしておきたいんだよ。」
「ああ、なるほどなるほど。確かに兄さんがあの神様を使えるようになっておいた方がいいかもね。私が使うのは、神話に記された神様の力なんだし。」
「ま、そう言う事だ。どの神様の力なのかは分からないけど、それでもな。それで、湖札はどうしてここに?」
「兄さんと同じ。殿下達に言ったら『そんな敵主力のすぐそばに行くとか、アホか!?』って言われたんだけど、ここ以上となると中々ないから勝手に抜け出してきた。」
「湖札もなのか。俺も自分の部屋で休むよう言われてたんだけど、勝手に抜け出してきた。」
二人は、どちらからともなく笑いだす。その瞳には一度も、敵意や殺意は浮かばなかった。
そう、戦う気が微塵もないのである。敵意もなければ警戒もしていない、お互い完全に心を開いている。もしここにどちらかの陣営の者がいれば頭を抱えるでは済まなかったであろう。
「そう言うことなら、ちょっとのんびりしてくか。ビニールシートくらいならあるぞ?テーブルとイスがいいならそっちも準備できるけど。」
「ビニールシートの方がいいかなぁ。自然の気も吸わないとだし、寝転がれる方が都合がいいもの。」
「ん、了解。」
一輝はそう言うと空間倉庫の中からビニールシートを取り出し、ついでにお茶と少しのお菓子を並べる。そのまま二人はその上に座り、菓子をつまむ。
「さて、どうする?このまま何もせずにのんびりと、ってのもありだとは思うけど。」
「兄さんって、結構精神が老人だったりするよね。」
「失礼な。」
まあ、どちらともいえるのかもしれない。何もせず、ただ時間を無駄遣いして過ごすという贅沢も、誰かと語らって過ごすのも、体を動かして過ごすのも、どれも一輝は楽しむ。これには一輝のもつ感情に問題があるのだが、それはまたの機会に。
「じゃあ、どうせなら話しながらすごそっか。遊ぶのはこの間やったし。」
「OK。話す内容は、そうだな・・・箱庭に来てからかその前のお互いに有ってない期間か、どっちにする?」
「箱庭に来る前の方がいいんじゃない?私は兄さんが何をしてたのかリンちゃんに調べてもらってたからなんとなく知ってるし、私の方は邪魔な人達を殺してたって話くらいしかないから。」
「了解。じゃあ、俺からでいいかな。」
湖札の発言に対して何も思うところはなく、一輝は話す内容を探す。
湖札が一輝に会いたいという理由だけで魔王連盟に参加し、その手を血に染めることに何の躊躇いも感じなかったように、一輝もまた感覚が狂っている。
自分と深い関わりのない人間が死のうが食われようが何とも思わない。だからこそ湖札が自分を探すために罪を重ねていたとしても何も言わないし、何も感じない。
むしろ二人の立場が逆であったのなら一輝は何の躊躇いもなくそうしていただろうし、また今の立場でもその必要があるのなら何人でも殺せる。
自分の大切なもの、大切な思い、大切な人のためなら文字通り何でもできるのが、この兄妹なのだ。
「つっても、俺もそこまで面白いストーリーがあるわけでもないんだよな。お姫様を助けた話は、湖札も知ってるんだろ?」
「うん。それはもう、遊園地に連れて行ったとか同じ部屋で過ごしたとか、色々とね。」
呆れ半分、ムカつき半分という声音で湖札は言うが、一輝は徹底して気付かないふりをして、次の話を探す。
一瞬同じ布団で寝た話をしてやろうかと悩んだが、さすがにそれは地雷だと理解したようだ。
「後はまあ、席組みになった関係で面倒事が増えたくらいかな。光也はあんまり表に出せない仕事を正体不明だからって俺に押し付けるし。」
その度に莫大な金をむしり取っていたやつがよく言うものだ。
「でも、その分強い敵と戦う機会もあったんじゃない?」
「そうだな。白夜とは何度模擬戦をしても勝てなかったし、慈吾朗は力では勝ってるはずなのに経験の差で負けるし。・・・カグツチと戦ったのも、今となってはいい思い出だな。」
「兄さんが一回も勝てない人間なんていたんだ・・・」
その事実に対して湖札は驚くが、その相手とこれから戦う事になることを理解しているのだろうか?
