大切なのは中身
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第一章
第一章
大切なのは中身
彼が彼女に惚れたのはもう結構前のことだ。
「いや、可愛いよな」
「まあ可愛いよな」
「そうだよな」
皆それは認める。彼こと鈴元薫はまずその長身をやけに屈めて皆に話すのだった。四角い顎が特徴的で目元が優しい。黒い髪を横は切り上をぼさぼさ気味にしている。黒い服がとても似合っている。
「そうですよね。だから私も好きなわけでして」
「けれどそれでもな」
「ちょっと今の御前は有り得ないぞ」
しかし皆は呆れてこう彼に話すのだった。
「何ていうかよ、でれでれしてよ」
「佳澄ちゃんだったか?」
「はい、佳澄ちゃんです」
今度は彼女の名前を皆に話すのだった。
「この娘ですよ」
「この娘って御前何時の間に」
「何撮ってたんだよ」
首にかけてあるロケットを開くとそこから彼女の写真が出て来た。ふっくらとした顔で幼い顔立ちの陽気な顔をしている。目元がかなり笑っている。笑っているだけでなくとても優しく純粋な顔立ちである。黒い髪を長くストレートにしていることもわかる。しかしただのストレートではなく頭の左右を団子にしている。それがまた可愛さを余計に引き立てている。
「いや、この前たまたま撮ることができまして」
「たまたまねえ」
「たまたまでそんないい写真撮れるか?」
皆ここでまた彼に突っ込みを入れた。
「思いきり狙ったみたいに笑ってるじゃねえかよ」
「何時撮ったんだよ」
「この前御願いしたら撮らせてくれました」
しかも言っていることがさっきまでとは微妙以上に違っている。
「佳澄さんがアルバイトに行かれているあのクレープ屋さんで」
「そういえばこの服って」
「そうだよな」
周りはそのロケットに映っている彼女を見てまた話す。
「あの店の制服だよ」
「間違いないな」
「だよな」
見れば黄色と白の明るい服である。全体像ではないのでその全ては見えないがそれでも黄色と白の制服なのはわかるのだった。
「それで撮らせてくれたのかよ」
「頼んだら」
「まさかとは思いました」
薫は相変わらずそのロケットを見ながら話す。
「けれどこうやって撮らせてもらって」
「有り得ないよな」
「っていうか御前やっぱりあからさまに変だよ」
皆はまた呆れた顔で彼に告げる。しかし本人の耳には入らない。
「まんまストーカーじゃねえか」
「しかも正面から堂々とかよ」
「凄く優しくて心の清らかな人なんですよ」
しかし薫はそれでも言うのだった。
「そう、とても」
「だろうな。いきなりこんなごついのが出て来てそれでも普通に応えてくれるんだkらな」
「しかも写真まで撮らせてくれてよ」
写真でも満面の笑みを浮かべている。本当に実にいい笑顔である。
「やっぱりいい娘なんだろうな」
「顔もいいしな」
「可愛いだけじゃないですよ」
薫はまた言うのだった。相変わらずロケットの中の少女を見ながら。
「心が。とても」
「いや、それはわかるけれどな」
「けれどそれでも今の御前はな」
皆とにかく呆れている。しかし彼の耳には入っていなかった。
「おかしいどころじゃないからな」
「そこまでいいのかよ」
「いいなんてものじゃないですよ」
うっとりとして話すのだった。
「この彼女がいてくれて。天使ですよね」
「天使かよ」
「こりゃもう言っても無駄か?」
しかしこうは言っても言わずにはいられない面々だった。
「けれどそこまで好きになるのは何なんだ?」
「可愛いのはわかるけれどな」
「可愛いだけじゃないですから」
やはりここでも周囲を見ているのだった。
「佳澄さんは」
「それで今から行く場所はよ」
「こっちってよ」
皆今進んでいる道はそのクレープ屋への道だった。皆かなり憮然としながらもそれでも薫に付き合ってその道を一緒に進んでいるのだった。
ページ上へ戻る