問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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一族の物語 ―我/汝、悪である― ②
「アジ=ダカーハを倒すには、三つの弱点を同時に討たなければならない。」
「三つの弱点?」
一輝は精神の中で、示道からの話を聞いていた。
「ああ。頭蓋、双肩、心臓の三か所を、な。」
「・・・それで、三つの頭に杭が、肩には変なボルトが入ってたのか。」
「そうだ。双肩については心当たりがないが、各頭蓋の杭は俺達が施した封印の一つだ。そして、分身体を全て吐き出させれば・・・最後の弱点である心臓が、浮かび上がってくる。」
「で、そこを討てばいいわけだな。なるほどなるほど、中々に無理ゲーなわけだ。」
一輝がそう言いながら肩をすくめると、示道もまた肩をすくめる。
「だけど、俺はお前ならそれができると思ってる。・・・俺がぬらりひょんと契約したのは、お前みたいなのが生まれるという可能性にかけてのことだ。」
「俺みたいなの・・・?」
「ああ。幼くして外道を名乗り、歪みから力を得て、一族の功績を一身に受けるような、そんな奴をな。」
「うっわー・・・ほとんど俺じゃん、それ。」
湖札の功績だけは一輝に含まれてないが、その問題は湖札が生み出した奥義によって解消された。
「だけど、わざわざ俺を選ぶ必要はあったのか?・・・はっきり言っちゃえば、もっと後の時代であれば、さらに功績を積み重ねたやつもいるだろ?」
「いやいや、お前も湖札も箱庭に来てんじゃん。そうでなくとも、白澤襲来なんて案は事件、中々起きないし。」
「立体交差並行世界論・・・だったか?あの考え方でいけば、未来の可能性は無限だろ?」
「確かに、そうだな。・・・けど、残念ながらその考えは通用しない。」
そして示道は、その事実を伝えた。
「俺とぬらりひょんが契約をした世界は、それ以降の分岐がほとんど、存在しない。」
「・・・・・・つまり、俺がいた世界では、全ての道が確定されていた、ってことか?」
「まあ、ほとんどそうだな。その少ない分岐も、一輝が生まれた瞬間に統合されてからは一度も存在していない。」
つまり、一輝のいた世界は一輝という存在によって、統合されている。
それによって得る霊格は・・・想像を絶するものとなるだろう。
「だからこそ、箱庭の世界にお前たち二人が来た時点でお前が救う以外の選択肢はないんだ。」
「・・・まあ、それには納得するとしよう。悪を討つのに悪を使うという考えも、かなり同意できる。悪を討てるのは、正義か悪のどちらかでしかない。」
そして、正義は悪を討ち取ることで己の正義という属性を強め、悪は悪を討つ事でさらなる悪を抱え込む。
「・・・で?まさかアジ=ダカーハを倒すための要素が、まさかこれだけだなんて言わないよな?」
「まさか。ちゃんと、必要になると思ったものはそろえてある。」
========
一輝とアジ=ダカーハは、上空でぶつかりあっている。
アジ=ダカーハの繰り出した拳を一輝はサトリの能力で察知して避け、ジャックの力で炎のスプリングを作り出して一気に跳び、手の中に作り出した空気の爆弾をぶつけてその血を流させる。
アジ=ダカーハもやられっぱなしというわけではなく一輝に向けて何度も攻撃を放ち、サトリの力でもよけきれなくなってきている分は素直に喰らって、それを蛇の生命力で無理やりに治して勢いが衰えることなくアジ=ダカーハへと進んでいく。
『ここまで血を流してもなお倒れぬとは、一体、』
「その考察、自分でしないと意味がないぜ!」
一輝からそう言われて、アジ=ダカーハはゲームのルールを一つ、理解した。
《つまり・・・このゲーム、こやつの存在を自ら読み解かねばならないのか。》
だがしかし、そのためには一つの矛盾を解決しなければならない。
即ち、一輝が人間でありながら神霊として確立し、その二つが独立して存在している、という事実を。
さらに、なぜ一輝が神霊として生まれることができたのか。その神霊となるだけの信仰はどのようにして得ることが出来たのか。そもそも、鬼道というのはどのようにして生まれ、どのような役割をもっている一族なのか。
様々な世界に存在する神話の神々ではなく、一輝がいた世界にしか存在しない神霊の情報を、得るだけではなく読み解かなければならない。
中々に難易度の高い、かつチンタラしていたら一輝があっさりとクリア条件を満たしてしまうような、そんなゲーム。
それを開催できたのは、それもまた鬼道という一族の功績によるものだ。
「考え事をしてると、相手の術中にはまるぞ!」
そう言った瞬間、アジ=ダカーハをミキサーにかけられたようなダメージが襲う。
なんてことはない。一輝が空気の刃を形成し、さらに蚩尤の力で強靭な刃の属性を上乗せしてミキサー状に操っただけ。
だがしかし、その攻撃は単純であるがゆえに操作が簡単であり、一度術中にはまってしまえばどこに動いてもついてくる。