何となく、理解していない気がする。
「後は、外国の一位レベルと戦う機会ができたことかな。ヨーロッパ一位とか、かなり勝つのに苦労した。」
「それって、今代のアーサー?」
「そう、そいつ。アレクサンドラ・メイヤール。普段は超がつくくらい緩かったり、戦う時はエクスカリバーを使いだしたりで、もう強いのなんの。」
まるで楽しかった思い出を振り返るような気軽さで話す一輝だが、その時の戦いの傷跡は元の世界に今でも残っている。それほどのことをしておきながら、自由なものだ。
「そう言えば、中国の第一位とも戦ったって聞いてるけど?」
「ああ、あいつか・・・開始十秒で足と腕折ったから、そんなに強くないんじゃないか?」
「ねえ知ってる?あの頃は、中国の第一位は世界四位で、ヨーロッパの一位は世界八位だったんだよ?」
つい湖札が突っ込みに回ってしまうレベルの驚きだったようだ。
だがしかし、一輝は特に何も感じていないようで、
「で、湖札の方は何かあったのか?」
「え、えっと・・・そうだ。ちょっと悪魔の封印をと行っちゃって大惨事になったことはあったなぁ。」
「どんな感じに?」
「うん、それがね・・・雨宿りに立ち寄った神殿に悪魔が封印されてたみたいで。ふとした拍子にそれを解放しちゃってもう大変!」
さらっとものすごいことを言っている。こういうところは、一輝の妹だ。
「全部殺して封印したころに神殿を管理してた人たちが来てさー。結構怒られたんだよね。」
「そいつは大変だったな。それで、その悪魔ってのはなんだったんだ?」
「えっと、確か・・・アガレスとアンドロマリウス、アムドゥスキアスだったかな。といっても、完全に悪魔としての姿で出てきたからこの三体での主催者権限は無理みたいなんだけど。」
結構な大物である。何故主催者権限を持ちえないのかが不思議なほどに。
そして、その三体を相手取って全て殺して封印してしまう湖札にも驚きであるが。
「その頃は、まだ奥義の習得できてなかったんだろ?よくその三体を殺せたな。」
「その辺りは、相性の問題かな。それこそ三体が七つの大罪の悪魔だったり他の神話体系の悪魔だったりしたら難しかったけど、『ソロモン七十二柱』を討つ矢を作ったら、まとめて潰せた。」
湖札の持つ、とある女神から与えられたギフト、『言霊の矢』。敵の持つ霊格を語ることでその力、存在を討つ矢は、ソロモン七十二柱という大まかな括りでも討ち抜けたようだ。
「その三体はまだブチブチ言ってるから、使ったこと無いんだけどね。」
「自分で殺したんだから、強制的に従わせることも出来るんじゃないか?」
「出来るんだけど、それだといつまでたっても仲良くなれそうにないから。どうでもいい妖怪とかはそれで済ませてるんだけど、あの三体はちゃんと強いからねぇ。」
鬼道の檻の中の存在は、殺した本人は強制的に従わせることができる。故に、檻の中身が全て自分の手で殺した存在である湖札は中身の全てを従わせることが出来るのだが、それをするつもりはないという事だろう。
ちなみに、一輝の場合は代々の鬼道に連なる全ての者の檻の中身がまとめられているので、大部分が自分からは一輝に従わない。どいつもこいつも面白いことが大好きなので、従わせるかいっそ一度バトルして倒すかすればそれで大体は済む。
一輝ほど面白い人間は中々いないため、後従っていない異形の類はこの時点では一柱だけだったのだが。
「・・・さっきも言ったけど、俺もまだ一番の戦力が言うこと聞いてくれないんだよなぁ・・・」
「むしろ私としては、霊獣がみんな従ってることも驚きなんだけどね。・・・って、敵同士なのに手の内を明かしてもいいの?」
「あー・・・そういや、そうだな。」
自覚なしである。そして、普通にダメだ。どう考えてもダメだ。
にもかかわらず、本当にこの二人に気にする様子がない。アハハー、とか笑いあってる。
「・・・それっ!」
「ん?」
二人はならんで寝転がっていたのだが、湖札が一輝の方に転がって抱きついた。
