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戦国異伝

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第百七十三話 信行の疑念その二

「特に天海殿は」
「あの方ですな」
「一体何者なのか」
「かなりの法力の持ち主だとか」
「その法力を何処で備えた」
 信行はいぶかしむ顔のまま言う。
「東国、武蔵の生まれじゃな」
「そう言っておられますな」
「しかも百二十歳か」
「歳を取っているというものでは」
 なかった、それは最早妖怪の域だった。
「ないですな」
「そうしたことを考えていくとじゃ」
「あの方はですか」
「とりわけな」
 不気味だというのだ。
「得体が知れぬわ」
「確かに」
 これはどの者もそう思っていた。
「崇伝殿もですな」
「素性が知れませぬ」
「怪しいにも程があります」
「妖僧に近いですな」
「妖僧にしか思えぬ」
 こうも言った信行だった。
「あの二人はな」
「今や公方様のお傍にはお二人しかおらませぬ」
「そうなっていますが」
「あれはよくないわ」
 こう言う信行だった。
「あの様な者達を置くのはな」
「傍にですな」
「それは」
「うむ、よくない」
 絶対にというのだ。
「だから遠ざけるべきじゃが」
「しかし公方様が」
「あの方が」
「そうじゃ、困ったことにな」
 信行も苦い顔で言う。
「佞臣に他ならぬ。いや」
「いや?」
「佞臣ではないというのですか」
「佞臣で済む者達ではないやも知れぬ」
 天海、崇伝の二人はというのだ。
「あの者達はな」
「より怪しい者達ですか」
「あのお二人は」
「妖人ではないのか」
 それではないかというのだ。
「少なくともまともな僧侶ではない」
「妖僧ですな」
「それになりますな」
「天下を乱すという」
「そうした者達ですか」
「そうじゃ」
 それでだというのだ。
「あの者達はな」
「ではどうされますか」
 先程とは別の家臣が信行に問うてきた。
「あのお二人は」
「公方様から遠ざけることが出来ぬのなら除くしかないが」
 それでもだった。
「隙がない、だからな」
「今はですか」
「どうしようもありませぬか」
「うむ。しかしあの公方様は」
 また義昭について言う信行だった。
「徳川殿が武田に敗られたとお聞きになり喜ばれたそうだな」
「はい、お手を叩かれ」
「酒で祝われました」
「徳川殿が負けてよかったと」
「そう仰っていたとか」
「何を言っておられるのだ」
 またいぶかしむ顔になり言う信行だった。 
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