大切なのは中身
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第二章
第二章
「あれじゃねえか。あの娘のクレープ屋への道じゃねえかよ」
「また行くんだな」
「毎日でも行きますよ」
彼は言う。
「本当にね。毎日でも」
「じゃああの店にアルバイトに行ったらどうだ?」
「今御前おもちゃ屋でアルバイトしてたよな」
「はい、してます」
それで金があるのである。彼女のクレープ屋に毎日行くだけの金が。
「ですがまだ時間に余裕がありますし。大学のことも置いておいて」
「それじゃあやっぱりか」
「行くんだな、あの店にも」
「佳澄さんと一緒にいられるのなら」
皆の言葉にすぐに乗ってしまっていた。
「行きます、絶対に」
「何かどんどんあれになっていってるな」
「どうしたものだよ」
「けれどそれでも私は」
薫は真剣な顔で言った。
「あの人が好きなんですよ」
「向こうはどう思ってるんだろうな」
「そうそう、それそれ」
そのことも話す。皆何だかんだであれこれと世話を焼いていた。
「とにかく性格はいいみたいだけれどな」
「性格美人か」
「その性格がとても奇麗で」
薫はここでまた言うのだった。
「私はそれがよくて」
「いや、もうそれはいいからよ」
「っていうかずっとのろけてるよな、御前」
「駄目ですか?」
言われてもこんなふうに返す。やはりそれでも言葉は変わらない。
「それは」
「駄目っていうかよ。そこまで惚れるか」
「というかそこまで惚れることができるんだな」
また言う一同だった。
「しかしそれでもだよ。まあ頑張れ」
「俺達は応援しないでもないからな」
何処か素直ではないがそれでも言う彼等だった。そんなことを言っている間にそのクレープ屋に着いた。するとその彼女が店の可愛い制服を着てそのうえで店のカウンターにいた。
「いらっしゃいませ」
「は、はい」
薫が最初に彼等に答えた。
「こんにちは」
「こんにちは」
佳澄は満面の笑顔で挨拶を返す。皆薫の後ろにいてそのうえで色々と思っていたがそれでもそれは言わずただ後ろについているだけであった。
「御注文は?」
「バニラとバナナのを下さい」
薫はかなりどきどきした顔で述べるのだった。目はずっと佳澄を見ていてしかもかなり笑っている。一歩間違えれば不審者そのもののである。
「他の方はどれを注文されますか?」
「まあ僕達もそれで」
「御願いします」
「わかりました」
天使の様に清らかな声で彼等にも応える。そうして手慣れた素早い動きでクレープを作っていきそれを薫達に差し出す。彼等はそれを受け取ってから店を後にする。そうして立ちながら食べて話をするのであった。
「美味しいですよね」
「ああ、確かにな」
「滅茶苦茶美味いよ」
先程歩いた道を引き返している。そうしてそのうえで話をしている。
「しかも安いしな」
「愛情がこもっていますよね」
またここで薫が言うのだった。
「これって凄く」
「またはじまったよ」
「どうしたもんだよ」
皆彼の言葉を聞いてクレープを食べながらここでも呆れた顔になる。そののろけは何度聞いてもそうなるものであった。
「本当によ。愛情ってこれお店のやつだぞ」
「あの娘が焼いたやつだけれどな」
「あの人が焼いたクレープだからですよ」
見れば薫はそのクレープを何枚も持っている。そうしてにこにことして食べているのであった。一枚食べればまた一枚、次々と食べていく。
「こんなに美味しいのは」
「御前そこまで食っていいのかよ」
「太ったらあの娘にもてないぞ」
「大丈夫です、毎朝二十キロ走ってますから」
しかし薫はこう返すのだった。
「筋力トレーニングもして。体型は維持しています」
「そこまでして食うか」
「しかもあの娘に合う為に」
「何だってしますよ」
有無を言わさぬ一直線の言葉であった。
「私は何でも。あの人の為なら」
「何枚も食ってかよ。しかも毎日」
「よくやるよ」
「天使に会えるんですから」
今度はこれであった。
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