一つ違いの男女が寝転がって重なっているという、誰が見ても勘違いする構図である。
「・・・湖札?」
「えへへ―、ぎゅー!」
問いかける一輝を無視して抱きつく力を強め、一輝との密着具合をあげる。
一輝はつい先日再会した時の湖札とは違う、まるで昔に戻ったかのような様子に少し驚きながらも、懐かしみ、その背に手をまわして抱き返す。
「・・・ねえ、お兄ちゃん。やっぱりこっちにこない?」
「・・・諦めてなかったのか。」
「うん。だってそうでしょ?お兄ちゃんだって・・・鬼道の一族がどっち側なのかは、分かってるはずだし。」
「・・・まあ、そうなんだけどなぁ・・・」
一輝自身、自分が善側の存在だとは微塵も思っていない。
自分自身の目的のために、気分のために、ただ気に入らなかったという理由だけで、多くの人を殺してきているのだ。
性別を問わず、年齢を問わず、種族を問わず、その手にかけてきた。
《そんな自分がどっち側なのか、それは理解してるけど・・・》
「・・・それでも俺は、今の場所にいたいんだよ。だから、そっちに行くことはできない。」
「・・・絶対に?」
「ああ、絶対に。」
「・・・お兄ちゃんの、ばか」
拗ねたように一言つぶやき、湖札は一輝から離れる。
そのまま立ちあがると、一輝を指差して、
「今回のゲーム、私は兄さん達の相手をするように言われてるの。」
「ああ。予想はついてる。」
「だから、そこで私の主催者権限で兄さんにゲームを挑む。そして・・・それに負けたら、兄さんは私に隷属して。」
一緒に来てでも、また暮らしたいでもなく、隷属して。
それは、一輝がいくら言っても聞かないと分かっているからこその言葉であった。
それでも一緒にいたいのなら、選択肢は二つ。湖札が自分から取れるのは、こちらだけである。
「・・・そうか、分かった。なら、こっちからも二つ。」
「私の出した数よりも多い・・・うん、何?」
「一つ目に、約束。この喧嘩は、どっちかの勝ちが決まるまでやることを約束する。」
「・・・喧嘩、なんだね。」
「ああ。生涯初の兄妹喧嘩だ。そして・・・これは、仲直りとかで終われるものじゃない。」
湖札自身もそう思っているのか、体を起こした一輝に向けて一つ頷く。
「じゃあ、二つ目だ。俺が勝ったら、湖札は俺に隷属しろ。」
「やっぱり、そう来るよね。」
「そういくにきまってるだろ。どっちかが隷属する以外では、この件は終われない。」
その形でけりをつけなければ、本人たちは構わなくても周りから干渉される。
片方は魔王連盟に所属する魔王で、もう片方はその魔王連盟に戦いを挑む側の人間。敵対する組織に所属している以上、絶対に裏切れない形を作らなければ周りは納得してくれない。
「でも、うん。OK、それで行こう。・・・私はまた直前に誘うから、それまでに考えが変わってたら言ってね。」
「変わることはないから、このままでいいさ。お前も俺も、今の場所を捨てる気はないんだから。」
「分かってる。それでも、聞いておきたいの。・・・お互いに本気で、喧嘩しようね。兄さん。」
最後にそう言い残して、湖札は立ち去る。湖札がそのまま魔王連盟の元に戻ろうとしているということが分かっていながら、一輝はその後を追わない。
家族が間違った道に進んでいるのに、それを止める気は一切ない。そんな歪んだ感情。
ただ、それでも。一つ残っているとすれば・・・
「・・・妹との喧嘩で本気を出す兄貴が、どこにいるんだよ。」
それは、湖札が立ち去ってからしばらくした後。
一輝がその場を立ち去る寸前に口にした、この言葉ではないだろうか。
後書き
こんな感じになりました。
他のについても一話ずつこんな感じの話を投稿してから、本編の再開となります。
今後の予定を呟きに載せましたので、そちらを見ていただけると嬉しいです。
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