アジ=ダカーハの動きに合わせて一輝はそれを動かし、アジ=ダカーハはそれを打ち破ろうと様々な恩恵を使う。
イタチごっこのように繰り返されるその攻防は・・・いつか、その心臓をむき出しにするであろう。
「さて、お兄さんがあそこまで頑張ってるんだからこっちも頑張らないとね~。」
そう言いながらもヤシロは神格を与えられているために使える状態の魔道書を使い、どんどん分身体を潰していっている。
それだけではなく、タイターニアより与えられた恩恵で一時的に神霊化している音央に、ヤシロと同じように一輝から神格を与えられている鳴央、スレイブの二人もどんどん分身体を倒していき、元々そこにいた人たちと変わらない。それどころかそれ以上の戦果を出している。
そんな中、ヤシロはもう出し惜しみをする必要はないと感じて・・・その詩を、唱えた。
「L'an mil neuf cens nonante neuf sept mois,
Du ciel viendra vn grand Roy d'effrayeur:
Resusciter le grand Roy d'Angolmois,
Auant apres Mars regner par bon-heur.」
その瞬間、二人の魔王が・・・恐怖の大王と、それによって復活させられたアンゴルモアの大王が、この場に降臨する。
恐怖の大王はアンゴルモアの大王を復活させるのと同時に消え去ったが、アンゴルモアの大王はその場に残る。
「な・・・なんや、あれは。」
「大丈夫だよ、蛟劉お兄さん。あれ呼んだの私だからっ。」
事実、現れたアンゴルモアの大王はアジ=ダカーハの分身体だけを倒していき、プレイヤーには被害を出していない。
「魔王を呼び出せるって、もう・・・」
「あの魔王が現れる、っていうのが私の物語だしね~。仕方ないよ、こればっかりは!」
そう言いながらも、ヤシロはとても楽しそうである。
こんな状況でもない限り使えない百詩篇。それを使えて、さらには一切容赦しなくていいという状況が楽しくて仕方ないのだろう。
「なんや、えらい楽しそうやな。」
「不謹慎かな?でも・・・うん。楽しいよ。お兄さんの力に慣れてるのが、すっごく嬉しい。」
そうはっきりと言ったヤシロに、これ以上言っても無駄だと判断した蛟劉は肩をすくめるだけであった。
「おー・・・遠くから見てても分かったけど、兄さんかなり本気だなー。封印全部解いて、さらに檻の中の妖怪たちの力も十二分に引き出して・・・やっぱり、これが当主と分家の差なのかな。」
自分は十分にしか引き出せないので、その差を湖札は感じていた。
が、それどころではないことをすぐに思い出して・・・
「さて、と。私は兄さんの方に行ってくるから、こっちはお願いしていいかな?」
「湖札お姉さんはあっちのお手伝いなんだ?」
「うん。私がいかないと、兄さんは完全にはならないし。」
そう言って、悪魔の翼をはやした湖札は一輝の元まで飛ぶ。
その途中で、一つの主催者権限を発動させながら。
『ギフトゲーム名“汝、知を読むもの”
参加資格
・知に富むもの。
勝利条件
・我が写し身を、意思をもって破壊せよ。
敗北条件
・上記の条件を満たせなくなった時。
特殊ルール
意思をもって過ちの写し身を破壊したとき、参加者は霊格にダメージを受ける。
汝、我の閲覧を禁ずる。
参加者がゲームをクリアしたとき、このゲームによって受けた全ての傷は癒える。
宣誓 上記を尊重し、誇りとホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
封ぜし者“鬼道湖札”印』
「間に合った、兄さん?」
「かなりギリギリに、な。凄いぞ、アイツ。こんなに早く、鬼道と世界が深く関わりを持つ事を当ててきやがった。」
だがしかし、アジ=ダカーハはそれ以上の思考を・・・ルールによってできなくされた。
『ほう・・・単純な思考はできるようだな。しかし、深く考えることはできない。読み解く、という行為は封じられたわけか。』
「そんでもって、この現象を理解するものまた早い・・・」
「だねぇ・・・でも、正解。私のゲームをクリアしない限り、これ以上兄さんのゲームについて考えることはできないよ?」
そして、湖札の開催したゲームのクリア条件について考えることも出来ない。
このゲームをクリアしたければ、運次第になることを覚悟し、片っ端から目につく物を破壊していくという手段を取らなければならないのだ。
その度に、霊格に傷を負う覚悟をしたうえで。
「さて・・・我は鬼道に連なるもの。我は鬼道の乙女。我は力なき乙女。故に我は全ての力を託す。我が全てを託す。我は、鬼道の長に我が存在、その全てを託す。・・・今、我と汝は統一される。我が力・・・存分に、使いこなしたまえ。」
湖札は奥義を発動し、一輝と融合することで一輝の鬼道という霊格を完全なものまで引き上げる。
「・・・これで、俺は完全になった。お前を倒すのに必要な要素は全て揃ったぞ、アジ=ダカーハ!」
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